【女性泌尿器科専門医からの警鐘】尿もれ、骨盤臓器脱の原因…鍛えなければ衰える「骨盤底筋」の強化法

 【女性泌尿器科専門医からの警鐘】尿もれ、骨盤臓器脱の原因…鍛えなければ衰える「骨盤底筋」の強化法
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増田美加
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2022-09-17

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。

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骨盤底筋は、女性が最もケアすべき場所

骨盤底筋は、加齢や運動不足、妊娠・出産でも衰えます。特に更年期以降は、頻尿、尿もれ、性交痛、骨盤臓器脱だけでなく、全身のさまざまなトラブルの原因の要になる場所。

頻尿や尿もれなどの尿トラブルは、20代女性の57.1%、30代女性の64.4%が経験しており、20代から60代のどの世代でも、その割合が6割前後だったという調査も出ています。*1

尿トラブルの原因は、骨盤底筋のゆるみ。さらに、女性ホルモンの低下による腟周辺の粘膜や皮下組織の老化も関連します。人生100年を健康に快適に生きるためには、忘れてはならないケアすべき重要なポイントです。今回は、骨盤底ケアの第一人者、女性泌尿器科医の関口由紀先生(女性医療クリニックLUNAグループ理事長)にお話を伺いました。

*1 P&Gジャパン株式会社 2019年7月、20代~60代の日本女性4万人を対象とした尿もれ)に関する大規模実態調査より

骨盤底ってどういう場所?

骨盤底は、骨盤のいちばん底にあって、子宮や下半身の臓器を支える骨盤底筋やじん帯・筋膜で構成されるプレートのような場所です。骨盤底は、坐骨結節の間にハンモックのように張っていて、意識しづらい場所ですが、坐骨結節を確認するには、椅子に座り、てのひらを上にしてお尻の下に置くと指が触れる硬い骨の出っ張りです。

肛門や腟を意識して“締める→緩める”を繰り返すことで、骨盤底は鍛えられます。尿もれを回避し、健やかな人生を送るためのキモとなる場所です。

骨盤底筋
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骨盤底が衰えると、腟から子宮が出てくることも!

女性にとって大事な骨盤底ですが、ここが衰えるとどうなるのでしょうか? 「骨盤の歪みの原因になりますし、下腹がポッコリ出るなどのボディラインの崩れにもつながります。

それだけでなく、腟の緩み、萎縮、頻尿、尿もれ、下腹部痛、性交痛、骨盤臓器脱(子宮脱)などを起こす危険が高まります。それによって、うつ病リスクが高まるとも言われているのです。更年期以降の女性の人生のQOL(生活の質)を著しく低下させます」と関口由紀先生。

骨盤底にある筋肉(骨盤底筋)は、骨盤の底にある恥骨、坐骨結節、尾骨についている筋肉で、骨盤内の臓器である膀胱や子宮、直腸を支える役割があります。もうひとつの役割は、排泄のコントロールです。骨盤底筋は、便意や尿意があると緩み、排泄します。ところが過剰な負荷がかかり、締める力が低下すると、尿もれや頻尿が起こります。

また、「骨盤臓器脱」という病気を知っていますか? 骨盤臓器脱は、腟から骨盤内の臓器が出て来てしまうのです。膀胱が出てくると「膀胱瘤」、子宮が出てくると「子宮脱」、直腸が出てくると「直腸瘤」です。骨盤底の機能が低下し、緩むと、これらの臓器を支えられなくなり、腟から臓器が出てくる原因になってしまうのです。

骨盤底は鍛えなければ、確実に衰えます!

骨盤底の衰えは、出産によって、骨盤底筋や靭帯、筋膜が伸び、断裂することでも起こります。出産による衰えがケアされても、再び更年期に、女性ホルモンの低下や加齢による筋肉の減少やコラーゲンの減少が原因で起こります。

「骨盤底筋は、手足と同じように、鍛えれば筋力アップし、何もしなければ衰える骨格筋です。普段、意識して過ごさないと、手足の筋肉より衰えるのが早い場所です。

一方、緩めることができず、性交ができなくなる人もいます。肩こりと同様、筋肉が緊張していると血流が悪くなり、痛みを起こす発痛物質が滞るため、痛みが出てくる場合もあります。加齢による筋肉の衰えのピークは、エストロゲンの分泌が減る閉経後です」と関口先生。

骨盤底筋を強化することで80%改善!

すでに頻尿、尿もれ、性交痛、腟萎縮で困っている人は、女性泌尿器科や婦人科で相談することは大切です。軽い尿もれや頻尿なら、薬を使わなくても、骨盤底筋トレーニングで80%改善するというエビデンス(医学的根拠)があります。骨盤底筋トレーニングは、頻尿、尿もれ、性交痛の予防にもなります。症状がなくても、早い段階からトレーニングを習慣化して予防しましょう。

「骨盤底筋トレーニングは、尿道と腟、肛門を意識して、「ゆっくりキュッーと締める」→「ゆっくりスーッと緩める」をくり返します。

骨盤底筋全体を腟の中に引き込むことをイメージしながら行うといいでしょう。立った姿勢だけでなく、座ったり、横になった姿勢でも行ってみましょう。普段から骨盤を立てた正しい姿勢をとって、内転筋、殿筋、腹横筋と総合的に鍛えることが大事です」と関口先生。

骨盤底筋
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GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)を知っていますか?

閉経後に、外陰・腟のかゆみ、尿もれ、性交痛があれば、GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)かもしれません。「GSMは、閉経後、女性ホルモンの低下にともなう外陰・腟の萎縮と脆弱化で、泌尿生殖器症状が顕著に起こることです。以前は、「老人性腟炎」と呼ばれ、年だから仕方ないと放置されていました。しかし、2014年に、国際女性性機能学会と米国更年期学会が新たな疾患概念を提唱しました。それがGSMです。

GSMは、ゆっくり確実に進行して、閉経後の半数以上の女性の生活の質が低下していることが明らかになりました」(関口先生)。GSMの症状は、外陰・腟の乾燥感・灼熱感・かゆみ、尿失禁、頻尿・尿意切迫感、排尿困難感、膀胱炎の繰り返し、性交時の潤い不足、性交痛、性的欲求低下、オーガズム低下など、多岐にわたります。もっとも多い3大徴候は、「外陰・腟のかゆみ、尿もれ、性交痛」と言われています。

GSMの治療方法は?

GSMは、どのようなケアや治療ができるのでしょうか?

「GSM治療の第一選択肢は、女性ホルモン補充療法(HRT)です。ホルモン補充療法は、保険適応薬で、飲み薬、貼り薬、塗り薬と種類も豊富です。

しかし、全身へのHRTは、

①乳がんや子宮がん、血栓症などの既往があると処方できない 
②充分に症状が改善しない人が多い 
③60歳以上の女性は血栓などの動脈硬化のリスクがあり処方しにくい

という問題があります。そのため、これらの人には、局所治療でエストロゲンの腟剤を使うことも少なくありません」と関口先生。

HRT
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腟ケアで粘膜、皮膚を保湿

「また、私のクリニックでは、エストロゲンを配合した美容オイル(LUNAエイジングケアセット)を腟、外陰部の皮膚や粘膜に使う治療も行っています。腟や外陰部の乾燥をケアするために、保湿することも大事。会陰マッサージに使う市販のオイルやクリームを使って、入浴後、尿道口・腟口から大陰唇まで、保湿します。65歳以上や皮膚が弱っている人は、1日おきに行います」(関口先生)。

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LUNAエイジングケアセット

さらに、ジムやクリニック(おもに婦人科や女性泌尿器科)などで行われている骨盤底トレーニング、ピラティスなどの運動療法を専門家に教わることも大切です。

「これらの治療でも改善しない人には、フラクショナル炭酸ガス(CO2)レーザーの腟・外陰照射という治療もあります。GSMの症状を改善して、デリケートゾーンの若返りをめざす治療です」(関口先生)。

骨盤底の健康は、尿もれや骨盤臓器脱を回避して、健やかな人生を送るための基本になりますね。

監修/関口由紀 先生
女性医療クリニックLUNAグループ理事長。山形大学医学部卒業。横浜市立大学医学部泌尿器科で女性泌尿器外来担当。2005年より現クリニック・LUNAを開設。横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学修了、客員教授。日本泌尿器科学会専門医・指導医。

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増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



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