【乳腺外科医に聞く「乳がんの症状と予防」】乳がんはどうすれば防げる?見逃される乳がんってあるの?

 【乳腺外科医に聞く「乳がんの症状と予防」】乳がんはどうすれば防げる?見逃される乳がんってあるの?
AdobeStock
増田美加
増田美加
2024-09-30

“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。タレントの梅宮アンナさんが乳がんを告白したことで、「検診で見つからない乳がんってあるの?」と不安や疑問を持った方もいるでしょう。乳がんは日本女性の9人に1人がかかる、女性のがんで最も多いがんです。「乳がんは予防できる?」「早期発見法は?」乳がんについて知ることで、乳房と命を守りましょう。乳がん治療のスペシャリスト、乳腺外科医の片岡明美先生に聞きました。

広告

乳がんのどんな症状に、気をつければいいの?

乳がんが増えていることを知っていて、心配している女性も多いと思います。早めに、乳がんに気づくには、どのような自覚症状に気をつければいいのでしょうか?「乳がんの早期は、自覚症状はほとんどないのです。進行すると、乳房のしこり、皮膚にえくぼやただれができる、左右の乳房の形が非対称になる、乳頭から血液混じりの分泌液が出る、痛みなどの症状が起こります。でもこれらの症状は、早期ではない可能性が高まります」と乳腺外科医の片岡明美先生。

梅宮アンナさんが乳がんの中でも5%以下という稀な「浸潤性小葉がん」のステージ3Aで見つかったことを告白されました。人間ドックで毎年、検診を受けていたそうなのですが、このように、人間ドックの検診でマンモグラフィと超音波と両方を受けていても見つからない乳がんがあるのでしょうか?「おもに乳がんは、乳管というおっぱい(母乳)の通り道にできます。でも、浸潤性小葉がんは、乳房内の小葉というおっぱいをつくる部分にできる乳がんです。この浸潤性小葉がんは、通常の乳がんに比べて、複数の乳がんが同時に出現したり、両側の乳房にがんができることもあります。

浸潤性小葉がんは、マンモグラフィでは左右差、乳房の収縮や変形などを過去の検査画像と比較することが大切です。同じ医療機関で定期的に乳がん検診を受け、前回の画像との比較で診断につながりやすいがんなのです。検診は100%ではありません。画像には写らないがんもあります。仮に、検診を受けた翌日であっても、しこりを感じたり、乳首(乳頭)から出血したりなどの症状を感じたら、すぐに乳腺外科を受診しましょう。自分の乳房に日ごろから関心を持っておくことはとても大切です」と片岡先生。

早期発見のためにはどうすれば?

乳がん検診は、マンモグラフィを行なえばよいのでしょうか? どんな検査をするのがいいのですか?「早期発見のためには、自覚症状がないときに、乳がん検診を受けることが大切です。検診は、40歳以降、2年1回のマンモグラフィが基本です。

マンモグラフィ検診は、乳がん死亡率を減らすという意味で、有効性が科学的に確認されています。欧米では、乳がん検診を受診する人が60~80%で、乳がん死亡率は減少し続けています。しかし、日本では乳がん検診受診率が約40%です。乳がんで亡くなる人はまだ増えています。マンモグラフィで乳がんを見つけにくい乳房があることも知られています。マンモグラフィを受けていれば万全ということではありません。人によっては超音波検査を組み合わせたほうがいい人もいます。検診で“異常なし”と判定されても、自覚症状を感じたり、以前と違って気になることがあれば、医療機関を受診することが大切です」(片岡先生)

【マンモグラフィと超音波の長所・短所】

検査法には、それぞれ長所と短所があります。必要な人は、両方をうまく組み合わせて受けることも大切です。

乳がん検診
AdobeStock

マンモグラフィ

長所

・40歳から2年に1回受けることで乳がんを早期発見し、死亡率を下げるエビデンスがあります。
・脂肪の多い乳房に向いています。
・しこりになる前の悪性の石灰化を鮮明に映し出します。

短所

・脂肪が少なく胸全体が硬めの「高濃度乳房」の女性では、しこりが見えにくいです(後述)。
・微量ながら放射線被ばくを伴います。
・乳房を挟むため、人によって痛みが伴います。

超音波

長所

・高濃度乳房でも、しこりがわかります。
・放射線を伴わないので、妊娠中や頻繁に検査を行う必要がある人も可能です。
・しこりの周辺、内部の血流もわかります。
・痛みはありません。

短所

・超早期乳がんの石灰化は見えにくいです。
・乳がんの発見率は高まるものの、まだ死亡率低下のエビデンスはありません。
・偽陽性(乳がんでないのに乳がんを疑われる)が増える可能性があります。

マンモグラフィでは、がんを見つけにくい「高濃度乳房」

マンモグラフィではしこりが見つけにくく、乳がんリスクが高い、高濃度乳房(デンスブレスト)というタイプの乳房の人がいると言われています。この高濃度乳房とは、どんなタイプの乳房のことなのでしょうか?「乳房内の脂肪の割合がとても少なく乳房全体が硬めで、マンモグラフィでは真っ白に写ってしまう乳房のことです。日本人を含むアジア人に多いタイプです。高濃度乳房の問題はマンモグラフィでは、乳腺も、がんも同じように“白く”写るため、乳がんが見つけにくいことです。また、脂肪性の乳房に比べ、高濃度乳房は乳がんの発症リスクが高いと言われています」(片岡先生)

画像
写真提供/NPO法人乳がん画像診断ネットワーク

医師は、マンモグラフィの画像を上記の4分類に分けて判定します。右ふたつがアジア人に多い「高濃度乳房」で、がんがあっても見えにくいタイプ。欧米人に多い「脂肪性乳房」は乳腺が少なく、がんが見つけやすいタイプです。日本人では約40~70%の人が高濃度乳房と言われています。

高濃度乳房だったらどうするの?

もし、高濃度乳房だったらどうすればいいのでしょうか?

「超音波検査を組み合わせる方法があります。まず、高濃度乳房かどうかを知るには、マンモグラフィ検診を行なった後で、「高濃度乳房ですか?」と聞いてください。高濃度乳房かどうかは、マンモグラフィを撮ってみないとわかりません。もし、高濃度乳房だったら超音波を組み合わせてもいいでしょう。40代の高濃度乳房の人に、超音波とマンモグラフィを併用した場合のほうが、マンモグラフィだけの検査より、多くの乳がんが見つけられることがわかってきています。しかし、超音波はマンモグラフィに比べて、治療の必要のない良性の変化を拾いすぎる欠点もあります。受けるときは、それを理解したうえで受けると良いでしょう」(片岡先生)

梅宮アンナさんは、毎年人間ドックを受けていても見つからなかったようですが、乳がん検診は、どのくらいの間隔で受けるべきですか? 何歳から受け始めたほうが良いのでしょうか?

「乳がん検診は、40歳から2年に1回のマンモグラフィ検査が基本です。40歳未満では、検診を受ける不利益が大きくなってしまいます。乳がん検診は、20代30代から受け始めても不利益が上回るとされています。がん検診は、何歳から何年に1回の頻度で、どの検査を受けたらいいかまで科学的根拠(エビデンス)があり、それが乳がん検診の場合は、40歳から2年に1回のマンモグラフィ検査なのです。これが検診を受ける利益があり、不利益が最も小さくなる検診方法です。40歳未満や短い間隔で受けると、不利益が大きくなることがあります。正しい検査法を正しい年齢と受診間隔で行って初めて利益が得られるのです」(片岡先生)

がん検診の不利益ってなんなのですか?

「がん検診の不利益には、①がんの見逃しがある。②命にかかわらないがんまで見つけて不必要な検査や治療を行う場合がある(過剰診断)。③検査に伴うX線検査による放射線被曝が多少ある。④精密検査をする可能性があり、結果が出るまで精神的、時間的、経済的負担も伴います。ですから、がん検診で最大の利益を得るためには、決められた年齢から、定期的な検診間隔で受け続けることが大切なのです。ただし、気になる症状があったら、この限りではありません。40歳以上の方はもちろん、20代、30代の方であっても、乳腺外科を受診してください。また、血縁に乳がんや卵巣がんの方が複数いらっしゃる場合は、遺伝性、家族性の可能性があります。若い年齢で乳がんを発症することもあるので、20代でも一度、乳腺外科で相談してください」(片岡先生)

お話を伺ったのは…片岡明美(かたおかあけみ)先生

がん研有明病院 乳腺センター乳腺外科医長・トータルケアセンターサバイバーシップ支援室長

1994年、佐賀医科大学卒業。九州大学医学部第二外科、国立病院機構九州がんセンター乳腺科などを経て、2016年より現職。日本乳癌学会評議員、日本サポーティブケア学会妊孕性部会部会長。認定NPO法人乳房健康研究会副理事長、認定NPO法人ハッピーマンマ理事。

★第34回日本乳癌検診学会学術総会と片岡明美先生が所属する認定NPO法人乳房健康研究会が「乳がんを知るための一歩、知らせるための一歩、支えるためにもう一歩」をテーマに、第20回「ピンクリボンウオーク2024」を開催します!増え続ける乳がんに対し、参加者と企業や団体、公共団体が一丸となって、乳がん早期発見の大切さを伝え、乳がんにやさしい社会をめざして発信する大会です。ウォーキングアプリを使うので、全国どこからでも、誰でも参加できます! 10月1日~11月30日までの2カ月間、自分のペースで歩いて、乳がんの啓発活動に参加しませんか?

「ピンクリボンウオーク2024」

【公式サイト】https://pinkribbonwalk.breastcare.jp/   
【対象】主旨に賛同する方ならどなたでも
【開催期間】2024年10月1日~11月30日(エントリーは11月30日まで受け付けます)
【開催形式】アプリによるオンライン開催
【参加費】1,000円(税込み)、高校生以下無料
【参加賞】ぐんまちゃんピンクリボンバッジ、参加者の中から表彰、賞品あり
【共催】第34回日本乳癌検診学会学術総会、認定NPO法人乳房健康研究会

画像
広告

AUTHOR

増田美加

増田美加

増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。 もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

乳がん検診
画像
画像