手のひらの汗に悩む人は約493万人!手のひらの汗の原因と対処法を専門医が解説

 手のひらの汗に悩む人は約493万人!手のひらの汗の原因と対処法を専門医が解説
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増田美加
増田美加
2023-09-30

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。緊迫感や緊張感を表現するときに「手に汗を握る」というように、手汗は私たちにとって決して特別なことではありません。でも、日常生活に支障をきたすほどの手汗に困っている人がたくさんいることも事実。手汗は、治療できます!多汗症治療の専門家、藤本智子先生に取材しました。

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多汗症はわき汗だけじゃない!手のひらにも

手汗そのものは、決して異常なことではなく、日常的にかく汗は体温調節をはじめとして、私たちの体にとって重要な役割を担っています。しかし、気温や運動時などに関係なく、両手のひらにたくさん汗が出て、日常生活に支障をきたすと、「原発性手掌多汗症(げんぱつせいしゅしょうたかんしょう)」と診断でき、治療することが可能です。

「原発性手掌多汗症の患者さんは、国内で約493.1万人いると推計*1されていて、決してめずらしくありません。多くは10代ころ(平均発症年齢13.8歳)*1に症状が現れはじめ、学校生活にも支障をきたしていることがあります。また、治療法があることが知られていないために、大人になっても手汗のために困っている方が大勢いると考えられています」と話す藤本智子先生。

*1 Fujimoto T, et al.: J Dermatol 2013; 40(11): 886-890

生活に支障が出るほどの汗をかく「多汗症」は、わき汗だけでなく、手のひら、足のうら、頭部顔面など、いろいろな部位に渡ります。

「多汗症は、全身に多量の汗をかく「全身性多汗症」と、手のひらや足のうら、頭部顔面、わきの下など 、局所的に多量の汗をかく「局所性多汗症」とがあります。原因はそれぞれで異なり、何らかの病気によって引き起こされる多汗は、「続発性(ぞくはつせい)多汗症」と言われます。末梢神経の損傷などが原因としてあげられ、甲状腺機能亢進症や糖尿病などやお薬の副作用が原因のこともあります。一方、全身性多汗症、局所性多汗症ともに、原因が不明の場合があります。これを「原発性(げんぱつせい)多汗症」と言って、10代~40代といった比較的若い世代の方が発症しやすいと言われています。原発性局所多汗症は、手のひら、足のうら、わきの下、頭部(顔面)などに左右対称に汗が出ます。ストレスなど、精神的なことが原因で起こると考えられていますが、詳しいことはまだ解明されていません。この原発性局所多汗症のひとつが、手に汗をかく原発性手掌多汗症です」(藤本先生)

原発性局所多汗症は、部位によって、発症している患者さんの割合が異なります。わきの下がいちばん多く、次に手のひらです。

「私たちが行った調査研究で、5歳~64歳の日本人を対象にしたものがあります。原発性局所多汗症で手のひらの多汗症(原発性手掌多汗症)を発症している患者さんは、約493万人。割合にすると日本人の5.3%と考えられています。男性の割合は6.3%、女性は4.1%です*2」(藤本先生)

*2 Fujimoto T, et al.: J Dermatol 2013; 40(11): 886-90. 

手のひらの多汗症かどうかをチェック!

手のひらの多汗症かどうかを判断するためのセルフチェックを紹介します。

【手のひらの多汗症チェックリスト】*3
あてはまる項目をチェックしてください。

・手汗について思い当たる原因がない(病気や、服用してるお薬など)
・手汗が6カ月以上続いている
 +
・最初に手の多汗症状が出たのが25歳以下
・左右の手のひらに汗をかく
・睡眠中は発汗が止まっている
・1週間に1回以上、手の多汗症状がみられる
・家族に同じ症状の方がいる
・手汗のために日常生活に支障をきたしている

最初の2項目にチェックがつき、さらにその下の6項目のうち、2項目以上当てはまる場合は、手のひらの多汗症「原発性手掌多汗症」かもしれません。

*3 藤本智子 ほか『公益社団法人日本皮膚科学会誌 2023』133(2): 157-88. より改変

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特定の場所に汗をかくのはなぜ?

手のひらや頭部 (顔面)、足のうら、わきの下と限られたところだけに汗をかくのはなぜなのでしょうか。

「汗には、上がった体温を下げる大事な働きがあります。汗をかいて、汗の水分が皮膚で蒸発するときに、周りから熱を吸い取って(気化熱)、皮膚の温度が下がります。汗は体温を下げ、体が熱くなりすぎるのを防いでいるのです。また、緊張やストレスで汗をかくこともあります。「今日の試合は“手に汗握る”展開だった」と表現されるように、ハラハラ、ドキドキなど精神的な興奮やストレスで汗をかく機能も人間にはあるのです。精神的にかく汗は、ヒトもサルのように木の上で生活していた進化の過程のなごりともいわれており、獲物をとり、敵から逃げるときに、手や足が滑らないためだったという説もあります。このように、多汗症の原因には、精神的な面やメンタルの影響は作用していると考えられています」(藤本先生)。 

汗は、汗腺から分泌され、汗腺には、エクリン汗腺、アポクリン汗腺、アポエクリン汗腺の3つがあります。このうち、エクリン汗腺は、手のひら、わきの下、足のうらなど、全身に広く分布しています。エクリン汗腺からは、体温調節やストレスなどの精神的な刺激で汗が出てきます。汗をかくときは、脳の視床下部から汗を出す指令が交感神経に伝えられます。そして、交感神経から発汗物質であるアセチルコリンが分泌され、エクリン汗腺にある受容体に結合し、エクリン汗腺から汗が出ます。局所の多汗症は、この指令系統が過剰になっている状態とされています。

手のひらの多汗症の治療法は?

「手のひらの多汗症を含む、局所多汗症の治療は、困っていなければ行う必要はありません。生活に支障があって「なんとかしたい」と希望する人が治療を行います。多汗症の治療ゴールは、生活の中で発汗が起こらないように常にコントロールすることではなく、あくまで困っている本人が多汗のために、損なわれている生活のQOLが改善されることを目標にします。でも困っているのに、治療法があることを知らずにいる方には、ぜひ皮膚科へ治療に来てほしいと思います」(藤本先生)

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 治療には、塗り薬、注射薬、飲み薬などがあり、それぞれについて紹介します。

抗コリン外用薬

手のひらの多汗症である「原発性手掌多汗症」とわきの下の「原発性腋窩多汗症」の治療薬で、保険適用の塗り薬があります。皮膚吸収で、皮膚の下にある交感神経から出される発汗物質のアセチルコリンをブロックすることで過剰な発汗を抑えます。原発性手掌多汗症には、ローションタイプの外用薬「アポハイド®ローション20%」(保険適用)が2023年6月に発売になりました。1日1回、就寝前に適量を両手のひら全体に塗ります。

 塩化アルミニウム外用薬

多汗症が気になる部位に塗る薬。現在、保険適用で使える薬はなく、処置薬としての取り扱いです。皮膚表面にある汗の出口を塞ぐことで発汗を抑える機序で、重症度が高い場合は、濃度の高い薬剤を塗布後に手袋で覆って密封する方法もあります。おもな副作用には、塗布部位の皮膚の炎症やかゆみなどがあります。

ボツリヌス毒素局注療法

多汗症の部位に、ボトックスを注射する治療。多汗症の部位に複数カ所、注射します。重症のわき汗(原発性腋窩多汗症)には、保険適用されています。手のひら、足のうらや頭部に行う場合は、自費(自由診療)になります。おもな副作用として、注射部位の腫れや痛み、投与部位の一過性の筋力低下などがあります。

抗コリン経口薬

飲んで多汗症に作用する薬。特にボトックスや次に紹介するイオントフォレーシスが行えない頭部(顔面)の多汗症には、使ってみる価値はあります。副作用は少ないですが、おもな副作用としては、口の渇きや便秘、目のかすみなどがあります。

イオントフォレーシス

手のひらや足うらの多汗症で使われます。手や足を、水をためた容器に浸し、10~20mAの電流を約10~15分間流す治療です。水中で発生させた水素イオンが汗の出口を小さくすることで発汗を抑えます。手のひらや足のうらの多汗症では保険適用されています。これを8~12回ほど行うと、多汗症の改善に効果が期待できます。ただしすべての医療機関で行える治療ではないため、医療機関に確認が必要です。

交感神経遮断術

ここまでの治療で効果が実感できない、重症の局所多汗症の方の治療です(保険適用)。交感神経の働きによる多汗症を抑えるために、交感神経を切除、もしくは焼くなどする治療。かつては大がかりな手術が必要でしたが、最近ではわきの下を数ミリ切り、そこからカメラを入れて手術することが可能になりました。10分ほどで完了する場合がほとんど。しかし、手術後に体のほかの部分から発汗をしてしまう場合があり、十分に説明を受け納得したうえで行うことが勧められます。

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多汗症の部位と、その人の重症度によって、選択できる治療法がたくさんあります。困っている人は、皮膚科で相談してみる価値があると思います。特に、手のひらの多汗症なら、新しく保険適用になったローションタイプの外用薬「アポハイド®ローション20%」を使ってみるのはいいかもしれません。

参考資料/『原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版』日本皮膚科学会

お話を伺ったのは…藤本智子(ふじもとともこ)先生

池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長 https://fukurou-hifuka.com/
浜松医科大学医学部医学科卒業。東京医科歯科大学皮膚科入局。東京医科歯科大学皮膚科医員・助教、多摩南部地域病院皮膚科医長、東京都立大塚病院皮膚科医長を経て2017年より現職。医学博士。日本皮膚科学会認定専門医。東京医科歯科大学皮膚科臨床講師、日本発汗学会理事ほか。『原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版』(日本皮膚科学会ガイドライン)策定委員会メンバーのひとり。

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増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



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