【更年期】これまでと変わらない生活なのに太るのはなぜ?“腎虚太り”の改善法を漢方専門医が解説

 【更年期】これまでと変わらない生活なのに太るのはなぜ?“腎虚太り”の改善法を漢方専門医が解説
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増田美加
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2023-09-09

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 今までと同じ生活をしているのに、太ってきた…という悩みが増える更年期世代。なぜ更年期になると太りやすいのでしょうか? 更年期女性のさまざまな不調を診察し、漢方医学で治療してきた、東京女子医科大学附属東洋医学研究所所長、教授の木村容子先生に伺いました。更年期になっても太りにくい漢方の知恵です。

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これまでと変わらない生活なのに太るのはなぜ?

今までと変わらない食生活をしているのに、更年期になると、太りやすいのはなぜなのでしょうか?

「更年期は、加齢に伴う基礎代謝の低下だけでなく、女性ホルモンのエストロゲンが減少することも、太りやすさにつながります。エストロゲンは、脂質の代謝にもかかわっています。女性は加齢とともに体脂肪率が上昇し、体脂肪のつき方が閉経前後に変化することが報告されています。更年期にさしかかってくると、皮下脂肪だけでなく、内臓脂肪も溜まりやすくなってきます。これを漢方医学で説明すると、加齢によって体質が“実(じつ)”から“虚(きょ)”に移行し、“腎(じん)”の働きが衰えた“腎虚(じんきょ)”の状態です。腎虚では、水分代謝や基礎代謝が低下して、老廃物を溜め込みやすくなります。すると、脂肪も体内に滞りやすくなります」(木村容子先生)。

“腎”とは、西洋医学でいう泌尿器系、内分泌系にかかわる機能のことで、腎臓機能、水分代謝、生殖機能、歯や骨、呼吸のほか、成長・発育・老化に関係します。

漢方医学ではいわゆる“腎虚太り”と考えます!

「腎虚によって、脂肪を体内に溜め込んで太る状態を“腎虚太り”と呼んでいます。腎虚太りは、やせ型だった女性でも、おなかやお尻、太ももなどの下半身に脂肪がつくのが特徴です」(木村先生)。

更年期で冷えやすくなることも関係するのでしょうか?

「腎はカラダ全体を温める働きがあるので、更年期に腎虚になると冷えを感じやすくなります。また、漢方医学では、老化によって、カラダは“実”から“虚”だけでなく、“陽”から“陰”にも移行すると考えます。このため、加齢に伴い、“陰”に移行することで、冷えやすくなり、基礎代謝が落ち、摂取エネルギーがうまく消費されず、余分な脂肪が体内に溜まります。結果的に肥満になりやすくなります。注意したいのは、体重増加に伴い、採血にて血糖や脂質の値の異常や、血圧などの上昇などがみられるときには、病院への受診をおすすめします」(木村先生)。

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【更年期以降の肥満とは?】

日本肥満学会の定義では肥満とはBMI25以上。さらに肥満に起因する糖尿病、脂質異常症、高血圧症、脳や心臓などの冠動脈疾患、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患ほかの合併症があると肥満症という病気です。今、合併症がなくても、更年期以降の肥満は予備軍となるため注意が必要です。

BMI(Body mass index)= 体重(㎏)/〔身長(m)〕2

【腎虚太りをチェックしてみましょう】

老化によって“腎”の働きが衰える“腎虚太り”か、どうかをチェックしてみましょう。半数以上思い当たることがあったら要注意です。

・一食抜いても以前のように体重が落ちない
・下腹部やお尻、太ももなど、下半身に脂肪がついてきた
・流行のダイエット法を試しても効果が出ない
・以前よりも甘いものを好むようになった
・カラダが冷えやすい
・足腰が疲れやすい
・寝ても疲れがとれない
・夜中にトイレに起きるようになった
・尿漏れをすることがある
・便がでてもお腹がスッキリと凹まなくなった
(チェックリスト作成:木村容子)

“腎虚太り”改善には、更年期までの生活を見直すことが重要!

腎虚太りを改善、予防するためには、どうすればいいのでしょうか?

 「更年期以降の腎虚太りを改善、予防するには、生活の中で無理なくできることをコツコツと行っていくことが大切です。下記のポイントを参考に、更年期前までの自分の習慣や常識にとらわれず、ひとつひとつを丁寧に見直していきましょう」(木村先生)。

・体重計に1日一回は乗る習慣をつくる
・12時にはベッドに入って、細切れ睡眠ではなく、しっかりとした深い眠りを心がける
・筋肉トレーニングを取り入れる
・一日3食にとらわれずに、空腹感を味わう食生活を心がける
・会席料理の順番(食物繊維→タンパク質→炭水化物の順番)を意識して食べる(特にタンパク質を摂ることが大事)
・適度な緊張感をときどき持つようにする(交感神経が脂肪分解のカギ)

肥満を改善して、太りにくい体をつくるには、食事と運動が大事だと思いますが、どこに気をつけるべきでしょうか?

「更年期の“腎虚太り”対策では、当然、食事と運動が基本ですが、食事に関しては、食事量ではなく、食事の質が重要になります。カロリー・コントロールのために、あっさりした食事で炭水化物(糖質)が中心になると、栄養バランスの偏りから“飽食時代の栄養失調”となって、反って太りやすくなることがあります。食事内容として、タンパク質を始め、ビタミンやミネラルなどを意識するようにしましょう。タンパク質は少量でもちょこちょこ取ることで効率よく摂取できます。ささみや赤身の肉をはじめ、プロテインなども必要に応じて活用することもお勧めです。

極端な糖質制限をするのではなく、食べる順番でコントロールします。食物繊維→タンパク質→炭水化物という会席食べは、肥満予防、血糖値管理に効果的です。ついつい食べすぎてしまうという方は、20−30回よく噛むこと以外にも、食事の最初に炭酸水を飲んだり、キャベツの千切りや酢漬けを食べると、満腹感が得られやすくなりますので試してみてください。また、毎日、体重を測定することで、自分の体重増減のパターンを認識することができ、それによって無意識に食生活にも気を配るようになるので、“測るだけダイエット”効果が期待できます。あくまで、体調を知るバロメーターと考えて体重だけにとらわれ過ぎず、体脂肪率なども参考にしましょう」(木村先生)。

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運動習慣がない人の筋肉を目覚めさせる法

運動習慣がない人は、何から始めればよいでしょうか?

「ウオーキングなどの有酸素運動を主体にして、レジスタンス運動を併用するといいでしょう。運動は無理のない範囲で、「ちょこちょこ運動」から始めるのがお勧めです。レジスタンス運動とは、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う、いわゆる筋トレのことで、スクワットや腕立て伏せなどがそれにあたります。運動経験が少ない方は、筋肉トレを行っても効果が出にくいことがあります。眠っている筋肉(スリーピング・マッスル)を目覚めさせてから、筋トレを行なうと効果的です。いくつかご紹介します」(木村先生)。

【運動習慣のない人の筋肉を目覚めさせて運動の効果を上げる法】

運動習慣が少ない人は、筋肉が眠っていて、それぞれの筋肉の動きを脳が自覚することが難しくなっています。そこで、スクワットや腹筋などのレジスタンス運動をする前に、眠っている筋肉を目覚めさせる運動を行います。体を痛めにくく、運動効率を上げることができます。(『太りやすく、痩せにくくなったら読む本』木村容子著(大和書房)より引用)

腹筋を目覚めさせるエクササイズ

あお向けに寝て、両ひざを立て、ウエストの下に置いたタオルをおなかの力で押しつぶすようにしながら、かかとをゆっくり遠ざけ30秒キープ。

エクササイズ
イラスト/鈴木七代

お尻の筋肉を目覚めさせるエクササイズ

あお向けに寝て、右ひざを両手で抱え、左足のかかとの下にあるボール(たたんだタオルでもよい)を潰すようにすることで、左のお尻に力を入れます。20秒キープを3回繰り返し、反対側の脚も同様に行います。

エクササイズ
イラスト/鈴木七代

腎虚太りを改善、予防するための漢方薬は? 

腎虚太り改善のためには、どのような漢方薬がいいのでしょうか?

「漢方治療では、各自の体質や症状に合わせて処方を調整します。更年期世代では、腎の働きを補う八味地黄丸(はちみじおうがん)をはじめ、血行を良くする桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、便秘を改善させる防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)などを使用することが多いかと思います」(木村先生)。

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お話を伺ったのは…木村容子(きむらようこ)先生

東京女子医科大学附属東洋医学研究所所長、教授 http://www.twmu.ac.jp/IOM/
医学博士。お茶の水女子大学卒業後、中央官庁に入庁。オックスフォード大学大学院留学中に漢方に出合う。帰国後退職し、東海大学医学部入学。2002年より現研究所勤務。日本内科学会認定医。日本東洋医学会専門医、指導医。著書『太りやすく、痩せにくくなったら読む本』(大和書房)が話題に。

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増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



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