痔を自分で治すコツを専門医が伝授!市販薬や漢方薬の選び方も教えます。

痔を自分で治すコツを専門医が伝授!市販薬や漢方薬の選び方も教えます。
増田美加
増田美加
2025-05-10

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。恥ずかしくて、病院へ行くのはハードルが高い、肛門トラブル。痔は、病院へ行かないと治らないのでしょうか? 排便習慣の改善の仕方、市販薬を使う際の注意と選び方で、自分で治すコツがあります。外科専門医である今津嘉宏先生に伺いました。

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痔は自分で治せる?

痔などの肛門トラブルは、一生つき合っていく病気になってしまうのかと不安になります。痔を治すには、病院で手術などの治療が必要なのかも気になるところです。

「痔やそのほか多くの肛門のトラブルは、ほとんどの場合、生活習慣を改善したり、便通をコントロールすることで治すことができます。軽いうちなら、薬局やドラッグストアの市販薬を使ってもOKです。ただし、痛みが強く、症状が我慢できないときは、医療機関を受診してください」と今津嘉宏先生。

痔の種類には、肛門の内側にできる「内痔核(ないじかく)」、肛門の出口にできる「外痔核(がいじかく)」があります。また、切れ痔は、肛門の粘膜が切れて、出血や痛みがあるもので「裂肛(れっこう)」と言います。「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」は、肛門から少し離れた部分に固いしこりができます。急に腫れて痛みをともなったり、熱を持ったりします。赤く腫れた皮膚が破れて膿が出ると「痔瘻(じろう)」という状態になります。皮膚から血の膿が出て、痛みをともないます。痔の種類別に対処法を紹介します。

内痔核の治し方

「痔の中でも、女性に多いのは、肛門の中にできる『内痔核』です。内痔核は、血流障害がおもな原因です。長時間座っていたり、お尻を冷やすことが悪化の要因になります。
内痔核の早期から中期ならば、市販薬の肛門周囲の血流を良くする内服薬や、便通をコントロールする内服薬を使うことで治ることが多いです。数日から1週間程度で改善します。外用薬は、軽い痛みや出血がある場合に使います。こちらも数日から1週間程度使うことで改善します。
もし、内痔核が腫れてしまって、排便すると内痔核が脱出する、あるいはいつも脱出してしまっている場合は、内服薬ではなく外用薬を使います。医療機関を受診する目安は、市販の外用薬を1週間使っても、良くならない場合です」(今津先生)

外痔核の治し方

「肛門の外にできる“外痔核”と、いわゆる切れ痔の『裂肛』は、排便習慣がおもな原因。下痢や便秘で、肛門に負担をかけることが悪化する要因です。
外痔核と裂肛は、痛みや出血をともなう場合は、外用薬を使います。数日で改善します。痛みが強い場合は、鎮痛剤などの内服薬を使ってください。さらに痛みが強く我慢できない場合は、病院を受診してください。緊急処置として外来で外科治療を行います。局所麻酔で切開するだけですので、30分程度で終了します」(今津先生)

痔瘻の治し方

「『痔瘻』は、解剖学的な体の構造が原因のことがほとんどです。『肛門周囲膿瘍』も含めて、慢性化しやすい病気です。早い時期に医療機関を受診することをお勧めします。病院では、痔瘻、肛門周囲膿瘍で痛みがあり、発熱をともなう場合は、解熱鎮痛剤と抗生物質の内服薬を使います。数日から1週間程度で症状が軽減した後、検査を行って治療方針を決めていきます。恥ずかしがらず、早い時期に医療機関を受診してください。(今津先生)

痔に使う市販薬の選び方のコツは?

市販薬を使うときの選び方のコツは、ありますか?

「痔の場合は、市販の内服薬なら漢方薬の『乙字湯(おつじとう)』が一般的に使いやすいと思います。肛門の血流を改善する成分と便通をコントロールする成分が主体になっています。
市販の外用薬は、肛門の皮膚や粘膜を保護する成分と炎症をコントロールする成分が主体です。外用薬は、ステロイドが含まれている場合がありますので確認して使いましょう。いずれにしても外用薬は、1週間程度を目安に使います。それで治らないときは病院を受診してください。
市販の内服薬(西洋薬)は、下剤が含まれている場合があります。便通の状態に注意して使います。外用薬の場合は、肛門の皮膚や粘膜にアレルギーを起こす場合がありますので、使っていて違和感があれば中止しましょう。
いずれの市販薬も、個人の責任で購入することになりますから、心配な場合は、薬局の薬剤師さんに相談するか、病院を受診しましょう」(今津先生)

漢方薬でも痔を治せます

「乙字湯」などの漢方薬で痔が治せるということですが、ほかにも使える漢方薬はありますか?

「初期から中等度の内痔核や外痔核は、漢方薬で症状を軽減できます。
漢方医学では、内痔核や外痔核を血流が滞る『瘀血(おけつ)』の症状のひとつと考えます。瘀血を治す漢方薬で治療することが多いです。よく使われる漢方薬は、『乙字湯』『桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)』などです。
裂肛も、漢方薬で症状を軽減できます。裂肛の多くは、便通異常(便秘や下痢など)によって起こるため、便通を調節する漢方薬を使います。よく使われる漢方薬は、『桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)』『桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)』などです。
肛門周囲膿瘍と痔瘻は、外科の専門医が治療する病気です。外科的な治療を行なうとともに漢方薬も併用できます。特に、乳幼児に起こる肛門周囲膿瘍と痔瘻には、『十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)』『黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)』などが使われます」(今津先生)

漢方薬は、病院で処方してもらうと健康保険が使えます。どの漢方薬が自分の症状に適しているかどうかを正しく知るためにも、病院を受診することも大切です。

便秘や下痢を改善して痔を予防する!

痔は、便秘や下痢が原因のひとつになります。便秘や下痢などの排便習慣を改善することが痔の予防にもつながります。

便秘や下痢を改善
写真AC

「排便習慣と肛門の病気は、密接な関係があります。女性は便意をもよおしても、人前でなかなかトイレへ行けず、我慢してしまうことがあると思います。仕事の日と休日では、排便のタイミングが異なることもあるでしょう。ちょっとした日常のトイレ習慣が肛門に負担をかけることがあります。トイレでは、便器に座って長い時間いきんだり、トイレットペーパーでゴシゴシとこすったりするのはNGです。これらは痔の要因になります。ほかにも、痔に関係する注意したい日常生活のポイントをまとめました」(今津先生)

注意したい排便習慣のポイント

①排便は1〜3日に1回、朝出ていることが大事。食べたものが大腸まで到達する時間は12〜48時間です。排便が3日以上滞っている場合は便秘です。

②便の硬さは、バナナのような硬さが◎ 下痢や便秘は改善しましょう。

③トイレに座っている時間が長いのはNG。長く座っていると肛門がうっ血し、便が出にくくなりがちです。強く力を入れて排便すると、肛門に負担がかかり、出血の原因になります。

④お尻を拭くとき、力を入れ過ぎない。きれい好きの人はゴシゴシと擦り過ぎて、肛門を傷つけてしまいがち。ウォシュレットで洗い過ぎるのもよくありません。蒸れてしまい、肛門周囲のかゆみの原因に。蒸れてかゆみが出たときは、特に洗い過ぎに注意します。粘膜にはかゆみが出ないので、かゆいのは皮膚です。清潔にしておけば治りますが、かゆいときは皮膚に市販のワセリンを塗ってもいいでしょう。

生活習慣で痔を予防するには?

痔にならないようにする予防法は、排便習慣を整えてお通じをよくすること、食事や運動、生活習慣で気をつけることです。
腸内環境や排便は、ストレスによっても影響を受けます。心穏やかな生活を送ることも大切。

痔を予防
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「お尻を大切に感じて、いじめないようにしましょう。特に長時間、座ったままにしていると、肛門周囲の血流が悪くなります。寒いところに長時間いるのも、お腹も冷えるし、肛門にも良くありません。また、刺激の強い食事は、消化管粘膜に炎症を起こしやすく、肛門にも刺激が強すぎますので注意しましょう」(今津先生)

痔を予防するポイント

①冷えを改善しましょう。体を温める食材(生姜、ネギ、ニンニクなど)を取り入れましょう。唐辛子や胡椒などの刺激物は控えめに。早歩きをしたり、運動をすることで、血行を改善することも大切です。お腹周りを冷やさないように、腹巻きをするなど、衣服で工夫することも大事です。

②便通を整えましょう。便通は、消化管の働きによって調節されていて、消化管は副交感神経が司っています。精神的ストレスが加わると、副交感神経の働きが抑えられてしまうため便秘になります。睡眠不足や疲労などでも、副交感神経がうまく働かなくなり、便秘になります。逆に、交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまうことで、下痢になる人もいます。便通を整えるためには、精神的ストレスにも注意が必要です。そのために良い睡眠を心がけることも大事です。

睡眠
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監修医師/今津嘉宏(いまづよしひろ)先生

芝大門いまづクリニック 院長

藤田医科大学医学部名誉教授。藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学、東京済生会中央病院外科副医長、慶應義塾大学漢方医学センター助教ほかを経て、2013年より現職。日本外科学会認定医・専門医、日本消化器病学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学の双方に精通し、科学的見地に立った漢方診療を行う。主な著書に『健康保険が使える 漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)ほか多数。

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