【花粉症治療第一人者に聞く】薬はいつから飲む?処方箋と市販の違いは?今すぐ始めたい予防ケア
“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 今年のスギ花粉飛散量は、関東甲信越、東海、近畿、四国で前シーズンの約2倍以上と予測され、花粉症の人にとってはつらい春になりそうです。国民の約40%が花粉症という日本。花粉症の重症度のチェックとともに、花粉症治療の第一人者である耳鼻咽喉科専門医、大久保公裕先生に花粉症対策を伺いました。
くしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状から重症度をチェック!
まずは、大久保公裕先生に、花粉症の重症度の調べ方を伺いました。花粉症のくしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状から重症度をチェックできます。病院で症状を伝えるときにも役立ちます。
【花粉症 重症度チェック】
1日のくしゃみ、鼻をかんだ回数、口呼吸を自覚した時間をチェックします。病院では「くしゃみ・鼻水タイプ」、「鼻づまりタイプ」、「重症度はどうか」を伝えましょう。自分で思っている以上に、重症の可能性もあります。
「最重症」 くしゃみの発作回数 21回以上/鼻をかんだ回数 21位回以上/口呼吸の時間 1日中
「重症」 くしゃみの発作回数 20~11回/鼻をかんだ回数 20~11回/口呼吸の時間 1日のうちかなりの時間
「中等症」 くしゃみの発作回数 10~6回/鼻をかんだ回数 10~6回/口呼吸の時間 1日のうちときどき
「軽症」 くしゃみの発作回数 5~1回/鼻をかんだ回数 5~1回/口呼吸の時間 口呼吸はないが鼻づまりはあり
花粉症になる人とならない人がいて、花粉症は自然には、治らないのでしょうか?
「残念ながら花粉症は、年をとっても治療しない限り、まず治るということはありません。花粉症のアレルゲンとなる花粉は、スギ以外にもヒノキ、ブタクサなど、日本には約60種類もあって、日本人の約40%が花粉症です。
日本人に多いのはスギ花粉症ですが、そのうち約7割の人はヒノキ花粉症も併せもっていて、こういう人は重症化傾向にあります。逆に、ヒノキだけの人は、ほとんどいません。ちなみに、スギ花粉症は日本にしかないことを知っていますか。男女差はなく30~40代は2人に1人、50代は2~3人に1人で、更年期を過ぎてもあまり減りません。
アレルゲンの特定は、病院で「皮膚反応検査」で調べます。また「血中IgE検査」で抗体を調べると、将来発症するかどうか、いつごろ発症するかどうかもわかります。花粉症は何歳になっても、突然発症することがあります。なぜ、発症する人としない人がいるかはわかっていません」と大久保先生。
進化した抗ヒスタミン薬は、副作用がかなり軽減
クリニックではどんな治療をしますか? 治療をするうえで、病院の処方薬と市販薬とでは違いがあるのでしょうか?
「病院の処方薬と、薬局薬店で買える市販薬(スイッチOTC)の成分は、同じものが多いのですが、数多くの薬の中から副作用を最小限にし、自分に合った薬を選択するには、まず耳鼻咽喉科で診断を受けましょう。
花粉症と思っていても、ハウスダストなどほかのアレルゲンが原因の場合もあります。病院では、症状の度合いや出方、ライフスタイルを総合的に判断し、最適な薬を処方します」(大久保先生)。
花粉症治療薬は、どんどん進化しています。くしゃみ、鼻水、目のかゆみを抑える「抗ヒスタミン薬」は、以前はよく効く半面、口の渇きや眠気の副作用が気になりました。けれども、「第2世代」の抗ヒスタミン薬が出て、副作用がかなり軽減されました。また、「遊離抑制薬」というヒスタミンを出にくくする薬は、副作用がさらに少なく、くしゃみ、鼻水に効きます。
重要なのは、花粉が沢山飛ぶ前に薬を飲み始めること
「ただし、重要なのは、薬を飲み始めるタイミングです。最大の効果が現れるのに1週間程度かかり、ひどい症状が出てからでは効果が出にくいのです。
そこで花粉が飛ぶ直前から、薬を飲み始める「初期療法」は非常に有効です。症状を軽くし、症状が出る時期を先延ばしできて、薬の量も減らせます。そのほか、鼻づまりに効く「抗ロイコトリエン薬」、点鼻として使う「血管収縮薬」、症状が強いときに使う「鼻噴霧用ステロイド薬」などを組み合わせることで、症状をさらに軽減できます」(大久保先生)。
ほかにも、花粉症を治したい人には、根治療法がありますね。
「現在の根治療法は、舌下免疫療法です。以前はアレルゲンを含んだエキスを皮下に注射する皮下免疫療法でしたが、週1~2回の通院が必要で効果が出るまで約1年かかり、注射の副反応や効果が上がりにくい人もいるなどから、舌下免疫療法に移行しています」(大久保先生)。
舌下免疫療法とは、スギ花粉のアレルゲンを含んだ薬剤を毎日、舌の下に置き口の中に1分そのまま溶けるまで放置しておく治療法。治療開始時期は、花粉シーズンが終わった後の夏、秋口からが目安です。最初は2週間後に、その後は月1回通院し、3~5年間継続することが必要です。費用の目安は、診察料、薬剤料で年間2万4千円程度。ほかには、鼻の粘膜をレーザー照射し1シーズンだけ症状を抑える「レーザー手術」などもあります。これも花粉が飛び始める前に行うと効果的な治療です。
セルフケアは有効! 薬の量を減らすためにもぜひ
花粉症対策に、セルフケアは有効でしょうか?
「はい。セルフケアは思っている以上に有効です。症状を軽くして、薬の量を少しでも減らすためにもぜひ行ってください」と大久保先生。症状を軽くするためには、治療だけでなく、花粉が体に入ってこないようにする工夫が想像以上に有効です。下記に、花粉を寄せつけない生活習慣をまとめました。
【外出時】
・花粉情報をチェック
晴れや曇り、気温が高い、湿度が低い、やや強い南風が吹き北風に変化、前日が雨の日などは、花粉が多く飛びやすい条件です。花粉対策を十分にして出かけましょう。
・午後1~3時の外出は控えめに
花粉飛散が多いのは、午後1時~3時ころです。その時間帯の外出をなるべく控えるだけでも違います。
・外出時は防備して
メガネ、マスクでかなり防げます。さらにできればマフラーをつけ、コートはツルツルした花粉がつきにくい素材にします。
・玄関でシャットアウト
衣服やペットについた花粉は、玄関外で十分に払ってから、玄関を開ける習慣を。
【家の中で】
・帰宅後は、すぐに洗顔とうがいを
体についた花粉は、すぐに洗い流すことが基本。毎日の習慣にしてください。コロナ対策にもなります。
・窓を閉める
花粉の飛散が多いときは、窓を開けないでシャットアウトしましょう。コロナ対策で換気をするときには、花粉がやってくる前の早朝がおすすめ。
・掃除はこまめに
掃除機はこまめにします。フローリングは、拭き掃除を行うとさらに効果的です。
・洗濯物や布団は外に干さない
洗濯物は部屋干しにします。部屋の加湿にもなって一石二鳥です。
・加湿をする
湿度が大事です。加湿器を使って、湿度を50%程度に保ちましょう。
【就寝時】
・入浴で花粉を流す
入浴やシャワーは朝ではなく、花粉の時期は寝る前にしっかりと。花粉をしっかり洗い流してからベッドに入りましょう。
・空気清浄機を活用
寝室にも、空気清浄機と加湿器を使うといいですね。風邪予防にもなります。
・枕元の花粉を拭き取る
花粉を吸い込まないように、枕周りをウエットティッシュやタオルで拭き取ってから寝ましょう。
お話を伺ったのは…大久保公裕先生
日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学分野教授
おおくぼきみひろ●日本医科大学卒業、同大学院耳鼻咽喉科卒業後、アメリカ国立衛生研究所留学、日本医科大学医学部講師、准教授を経て、2010年より教授。花粉症、特に舌下免疫療法など新しいアレルギー性鼻炎の治療、研究を進めている。著書に『シリーズ専門医に聞く「新しい治療とクスリ」4花粉症』(論創社)ほか多数。
AUTHOR
増田美加
増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon
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