子宮頸がん検診が変更「異常ナシなら5年に1回のHPV検査へ」知っておくべきことは?専門医が解説

 子宮頸がん検診が変更「異常ナシなら5年に1回のHPV検査へ」知っておくべきことは?専門医が解説
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増田美加
増田美加
2024-08-31

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。子宮頸がん検診は、20歳以上の女性が2年に1回受けることが推奨されている検診です。今年4月から30代以上の女性は、HPV(ヒトパピローマウイルス)検診という新しい方法に変更する方針に変わりました。HPV検診で結果が異常ナシなら、次の検診は5年後でOK。コスパもタイパもいいHPV検診について取材しました。*HPV=human papillomavirus(ヒトパピローマウイルス)

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子宮頸がんのHPV検診とはどんなもの?

子宮頸がん検診は、これまで20歳から2年に1回の細胞診でした。厚生労働省は、今年の4月から、子宮頸がん検診を新たにHPV検診を追加するとしています。日本で子宮頸がん検診が始まったのは1960年頃。子宮の入り口である頸部から細胞を採取して異常の有無を調べる「細胞診」という方法です。今年、新しく導入が決まった「HPV検診」は、WHO(世界保健機関)が推奨し、先進国はもちろん、開発途上国でも行われています。これまで日本で国が推奨してきた細胞診に比べ、感度が高い検診と言われています。今まで行われている細胞診より、HPV検診のメリットが高いのは、どんな点なのでしょうか?

「子宮頸がんの原因のほとんどは、HPVの感染です。性交渉によってHPVに感染し、一部のハイリスク型ウイルスに長期間、感染していると、5~10年以上を経て子宮頸がんになります。HPV検診は、この子宮頸がんの原因となるウイルスの存在を調べます。HPVに感染しても、何も症状はありませんが、ウイルスに感染しているかどうかがわかります。従来の細胞診は、顕微鏡を使って細胞に異常がないかを人の目で判断する検査のため、結果にばらつきがあることが、これまでも問題となっていました。細胞診は、がんの前段階である中等度異形成(CIN2)以上やがんを正しく診断できる感度(陽性であることを正しく判定できる割合)は、約70%とされています。一方、HPV検診では、同じくがんの前段階である中等度異形成(CIN2)以上やがんを正しく診断する感度は、約95%以上あります。ですから、HPV検診のほうが、子宮頸がんを正しく見つけることができる精度が高い検査と言えるのです」と柴田綾子先生。

このHPV検診が導入されるのは、30歳以上の女性です。20~29歳の女性は、なぜ細胞診が継続されるのでしょうか?

「20代の女性は、HPVに感染する可能性が高いけれども、感染は一時的なもので、細胞診で異常もなく、前がん状態やがんにもならずに、直ってしまうケースも多いのです。もし、20代女性全員にHPV検診を行なうと、病気でもないのに多くの人が陽性になり、要精密検査に進む人が増えてしまい、無駄な検査で不安を募らせます。細胞診に異常が起きていない20代女性にとってのデメリットが高くなってしまいます。また、20代では前がん状態になることはあっても、命にかかわるような進行がんに至ることは稀です。そのため20~29歳は、今までと同じく2年ごとの細胞診が継続となります」(柴田先生)

HPV検診は5年に1回でいい!

30歳以降のHPV検診は、5年に1回でいいとされています。一部のハイリスク型のHPVに長期間感染してから、子宮頸がんになるまでは5~10年以上の時間を要します。

「つまりHPVに感染していなければ、子宮頸がんのリスクはかなり低いわけです。そのため、HPV検診は5年に1回で検診の質が保てるとされています」(柴田先生)5年に1回で済むのは、私たち女性にとってもありがたいこと。面倒がらずに検診に行ける人が増えるかもしれません。日本女性のがん検診受診率の低さは、世界的に見ても大きな問題です。未受診の理由には、「受ける時間がないから」が長年トップです。5年に1回の検診でよいとなれば、検診受診率がアップすることが期待できます。

【これまでの子宮頸がん検診】

・20代以上(特に年齢制限なし) 2年に1回の細胞診

     ↓

【2024年4月から導入されている子宮頸がん検診】

・20代       2年に1回の細胞診

・30歳~60歳    5年に1回のHPV単独検診

(60歳でHPV検査陰性の場合は、その後の検診の必要性は低い)

参考資料/「子宮頸がん検診へのHPV検査単独法導入について」第40回がん検診のあり方に関する検討会 厚生労働省2023年12月

HPV検診は、検診の精度が高いというエビデンスが明らかになっています。日本でもHPV検診が導入されることで、受診する私たち女性にとってのメリットも高く、日本もがんの早期発見を目指す国として、新しい選択肢ができたと言えます。実施する自治体にとっても経済的コストや人的負担が減ると言われているHPV検診。自分の自治体で子宮頸がん検診のHPV検診を導入しているかどうか、ぜひ確認してみてください。

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HPV検診はどういう検査をするの?

HPV検診は、子宮頸部から採取した検体(細胞)でHPVに感染しているかどうかを調べる検査です。子宮頸部から細胞を採取する方法は、これまでの細胞診とほぼ同じやり方です。子宮頸がん検診は、痛いから怖くて受けたくないという人もいますが、新しいHPV検診はどうなのでしょうか?

「検査自体は、これまでの細胞診と同じで、内診台に乗っていただいて1分くらいで終わります。痛みの感じ方には個人差があり、クスコという診察器具を入れるときや開くときに痛みを感じることがあります。HPV検査自体は、子宮の入り口を小さな柔らかいブラシのようなものでそっとこするだけなので、採取自体には痛みはあまりありません。緊張して力が入ると痛く感じやすくなりますので、できる限り力を抜いてリラックスして受けたほうが痛くないと思います。今までの内診で痛みが強かった場合は、事前にスタッフに伝えていただくと、小さなサイズのクスコを使用したり、ゆっくり時間をとって診察をするなど工夫ができます。いろいろと話ができて安心できる先生に検査してもらうことも、痛みを感じにくくする方法だと思います。1回やってみると、なぁんだ簡単だったと思う方もいると思います。それから、採取する細胞に月経血が混ざると正確に診断できませんので、生理ではないときに受けてください」(柴田先生)

子宮頸がんのHPV検診は、産婦人科で受けられます。予約するときに、子宮頸がんのHPV検診を受けたいと伝えておくとスムーズでしょう。また、自治体によってまだHPV検診を導入していないところもありますが、自治体の子宮頸がんのHPV検診なら安価で受けられます。受診年齢によっては無料クーポンも出ているので、自治体のホームページを見たり、問い合わせてみるといいでしょう。

セックスを経験していない人は?

20歳以降でも、セックスを経験していない人は、子宮頸がん検診を受けなくてもいいのでしょうか? また、10代でセックス経験がある人はどうすればいいでしょうか?

「20歳以降で未経験の場合は、医師との相談になります。性交渉の経験がなければHPVに感染しているリスクはかなり低いですが、子宮頸がんのリスクはゼロではありません。子宮頸がんは、HPV感染以外の原因でなる可能性も決してゼロとは言えないのです。ただ、性交渉の経験がない人は、検査の痛みが強く、出血もしやすいので、受診の際に産婦人科医に相談してみてください。検査では、腟をクスコという器具で広げて子宮頸部の細胞(検体)を取るのですが、小さいクスコにしたり、ゼリーですべりやすくしたり、といった工夫で痛みを和らげることもできます。また、話をいろいろ聞いたうえで、そのときは検診を行なわずに、1年後にまた来てくださいということもあります。

10代の女性が子宮頸がん検診を受けてはいけないわけではありませんが、HPVに感染してから前がん病変の異形成になるまで、数年程度の時間がかかりますので、国のガイドラインでは子宮頸がん検診は20歳からとなっています。もちろん、性行為があり、不正出血や性行為後の出血など、心配なことがあれば10代でも検査できますので、産婦人科を受診してください」(柴田先生)

無料でワクチンを打てるキャッチアップ接種は9月末まで!

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日本では、女性が子宮頸がんにかかる人数も、亡くなる人も減っていません。

「自分は子宮頸がんとは関係ないと思っている人も多いと思います。でも、1年間に1万人もの女性がかかる病気で、年間2900人もの女性が子宮頸がんで亡くなっているのです。特に若い女性にとっては、めずらしい病気ではありません。偏見や遊んでいるという間違ったイメージから、子宮頸がんを公表できず、医療機関に相談できない人もいます。子宮頸がんは、だれでもかかる可能性のある病気です」(柴田先生)

子宮頸がんの予防は、検診に加えて、ワクチン接種も大切です。いきなりワクチン接種というだけでなく、「ワクチンを打ってみたいけど、どうなの?」とまず相談に乗ってもらってから、ワクチンを受けるかどうか決められる医療機関もあります。

「子宮頸がんについて相談できる場所や、ワクチンを接種できる医療機関の情報が少ないという問題点もあります。そこで、私が理事を務めるNPO法人女性医療ネットワークで、HPVワクチンの相談や実際に接種のできる全国の医療機関リストを作りました。ぜひ参考にしてみてください」(柴田先生)

子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンで予防できるがんです。1997年4月2日~2008年4月1日生まれの女性は、現在キャッチアップ接種が行われていますが、無料でワクチン接種できるのは2025年3月までです。9月末までに1回目を打たないと、今後は有料になってしまいます。無料接種できる期間を過ぎないうちに、該当年齢の方は早めに接種を考えてください。無料接種できるHPVワクチンは、3種類(サーバリックス、ガーダシル、シルガード9)あります。参考記事:1

「私が理事を務めるNPO法人女性医療ネットワークで、HPVワクチンの相談や実際に接種のできる全国の医療機関リストを作りました。ぜひ参考にしてみてください」(柴田先生)

【NPO法人女性医療ネットワークのHPVワクチンと検診の相談医療機関リスト】

お話を伺ったのは…柴田 綾子(しばた あやこ)先生

淀川キリスト教病院 産婦人科医
日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)。名古屋大学情報文化学部を卒業後、群馬大学医学部に編入。沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職。世界遺産15カ国ほどを旅した経験から、母子保健に関心を持ち、産婦人科医に。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)ほか。NPO法人女性医療ネットワーク理事。

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取材・文/増田美加 女性医療ジャーナリスト

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増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



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