【更年期に低下する消化力…なぜ?】女性ホルモンの減少による胃腸機能低下のケア方法|医師が解説
“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。
更年期に消化機能が衰えるのはなぜ?
すぐお腹がいっぱいになる、いつまでも消化しない、お腹が張る、下痢や便秘を起こしやすい…。更年期になってから、胃と腸の不具合を感じていませんか? 更年期以降、低下していく消化力をケアする方法を消化器がご専門の今津嘉宏先生に伺いました。
「女性は、更年期以降、女性ホルモンの分泌が低下すると、すべての消化機能が変化してきます」と今津嘉宏先生。
口から始まり、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸、肛門管、肛門までの管。それに肝臓、胆嚢、脾臓、膵臓まで加わったものが消化器です。消化器は、おもに消化と吸収を行いますが、これらは神経やホルモンなどによりコントロールされているのです。
「女性ホルモンが減少すると、唾液腺に影響し、唾液の分泌が低下します。すると、唾液中の炭水化物を分解して消化を助ける役割のアミラーゼが減少します。さらに唾液に含まれるIgAやペルオキシダーゼによる殺菌作用も低下します。このように、唾液の質、量の低下にともなって、食物を消化する力が低下するのです。唾液による助けが少なくなると、胃で食物を完全なペースト状にできなくなり、消化不良を起こします。すぐにお腹がいっぱいになったり、食べたものが食道へ逆流する逆流性食道炎になりやすくなったりします」(今津先生)
関連して大腸の働きも低下しやすくなります。大腸の働きが低下するとお腹が張り、ガスが溜まり、腹痛や便秘、下痢になります。腸内細菌は加齢とともに変化するので、更年期以降、善玉菌が減り、悪玉菌が増えやすくなるのです。
胃腸機能低下の最初のサインは、睡眠に現れる!
胃と腸の機能が低下する最初のサインは、何かから始まるのでしょうか?
「最近、睡眠の悪化と食欲の関連が注目されてきています。睡眠の悪化は、胃腸機能の低下の黄色信号かもしれません。女性ホルモンの減少で更年期以降、なかなか眠れなかったり、中途覚醒で夜中に目が覚めてしまったり、良質の睡眠が難しくなったりしがちです。睡眠の質が悪くなると、食欲を抑えるブレーキの働きがあるレプチンの分泌が減少します。すると、食欲増進作用があるグレリンの分泌が過剰に増えるため、アクセルのふかしすぎによって、消化機能が悪化しやすくなるのです」(今津先生)
良質の睡眠は、消化力を保つためにも大切なのですね。
胃と腸の機能低下を自己チェックする方法
「胃の機能低下を自己チェックする方法があります。舌の表面を見てみましょう。表面が白くなっている場合は、胃粘膜に炎症が起こっていると考えられます。また、大腸から肛門の機能低下は、過敏性腸症候群のような下痢、便秘、腹痛の3つの症状に現れます。これを自己チェックするには、便の状態を観察します。便の状態は、表面が滑らかなバナナ便が理想的です。もし、胃や腸の不調が数週間、続くようなときは、胃や腸の内視鏡をしてみてもいいと思います」(今津先生)
市販の胃腸薬で注意すべきは?
検査で異常はないけれど、更年期に急に消化機能が低下してきたと感じたら、どうケアすればいいでしょうか?
「胃薬は、胃酸を抑えるガスターなどのH2ブロッカーは、適切な量を服用するなら構いません。しかし、胸やけなどの副作用がありますから、気をつけて使います。一方で、タケプロン、タケキャブなどのプロトンポンプ阻害剤は、安易に使わないでください。食道カンジダ症などの副作用があり、使う場合は慎重にします。漢方薬を処方するときもあります。消化不良のときには、漢方薬の「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」「六君子湯(りっくんしとう)」などを。食欲不振には、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」「六君子湯」などもよく処方します」(今津先生)
呼吸、運動、入浴などで血流を上げる!
消化力をあげるために、自分で積極的に行うと良いことはありますか?
「次に紹介する、腹式呼吸、筋肉を使う運動、入浴がおすすめです」(今津先生)
①腹式呼吸
加齢とともに交感神経が優位になります。消化器は、副交感神経が司っていますから、ゆっくりとした腹式呼吸で、副交感神経を優位にしましょう。消化器の機能低下を防ぎ、心拍も減少、血圧も下げます。
②筋肉を使う運動
女性ホルモンは卵巣だけでなく、筋肉からも産生されます。筋肉に負荷をかける運動で女性ホルモンの減少や、総コレステロールの上昇を抑制します。運動による体温上昇は、消化器の機能改善にも役立ちます。
③入浴
42℃以下のお湯に5分入浴すると、成長ホルモンを上昇させることができます。成長ホルモンは、組織の再生を促してくれます。また、深部体温を上げることで、消化器の機能改善にもなります。
良質の睡眠と朝食を大切に
「良質の睡眠のために、更年期障害で起こりやすい夜間の寝汗、熱感など、血管運動性神経症状がある人は、これを改善することも不眠の改善になります。寝汗には、漢方薬の「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」などを使います。それから、消化力の低下で朝食を摂らない方がいますが、朝食の習慣は大事にしましょう」(今津先生)
朝は1日のうちで体温が低く、体の機能にエンジンがかかっていない状態です。朝食を食べることで、覚醒のスイッチを入れることができます。朝起きて太陽の光を浴びるのと同じように、朝食は体内時計を整えるためにも大切です。活動性を上げ、精神面を整えます。消化機能を上げるために温かいものを食べるといいでしょう。朝食で摂ると良い食材を紹介します。
トマト
トマトに含まれるリコピンは、抗酸化作用がビタミンEの100倍以上。また熟したトマトに多いグルタミン酸から作られるγアミノ酪酸(GABA)は、ストレスを緩和し、睡眠の質を良くします。
ブロッコリー
ブロッコリーに豊富に含まれているスルフォラファンは、解毒酵素の活性を高める作用や抗酸化酵素の活性を高める作用があります。消化機能が低下しているときにもおすすめです。
大豆
大豆に含まれるイソフラボンは、女性ホルモンと似た作用があります。イソフラボンが腸内細菌によってエクオールに変化すると、女性ホルモンの作用を期待できます。
キノコ
食物繊維豊富なキノコに含まれるグアニル酸は、野菜と合わせて、さらに多くの食物繊維を摂れます。食物繊維は消化管では消化吸収せず、腸内細菌の働きで分解され、善玉菌の増加に役立ちます。
高野豆腐
高野豆腐に多く含まれるレジスタントプロテインは、消化酵素で分解されにくく食物繊維と似た機能をもつタンパク質。血糖値の上昇を抑え、老廃物の排出を促進してくれます。
ドライフルーツ
ポリフェノールが豊富で、なかでもフラボノイドは、水溶性で消化吸収しやすい性質があります。柑橘系果物に含まれるフラバノンは、全身の細胞の活性化に役立ちます。
消化力を整えるために、自分にできること、見直せることから始めたいですね。
お話を伺ったのは…今津嘉宏(いまづよしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長。藤田保健衛生大学医学部卒業。東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センターほかを経て現職。慶應義塾大学薬学部非常勤講師、藤田医科大学医学部客員講師ほか。日本消化器学会専門医、日本東洋医学会専門医、日本がん治療認定医機構認定医ほか。著書に『病気知らずの名医が食べている 長生き朝ごはん』今津嘉宏・今津美幸著(ワニブックス)ほか多数。『健康保険が使える漢方薬の事典』今津嘉宏著(つちや書店)が話題に。
AUTHOR
増田美加
増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon
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