息苦しい、息切れ、動悸の多くは情動(感情)の乱れが原因!?呼吸神経生理学の医師が説く改善法

 息苦しい、息切れ、動悸の多くは情動(感情)の乱れが原因!?呼吸神経生理学の医師が説く改善法
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増田美加
増田美加
2023-11-18

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。息苦しい、息が切れる、呼吸が乱れる、動悸がする…などの症状を感じて、「肺や心臓に不調があるのでは?」と不安になる更年期世代も少なくないと思います。医師で呼吸神経生理学の専門家に、息切れ、動悸の改善法を聞きました。

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不安や緊張で呼吸が乱れたら、意識的に深呼吸する

呼吸には3種類あります。ひとつは、脳幹から指令が出て無意識に行っている“代謝呼吸”。2つめは、深呼吸のように意識的に行う“随意呼吸”で、大脳皮質がコントロールしています。最後は、不安や緊張で息が乱れ、リラックスすると楽になる“情動呼吸”です。この情動呼吸は、感情を生み出す情動中枢の扁桃体でコントロールされています。

「不安や緊張による息苦しさや息切れ、動悸などを起こす情動呼吸の乱れは、深呼吸など意識的に行う随意呼吸を変えることで、情動呼吸の乱れが改善してリラックスに導いてくれるのです。更年期の息苦しさ、息切れ、動悸などは、不安など情動(感情)のゆらぎによって起こることがあります。その場合は、深呼吸などで呼吸を変えることで改善できます」と本間生夫先生。

こんな場面で息苦しさを感じたことは?

・歩いているとき
・軽いものを運んでいるとき
・家事をしているとき
・しゃがんで掃除や片付けをしているとき
・長時間、机に向かっているとき
・お風呂に入っているとき
・家の中で歩き回ったとき
・大きな声でしゃべっているとき
・小さな子どもと遊んだとき
・怒ったり泣いたりしたとき

「このような何気ない日常生活の動作で、息苦しさや息切れを感じている方は、チェックした項目が多いほど、呼吸機能が低下しているサインかもしれません」(本間先生)。

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呼吸は、心臓や肺だけでなく、脳とのかかわりが大きい!

息苦しい、息が切れる、呼吸が乱れる、動悸がする…などの症状に、「肺や心臓に問題があるのでは?」と不安になる人は少なくありません。

「このような呼吸トラブルは、女性ホルモンの低下に伴う更年期症状のひとつでもあります。また、喫煙の習慣、肥満、過度の心理ストレスなどが原因になることもあります。さらに、老化によって肺機能が低下することでも起こります」と本間先生。

肺機能は、25歳をピークに衰え始め、年々、肺の弾性収縮力が落ちていきます。そのことによって、COPD(慢性閉塞性肺疾患)に進行する場合があります。COPDの最大の原因は喫煙ですが、喫煙習慣がなくても50代から増え始め、75歳前後で最も多くなります。国内の患者数は500万人を超えるとされています。

「息苦しいなどの症状が続く場合は、人間ドックなどの機会に肺の検査をしてみてもよいでしょう。けれども、更年期世代の女性の場合は、ストレスや不安の高まりが原因で、呼吸が乱れ、息苦しさを感じていることも少なくありません」

本間先生たちの研究でも不安度の高い人ほど、ゆっくりゆったりした深い呼吸よりも、浅くて速い呼吸になり、呼吸数の増加が激しくなるという結果が出ています。

「研究結果にあるように、不安が原因で呼吸の乱れが生じますが、その逆に呼吸を整えることで、脳の情動を司る扁桃体へ働きかけられることもわかっています。つまり、呼吸と感情は繋がっていて、意識的に呼吸を変えることで、不安を軽減し、息苦しさを改善することが可能なのです」

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不安を吐き出し、元気を吸い込む呼吸筋ストレッチが効果的!

どのような呼吸を意識的にすれば、不安やストレスを軽減し、息苦しさを改善することができるのでしょうか? 

「呼吸筋を伸ばしたり、縮めたりしながら、呼吸を行う体操があります。呼吸筋をストレッチすることで、こわばっている筋肉を柔らかくほぐし、弾力性を取り戻すことができます。筋肉が収縮しやすくなることで、浅くて速い呼吸を、深くてリラックスした呼吸へと改善するのです。息苦しさが軽減され、快い呼吸ができるようになり、その結果、心が安定しリラックス効果も得られます」と本間先生。

呼吸筋には、息を吸うための“吸息筋”と息を吐くための“呼息筋”があります。吸息筋には、胸鎖乳突筋、僧帽筋、斜角筋、外肋間筋などがあります。呼息筋は、内肋間筋、腹斜筋、腹直筋、腹横筋などを使います。つまり、胸郭を動かすような大きな深い呼吸をすると、呼吸筋である首、肩、胸、腹の多くの筋肉を同時に使うことができるのです。

「呼吸筋ストレッチ体操には、さまざまありますが、肩と首と胸の呼吸筋をストレッチする基本的な方法を紹介します。呼吸に合わせてメリハリをつけて動き、気持ちよさを感じながら、1日3分でもよいので、毎日の習慣として行うことがポイントです」

呼吸筋ストレッチで浅い呼吸を改善!

腕を上げ、腰を回して痛みなく動かすことができるか確認してから始めます。基本姿勢として、両脚を肩幅に開き、背筋を伸ばしてリラックスします。無理せず、気持ちがいいと感じる程度に行うのがポイントです。1日3分でもいいので、毎日続けることで効果を実感できます。

【肩の上げ下げ】
ゆっくりとした呼吸をしながら、肩を上げたり、下げたりしていくことで、呼吸筋をストレッチします。

息をゆっくり吸いながら肩を上げます。この吸うときに使う、肩と首の筋肉がより深くストレッチされます。

肩を上げたときに、かかとが地面から離れないように注意。息を吐きながら、肩の力を抜いて下に下げていきます。

【胸のストレッチ】
息をゆっくり吸いながら、胸を持ち上げてゆっくり開くイメージで、大きな胸筋のストレッチを感じます。

両手を胸の上部に当てて、力を抜くのを意識しながら、息をゆっくり吐き、リラックスします。次に、息をゆっくり吸いながら、持ち上がる胸を手で押し下げるようにしつつ、あごを前上方に突き出すイメージで。

ストレッチ
イラスト/鈴木七代

呼吸筋ストレッチ体操は、本間先生のチームが呼吸生理学の分野で、呼吸器疾患の患者さんのリハビリのために開発されたものです。COPDのケアや肺機能の老化防止にも役立つと言われています。また、震災時の心のケアやパーキンソン病や禁煙のサポートなどにも使われています。

「更年期世代の息苦しさだけでなく、疲れやすい、眠れない、イライラする、集中できない、大事な場面であがるなどの改善にも役立つことがあります。試してみてください」(本間先生)

教えてくれたのは…本間生夫(ほんまいくお)先生

NPO法人「安らぎ呼吸プロジェクト」理事長、昭和大学名誉教授。日本情動学会理事長。医学博士。東京慈恵会医科大学卒業。昭和大学医学部第2生理学教室教授、東京有明医療大学学長を経て現職。専門は呼吸神経生理学。文科省教科用図書検定審議会会長など歴任。著書に『全ての不調は呼吸が原因』(幻冬舎)、新刊『長生きしたければ「呼吸筋」を鍛えなさい』(青春出版社)他多数。

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増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



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