年間1万人がかかる…子宮頸がんにかからないためにやっておくべきたった2つのこと【医師からの提言】

年間1万人がかかる…子宮頸がんにかからないためにやっておくべきたった2つのこと【医師からの提言】
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増田美加
増田美加
2025-08-02

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 子宮頸がんは、検診を行なっても、それだけでは予防はできません。HPVワクチンもありますが、ワクチンだけでも完全な予防は叶いません。HPVワクチンとHPV検診を組み合わせることで、子宮頸がんは高い確率で予防できるようになります。検診とワクチンで、子宮頸がんを予防する方法を日本のHPV研究の第一人者、産婦人科医の今野良先生に伺いました。 *HPV=human papillomavirus(ヒトパピローマウイルス)

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検診だけ、ワクチンだけでは、子宮頸がんの予防はできない!

子宮頸がん検診は、まだ細胞診を行なっていますか? それとも、新しく導入された精度の高いHPV検診を行なっていますか?HPV検診を受けていれば、「HPVワクチンは接種しなくていいのでは?」逆に「HPVワクチンを接種したら、検診は必要ない?」という声も聞きます。ワクチンと検診を組み合わせる重要性について、今野良先生に聞きました。

「子宮頸がん検診は、がんや、がんになる前の“前がん状態”を早期発見して治療することを目的として行われています。検診では、HPVの感染やがんや前がん状態の発症そのものを防ぐことはできないのです。子宮頸がんを予防するためには、HPVワクチンを接種することが大切。HPVワクチン接種で90%以上がんを予防する有効性が示されています。

また、HPVワクチンだけでも、がん予防には完全ではありません。子宮頸がんの中には、HPVワクチンでは防げないウイルスタイプによるがんがあります。せっかく、ワクチンを受けて、発症リスクを下げたのだから、予防をより効果的にするためには、検診と組み合わせることが必要です。子宮頸がんを予防するには、ワクチンと検診は、車の両輪でどちらも重要なのです」と今野先生。

子宮頸がん検診の受診率もワクチン接種率も低い日本

日本の子宮頸がん検診の受診率は、世界と比べてまだまだ低いことが問題となっています。

「欧米各国では、70%以上の子宮頸がん検診受診率の国がほとんどの中で、日本の受診率はまだ約40%台と低いレベルにとどまっています。検診受診率だけでなく、HPVワクチンの接種率も海外に比べて低いことは大きな問題となっています。このままでは、世界の中で日本だけがHPV感染の多い国になり、子宮頸がんになる女性が増えていってしまいます。

日本のHPVワクチン接種率は、日本全体の正確なデータはまだ出ていないのですが、厚労省の数字では約40%。しかし、埼玉県内のHPVワクチン定期接種の11歳~16歳の接種率は、約19.5%でした。山梨県でも同程度と報告されています。地域のばらつきはありますが、このように決して高い数字ではありません。2020年の世界のHPVワクチン接種率を見ると、アイスランド、ノルウェー、カナダなどの接種率が高い国は約90%。その他の高所得国の平均は約57%です。中所得国の平均接種率でも約36~38%と日本より高い接種率です」(今野先生)

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HPVワクチンを接種するには?

2022年4月から2025年3月まで厚労省は全国の自治体に対して、HPVワクチンの無料接種を対象者に個別案内することを発表しました。定期接種(無料接種)の対象となる小学校6年生から高校1年生の女性には、自治体から予診票などが送付されていました。この年齢を超えてしまった人は、接種するチャンスはないのでしょうか?

「1997年度(平成9年度)生まれ~2008年度(平成20年度)生まれの女性で、2022年4月~2025年3月末までにHPVワクチンを1回以上接種した方が、公費による接種を希望する場合は、2026年3月末までに2回目・3回目のワクチンを接種することは、無料で可能です。無料接種できるHPVワクチンは、3種類でサーバリックス(2価)、ガーダシル(4価)、シルガード9(9価)があります。しかし、2025年3月までに一度も接種をしなかったかたの(誕生日1997年4月2日~2007年4月1日生まれの女性への)HPVワクチンのキャッチアップ接種は出来なくなりました」

無料接種の対象年齢が終った10代後半から20代30代の女性でも、これからHPVワクチンを接種することは意味がありますか?

「無料接種の時期を過ぎてしまっている年齢でも、HPVワクチンを接種するメリットは大きく、子宮頸がんを予防するためにHPVワクチンは有効です。45歳の年齢までは接種するメリットが上回るというエビデンスがありますので、ぜひ前向きに考えてみてください。そして、もし仮に45歳を過ぎても希望すれば、HPVワクチン接種は可能です。日本での薬事承認に年齢の上限はありません。また現在、男性にも4価のHPVワクチンが薬事承認されています。男性も肛門がん、咽頭がんの予防になりますので、費用は自己負担(自費)になりますが、検討してみてください。ちなみに私も接種しました」(今野先生)

費用は、男女ともにクリニックによって多少のばらつきはありますが、サーバリックス(2価)、シルガード(4価)は1回15,000~17,000円×3回。シルガード9(9価)は1回33,000~36,000円×3回という費用(自費)が必要。自己負担で接種を希望する人は、産婦人科や内科、小児科、ワクチン外来、感染症外来などで接種することができます。クリニックのホームページや電話でHPVワクチン接種を行なっていることを確認して、予約を入れます。クリニックによってはワクチンを取り寄せる必要がありますので、必ず予約をしてください。ワクチンの種類をどれにするか迷っている人は、それについても相談できます。

年間1万人の女性が子宮頸がんにかかっている!

日本女性は、子宮頸がんにかかる人数も、亡くなる人も減っていません。

「自分は子宮頸がんとは関係ないと思っている人もいると思いますが、日本では年間約1万人もの女性がかかり、年間約3千人もの女性が子宮頸がんで亡くなっているのです*1

海外に目を向けると、たとえばオーストラリアでは2022年に子宮頸がんと新たに診断された人は942人と、発症率が非常に低く、希少がんに分類されるレベルになってきています。先進国ではあと数年で子宮頸がんの征圧が達成されます*2」(今野先生)

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子宮頸がんのHPV検診とHPVワクチンを行なうことで

WHO(世界保健機構)は、2019年「21世紀中に世界中から子宮頸がんを征圧することが可能。子宮頸がんを歴史的書物の中だけの疾病にする!」と発表しています。そのシミュレーションによると、2030年時点でHPVワクチンを15歳までの女性が90%接種、子宮頸がんのHPV検診を35歳、45歳で70%受診、必要な子宮頸がん治療を90%の人が受けられれば、2060年には地球上から子宮頸がんがほぼ排除され、遅くとも21世紀末には中・低所得でも征圧できるというものです*3

しかし、日本ではこのままHPVワクチンの接種率が低く、HPV検診ではない細胞診による検診だけが行われて入れば、日本では21世紀中に子宮頸がんを征圧できないでしょう。

「若い女性にとって子宮頸がんは、めずらしい病気ではありません。子宮頸がんになったときの、心と体へのダメージは大きいものです。妊娠や出産をあきらめなければならなくなったり、仕事や家族への影響もあるでしょう。人生が大きく変わってしまうことを考えると、ワクチンには、大きな力があると思います。HPVワクチン接種とHPV検診を行うことで、子宮頸がんにかかって子宮を失うこと、命を失うことを防ぐことができると証明されています。今、その2つのことを行なわないことは、女性にとって大きなデメリットです。世界中100か国以上の女性たちは、ワクチンと検診で頸がん予防を行っていて、子宮頸がんは地球上から排除されようとしています。

このままでは、先進国の中で日本だけが発がん性のHPV感染が多い国、子宮頸がんが多い国になってしまいます。HPV検診とHPVワクチンによる子宮頸がん予防をどうか忘れないでください」(今野先生)

*1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)罹患2019年、死亡2022年
*2 Cancer Australia, Australian Institute of Health and Welfare
*3 「世界的な公衆衛生上の問題「子宮頸がんの排除」」WHOスライド(日本語翻訳版)jsog

お話を伺ったのは…今野良(こんのりょう)先生

自治医科大学医学部名誉教授 
自治医科大学医学部卒業。東北大学医学部産婦人科講師、自治医科大学医学部附属さいたま医療センター産婦人科教授を経て現職。1988年から子宮頸がんとHPV(ヒトパピローマウイルス)の研究を始め、「子宮頸部扁平上皮癌および異形成の進展とヒトパピローマウイルス感染」のテーマで医学博士(東北大学)。現在、子宮頸がんとHPV(検診、ワクチン、治療)に関する研究、啓発活動、さらに国内外の共同研究に取り組む。NPO子宮頸がんを考える市民の会 理事長。著書に『子宮頸がんはみんなで予防できる』ほか。

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