専門医が解説【国内のリンパ浮腫患者は25万人超】命に関わる病気の可能性も!病気の見分け方と予防法
“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 むくみが気になる人は少なくないと思います。むくみの中には、一時的なものですぐに解消するものもありますが、病的なものもあります。その見極め方を、リンパ浮腫を専門とする医師、林明辰先生に取材しました。
がんの増加にともなってリンパ浮腫の人が増えている!
お酒を飲み過ぎて翌朝、顔がむくむ。立ちっぱなしで夕方に脚がむくむ。こんなむくみを経験したことがある人は、少なくないと思います。「このような日常的なむくみの原因は、血管外の皮下組織に過剰に溜まった水分です。過剰に摂取した水分は、行き場を失って、体内に溜まります。たとえば、立ち続けていると、脚(下肢)の静脈血が滞り、血管内の水分が漏れ出すため、脚がむくむのです」と林明辰先生。
人の体は、水分を調節する機能が備わっていて、動脈の毛細血管から出た水分は、体内に栄養を配給したあとで、静脈やリンパ管で回収されます。水分の90%は静脈から回収され、残りの10%をリンパ管が回収しています。むくみは、この静脈とリンパ管の機能がうまく働いていない状態なのです。「一時的なむくみは、時間が経てば解消します。時間が経っても治らないむくみは、病的なむくみ(浮腫)の可能性が高くなります」(林先生)。
病的なむくみにはさまざまな種類があり、なかでも注目したいのは、がんの治療によって起こるリンパ浮腫です。女性のがん罹患率のベスト5に入る乳がん、大腸がん、子宮がん。リンパ浮腫は、これらに対する手術や抗がん剤などの治療が原因で起こる病気で、年々増加傾向にあります。現在、日本のリンパ浮腫患者さんは、約25万人以上いると言われています。乳がんでは腕に、子宮、卵巣、大腸がんでは脚に、リンパ浮腫が起こります。リンパ浮腫は一度発症すると、自然に治ることはありません。早期発見と予防が何より大切です。
病的なむくみは、いくつもある!
「病的なむくみは、全身にむくみが起こる「全身性」と局所に起こる「局所性」にわかれます」と林先生。全身性浮腫には、心臓が原因の「心性浮腫」、腎臓が原因の「腎性浮腫」、肝臓が原因の「肝性浮腫」などのほか、甲状腺の病気によるむくみもあります。
局所性浮腫は、静脈瘤や静脈内血栓などによる「静脈性浮腫」、がん(乳房、子宮、卵巣、大腸、前立腺など)の手術によって、上肢(腕)や下肢(脚)のリンパにむくみが起こる「リンパ浮腫」などがあります。「ただのむくみか、病的なむくみかの見極めは大切です。一過性のものでない、継続するむくみは原因を調べることが大切です。下記にあげたこんな症状は、リンパ浮腫かもしれません。特に、がん(乳房、子宮、卵巣、大腸、前立腺など)の手術を受けた人は要注意です」(林先生)。
・がんの術後に放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)を受けた
・手がこわばって握りにくい
・腕や脚のむくみに左右差がある
・二の腕や、太ももの内側に脂肪がつきやすい
・腕や脚にときどきしびれが出る
・マッサージをしても、むくみが治らない
・急に、腕や脚の体毛が濃くなる
・腕や脚がときどき赤くなり、熱をもつことがある
リンパ浮腫は早期発見が非常に大切
「今、リンパ浮腫の診断のための検査や治療は、進歩してきています。早期なら自己管理しながら、普段の生活を送ることができます。重症になってしまうと、生活に支障をきたすこともあります。早期なら治療効果は高いことが知られており、早期治療で悪化を防ぐことがとても重要なのです」と林先生。
リンパ浮腫の発症時期は、個人差があり、術後すぐの場合もあれば、10年以上経って発症することもあります。早期のリンパ浮腫は、静脈が見えにくくなる、皮膚をつまむとシワが寄りにくいなどがありますが、自覚症状が少なく、むくみに気づかないこともあると言われています。リンパ浮腫の軽度から中等度になると、腕や脚ががん治療前より太くなり、腕や脚がだるい、重い、疲れやすいなどといった症状がみられるようになります。 重症になると、皮膚が乾燥して硬くなる、毛深くなる、関節が曲がりにくい、太いほうの腕や脚が赤くなり高熱が出やすいなどの症状が現れます。
治療はできる? 予防法は?
「がんの治療をして、これらに心当たりがある方は、がん治療時の担当医にすぐに相談してください」と林先生。病院では、画像検査(ICGリンパ管造影や超音波)を行って、診断します。また、場合によってはリンパ管シンチグラフィ、単フォトン放射断層撮影装置(SPECT)検査を組み合わせることもあります。
「治療は、早期なら、弾性スリーブやストッキングなどの圧迫療法を行います。それと同時に、皮膚を保湿するスキンケアやリンパドレナージ(専門の医療マッサージ)を行ったうえで、ゆっくりと大きく筋肉を動かす運動のストレッチなどが効果的です。しかし、これらで改善が不十分な場合は、手術の選択になります」(林先生)
予防のために、日常生活で気をつけることは、皮膚の清潔に気をつけ、保湿クリームなどで乾燥を防ぐようなスキンケアをしっかり行うことです。擦り傷、切り傷、虫刺され、ペットによる引っかき傷には注意が必要です。それがリンパ浮腫のきっかけになることがあるからです。締めつけがきつい下着、靴下、靴は避けましょう。体重の増加はリンパ浮腫の発症や増悪につながるため、適度な運動を続けることは、大切です。ウオーキング、水泳、ヨガなど、体に負荷のかからないゆっくりした動きの有酸素運動がおすすめです。長時間の乗り物では、たまに立ち上がるなどして、同じ姿勢を取り続けないような工夫をしましょう。
「むくみ予防には、静脈とリンパ管の機能を活発化させることが大切です。つまり、長時間同じ姿勢をせず、適度に運動することで、リンパ液を流れやすくすることが対策になります。運動で腕や脚がだるくなってしまい、筋肉痛が残るようなら、運動のしすぎで逆効果です。無理をせず、負担にならないように行います。急激に、腕や脚を振り回すような動きは、やめましょう」(林先生)
リンパ浮腫の最新外科治療とは?
弾性スリーブやストッキングなどによる圧迫療法では、効果がないリンパ浮腫に対しては、手術という選択肢があります。リンパ浮腫の手術とは、どのようなものなのでしょうか?
「手術治療には、リンパ管細静脈吻合術(LVA)、リンパ節移植術、脂肪吸引術などがあります。
なかでも、LVAは、最も患者さんの体への負担を最小限にした外科治療で、世界中に広がりつつあります。LVAでは、滞ったリンパ管から静脈にバイパスを通し、滞りを解除することで、リンパ浮腫を改善させ、増悪を予防します。現在では、画像技術の進歩により、滞りの原因になっているリンパ管を効率よく選択でき、以前より効果的な手術が可能になってきています。早期に発見してこの手術を行なえば、リンパ浮腫を治せる(むくみをなくして圧迫療法を不要にできる)可能性があります。また、進行したリンパ浮腫にも、リンパの滞りが軽減されるため、圧迫療法を軽くする効果が期待できます。手術時間はおよそ3~5時間程度。基本的には、約3日の短期入院を要しますが、元気な方は入院なしの外来手術で行える場合もあります」(林先生)
お話を伺ったのは…林 明辰(はやしあきたつ)先生
日本形成外科学会認定専門医。がん術後リンパ浮腫治療を専門とし、これまで5,000人以上の診療に携わり、2,500件以上の手術を執刀。リンパ浮腫手術におけるリンパ管イメージングの世界的第一人者。低侵襲のスーパーマイクロサージャリーと最先端のリンパ管イメージング技術を併用したリンパ浮腫治療の先駆者として世界中で活動を行っている。現在、亀田総合病院・亀田京橋クリニック・東京リンパ浮腫手術センターを中心にリンパ浮腫の診察・治療を年間1500件以上行っている。
AUTHOR
増田美加
増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon
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