痛くないお産をしたい!無痛分娩は安全?デメリットは?無痛分娩を行なう産科医に聞く

痛くないお産をしたい!無痛分娩は安全?デメリットは?無痛分娩を行なう産科医に聞く
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増田美加
増田美加
2025-12-27

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。 「出産の痛みはイヤ。痛くないお産をしたい!」「無痛分娩って、どうなの?」。いま、痛くないお産への興味・関心が高まり、無痛分娩を希望する女性も増えています。痛くないお産の現状を、無痛分娩を数多く行なう産婦人科専門医に取材しました。

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無痛分娩は、全く痛みがなくなるお産?

無痛分娩とは、完全に痛みがなくなるお産のことなのでしょうか?

「無痛というと、完全に痛みがなくなるように思われるかもしれませんが、100%痛みを取り除けるわけではありません」と産婦人科医の吉本裕子先生。

同じように麻酔をしても、個人差や麻酔薬の量・カテーテルの状況などで効き方にも差がでてきます。その痛みは、我慢できないほどの痛みではなく、軽い痛みとして感じます。無痛というより、痛みを和らげる(=和痛)というほうが、誤解がないかもしれません。無痛分娩は、強い陣痛への不安や恐怖からのストレスを緩和し、分娩の進行をスムーズにすることが期待できます。

「お産の痛みには、子宮の収縮による子宮の痛みと、腟、外陰部、肛門の周囲が赤ちゃんの頭によって押し広げられるときの痛みがあります。これらの痛みを和らげるお産が「無痛分娩」で、腰に硬膜外カテーテルを挿入して、そこから麻酔薬を注入。下半身の痛みをとる「硬膜外鎮痛法」による分娩が最も一般的です。今、世界的にも多くの国で無痛分娩と言えば、第一選択はこの硬膜外鎮痛法です。 私のクリニックで行っている無痛分娩もこの方法です」(吉本先生)

日本で無痛分娩は、どのくらいの割合で行われているのでしょうか?

「無痛分娩を行なっている施設は、国内で787施設とされています。これは、全分娩取扱施設の40.4%です。その中で無痛分娩の実施率は、2018年報告の5.2%から2024年報告の13.8%と、6年間で2.7倍に増加しました。近年、無痛分娩の実施率は、増加傾向にあります*1。私のクリニックでも2020年のころは全お産の1割くらいが無痛分娩でしたが今年は3割を超えました」(吉本先生)

*1 硬膜外無痛分娩の現状~日本産婦人科医会施設情報からの解析 公益社団法人日本産婦人科医会 医療安全部会 2025年3月

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無痛分娩で、痛みを取ることのメリットはある!

無痛分娩のおもなメリットは、「痛みを和らげて快適な分娩にする」「分娩の疲労度が少なく、産後の回復が早い」「お産のとき赤ちゃんへの酸素がたくさん供給される」などです。

「なんといっても第一のメリットはお産の痛みが軽くなることです。 人によっては、お産の疲れが少なく産後の回復も早いため、母乳の出もよく、赤ちゃんに産後すぐから向き合えるという感想もよく聞かれます。また、お産の強い痛みに耐えているとき、お母さんから赤ちゃんに届く酸素が減ると言われています。強い痛みがあると、血管を細くする物質が増えるために、赤ちゃんへの血流が少なくなるとされています。また、陣痛の合間には、妊婦さんが呼吸を休みがちになります。ですから、痛みが軽くなれば赤ちゃんに酸素がたくさん供給されます」(吉本先生)

無痛分娩の副作用とデメリットは?

逆に、無痛分娩の副作用やデメリットもあります。麻酔は、医療行為です。麻酔にはやむを得ず、よく起こる副作用があります。いずれも一時的なもので、後遺症のようなことにはなりません。

【硬膜外鎮痛法による副作用】

① 足の感覚が鈍くなる、足の力が入りにくくなる
② 低血圧
③ 尿をしたい感じが弱い、尿が出しにくい
④ かゆみ
⑤ 体温が上がる

また、稀に起こる不具合もあります。

【稀に起こる不具合】

⑥ 硬膜穿刺後頭痛
⑦ 血液中の麻酔薬の濃度がとても高くなってしまうこと(局所麻酔薬中毒)
⑧ お尻や太ももの電気が走るような感覚
⑨ 脊髄くも膜下腔に麻酔の薬が入ってしまう
⑩ 硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血のかたまり、膿のたまりができる

「麻酔を行うときには、このようなことが起こらないよう注意深く行います。しかし万が一、このようなことが起きた場合には、早急に適切な処置を行い、無痛分娩を中止することになります。ほかにも、硬膜外鎮痛法の麻酔による無痛分娩では、普通分娩に比べて分娩時間がやや延長する(時間がかかる)傾向があることや、吸引分娩などが増えることなどもあります。しかし、これらは医学的にはほとんど問題になることはありません。また、硬膜外鎮痛法の麻酔による無痛分娩が、胎児や生まれた赤ちゃん、授乳などに悪影響を及ぼす可能性は報告されていません」(吉本先生)

無痛分娩を行なえない人もいる

無痛分娩の硬膜外鎮痛をしてはいけない場合は、妊婦さんの状態によっては、硬膜外鎮痛を希望してもできない場合があります。血液が固まりにくい場合、大量に出血していたり、著しい脱水がある場合、背骨に変形がある場合、背中の神経に病気がある場合、注射する部位に膿がたまっていたり、全身がばい菌に侵されている場合、高い熱がある場合、局所麻酔薬アレルギーの人など。これ以外にも、硬膜外鎮痛を行えない場合や慎重に行わなくてはならない場合がありますので、病院にご相談ください。

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お産だけなぜ、痛い思いをするの?

手術のときは当たり前に麻酔をしますし、痛いときは痛み止めを打ちます。それなのに、お産だけ、なぜ痛みを取り除かないのでしょう? そもそもお産で陣痛を経験するメリットが女性と赤ちゃんにあるのでしょうか?

「お産によって、ひとつひとつの困難や試練を乗り越えること、自分に打ち勝つための通過点、などという方もいます。お産で痛みを乗り越えるから、赤ちゃんが可愛くなる、愛着形成に繋がる、という意見もあります。でも一方で、赤ちゃんが産道を通るときの脳へのダメージを考えると、自然分娩より、帝王切開のほうが赤ちゃんにストレスがなく安全と言われています。女性が、お産に限って死ぬほど痛い思いをする必要があるのだろうか? と私も思います。歯科治療のときも、外科手術のときも麻酔はしますよね。なぜお産だけ、麻酔で痛みを抑えてはいけないのでしょうか?」(吉本先生)

産婦さんの中には、1人目を自然分娩で産んで、あんな痛みはもう二度と嫌だからと、2人目を諦める人もいます。無痛分娩で1人目を産んだ産婦さんは、楽だったので、また2人目も無痛分娩で産みたいと言う方が少なくありません。出産後の回復が早いと、母乳の出も良くなり、育児にじっくり向き合える体力を残せるという利点も考えられます。

「ひと昔前と違って、いまは麻酔薬も麻酔投与の医療技術も進みました。ただし、無痛分娩は自然なお産ではなく医療行為ですので、先ほどお話した副作用やデメリットはあります。どのようなお産の方法を選択するかは、価値観によって違いますので正解はありません。医師や助産婦さんと相談して、正しい情報を得て、自分で納得して選択することが大切だと思います」(吉本先生)

お話を伺ったのは…吉本裕子(よしもとゆうこ)先生

吉本レディースクリニック院長
産婦人科医。日本専門医機構認定専門医。高知医大(現・高知大学医学部)卒業。金沢大学付属病院、富山市民病院を経て現職。『Rp.+(レシピプラス)VOL.21 NO.1冬2022「ホルモンとくすり」』(南山堂)共同執筆。病気治療だけでなく、女性の人生に寄り添い、心身の拠り所となるクリニックとして定評がある。富山県内で最も多い年間600件近い分娩を行なっている産婦人科クリニック。無痛分娩の実績も多数。

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