もしも乳がんが見つかったときに知っておくと役立つ5つのこと【乳腺外科医からのアドバイス】

 もしも乳がんが見つかったときに知っておくと役立つ5つのこと【乳腺外科医からのアドバイス】
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増田美加
増田美加
2024-10-19

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。毎年、約9万人の日本女性が新たに乳がんにかかっています。9人に1人の女性が乳がんにかかっていてもはや他人事と思えません。もし、「乳がん」と言われたら、どうしたらよいのでしょう。もしものときに慌てず対処できるために知っておきたい情報を、乳腺外科医の片岡明美先生に聞きました。命と乳房を守るために、正しい情報にアクセスできるヘルスリテラシーを高めておきましょう。

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もし、乳がんと告知されたら

乳がんを告知されたとき、多くの人が戸惑い、不安になり、混乱します。万が一のときにできるだけ慌てずに対処するために、今から知っておいたほうがいいことを紹介します。

「乳がんが見つかったら、“早く治療して、がんを体から取り除きたい”と思う人が多いですが、急いで治療を始める必要はないのです。まずは、ご自分の乳がんの状態や性質をよく知ること、そして、治療をよく考えて、選ぶことが大切です。いま、乳がんの治療の基本は、手術、放射線、薬が三大治療となっています。その人の乳がんの性質やタイプによって、これらを組み合わせて行います。お薬の組み合わせだけでも、何通りもの方法があり、オーダーメイドに近い治療が行われています」と片岡明美先生。

早期の乳がんでは、手術だけで治療終了となることもあります。手術は、整容性といってできるだけ乳房の見た目をきれいに整えて手術するようになっています。もしも乳房をすべて切除する乳房全摘をしなくてはならない場合でも、乳房再建が保険適用になっています。

「医師から、乳がんの告知と同時に治療の説明を受けて、頭が真っ白になってしまい、どうしたらいいか、すぐには決められないこともあると思います。幸い、検診で指摘されるような乳がんの多くは、それほど早く進行するがんではなく、治療に関しても、一刻を争うほど急いで行わなければならないものは、ほとんどありません。何が自分にとって最善の治療かは、医師と話し合ってじっくり決めていけばいいのです。焦らず時間をかけて、自分が納得できる治療を受けることが重要です」(片岡先生)

乳がんの医療機関を探すには?

乳がんの告知を受けてから、治療病院を探す人も少なくありません。治療先を探すときに、知っておくとよい情報はありますか?

「乳がんの治療先を探すときには、乳腺専門医を見つけることが大切です。乳腺外科のある病院が近くにあればいいのですが、病院案内に「乳腺外科」が標榜されていなくても、中規模以上の病院の多くには、乳がん治療を専門にしている医師がいます。病院に尋ねてみてください。乳がん治療は、退院後、10年間くらい通院治療をする場合も考えられます。できるだけ通いやすい医療機関を検討するほうがいいと思います」(片岡先生)

日本乳癌学会が認定している乳腺専門医のいる全国の医療機関は、【日本乳癌学会】ホームページに「認定施設」として掲載されていますので参考にしてみてください。

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ニセ情報に惑わされないために

乳がんの情報は、大量に出回っており、玉石混交の中、どれが正しく必要な情報なのかがわかりにくくなっています。信頼できる情報を見極めるには、どうしたらいいのでしょうか。

「治療を始める際に、まず自分自身の乳がんの特徴や治療計画についてよく知ることがとても大切です。そのために、わりやすく正しい情報を取捨選択する必要があります。いくつかおすすめのサイトを紹介します」(片岡先生)

「国立がん研究センターがん情報サービス」 

患者さん向けにわかりやすくまとまっています。乳がんとその治療に関する基本的な情報や、地域でがん治療を行なえる病院がどこにあるのか、何件ぐらい治療をしているのかなど医療機関についての情報も得られます。がん情報サービスが発行しているさまざまな小冊子も無料で見ることができます。

「日本乳癌学会」ホームページ

乳癌診療ガイドラインを発行していて、参考になります。「乳がんQ&A」では、「手術で乳房を失ってしまうの?」「抗がん薬の副作用で、髪の毛は抜けてしまうの?」「治療費用はどのくらいかかるのだろう」「仕事は続けられるの?」「治療はどのくらいの期間かかるのだろう」など、患者質問をもとにしたQ&Aを掲載しています。こちらを参考に治療の内容を理解し、見通しが立つことで、安心できることも多いと思います。

「LINEわかる乳がん」

公益財団法人がん研究会有明病院が監修した「乳がんの基礎や検査、治療に関する内容」や「Q&A」「体験者の声」などがわかりやすくまとまっています。LINEの友達登録をするだけで、無料で見ることができて便利。

治療を考えるときに必要なこと

情報が溢れている現代、不確かな情報や間違った情報、時代遅れの情報も多くなっています。特に、がん治療の情報では、代替治療(療法)や、ガイドラインに沿っているとはいえない「○○を飲んだらがんが小さくなった」「○○療法でがんが消えた」といった治療内容を目にすることがありますので、要注意です。

「“標準治療”については、知っておいていただくといいと思います。がん治療においては、標準治療を受けることが基本です。標準という言葉から“特上・上・並”のランクで“並”にあたる治療ではないかとイメージする人もいますが、標準治療は“並”の治療ではありません。標準治療は、多くの臨床試験の結果をもとにして、さまざまな検討が重ねられ、専門家の間で合意が得られている最善(ゴールドスタンダード)の治療法なのです。ご自身の乳がんの状態に当てはまる標準治療はどんなものかを知っておくことは、治療法を決めるときに大事なポイントになります」(片岡先生)

「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版」(日本乳癌学会)

現在、2023年版が出ていますが、2019年版はサイトから無料で読めます。それぞれの人の乳がんの「標準治療」がわかるように解説されています。これを参考に、主治医とよく相談しましょう。また、主治医の話を聞いてもよくわからない、または納得がいかない場合は、看護師、薬剤師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどに相談するのもいいでしょう。セカンドオピニオンを聞きに行くことも積極的に行ってください。

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乳がんになっても妊娠・出産できる?

若い人の乳がんも増えています。これから、妊娠・出産する希望がある世代の場合、乳がん治療後に赤ちゃんが持てるかどうかは大きな問題です。乳がんの治療後に、妊娠・出産することは可能なのでしょうか?

以前は、「妊娠が乳がん再発の危険性を増やすのでは?」「抗がん剤によって赤ちゃんに異常が起こるのでは?」といった漠然とした不安から、抗がん剤治療後の妊娠はあきらめるべきという雰囲気がありました。しかし、さまざまな研究の結果によって、このような考え方は正しくないことがわかってきました。

「乳がん治療後の妊娠や出産、授乳によって、乳がんが再発しやすくなるという証拠はありませんし、赤ちゃんに異常が起こる頻度が高まることはないこともわかっています。ただ、抗がん剤の中には、卵巣に影響を与えて、排卵や月経を止めてしまうものがあって、治療後に自然妊娠できなくなることがあります。ですから、妊娠を望む人は、年齢にもよりますが、乳がんの治療前に、卵子や卵巣組織を取って凍結しておいて、治療後に卵子を受精卵にして、それを子宮に戻す不妊治療をするほうがいいかもしれません。ただし、乳がんのお薬による治療は5~10年かかる場合もありますので、できるだけ若いうちに卵子や卵巣の凍結保管をしておいた方が良いでしょう」と片岡先生。

将来、子どもが欲しいという希望のある場合は、乳がん治療が始まる前に、主治医や生殖医療の専門医と相談すれば、妊よう性温存(妊娠・出産できる力を残すこと)という選択肢があることも知っておきましょう。妊よう性温存治療には、各自治体からの助成金がありますし、乳がん治療後の不妊治療には43歳未満まで保険適用となっています。

「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版」(日本乳癌学会)
妊よう性温存について詳しく掲載されています。

「乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療の手引き 2017年版」(日本がん・生殖医療学会編) 
も参考になります。

がん治療をしながら仕事は続けられる?

乳がんを告知されたら、職場にどう話せばいいのか、仕事はこれまで通り続けられるのかなども、不安になります。乳がんとわかったら、仕事はどのように考えればよいでしょうか?

「今、がんは働きながら治療できる病気になりました。がん治療中であっても、仕事を続けることは可能です。がんの診断を受けて驚き、混乱したまま、「仕事はもう無理だ」「周囲に迷惑をかける」と思い込み、仕事を辞めてしまう人がいます」と片岡先生。

特に乳がんは、治療によって長期生存が可能な病気です。がん治療のために、仕事を辞める必要はありません。仕事を辞めてしまうと、治療費などの経済的不安を抱えたり、治療後に再就職先が決まらずに苦労する人もいます。

「乳がん治療は、手術では入院しますが、放射線治療や抗がん剤などの薬による治療は外来での通院が中心で、治療をしながら仕事を続けることが可能になっています。仕事を続けるか辞めるかの判断は、即決しないことが大事です」(片岡先生)

落ち着いて、自分の治療計画、勤務先の休暇制度や働き方の選択肢、仕事に対する気持ちを整理しながら考えてください。家族やがん相談支援センターや職場(産業医や人事)、患者会などにも相談してみましょう。

「がん相談支援センター」
全国のがん診療連携拠点病院に設置されています。医療ソーシャルワーカーや社会保険労務士など、就労に関する専門家が相談を受けています。

国立がん研究センターがん情報サービス「がんと仕事」
がんと仕事に関する情報は、参考になると思います。

もしものときのために、正しい情報にアクセスできれば、知識が力となって、乳がんを怖がらずに乗り越えられると思います。

お話を伺ったのは…片岡明美(かたおかあけみ)先生

がん研有明病院 乳腺センター乳腺外科医長・トータルケアセンターサバイバーシップ支援室長

1994年、佐賀医科大学卒業。九州大学医学部第二外科、国立病院機構九州がんセンター乳腺科などを経て、2016年より現職。日本乳癌学会評議員、日本サポーティブケア学会妊孕性部会部会長。認定NPO法人乳房健康研究会副理事長、認定NPO法人ハッピーマンマ理事。

★第34回日本乳癌検診学会学術総会と片岡明美先生が所属する認定NPO法人乳房健康研究会が「乳がんを知るための一歩、知らせるための一歩、支えるためにもう一歩」をテーマに、第20回「ピンクリボンウオーク2024」を開催します!増え続ける乳がんに対し、参加者と企業や団体、公共団体が一丸となって、乳がん早期発見の大切さを伝え、乳がんにやさしい社会をめざして発信するチャリティー大会です。ウォーキングアプリを使うので、全国どこからでも、誰でも参加できます! 10月1日~11月30日までの1カ月間、自分のペースで歩いて、乳がんの啓発活動に参加しませんか?

「ピンクリボンウオーク2024」

【公式サイト】https://pinkribbonwalk.breastcare.jp/   
【対象】主旨に賛同する方ならどなたでも
【開催期間】2024年10月1日~11月30日(エントリーは11月30日まで受け付けます)
【開催形式】アプリによるオンライン開催
【参加費】1,000円(税込み)、高校生以下無料
【参加賞】参加費を支払った方には、ぐんまちゃんピンクリボンバッジ、参加者の中から表彰、賞品あり
【共催】第34回日本乳癌検診学会学術総会、認定NPO法人乳房健康研究会

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増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



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