【知っておくことで予防できる】40代更年期以降、女性ホルモン「エストロゲン」不足が招く病気とは?
“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。更年期に女性ホルモンのエストロゲンが減少すると、これまでのエストロゲンの恩恵に預かれなくなり、さまざまな病気や症状が起こりやすくなります。更年期障害はその代表ですが、それだけではありません。エストロゲンの分泌が減少することで、骨、血管、泌尿生殖器、脳の病気、生活習慣病にかかりやすいので注意が必要です。更年期から注意すべき病気について紹介します。知っておくことで予防ができます!
エストロゲンの減少は骨に影響します!
まず、女性ホルモン「エストロゲン」の分泌が減ることで注意したいのは、骨量の低下です。エストロゲンは、骨からカルシウムが減らないようにする働きがあります。そのため、更年期になってエストロゲンが減少すると、骨密度が減り、骨粗鬆症になりやすくなります。若いときに、無理なダイエットをして骨量が減っている人は特に、要注意です。更年期になったら、定期的に骨密度測定をしておくことが大切です。
悪玉コレステロール、動脈硬化にも関係!
また、エストロゲンには、コレステロールの増加を抑えたり、血管へのダメージを減らし、動脈硬化をガードしたりする働きもあります。更年期前の女性が男性に比べて、生活習慣病になりにくいのは、エストロゲンのおかげだったのです。
ですから、エストロゲンの分泌が減少することで、LDL(悪玉)コレステロールが増え、動脈硬化になりやすくなります。更年期以降にかかりやすい生活習慣病は、心臓系と血管系。エストロゲンには脂肪を燃やす働きがありますが、エストロゲンが減少する閉経後は、太りやすく、やせにくい状態になります。
また、血圧が上がり、脂質異常症にもなりやすくなります。その結果、脳梗塞、脳溢血などの脳血管障害や狭心症、心筋梗塞などの心疾患を起こしやすくなるのです。
エストロゲンの減少がさまざまな病気を招く
このように、更年期になってエストロゲンの分泌が減少すると、エストロゲンの恩恵に預かれなくなります。エストロゲンのバリアが解けるため、さまざまな病気や症状が起こりやすくなるのです。
この時期に起こる不調が更年期症状だと思って、我慢をしていたら、病気によるものだったと言うことがあります。不調を感じたら、まず婦人科を受診して、それが更年期によるものかどうかをきちんと確認することが大切です。同時に、骨粗鬆症や生活習慣病もチェックしてもらうとよいでしょう。
また逆に、エストロゲンは良い作用だけではありません。長期間、エストロゲンが分泌され続けていると、子宮体がん、乳がんの発生率も急上昇します。更年期以降に、子宮体がんや乳がんが増えるのは、これまでのエストロゲンの分泌の積み重ねであるともいえるのです。
閉経後は、こんな病気にご用心!
閉経してエストロゲンの分泌が減少することによって、起こりやすい症状や病気をあげます。今から予防できることもありますので、リスクを知って対策を立てましょう。
骨粗鬆症
骨からカルシウムとたんぱく質が抜け、骨がスカスカになり折れやすくなる病気です。50歳前後の更年期から増え、60代後半では約半数の女性が骨粗鬆症と言われています。エストロゲンには骨を維持する働きがあり、これが低下することで発症しやすくなるのです。予防にはカルシウム、ビタミンDの摂取が大切。女性ホルモン補充療法(HRT)は骨粗鬆症の予防に有効です。*1
子宮下垂、骨盤臓器脱(子宮脱など)
子宮下垂は、子宮の位置が腟の中まで下がってきている状態。子宮脱は、子宮が腟の入り口まで下がったり外へ出てきてしまう状態です。子宮以外にも骨盤内の臓器が下がってくるのが骨盤臓器脱です。特に、閉経後、子宮を支える骨盤底の筋肉が弾力を失い、緩んでしまうために起こりやすくなります。肛門や腟を引き締める骨盤底筋体操やトレーニングを行ない、予防することが大切です。*1
GSM (Genitourinary Syndrome of Menopause=閉経関連泌尿生殖器症候群)
閉経による女性ホルモンの分泌の低下によって生じる尿路生殖器の萎縮などの変化や、それに伴う不快な症状です。GSMは慢性で、かつ進行していく病態で、閉経以降の女性の約半数が罹患していると言われています。症状は、外陰部の乾燥、灼熱感、かゆみのような外陰部の皮膚症状や、排尿困難感、頻尿や尿意切迫感、繰り返す膀胱炎などの尿路系症状。さらに性交痛、オーガズム障害、性交後出血といった性機能に関する症状もあります。外陰部、腟の保湿や骨盤底トレーニングほかさまざまなケアや治療法があります。*2
うつ症状
エストロゲンが低下すると、脳の神経細胞の力も低下してしまうため、精神状態も不安定になります。閉経すると、不眠、脱力感、憂うつなどのうつ症状が増強されます。更年期によって低下した女性ホルモンを補充するホルモン補充療法(HRT)でも改善できます。 *1
関節リウマチ、シェーグレン症候群
いずれも自己免疫疾患のひとつで、膠原病の一種。40代以降の女性に発症することが多く、原因はわかっていません。関節リウマチは関節に炎症が起き、関節がこわばり腫れて痛くなる病気。シェーグレン症候群はドライアイ、ドライマウスが起こり、鼻や腟などの粘膜も乾燥します。膠原病を専門とする内分泌内科などで治療をします。*1
糖尿病
女性は、更年期以降に増える病気です。エストロゲンが低下すると、中性脂肪、LDL(悪玉)コレステロールが増えやすくなり、血糖値、HbA1c値も上がり、糖尿病に繋がります。糖尿病の原因は、遺伝的体質、肥満、カロリー過多の食生活、運動不足、精神的ストレス。運動と食生活で肥満予防を心がけることは重要です。更年期障害の治療に使う女性ホルモン補充療法(HRT)には、中性脂肪を増やさない作用があります。*1
腰痛
骨を維持する働きをもつエストロゲンが減少することで、腰椎に負担がかかり、腰椎の軟骨が変化し、椎間板変性症などにかかりやすくなります。また、中性脂肪が増え、腰周りの筋肉が弱くなることも腰痛を起こす要因です。体重を減らし、骨や筋肉を鍛えることも大事。女性ホルモン補充療法(HRT)には、骨や筋肉を強くしたり、中性脂肪を抑えるなどの作用があります。*1
肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)
肩関節周囲の組織が変化して炎症を起こします。エストロゲンの分泌の減少と老化で、骨や軟骨、筋肉が弱くなってきたことにより起こることが多い症状です。急な痛みには、冷やして安静にして、湿布薬や痛み止めで様子をみます。痛みが治まったら、ストレッチなどの運動を日ごろから心がけましょう。
動脈硬化症
血液中のコレステロールや中性脂肪が血管の壁に付着して、血管が狭くなったりもろくなったりして血液が流れにくくなることで起こります。更年期以降は、エストロゲンの分泌が減少することで、コレステロールや中性脂肪が増えやすくなるので注意が必要。予防のために食生活に気をつけ、運動を心がけることが大切。更年期障害の治療で女性ホルモン補充療法(HRT)を行っていると、動脈硬化予防に有効というデータもあります。*1
高血圧症
更年期を迎えると、これまで正常血圧だった人も、高血圧になることが少なくなりません。エストロゲンの分泌の低下により、血管を守っていたバリアが解けたり、自律神経の働きの低下、肥満やストレスなども原因となります。高血圧は動脈硬化の進行を早め、脳や心臓の循環障害も起こします。適度な運動と塩分に気をつけた食生活が大事です。できれば、生活習慣の見直しでコントロールします。*1
脂質異常症
血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪などが増加し、正常範囲を超えた状態を脂質異常症と言います。脂質異常症は放っておくと、動脈硬化、脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞などの生命にかかわる重大な病気を起こします。エストロゲンが減少する更年期以降は、くれぐれも肥満にならないように要注意です。特に、動物性脂肪、糖質、アルコールの摂り過ぎ、運動不足には気をつけましょう。*1
乳がん
乳がんの原因には、女性ホルモンのエストロゲンが深くかかわっていることが知られています。初潮年齢が低い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、初産年齢が遅い、授乳経験のないことなどが関係します。飲酒、閉経後の肥満、身体活動度が低いこともリスクに。また、体内にエストロゲンを加える経口避妊薬(OC)、閉経後のホルモン補充療法(HRT)は乳がんのリスクを若干、高めます。そのほか、乳がんや卵巣がんになった血縁者が複数いる(遺伝性乳がん卵巣がん症候群の可能性)、良性乳腺疾患にかかったことがある、マンモグラフィで高濃度乳房であることも、乳がんのリスクを高めます。40歳から2年に1回の乳がん検診と、月1回のセルフチェックが大切です。*3
子宮体がん
子宮体がんは、エストロゲンの刺激が長期間続くことが原因で発生する場合と、エストロゲンとは関係ない原因で発生する場合があります。約8割は、エストロゲンの長期的な刺激と関係していると考えられています。エストロゲンが関係している子宮体がんには、肥満、閉経が遅い、出産経験がないなどの人に、リスクが高くなります。また、乳がんの治療でタモキシフェンという薬剤を使っていたり、ホルモン補充療法(HRT)も、子宮体がんのリスクになるとされています。40代から増え、50歳から60代が最も多いがんです。*3
卵巣がん
近年、増加傾向にあり、40代から増加を始め、50代から60代でピークを迎え、その後は次第に減少します。卵巣がんの原因には、複数の要因が関係していると言われています。また、卵巣がんの約10%は遺伝性によるものと考えられていて、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子変異が発症する危険性を高めることがわかっています(遺伝性乳がん卵巣がん症候群の可能性)。ほかには、排卵の回数が多いと卵巣がんになりやすいと考えられているため、妊娠や出産の経験がない人や、初経が早く閉経が遅い人は、発症するリスクが高くなる可能性があります。低用量ピルの使用は予防になると言われています。*3
これらの病気の予防や早期発見のためにも、更年期の不調は、無理したり、我慢したりせず、つらい不調は婦人科を受診して、早いうちにケアすることが大事。もちろん、運動や食事で、生活習慣病などの予防的対策をとることもおすすめです。喫煙、肥満などにも注意が必要です。また、がん検診も大切、20歳からは子宮頸がん検診、40歳からは乳がん検診を定期的に受けましょう。
*1 『プレ更年期から始めよう』(かもがわ出版)
*2 『もう我慢しない! 更年期からのおしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)
*3 国立がん研究センターがん情報サービス
AUTHOR
増田美加
増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon
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