閉経後はLDLコレステロール180mg/dL未満なら治療の必要はない!?循環器専門医からの新常識

 閉経後はLDLコレステロール180mg/dL未満なら治療の必要はない!?循環器専門医からの新常識
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増田美加
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2023-07-22

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 動脈硬化に繋がると言われ、悪玉と呼ばれてきたLDLコレステロール。実はそうではないことがわかってきました。特に女性は、閉経前と閉経後で大きく変わります。長年、女性のコレステロールと動脈硬化の関係を研究してきた専門医、田中裕幸先生から、更年期以降のコレステロールの新常識をお伝えします!

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基準値LDLコレステロール140mg/dL以上でも女性なら多くは心配なし

動脈硬化と関連する「脂質異常症」。血液中の脂質の値が基準値から外れた状態のことです。動脈硬化が怖いのは、心筋梗塞や脳卒中など、命にかかわる心臓や脳の血管の病気を起こすからです。血液中の脂質の異常には、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪の異常があります。これらはいずれも、動脈硬化と関連しています。

では、どのくらいの値だと、LDLコレステロールは異常値なのでしょうか?『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』*によると、LDLコレステロール「140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症」LDLコレステロール「120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症」となっていますが、この基準は男性の疫学研究から得られたもので、女性に当てはめるのは適切ではありません。これまでの疫学研究の結果では、少なくとももっと高い値であると考えられます。

*『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』一般社団法人日本動脈硬化学会

田中先生は、「10代からのLDLコレステロール180mg/dL以上の家族性高コレステロール血症の場合を除いて、閉経前の女性なら、LDL(悪玉)コレステロール基準値140mg/dL以上でもほとんどの方で動脈硬化は進みません」と話します。「女性ホルモンのエストロゲンには、動脈硬化を抑制するありがたい作用があります。ですから、閉経前の女性は、脂質異常症でも動脈硬化を発症することはほとんどないのです。それは、女性ホルモンのエストロゲンのおかげです。ここは、男性と大きく異なる点です。しかし、閉経によって、エストロゲンが減少することで、急に血圧やコレステロールが上昇してくる人が増えてくるのです」と田中先生。

閉経後、健診でコレステロール値が上がり、「特に生活を変えていないのに、このまま動脈硬化になったらどうしよう」と不安になる方も少なくないと思います。

動脈硬化が危険なのは、閉経後のLDLコレステロール180mg/dL以上

「現在女性のLDLコレステロールで指導や治療を開始する基準値は、ガイドライン*でも、140mg/dL以上とされています。ところが、前述のように、閉経前の女性では、140mg/dL以上で動脈硬化のリスクが上がることはほとんどありません。私のこれまでの研究結果では、閉経後55歳以上の方では、LDLコレステロール180mg/dL以上でプラーク(頸動脈エコーで観察される動脈硬化の所見)が発見される確率が急に高くなります。ただ180mg/dL未満でも、高血圧と喫煙習慣のある女性は要注意ですが、少なくとも女性のLDLコレステロールの基準値は、“男性と同じではおかしい”と言わざるを得ません」と田中先生。

血液中のLDLコレステロール高値が怖いのは、動脈硬化を起こし、命にかかわる心筋梗塞や脳梗塞のきっかけとなるからです。

「実際は、閉経後でも血液中のLDLコレステロールが増えただけでは、動脈硬化は起こらないのです。女性で注意すべきは、危険因子とされる高血圧、高血糖、脂質異常の3つうち複数が揃うことで、さらに3つ全部が揃うことで、急速に動脈硬化が進行します。大切なのは、LDLコレステロールの管理ではなく、動脈硬化の管理です。そのためには頸動脈エコー検査が有効です。頸動脈の血管をエコーでみることで、全身の動脈硬化を予測できます」(田中先生)。

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リスクの高い女性は頸動脈エコーでチェック!

「女性の場合は55歳になったら、健康診断のときに、一度は頸動脈エコー検査を受けることをおすすめします。1.5ミリ以上のプラークがなければ、3年に1回の検査で十分です。ただし、55歳以上で、LDLコレステロール180mg/dL以上の女性は、頸動脈エコーで1.5ミリ以上のプラークの人が増えますので、頸動脈エコーは毎年受けた方が良いです。またLDLコレステロール180mg/dL以上であるなら、少なくとも食事療法を開始し、かつ、プラークが1.5ミリ以上ある人では、生活習慣の指導や薬の治療を開始し、動脈硬化を慎重に管理することが大切です。高血圧、高血糖、喫煙習慣のある人は、さらにリスクが高いので注意が必要です」と田中先生。

食べ物に含まれるコレステロールは、血中コレステロール値に影響しない?!

近年、変更されたコレステロールの新事実があります。それは、2015年に厚生労働省の食事の摂取基準からも、コレステロールの上限値が撤廃されたことです。

「血液中のコレステロールは、コレステロールを食事で摂取する以外に、糖質を材料に肝臓で生合成されます。ですから、血液中コレステロールの濃度は、コレステロールの摂取量を必ずしも反映しないのです。ひと昔前は、卵はコレステロールが多いから、食べ過ぎるとよくないと常識のように語られていました。しかし、今はコレステロールを多く含む食品を食べても、血液中のコレステロール値には影響がないと言われています」(田中先生)。

動脈硬化を起こす要因は、LDLコレステロールの値より、“質”が重要です。では、コレステロールの質とはなんでしょうか?

「実は、LDLコレステロールは、コレステロール以外にいろんな脂肪酸を含んでおり、コレステロールの多くは、脂肪酸とくっついたコレステロール・エステルの形で、血液中を運ばれています。ですから、LDLコレステロールに含まれる脂肪酸で、酸化しやすい脂肪酸が多いと、動脈硬化が進みやすいのです。これまで当院で行った研究結果によると、血中のリノール酸濃度が高いほうが、動脈硬化のリスクであることがわかりました。リノール酸は、オメガ6系の油です。

また、LDLコレステロールには、オメガ6系のリノール酸以外に、オメガ3系のEPAやDHA、魚に含まれる油といったよい油も、コレステロール・エステルの形で運ばれています。LDLコレステロールになる、オメガ3系の油もオメガ6系の油も食事で摂取しないと、体内では作られない必須脂肪酸です。ですから、LDLコレステロールは質の点で、食習慣の影響を大きく受けることになります。魚の油を多く摂る人は質の良いLDLコレステロールとなり、オメガ6系のリノール酸を多く摂っている人は、質の悪いLDLコレステロールが多くなるのです。そのため、魚を多く摂っている日本人と肉を多く摂っている欧米人では、特にLDLコレステロールの質が大きく違うと言えるでしょう」(田中先生)。

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リノール酸などの悪い油を摂らないことが重要

「質の悪い悪玉と呼ばれているLDLコレステロールの脂肪酸は、オメガ6系リノール酸です。オメガ6系のリノール酸は、肉や一部の植物油に多く含まれています。もちろん、動物性脂肪に多い、中性脂肪になるパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸も多いと、LDLコレステロールの小型化が起こり、酸化しやすくなり、よくありません。魚をよく食べる日本人のLDLコレステロールは、オメガ3系脂肪酸のEPA 、DHAが豊富です。オメガ3系の油は、リノール酸による悪い影響を打ち消してくれる効果があります。これまで、欧米に比べて、日本女性の動脈硬化が少なかったのは、魚を食べることでオメガ3系が高く、LDLコレステロールの質が良かったことが大きな要因なのです」(田中先生)。

動脈硬化を防ぐために、毎日、刺身を8切れ!

動脈硬化を予防するためには、LDLコレステロールの数値が高いか、低いかに注目するよりも、大事な新視点があると話す田中先生。

・高血圧、高血糖でないか、喫煙していないかが大事
・治療すべき危険な値は、55歳以上の女性でLDLコレステロールが180mg/dL以上
・血管が詰まるリスク大なのは、血中のLDLコレステロールの値より、血中のリノール酸濃度
・LDL値でなく、頸動脈エコーで動脈硬化を確認すること

「また血液中のコレステロール値は、食事によるコレステロール摂取量を反映していないことも知っておきましょう。動脈硬化を防ぐには、魚を食べること、特に刺身を毎日8切れ食べることが大事です」(田中先生)

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リノール酸を減らして魚を増やす!

「食事制限をしてもLDLコレステロール値が下がらない人は、リノール酸を制限してみることが大事です。というのもLDLコレステロールが高いとリノール酸も高いという関係があるからです。そこで減らしたい油と、増やしたい油をまとめました」(田中先生)

【減らしたい油】 

動脈硬化予防で注意すべきは、リノール酸が多い油と食品を減らすことです。ひまわり油、大豆油、ごま油、こめ油、マーガリン、加工食品(菓子、パン、マヨネーズ、カップ麺、ファーストフードなどの油)は避けましょう。

【増やしたい油】

魚、オメガ3系の油 (DHA、EPA、α‐リノレン酸)、加熱しないエゴマ油、亜麻仁油(加熱調理する場合はリノール酸の少ないオリーブオイルを使います)を積極的に摂りましょう。動脈硬化の予防になります。

「本当の悪玉はリノール酸です。魚をよく食べて、熱を加える場合はオリーブオイルを使ったら、LDLコレステロールの数値は下がります。男性と違って、特に閉経前の女性は、LDLコレステロール値に一喜一憂する必要はありません。高血圧などのリスク因子がなければ、動脈硬化は進まないのです。閉経後の動脈硬化のリスクを下げるには、リノール酸を控えて、オメガ3の油や魚を積極的に摂りましょう。また、更年期治療のホルモン補充療法(HRT)も、動脈硬化の予防に役立ちます」(田中先生)

お話を伺ったのは…田中裕幸(たなかひろゆき)先生

ニコークリニック名誉院長。医学博士。長崎大学医学部卒業。九州大学医学部皮膚科、久留米大学第三内科などを経て、94年、佐賀県武雄市にニコークリニック開業し、現在は名誉院長。動脈硬化の性差、コレステロールの関係について研究。日本循環器学会認定循環器専門医。著書に『男女で違うメタボとコレステロールの新常識』など。

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増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



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