肛門周りが「痛がゆい」どんな病気の可能性?何科で診てもらうのが正解?消化器の専門医が回答
“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。肛門周りに痛がゆさを感じたことありませんか?お尻のかゆみ、痛みの病気は多種多様。自分では見えない場所でもあり、人に聞くのは恥ずかしい…。そこで、消化器外科医でもあり、消化器病の専門医でもある今津嘉宏先生に、こんな症状なら、どんな病気の可能性があるの?何科で診てもらえばいいの?などお尻の悩みについて聞きました。
こんな肛門周りの痛がゆさ、ありませんか?
「肛門周辺のかゆみ、痛みという症状には、さまざまな病気が考えられます。人の皮膚感覚は、場合によっては、痛みをかゆみととらえることもあります。こんな症状や習慣があったら、気をつけるべきというものをあげてみます」と今津嘉宏先生。
【こんな症状はありませんか?】
□肛門周囲から血がにじむ
□排便時に肛門が痛いことがある
□お尻が冷えると感じる
□下痢や便秘をすることが多い
□長時間同じ姿勢で過ごすことが多い
□シャワーだけで済ませることが多い
お尻がかゆくなる病気って?
肛門周辺にかゆみ、痛み、出血を生じる女性に多い病気には、どんなものがあるのでしょうか?また、肛門周りの痛がゆさといっても、自分の目で確認できない部分でもあり、何科を受診したらいいか、迷うところでもあります。
「症状は、常に痛がゆい、血がにじむ、おりものがある、排便時だけ痛い、下痢や便秘があるなど、さまざま。自分で判断できないことも多いため、病院を受診して相談してください。何科を受診するかは、皮膚科でもいいですが、デリケートな部分のため、女性は婦人科が相談しやすいでしょう。婦人科医は、感染症の検査も慣れています。ただし、痔を疑う症状の場合は、外科が専門領域になりますので、外科を受診しましょう。肛門周りがかゆい、比較的女性多い病気。それにそれぞれ受診する診療科をあげてみますね」(今津先生)
【肛門周りがかゆくなる病気】
□水虫
かゆみがある。冷え、ムレ、免疫力低下で起こる。→皮膚科へ
□カンジタ腟炎
カッテージチーズ状のおりものがあり、疲れ、免疫力低下、抗生剤などがおもな原因。→婦人科へ
□細菌性腟症
臭いのあるおりものがあり、洗いすぎや、免疫力の低下で起こる。→婦人科へ
□あせも
皮疹がありかゆい。下着が密着することで起こりやすい。→皮膚科へ
□臀部皮下膿瘍(でんぶひかのうよう)
血の混じった膿が出る。長時間座っている人に多い。→皮膚科へ
□バルトリン膿瘍
腟の後方、肛門寄りの外陰部が腫れて痛む性感染症。→婦人科へ
□臀部の粉瘤(ふんりゅう)
角質や皮脂が溜まった袋状の良性腫瘍。破裂することも。→婦人科へ
□痔
女性は肛門がうっ血して痔になりやすい。→外科へ
「妊娠出産を経験した方で、内痔核(下記で解説しています)で悩んでいる人が多いと思います。妊娠中、骨盤内の血流が滞るため、出産後、骨盤から下肢の静脈の流れが悪くなり、下肢静脈瘤になりやすく、内痔核が悪化しやすくなります。特に、便秘気味になって、頑張って排便すると出血をしたり、痔が脱出(脱肛)したり、強い痛みをともなったりします。外科で、冷あん療法をすれば、すぐに腫れが引いて、痛みがなくなります」(今津先生)。
痔は大腸がん、大腸ポリープとの鑑別が大事
ここにあげていただいた病気は、いずれもお薬で治療できますか?
「はい。ここにあげた病気は、ほとんどが外用薬で治療できます。水虫、カンジタ腟炎、細菌性腟炎は、抗菌薬。あせも、臀部皮下膿瘍、バルトリン膿瘍、粉瘤などは、抗生剤で治療します。そのほか、じんましんやアレルギー性のものなら、抗炎症剤(ステロイド)を使います」と今津先生。
女性にとって、受診しにくい痔については、どうでしょうか?
「痔は、女性に多いので、何も恥ずかしがることはありません。受診している方も女性はたくさんいらっしゃいます。痔は、大別すると「痔核(じかく)」=いぼ痔、「裂肛(れっこう)」=切れ痔、「痔瘻(じろう)」=あな痔の3種類に分けられます。ただし、痔は大腸がんや大腸ポリープと間違えやすいので、自己判断せずに、外科を受診して確認することは大切です。いぼ痔が男女ともに多く、大半を占めます。あな痔は、手術が必要になりますが、痔全体では少ないです」(今津先生)。
【痔の三大症状】
痔核(じかく)(いぼ痔)
肛門の内側にできる「内痔核」と肛門の外側にできる「外痔核」がある。内痔核は、排便時の出血のみで痛みはないが、進行すると肛門の外に出て痛みを生じる。外痔核は、出血は少ないが、強い痛みをともなう。
裂肛(れっこう)(切れ痔)
下痢、便秘が悪化の原因。排便時や排便後にもズキズキとした痛みに、出血をともなうこともある。
痔瘻(じろう)
細菌が入り化膿し、膿がたまることが原因。排便時以外にも痛み、発熱をともなうこともある。
痔は漢方薬でも治療可能
痔の治療は、進行したら手術という可能性もあるとのことですが、軽いうちは、ほかの治療法もありますか?
「ひと昔前まで”痔=手術”と思われていましたが、いまは手術だけでなく、お薬による治療と、ライフスタイルを改善する生活療法で行うことが増えてきています。痔の薬には、座薬、注入軟膏、塗り薬、内服薬などがあります。便通を改善する薬が使われることもあります。また、漢方薬が処方されることもあります。漢方薬は、冷えを解消して、血流の滞りを改善する薬や便通改善の薬が使われます。たとえば、いぼ痔や切れ痔には「乙字湯(おつじとう)」や「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」、痔瘻には「排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)」などです。」(今津先生)
お尻が冷えないようにすることも大事
女性は冷えから痔になる人もいるそうですが、どうなのでしょうか?
「女性は筋力がなく、冷えやすいため、肛門がうっ血して、痔になる人が少なくありません。また、女性ホルモンの黄体ホルモンの作用で、特にPMSの時期に便秘になりやすいですね。妊娠、出産時も肛門に大きな負担がかかり、痔になりやすいです」(今津先生)
運動して、冷えない生活も大切なのですね。生活習慣では、どのようなことに気をつければ良いでしょうか?
「生活習慣の改善は、大切です。朝食をしっかり食べて、食物繊維と適度の油脂類、たっぷりの水を摂るようにしましょう。また、長時間いきまないように、排便習慣を見直してください。定期的な運動、冷えない生活の工夫はとても大切です」(今津先生)
お話を伺ったのは…今津嘉宏(いまづよしひろ)先生
芝大門 いまづクリニック院長。藤田保健衛生大学医学部卒業。東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センターほかを経て現職。北里大学薬学部非常勤教員。東京都済生会中央病院外科非常勤。藤田医科大学医学部客員講師。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会認定医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医ほか。著書に『健康保険が使える 漢方薬の事典』(つちや書店)、 『まずはコレだけ! 漢方薬』(株式会社じほう)ほか多数。
AUTHOR
増田美加
増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon
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