50歳以上要注意!片頭痛の重症化にも関係「帯状疱疹ウイルス」の症状と予防策|頭痛専門医からの警告

 50歳以上要注意!片頭痛の重症化にも関係「帯状疱疹ウイルス」の症状と予防策|頭痛専門医からの警告
AdobeStock
増田美加
増田美加
2024-06-29

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。女性に多い片頭痛ですが、帯状疱疹のウイルスを持っていると、頭痛が重症化するかもしれないことがわかってきました。帯状疱疹ウイルスは、水痘(水ぼうそう)と同じウイルスで日本人の大人の80%以上の人は、体内に持っています。もしかしたら、帯状疱疹ウイルスは、片頭痛と関係しているかもしれないことがわかってきました。頭痛治療の第一人者、清水俊彦先生に伺いました。

広告

帯状疱疹は水ぼうそうのウイルスと同じ

帯状疱疹の初期症状として有名なのは、皮膚の痛みや違和感、かゆみです。皮膚症状が現れると、ピリピリと刺すような痛みになり、場合によっては夜も眠れないほど、激しい痛みになることがあります。帯状疱疹の原因は、水痘(水ぼうそう)と同じウイルスで、日本人の成人90%以上の体内に潜んでいます。水痘ウイルスに初めて感染すると水痘にかかりますが、治った後もウイルスは体の神経節に潜んでいます。たとえウイルスが潜んでいても、普段は悪さをすることはありません。けれども、加齢や疲れ、病気、ストレスなどで免疫機能が弱くなると、潜んでいたウイルスが活動を再開して帯状疱疹を発症することがあります。

帯状疱疹の合併症としては、皮膚の症状が治ったあとも痛みが続く「帯状疱疹後神経痛(PHN)」があります。経過や痛みは人それぞれで個人差がありますが、さらに、帯状疱疹は目や耳や顔にも症状が出ることもあります。帯状疱疹を予防するには、免疫機能を正常に保っておくためにも、規則正しい生活習慣や適度な運動が大切です。また、50歳以上の人は、帯状疱疹ワクチンの予防接種を受けることができます。接種ができない人、あるいは注意を必要とする人もいますので、接種については医師に相談することが大切です。

帯状疱疹ウイルスが活性化したときに、片頭痛が重症化していた!

清水俊彦先生は、「帯状疱疹ワクチンの接種は、つらい片頭痛や群発頭痛の発症予防にもなります。帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹ウイルスの活性化を抑え、発症や重症化するリスクを軽減することができるとされています」と話します。

清水先生は、群発頭痛を起こす患者さんに対して、帯状疱疹ウイルスの抗体価がどのくらいのレベルになっているかを測定する調査をしました。抗体価とは、その人がウイルスに対する抵抗力がどの程度あるかを測定する指標です。

「群発頭痛の患者さん27人の帯状疱疹ウイルスの抗体価を測定しました。すると、3分の2以上の人が、群発頭痛の発作期間中に抗体価が上昇していたのです。これは群発頭痛の発作が起きたときに、帯状疱疹ウイルスが活性化して発症を助長していることを意味します。さらに群発頭痛の発作が起こったときに、帯状疱疹の治療で用いる抗ウイルス薬を5日間投与したところ、群発頭痛の発作期間が短くなる、または連日連夜の頭痛が軽減しました。そこで、帯状疱疹の抗体価が低い、すなわち帯状疱疹ウイルスに対しての免疫力が低下している群発頭痛の患者さんに、帯状疱疹ワクチンを接種し、その94人を追跡調査しました。その結果、本来ならば1年に1~2回、約1か月間に渡って群発頭痛が起こっていた方々が、36か月後、71%の人が「発作が起きていない」と回答しました。54か月後には99%の人に、何らかの群発頭痛の改善が見られたのです」(清水先生)。

さらに、片頭痛と帯状疱疹ウイルスの関係についても、清水先生たちの研究グループが厚労省の科学研究費で調査し、学会で発表しています。

「重症のひどい片頭痛の予兆症状として起こる、頭皮や顔面のピリピリした違和感(アロディニア)も、群発頭痛と同様に、生理のときなど免疫力が低下する時期に、三叉神経に潜在する帯状疱疹ウイルスが活性化して起こっている可能性があることがわかったのです」(清水先生)

AdobeStock
AdobeStock

海外でも帯状疱疹ウイルスと脳の病気との関係が発表

帯状疱疹ウイルスと片頭痛、もしくは顔面神経麻痺、あるいは脳卒中との関連は、欧米でも報告されています。

「片頭痛患者の大規模調査の結果で、片頭痛に罹患している人は、帯状疱疹ウイルスが原因となる顔面神経麻痺を発症する率が、片頭痛に罹患していない人と比べて3倍高いと報告されています(米国神経学会Neurology誌オンライン版2014年)。

因果関係は不明ですが、両方の病気には、共通する素因か、あるいは悪くなる(増悪)因子が存在している可能性があると結論づけています。

また、顔面の三叉神経領域に帯状疱疹を発症した人は、罹患後1年以内に脳卒中を発症する率が高いと報告されました(Stroke誌オンライン版)。

帯状疱疹ウイルスは、脳血管内で増殖可能なウイルスです。脳血管の周囲の三叉神経や後頭神経から、脳血管の壁にウイルスが侵入し、損傷をきたしている可能性が高いと推測されています」(清水先生)

帯状疱疹ワクチンは接種したほうがよい?

AdobeStock
AdobeStock

「近年、帯状疱疹ウイルスがさまざまな病気のリスクを上げることがわかってきています。帯状疱疹ウイルスとの関連が指摘されるのは、片頭痛や群発頭痛、脳血管障害、顔面神経麻痺や片方側性眼瞼けいれん、アルツハイマー型認知症、多発性硬化症などです。アルツハイマー型認知症は、現状では進行を遅らせる薬剤は発売されていますが、根治的治療薬はありません。また、脳血管障害は、治療が遅れれば命にかかわることがある病気です。それだけでなく、そもそも帯状疱疹は罹患すると、とてもつらい病気です。合併症もあり、帯状疱疹後神経痛(PHN)に悩む人も少なくありません。帯状疱疹後神経痛は、治療開始が遅れた場合や、皮疹に細菌感染を伴って回復が悪い場合に続発しやすく、帯状疱疹の皮疹が消えて治ったあとも、神経のしびれるような痛みが続きます。なかには、衣服が擦れるだけで痛いとおっしゃる方もいます。帯状疱疹の予防として、帯状疱疹ワクチン接種をお勧めします。少なくとも、片頭痛や群発頭痛を何度も起こしている人は、帯状疱疹の抗体価を測定して、有効な値でなければ、帯状疱疹ワクチンを検討してみてもいいかもしれません」と清水先生。

帯状疱疹ワクチンは、任意接種として厚労省が50歳以上で推奨しているため、医療機関も対象が50歳以上となっています。50歳未満で片頭痛、群発頭痛などある人は、どのようにしたら、良いでしょうか?

「もし50歳未満でも関心がある場合は、まずは医師に相談して抗体価を測定してみて下さい。子どものころ(小児期)に水痘(水ぼうそう)に罹患していない、もしくは症状や皮疹が軽症であった、さらに水痘ワクチン接種で済ませた方は、若くても抗体価が減少している可能性が高いのです」(清水先生)

抗体価は血液検査で可能です。頭痛を診てもらっている医師やかかりつけ医に相談してみるといいと思います。

お話を伺ったのは…清水俊彦(しみずとしひこ)先生

東京女子医科大学 評議員
脳神経外科 頭痛外来 客員教授

医学博士 。日本脳神経外科学会専門医。日本頭痛学会専門医。米国頭痛学会正会員。汐留シティセンターセントラルクリニック頭痛外来ほか多数の病院で1日平均約200人の患者を診察する頭痛治療の第一人者。著書に『頭痛は消える。』(ダイヤモンド社)最新刊『ウルトラ図解 おとなと子どもの頭痛』(法研)ほか多数。また2024年6月から、ANAグループ機内誌「翼の王国」で『雲の上の診察室』の連載開始。

広告

取材・文/増田美加 女性医療ジャーナリスト

AUTHOR

増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

AdobeStock
AdobeStock