更年期の「歯ぐきの腫れは自分で治せる!」歯周病専門医の第一人者が教えます!


“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 多くの全身疾患と歯周病の関連が明らかになってきています。呼吸器系疾患、心疾患、アルツハイマー、肥満、糖尿病や妊娠中の病気などは、歯周病と無関係ではありません。人生100年時代、口腔ケアは優先すべき健康課題です。歯周病治療とメインテナンスの第一人者である歯周病専門医に、更年期の歯周病予防について聞きました。
閉経後の歯周病の進行は骨粗鬆症との関連が!
日本人の35~59歳の歯のある人の約7割が歯周病に罹患していると言われています*1。歯肉が腫れたり、歯周ポケットが出来ている人の割合は、年齢を重ねるほど増えていきます。80代で歯が20本残っている人の割合は、年々増えているのにもかかわらず、歯周病は減っていないのです。
「歯周病は、口腔内の常在菌である歯周病原菌による感染症ですが、感染=発症ではありません。感染した人の歯周組織とプラーク(歯垢)に潜む歯周病原菌とのバランスによって発症します。健康なときには、両者が共生関係を保っていますが、その均衡が崩れたときに発症するのです」と牧野明先生。
歯周病原菌との均衡が崩れて発症する要因は、なんなのでしょうか?
「要因のひとつに特に女性の場合、骨粗鬆症があります。骨粗鬆症は、全身の骨強度が低下し、骨が脆くなって骨折しやすくなる病気です。歯肉の炎症とは直接関係しませんが、歯周病と骨粗鬆症は深い関わりがあります」(牧野先生)
骨粗鬆症は、閉経後、骨代謝に関わるエストロゲンの分泌が低下することによって起こりやすい病気です。
「閉経後、骨粗鬆症の人が歯周病原菌に感染している場合、閉経前にはエストロゲンによって抑えられていましたが、閉経後は骨吸収(骨を壊す)に関係する炎症性サイトカインが増えてしまいます。すると、歯を支える骨の歯槽骨の吸収が一層、促進されることになるのです」(牧野先生)
なかでも、歯周病を起こしやすい人の特徴はありますか?
「遺伝的要素や口腔内細菌の種類もありますが、歯周病原菌が増殖し、歯周病を発症させるような生活習慣の問題も大きいです。歯周組織が歯周病原菌と闘うための抵抗力が低下する要因は、老化、喫煙、生活習慣(間食や嗜好)、不十分な歯磨きです。特に、喫煙は歯周病の最大のリスク因子です。糖尿病も歯周病の悪化に影響しています」(牧野先生)
*1 「令和4年歯科疾患実態調査」厚生労働省

こんな症状は歯周病かも?
歯周病の可能性がある歯ぐきの腫れや出血ほかの症状は、チェックリストで確認できます。
「歯周病は、細菌の感染によって引き起こされる炎症性の疾患で歯ぐきや歯を支える骨などが溶けてしまう病気です。歯と歯ぐきの境目に多くの細菌がとどまり、歯肉が炎症を起こして赤くなったり、腫れたり、出血します。進行すると膿が出たり、歯がグラグラします。最後には歯を抜かなければならなくなります。以下の症状は、歯周病の可能性があります」(牧野先生)
・歯肉がときどき赤く腫れる
・歯肉がむずむずする
・歯が浮いた感じがする
・冷たいものがしみる
・歯を磨くと歯肉から出血する
・下の前歯の裏側に歯石がついている
・朝起きたときに口の中がネバネバする
・歯肉を押すと血や膿が出る
・口臭を指摘された、自分で感じる
・サ行の音が発音しにくい
・歯と歯の間に食べ物がはさまりやすい
・歯肉が下がり、歯が長くなった気がする
・以前とは歯並びが変わった気がする
チェックが1~3個の場合…歯周病の可能性があるため、軽度のうちに治療を。
チェックが4~5個以上の場合…中等度以上に歯周病が進行している可能性が。早期に治療を。
参考資料/日本臨床歯周病学会
セルフケアで最も大事なことは?
軽い段階であれば、セルフケアで治りますか?
「歯ぐきに腫れや出血があった場合、ごく初期であればセルフケアで治ることもあります。ただし、炎症の進行やその日の健康状態により、必ず出血するとは限りません。むしろ治っていないのに潜伏して、重篤化していく可能性もあります。歯周病原菌は、血液に含まれている鉄分が必須栄養素で大好物なのです。出血があると爆発的に増殖します。歯磨きのとき一度でも出血したら、早めに歯科受診することをおすすめします」(牧野先生)
セルフケアで行うべき、最も大事なことは、なんでしょうか?
「毎食後のブラッシングが重要です。歯磨きは毎食後1日3回必ず行いましょう。プラークは水に溶けないため、洗口液だけでは十分ケアしたことにはなりません。できれば、歯ブラシ+フロスの使い方を歯科で定期的に確認して歯磨きを行なうことが大事です。歯ブラシやフロスなどの補助器具、歯磨剤などの選択は、一人ひとりの口腔内の状態によって異なります。歯科で自分に合ったものをアドバイスしてもらい、正しい磨き方ができているかどうかもチェックしてもらうといいでしょう。セルフジャッジだけでは危険です。歯ぐきが下がって、歯の根が露出してしまっている歯肉退縮の原因は、不適切なブラッシングが原因のこともあります。正しく磨けば、ある程度改善します。柔らかく毛先が細くなっている歯ブラシで、毛先を歯面に沿わせて小さく往復させます。1本の歯を3面に分けて磨きます」(牧野先生)
歯科で行うべきことは?

「一般的な口腔ケア、クリーニング、ブラッシングなどは歯科衛生士が在籍する歯科なら可能ですが、症状がなかなか好転しないときや重症の場合は、歯周病専門医にセカンドオピニオンを仰ぎましょう。
また、口腔内になんらかの症状が出てからではなく、なんともないように見えるときから、歯科の定期検診が重要です。歯周病ほかの発症リスクが高くなっていないかなど、口腔内の健康状態の確認のために、年に2~4回を基準にして定期的なチェックをしてください」(牧野先生)
歯科で行う代表的な検査は、
①問診
②プラーク付着の有無を視診、口腔内写真等で確認
③プロービング(歯周ポケットの検査)、プロービング時の出血
④歯の動揺度の検査
⑤X線検査
⑥細菌検査
です。
そのうえで、歯周病予防のためには、一人ひとりの状態に合ったプロフェッショナルケアの継続が必要。歯科ではスケーリング(歯石、プラーク除去)、歯面研磨、歯周ポケット洗浄などを行います。
「歯周病予防や口腔内の健康のためには、プロのケアとメインテナンスの継続が必須です。歯科医師の中でも歯周病専門の歯科医師は、全国で約1200人です。歯周病と診断され、他医院から当院へ紹介されてくる患者さんのうち約半数は、歯周病以外の疾患のこともあります。歯科にかかっても歯周病が良くなっていかないと感じたら、歯周病専門医のもとで治療することが大切です」(牧野先生)
【歯周病治療をするなら…】
日本歯周病学会認定医・専門医 https://www.perio.jp/roster/
日本臨床歯周病学会認定医 https://www.jacp.net/general/search/
話を伺ったのは…牧野明 先生
まきの歯科医院 理事長・院長
東京歯科大学卒業。現医院を開設。日本歯周病学会歯周病専門医、日本歯周病学会指導医、評議員、日本臨床歯周病学会指導医。日本臨床歯周病学会歯周インプラント指導医。歯周病の質の高い治療と継続的なメインテナンスに力を注いでいる。著書多数。
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