アルツハイマー型認知症の原因「脳のゴミ」を溜めない&減らすために、今からできる食事と生活習慣は


認知症は「脳のゴミ=βアミロイド」の蓄積が原因となる病気で、認知症の症状が出る15〜20年前から蓄積が進みます。プレクリニカル認知症とMCI(軽度認知障害)の違いも含め、内科医がわかりやすく解説!予防として今日からできることとは?
2040年6.7人に1人が認知症に。認知症の半数を超えるアルツハイマー型認知症とは
厚生労働省の推計によれば、2040年には高齢者の約15%が認知症を発症する可能性があり、6.7人に1人の割合に達すると言われています。その中で、認知症全体の半数以上を占めるとされるのが「アルツハイマー型認知症」です。
アルツハイマー型認知症では、記憶力の低下、判断力の低下、日常生活動作の障害などが段階的に進行します。初期には「物忘れ」が目立つ程度ですが、放置すると徐々に症状が進んでいくため、早めの予防・対策がとても重要になります。
アルツハイマー型認知症の原因は「脳のゴミ=βアミロイド」だった
アルツハイマー型認知症の発症に深く関与しているとされるのが、脳内に蓄積するβアミロイドという異常なたんぱく質です。βアミロイドは、神経細胞にとって不要な老廃物のようなもので、「脳のゴミ」とも呼ばれます。これが過剰に溜まることで次のような現象が起こり記憶力や認知機能の低下を招くと考えられています。
・神経細胞間の情報伝達が阻害される
・脳内で炎症や酸化ストレスが高まる
βアミロイドは発症15~20年前から蓄積が始まり認知症は段階的に発症するのです。
プレクリニカル認知症とMCI(軽度認知障害)の違いとは
認知症は突然起こるわけではなく、数十年かけてゆっくり進行します。特に、アルツハイマー型認知症の原因物質であるβアミロイドは、症状が出現する15〜20年前から溜まり始めることが明らかになっています。
*Sperling RA, et al. Toward defining the preclinical stages of Alzheimer's disease: recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer’s Association workgroups. Alzheimers Dement. 2011;7(3):280-292.
プレクリニカル認知症とは
目に見える症状はないけれど、脳内で認知症の“芽”が静かに進んでいる状態を、「プレクリニカル認知症」と呼びます。本人も周囲もほとんど気づかないほど症状は軽く、日常生活にも支障はありません。ですが、脳の画像検査やバイオマーカー(脳脊髄液など)では、すでにβアミロイドの蓄積や、脳萎縮の早期変化が確認されることがあります。
MCI(軽度認知障害)とは
「最近少し物忘れが増えた」と、本人や周囲が気づくくらいの認知機能の低下がある状態を指します。ただし、まだ日常生活は自分で問題なく送れているという点が特徴です。

なぜ「プレクリニカル」の段階から対策が必要なのか
MCIの段階で適切な対策を行えば、認知症への進行を防いだり遅らせることができると言われています。しかし、より早い段階であるプレクリニカル認知症の頃から、食生活や生活習慣を見直すことが、βアミロイドの溜まりすぎを抑え、発症リスクを軽減するカギとなります。
βアミロイドの蓄積を防ぐ栄養素と食生活
1. ビタミンB群でホモシステイン値を下げる
ホモステインとは、必須アミノ酸であるメチオニンが代謝されて生ずるアミノ酸で、血栓症や動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞のリスクとなる物質です。
最近、このホモシステイン値の高さが、認知症リスクを上げる要因のひとつとして注目されています。
*Seshadri S, et al. Plasma homocysteine as a risk factor for dementia and Alzheimer's disease. N Engl J Med. 2002;346:476-483.
血中ホモシステインが高まると、血管や神経細胞へのダメージ、脳内の老廃物処理の低下が起こりやすくなる可能性があります。ビタミンB6, B12, 葉酸はホモシステインの代謝を促進し、血管や脳の健康をサポートします。
栄養素を含む食品:
ビタミンB6:鶏肉、バナナ、ジャガイモ
ビタミンB12:赤身肉、魚介類、乳製品、葉酸:緑の葉野菜、豆類、柑橘類
摂取のポイント:
忙しい方は、バランスの良い食事が難しい場合にサプリメントを活用するのも一手です。ただし、市販のサプリメントは、添加物と有効成分の問題もあるため、医師や栄養の専門家に相談しながら、適切なメディカルサプリメントを選択するように心がけましょう。
2. オメガ3脂肪酸で炎症・酸化ストレスを抑える
βアミロイドの蓄積は、脳や血管内の炎症や酸化ストレスと深く関連しています。オメガ3脂肪酸(DHA、EPA)は抗炎症作用があり、脳の神経細胞膜の維持・保護に重要です。
栄養素を含む食品:
サバ、イワシ、サーモンなど青魚、亜麻仁油、チアシード
摂取のポイント:
缶詰の魚を利用すると手軽に摂取できます。サラダや汁物、パスタなどに加えるだけでもオメガ3を補給できるので、毎日の食事に積極的に活用してみましょう。
3. ビタミンDで脳の免疫・神経伝達をサポート
ビタミンDは、骨の健康のみならず、免疫調整や神経細胞の保護に関与すると報告されています。ビタミンDの不足が認知症リスクの上昇と関連する研究結果も増えているため、不足しがちな方は意識的に摂ることがお勧めです。
*Littlejohns TJ, et al. Vitamin D and the risk of dementia and Alzheimer’s disease. Neurology. 2014;83(10):920-928.
栄養素を含む食品:
キノコ類(干し椎茸、キクラゲ)、卵黄、鮭など
摂取のポイント:
脂質を含む動物性食品から摂取すると吸収されやすいのですが、きのこ類でも炒め物や揚げ物にして油とともに摂取することで吸収率を上げることができます。しかし、食事だけで摂取することは難しいので、サプリメントで補われるのも良いでしょう。
その際、天然由来型を選ぶことがポイントです。また、骨粗しょう症のお薬として使われるビタミンD製剤は、高カルシウム血症や腎機能を痛める副作用もありますので、基礎疾患のある方には、お勧めできません。
4. 鉄と亜鉛で脳細胞を元気に
鉄は赤血球のヘモグロビンを作り、脳への酸素供給をサポートします。鉄不足は集中力・記憶力の低下を招きやすいことが知られています。
*Beard JL. Iron deficiency alters brain development and functioning. J Nutr. 2003;133(5 Suppl 1):1468S-1472S.
栄養素を含む食品:
赤身肉、レバー、ほうれん草
亜鉛はホルモンバランスや神経伝達物質の合成を助けます。不足すると認知機能の低下が進みやすいといわれています。
栄養素を含む食品:
カキ、ナッツ、全粒穀物
摂取のポイント:
コーヒーやお茶に含まれるタンニンは鉄や亜鉛の吸収を阻害する場合があります。これらを食後すぐに大量摂取するのは控え、少し時間を空けて飲むようにしましょう。
生活習慣でも「溜めない・減らす」工夫を
脳の健康を保つためには、毎日の習慣が大きなカギを握っています。特に注目されているのが「睡眠」「運動」「ストレス管理」の3つです。
まず、質の良い睡眠は、脳の老廃物を排出する大切な時間とされており、アルツハイマー病の原因物質とされるβアミロイドの除去にも関係していると考えられています。寝る前のスマホやパソコンを控え、湯船でリラックスしてから眠ることがポイントです。
次に、ウォーキングなどの軽い有酸素運動は血流改善やストレス解消に効果的です。ヨガや瞑想は自律神経を整え、ストレスや炎症の抑制にもつながります。
さらに、慢性的なストレスは脳の炎症を引き起こし、認知症リスクを高める要因のひとつ。好きな音楽を聴いたり、深呼吸をするなど、自分に合った方法で気持ちをほぐす時間を意識して取り入れましょう。
早期予防が脳の健康を守る
認知症の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症では、脳のゴミ=βアミロイドの過剰蓄積が鍵となります。症状が出る15〜20年前から蓄積が始まっている可能性があり、見た目には健常でも脳内ではプレクリニカル認知症の段階が進行していることがあります。
だからこそ、早期からの予防が肝要なのです。ビタミンB群、オメガ3脂肪酸、ビタミンD、鉄や亜鉛などの摂取を意識しながら、質の良い睡眠とストレスケア、適度な運動することがβアミロイドの蓄積を抑え、認知症リスクの低減につながります。ぜひ、日々の食事と生活習慣を見直すきっかけにしてみてください。
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