腸活で糖尿病、動脈硬化を予防|腸内環境研究の第一人者が語る「今すぐやめるべき習慣」とおすすめ食材
“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 腸内細菌研究の進歩は目覚ましく、特に腸内細菌が産生する代謝物質の研究によって、さまざまなことがわかってきました。腸活で、腸内環境が変わるとホルモンが変わり、体が変わります! 腸内環境を変えるには、食事が重要。日本人の腸内環境を誰もよりも良く知る、内藤裕二先生(京都府立大学大学院医学研究科教授)に、腸活には、何を食べるべきか、何をしてはいけないか、を聞きました。
腸が変われば、体が変わる!
腸は、消化と吸収によって必要な栄養素をとり入れ、不要なものを排泄するのが役割。それだけでなく、もうひとつ大切な役割があります。それは、外から入ってきたウイルスなどの有害物質を見分けて、攻撃し、体を外敵から守るという働きです。今、話題となっている免疫力でも、腸が重要で、体内の7割の免疫細胞は、実は腸内にあるのです。
また、腸はホルモン分泌にかかわっていて、血糖のコントロールを助けたり、脳内のセロトニンなどを産生したりする作用もあります。糖尿病、動脈硬化などの病気にも深く関係しているのです。
腸内環境を整えるカギは、腸内フローラ!
「ここ10年の腸内細菌研究の進歩は目覚ましく、特に腸内細菌が産生する代謝物質の研究によって、腸と脳の相関、また腸と全身の病気の関係がわかってきました。腸内環境が変わるとホルモンが変わり、体も変わります。
腸内環境を変えるには、有用な腸内細菌が正しく働くことが大事です。腸内細菌に正しく働いてもらうには、食環境が重要。将来は、薬ではなく、食べ物で病気を治療していくことも可能になるのではと思っています」と内藤裕二先生。
「同じものを食べても、腸内フローラ(細菌叢)のバランスによって、健康にも、不健康にもなります。腸内細菌で大切なのは、そのバランスと多様性です。腸内フローラは、指紋と同じように、一人ひとり異なります。日本の食文化、食環境と相性がいい、腸内細菌が日本人の腸内には棲んでいるのです」(内藤先生)。
避けたいのは、砂糖、塩分、動物性脂肪
腸活のために、やってはいけないことは、なんでしょうか? 「悪玉菌が増えて腸内フローラのバランスが崩れる要因は、加齢、遺伝、高脂肪食、ストレス、不規則な生活、運動不足、薬剤(抗生物質)などがあります。
お薬の抗生物質の影響は、知っている人も多いと思いますが、残留農薬が懸念される輸入農作物、飼育過程で畜水産物に使われている抗生物質もあるので注意が必要です。胸やけや胃酸を抑える胃薬(プロトンポンプ阻害薬)も腸内フローラのバランスを崩します。また、食事で、腸内フローラのバランスを守るために控えたいのは、“動物性脂肪、塩、砂糖”です」と内藤先生。
腸内フローラのバランスを保つには、食物繊維を摂ることが重要。ところが、日本人は圧倒的に、食物繊維が足りていないのです。
日本人は食物繊維が圧倒的に足りていない!
健康維持のためには、1日24g以上の食物繊維摂取が推奨されています。日本人は戦後すぐには1日平均25g以上の食物繊維が摂れていましたが、現在は約14gまで落ち込んでいます。
「私たちの研究チームで、長寿の方が多く、要介護の方が少ない京丹後市の方々の食生活を調べました。すると、動物の肉をあまり食べず、海藻、雑穀、イモ、キノコなどの食物繊維を豊富に摂っていました。そんな京丹後市の方々の腸内細菌を調べたところ、加齢とともに減っていくビフィズス菌が多いままでした。本来、日本人の腸内細菌は、ビフィズス菌が多いのが特徴です。さらに、腸内で酪酸(短鎖脂肪酸)を作り出す、酪酸菌も多いこともわかりました。酪酸は、とても重要。腸の細胞のエネルギーとなって腸を強化して、免疫細胞も活性化させ、病気の始まりとなる炎症を抑える働きもあります。脂肪の蓄積を抑えて、肥満や糖尿病予防にもいい影響を与えます」(内藤先生)。
食物繊維は、この酪酸を作る材料としても注目されているのです。逆に、動物性脂肪、塩、砂糖は、酪酸菌を含む腸内細菌に悪影響を及ぼします。食品などで摂ったビフィズス菌は、腸内まで届かないと言われますが、食物繊維を摂り続けると、酢酸、酪酸や乳酸などが腸内で産生されます。すると腸内を善玉菌が好む環境(弱酸性)に整え、悪玉菌の増殖を抑える作用があります。ですから、ヨーグルトを摂るより、食物繊維を摂ったほうがいいのです。
「京丹後市の方々の長寿の秘訣は、食生活だけではありません。自給自足で、海、畑、山に出かける運動習慣が日常的にあり、早寝早起き、規則的な生活など、腸内フローラの若さを保つ生活習慣を行っているからなのです」(内藤先生)
腸活には、定期的な運動、早寝早起き、規則正しい生活も欠かせませんね。
水溶性食物繊維を食べることがすごく大事!
生活習慣のほかに、腸活のために何を食べればいいかというと、海藻、雑穀、イモ、キノコなどの食物繊維をたくさん摂ることなのですね?
「腸内フローラを整えるためには、善玉菌のエサとなる食物繊維をしっかり摂ることが重要です。しかし、特に、水溶性の食物繊維を意識して摂ることが大事です。食物繊維には、不溶性と水溶性があって、もちろんどちらも大事ですが、水溶性食物繊維には、ゲル状になって腸内の有害物質を吸着して排出する役割があるのです。不溶性食物繊維は、便のカサを増やして便通を促します。さらに、水溶性食物繊維は、善玉菌のエサになり、発酵によって、とても重要な酪酸などの短鎖脂肪酸を産生し、腸内フローラを整えます」(内藤先生)。
腸活のために、ぜひ摂りたい水溶性食物繊維は、こんぶ、わかめ、ひじきなどの海藻類、大根、キャベツ、イモ類、熟した果物、大麦、ライ麦などに含まれています。不溶性食物繊維は、玄米、雑穀、ごぼう、たけのこ、キノコ、さつまいも、大豆、枝豆などに含まれています。不溶性食物繊維も大事ですが、摂りすぎると、腹部膨満感や腹痛の原因になることもあるので、ほどほどに。
便で自分の腸内環境がわかる検査が登場!
そんななか、内藤先生たち専門家によって、日本人、健常人と種々の疾病有病者1803名の糞便検体を用いた腸内フローラ解析が実施されました。その解析結果を検査サービスとして活用することが可能になり、社会実装され、これからは、自分の便で、腸内環境を検査することができるようになりました。自分の腸内フローラのタイプを知ることができ、病気のリスクや食生活の改善、ヘルスケアに役立てることができます。
腸内環境評価システムを用いた腸内フローラ検査「Flora Scan®」(フローラスキャンhttps://flora-scan.com/)は、京都府立医科大学、摂南大学、プリメディカの共同研究によって開発されました。自分の便を採取して送れば、日本人の腸内フローラデータベースを用いて検査できるサービスです。自分の腸内フローラタイプと病気との関連も検査することが可能です。大阪府枚方市のふるさと納税にも採用されています。
お話を伺ったのは…内藤裕二(ないとうゆうじ)先生
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授。京都府立医科大学卒業。同医科大学附属病院、米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授ほかを経て現職。日本酸化ストレス学会理事長。著書に『人生を変える賢い腸のつくり方』(ダイヤモンド社)、『すごい腸とあぶない脳』(統合法令出版)ほか。
AUTHOR
増田美加
増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon
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