更年期に生理の出血量が増えていませんか? 閉経前の過多月経(大量出血)のリスクを産婦人科医が警告

 更年期に生理の出血量が増えていませんか? 閉経前の過多月経(大量出血)のリスクを産婦人科医が警告
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増田美加
増田美加
2025-01-19

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 更年期になると、生理周期がバラつくことが増えてくると思います。それとともに、生理の出血量が多くなっていませんか? 閉経前の過多月経には、リスクがあります。更年期障害の女性を多く診察している産婦人科医を取材しました。

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更年期症状と思っていた疲れ、動悸、息切れ…が!

更年期の症状のひとつとして、生理周期のバラつきがあります。生理の間隔が短く頻繁になったり、間隔が大きく開く人もいます。閉経前に、生理の出血量が増えて悩んでいる人もいます。生理の出血量が増えることを過多月経と言い、過多月経には貧血の可能性があります。貧血を侮ってはいけません。貧血による疲れ、息切れ、動悸の症状を更年期症状と間違えて、貧血とは思わずに、貧血対策ができていないままになっている人も多いのです。更年期障害の女性を多数診ている産婦人科専門医の高宮城直子先生。

「更年期になると、卵巣の機能が低下します。卵巣機能の低下は、閉経(約50.5 歳)の約10年前から始まっています。そのため更年期世代はホルモンバランスのゆらぎによって、月経不順になっていきます。正常な生理は、通常25~38日周期で3~7日程度続きます。更年期世代になると、生理周期が短くなり、生理が頻繁になったり、出血量が増えたりする人がいて、そうなると貧血(鉄欠乏性貧血)のリスクが高まります。特に子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜増殖症のある人は、出血量が多くなりがちです」と高宮城先生。

最近では、生理用ナプキンの性能がよく、吸収力がアップして、過多月経に気づかない人も多いのです。過多月経の可能性は、次の「過多月経チェック」で確認してみてください。

もしかしたら、更年期の過多月経かも?

 「閉経前の過多月経に悩む女性は、5~10%程度とされています*1。私の実感としても10人のうち1~2人が閉経前に過多月経の方がいらっしゃると思います。月経周期が24日以下の“頻発月経”になっていたり、下記のような症状に思い当たるときは、貧血の可能性があります」と高宮城先生。

当てはまる場合は、「ナプキンから漏れなければ大丈夫」と考えるのではなく、婦人科の受診をお勧めします。

【過多月経チェックリスト】

・生理の出血に親指の頭大以上(2~3センチ)のゼリー状の塊が混じっている

・昼でも夜用(大きめ)ナプキンが1~2時間で一杯になる

・1回の生理(5~7日間)でおよそ140㎖(乳酸菌飲料約2本分)以上出血する 

参考資料/一般社団法人日本女性心身医学会ホームページより

貧血を更年期症状と間違える人も!

 
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「過多月経の人が注意してほしいのは貧血です。貧血は、血液中の赤血球が正常よりも少ない状態です。血液検査では、血中ヘモグロビン(Hb)、血色素量の数値で見ます」(高宮城先生) 

赤血球は、全身に酸素を運ぶ役割をしていて、ヘモグロビン(赤い色素)を含んでいます。このヘモグロビンの材料になっているのが鉄です。つまり、鉄が足りなくなると血中ヘモグロビンが低下し、血中に酸素が行き届きません。すると、疲れ、息切れ、動悸、心拍数増加、頻脈などの症状が現れるのです。

「貧血の症状は、一見すると更年期症状や自律神経失調症によく似ています。貧血と気づかないまま、更年期だから…と思い込んでいる人も少なくないのです」(高宮城先生)

血中ヘモグロビン濃度は、女性は12~16g/dl(男性では14~18 g/dl)が基準値です。これより低いと、貧血が疑われます。 

「また、血中ヘモグロビン値が正常でも、血清フェリチン(貯蔵鉄)値が下がっていたら隠れ貧血(初期の貧血)の可能性がありますので注意してください」(高宮城先生)

過多月経の原因となる病気を治療するには

閉経前の過多月経の心配があって、婦人科を受診すると、どんな相談ができますか?

「まず、過多月経の原因となっている子宮筋腫や子宮腺筋症などの診断を行なうことが大切です。過多月経には、子宮体がんが原因の可能性もありますので、婦人科でしっかりチェックしましょう。過多月経の対策として、「ミレーナ」という黄体ホルモンを子宮内膜に入れて局所的に作用するIUS(黄体ホルモン放出型子宮内システム)があります。過多月経、月経困難症の治療薬として保険適用されています。これによって、更年期症状だと思って、ホルモン補充療法(HRT)で治療しても改善しなかった疲れやすさ、動悸、息切れほかの症状が改善する可能性があります」(高宮城先生)

過多月経の治療にミレーナも有効です

過多月経の治療のひとつとして、有効とされているのが黄体ホルモン(プロゲステロン製剤)のミレーナ(黄体ホルモン放出型子宮内システム)です。ミレーナは、約3㎝のT字型で柔らかいプラスチック製です。装着前はI字型で、細長い専用の器具で挿入すると、子宮内でT字型に開く仕組みになっています。装着は簡単で外来で数分で終了します。ミレーナ表面に黄体ホルモン剤がコーティングされていて、子宮内にジワジワと吸収されます。ミレーナの費用は、過多月経や月経困難症の治療に対して、保険適用で1万円程度。1回装着すると最長5年間効果が続き、自己管理は不要です。婦人科で確認し、閉経したら取り外します。子宮内膜が厚くなるのを抑えて、生理の出血量が減り、月経痛も軽減します。また、受精卵の着床を防げる避妊効果もあります。ほかにも、子宮筋腫、子宮腺筋症の過多月経の方に処方するのは、ディナゲスト(黄体ホルモン剤)、リュープリン(GnRHアゴニスト)、レルミナ(GnRHアンタゴニスト)など、その人の状態に合わせた治療薬があります。 

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貧血は放っておかない!

過多月経の治療だけでなく、併せて血中のヘモグロビン値が低い人は、鉄剤で貧血の治療をします。

「貧血改善のためには、鉄剤やサプリメントが有効です。鉄剤で気持ちが悪くなる人は、注射剤もありますが、新しい鉄剤リオナ(クエン酸第二鉄)では気持ち悪さを訴える人がかなり減りました。また、血中ヘモグロビンが正常値でも、血清フェリチン(貯蔵鉄)値が低い(隠れ貧血)人もぜひ治療しましょう。フェリチン不足は、うつ症状などとも関係します」(高宮城先生)

貧血は、放っておいてはいけません。適切に治療しないと心臓への負担が大きくなり、また肌、髪、爪、内臓の若々しさにも関係します。

「ヘモグロビンが入っている赤血球の寿命は、約120日です。毎日、約1%ずつ入れ替わります。ですから、鉄分補給は、コツコツ続けることが大切なのです」(高宮城先生)

鉄分には2種類あり、肉、魚などに含まれるヘム鉄の吸収率は25%と高いです。野菜、豆、穀物、海藻などに含まれる非ヘム鉄の吸収率は3~5%ほど。両方バランスよく摂ることが大事です。ヘモグロビンは、鉄だけでなく、タンパク質とも結合してできていますので、タンパク質を十分摂ることも重要です。米飯では必須アミノ酸(タンパク質)が揃いますが、小麦では必須アミノ酸が足りません。 

「パン、麺好きの女性は、鉄分とともに、タンパク質も意識して摂りましょう」(高宮城先生)*2 

*1  In 5-10% of premenopausal women who develop IDA, the most common cause is menorrhagia. (BMJ. 2007 Feb 3; 334(7587): 259. doi: 10.1136/bmj.39003.602338.94)

*2 「働く女性の心とからだの応援サイト」厚生労働省

お話を伺ったのは…高宮城直子(たかみやぎ なおこ) 先生

Naoko女性クリニック 院長
佐賀医科大学卒業。同大学産婦人科学入局。琉球大学医学部産婦人科、米国コーネル大学医学部生殖医学センター留学ほかを経て現職。産婦人科専門医、日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医ほか。更年期オンライン診療サービス「ビバエル」で相談、診療、薬の処方も行う。

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