子宮頸がん検診が変わった! 専門医が語る「30代以降の女性は、子宮頸部のHPV検診がメリット大」

子宮頸がん検診が変わった! 専門医が語る「30代以降の女性は、子宮頸部のHPV検診がメリット大」
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増田美加
増田美加
2025-07-12

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 30代以上の子宮頸がん検診が新しい方法が導入されました。20歳以上の女性はこれまで受けてきたのと同様の細胞診ですが、30代以上の女性は、HPV(ヒトパピローマウイルス)検診という新しい方法に変更する方針が厚労省から出されています。HPV検診は、異常なしなら次は5年後でOK。コスパもタイパもいいHPV検診について、日本のHPV研究の第一人者、産婦人科医の今野良先生に伺いました。 *HPV=human papillomavirus(ヒトパピローマウイルス)

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メリットが高いHPV検診とは?

子宮頸がん検診は、20歳から2年に1回の細胞診でした。これが現在は、30歳以降の女性はHPV検診に切り替わっています。

「厚生労働省は2024年4月から、子宮頸がん検診を新たにHPV検診に変更する方針を決めました。日本で子宮頸がん検診が始まったのは1960年頃です。子宮の入り口である頸部から細胞を採取して異常の有無を調べる「細胞診」という方法で、今もこの細胞診が行われています。現在、新たに導入されている「HPV検診」は、WHO(世界保健機関)が推奨し、先進国はもちろん、開発途上国でも行われている検診方法です。これまで日本で国が推奨してきた細胞診に比べ、メリットが高い検診です」と今野良先生。

今まで行われていた細胞診よりHPV検診のメリットが高いとは、どのような点なのでしょうか。

「子宮頸がんの原因は、ほとんどがHPVによる感染です。日常の生活でHPVに感染し、自然に感染が消滅する場合も多いのですが、一部のハイリスク型ウイルスに長期間感染していると、5~10年以上を経て子宮頸がんになります。つまり、HPV検診は子宮頸がんの原因となるウイルス自体の存在を調べます。HPVに感染しても、何も症状はありませんが、一部が細胞の形の変化を起こします。細胞診は、HPV感染の後に細胞に形の変化が表れたものを、顕微鏡を使って異常がないかを人の目で判断する検査のため、結果にばらつきがあることが、これまでも問題となっていました」(今野先生)

これまでの細胞診は、がんの前段階である中等度異形成(CIN2)以上やがんを正しく診断できる感度(陽性であることを正しく判定できる割合)は約70%とされています。一方、HPV検診では、同じくがんの前段階である中等度異形成(CIN2)以上やがんを正しく診断する感度は95%以上です。つまり、HPV検診のほうが子宮頸がんを正しく見つけることができる精度が格段に高い検査です。

20歳代は細胞診でOK

どの年代もHPV検査に変更するのではなく、HPV検診が推奨されているのは、30歳以上。では、20歳~29歳の女性に細胞診が継続されているのはなぜなのでしょうか?

「20代の女性は、HPVに感染している可能性が高い年代です。20歳では50%の感染率というデータがあります。けれども、感染は一時的なもので、細胞診の異常も起こさず、前がん状態やがんにもならずに、ひとりでになおってしまうケースが多いのです。30歳以上の成人女性での一般的な感染率は7%です。もしも、20代女性全員にHPV検診を行なうと病気でもないのに、多くの人が陽性になってしまい、「要精密検査」に進む人が増えてしまいます。無駄な検査で不安を募らせます。細胞診で異常が起きていない20代女性にとってのデメリットが大きくなってしまうのです。また、20代では前がん状態になることはあっても、命にかかわるような進行がんに至ることは非常に稀です。ですから20~29歳は、今までと同じく2年に1回の細胞診が推奨されています」(今野先生)

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HPV検診が5年に1回でいい理由

30歳以上で推奨されているHPV検診は、5年に1回でいいとされている理由は、感染してから子宮頸がんになるまでには、5~10年以上の時間がかかるからです。ですから、一部のハイリスク型のHPVに感染していなければ、子宮頸がんのリスクはかなり低いことになります。

「そのため、HPV検診を行なって異常がなければ(感染していなければ)、5年に1回で精度が保てると科学的なデータの積み重ねで明らかになったのです」(今野先生)

5年に1回で済むのは、私たち女性にとってもありがたいこと。5年に1回なら、検診に行ける人が増えるかもしれません。

「日本女性のがん検診受診率の低さは、世界的に見ても大きな問題です。未受診の理由には、“受ける時間がないから”が長年トップです。5年に1回の検診でよいとなれば、検診受診率がアップすることが期待できます。HPV検診は、検診の精度が高いというエビデンスが明らかになっている検診です。HPV検診より感度が悪いことがわかっている細胞診を今後も推奨し続けることは、これからは難しいと言えるでしょう」(今野先生)。

欧米から遅れること十数年。日本でもやっと、HPV検診が導入されることになりました。私たち女性にとってのメリットも高く、日本もがんの早期発見を目指す国として、遅れを取り戻し、やっと世界レベルの仲間入りができることになります。

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【これまで(2024年3月まで)の子宮頸がん検診】
・20代以上(特に年齢制限なし) 2年に1回の細胞診

【2024年4月から導入されている子宮頸がん検診】
・20代     2年に1回の細胞診
・30歳~60歳  5年に1回のHPV単独検診
(60歳でHPV検査陰性の場合は、その後の検診の必要性は低い)

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参考資料/「子宮頸がん検診へのHPV検査単独法導入について」第40回がん検診のあり方に関する検討会 厚生労働省2023年12月

HPV検診はどういう検査なの?

「HPV検診は、子宮頸部から採取した検体(細胞)でHPVに感染しているかどうかを調べる検査です。子宮頸部から細胞を採取する方法は、これまでの細胞診と同じやりです」(今野先生)

【HPV検診のやり方】

① 内診台に乗ります。子宮頸部は、痛みをあまり感じない部位なので、通常はそれほど痛くないはずです。しかし緊張して体に力が入ると、クスコという器具を入れる際に、痛みを感じやすくなりますのでリラックスしましょう。診察室のカーテンの有無はどちらでも対応可能です。希望を医師に言ってください。無いほうが安心という方もいます。カーテンが無いと、超音波検査の画面を自分で見て、医師に説明してもらうなどの会話ができます。

② HPV検査では、まず子宮頸部周辺を観察するため、腟にクスコという器具を入れて腟の入り口(腟口)を広げます。

③ 腟口から専用のブラシを入れて、子宮頸部の周辺を柔らかいブラシでこすり、細胞を取ります。これで終了です。

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子宮頸部の細胞(検体)を取って、HPVに感染しているか、していないかを調べます。HPV陰性(HPVに感染していない)であれば、次の検診は5年後でいいのです。もし、HPV陽性(HPVに感染している)であったら、同じ細胞(検体)をすぐに検査施設内で細胞診に回すことができます。もう一度、受診して、細胞を取り直す必要はありません。細胞診の結果、異常があれば、コルポスコープや組織診などの精密検査(ここからは保険診療)を行います。細胞診の結果が異常なしの場合は、1年後に追跡HPV検査を行います。そこで陰性(HPV感染無し)なら、5年後の検診でOKとなります。つまり、HPV検査でリスクの高い人と低い人を見極め、リスクの高い人は細胞診や精密検査を行い、リスクの低い人は、5年間安心ということです。

自分の自治体がHPV検診を導入しているかチェックしてみて

「2024年から導入されているHPV検診は個人が選択するのではなく、自治体(市区町村)単位で決定されます。今後、多くの自治体がスムーズに導入するかは不透明な部分もあります。2024年度からは、今野と協調してきた埼玉県志木市、和光市、神奈川県横浜市などが、導入しています。2025年度は約10の自治体が加わり、2026年度からかなりの自治体が加わる準備をしています。これから続々とHPV検診の方向になることを期待しています。

ところが、HPV検診を行なう体制整備ができない自治体は、細胞診を続けるところもあるでしょう。しかし、HPV検診は、検診の間隔を5年に延長できるため、実施する自治体の経費や事務的負担も軽減され、実施すれば自治体にもメリットがあるはずです。私は、30歳以上の女性人口10万人の子宮頸がん検診について算定しました。自治体が医師会などに支払う費用は、従来の細胞診では現行で約7,000円/回です。これを2年に1回行いますので、10年で5回実施することになります。HPV検診の費用は8,000円/回で、10年間に2回実施することになります。

一方、細胞診では感度(陽性とわかる割合)が70%と低く、1回の検診での見逃しが30%で、それを10年間に5回繰り返します。HPV検診では感度が95%と高く、見逃し率は5%です。自治体が負担する細胞診とHPV検診の10年間の検診費用を比較すると、細胞診が約35億円であるのに対し、HPV検診は約16億円と、費用を半分以下に抑えることが可能です。さらに、10年間での見逃し件数においては、細胞診が3,000人であるのに対し、HPV検診ではわずか200人にとどまります」と今野先生。

私たち検診を受ける女性にとってもメリットが高く、実施する自治体にとって経済的にも、人的にもメリットがあるなら、行わない手はありません。自分の住む自治体が子宮頸がん検診は、HPV検診を導入しているかどうかで、女性の健康をどれだけ重視しているかの指標になりそうです。

お話を伺ったのは…今野良(こんのりょう)先生

自治医科大学医学部名誉教授 
自治医科大学医学部卒業。東北大学医学部産婦人科講師、自治医科大学医学部附属さいたま医療センター産婦人科教授を経て現職。1988 年から子宮頸がんとHPV(ヒトパピローマウイルス)の研究を始め、「子宮頸部扁平上皮癌および異形成の進展とヒトパピローマウイルス感染」のテーマで医学博士(東北大学)。現在、子宮頸がんとHPV(検診、ワクチン、治療)に関する研究、啓発活動、さらに国内外の共同研究に取り組む。NPO 子宮頸がんを考える市民の会 理事長。著書に『子宮頸がんはみんなで予防できる』ほか。

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