しゃべるっきずむ!イベントレポート「ルッキズム社会で私たちを認め合う」前川裕奈さん×堀井美香さん

しゃべるっきずむ!イベントレポート「ルッキズム社会で私たちを認め合う」前川裕奈さん×堀井美香さん

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

Google Newsでヨガジャーナルの記事が見つけやすくなります

Googleに登録する
広告

今回は、2026年7月26日にkelluna.ポップアップストアと連動して開催した西武渋谷店でのトークイベントの内容を記事にしてお届けします。ゲストにお越しいただいたのは、フリーアナウンサーとしてご活躍されている堀井美香さん。朗読劇などの活動のみならず、大人気Podcast『Over the Sun』のパーソナリティも務められています。さまざまな場面でルッキズムに直面する、この社会をどう考えるか。堀井さんと前川さんの等身大なエピソードが詰まったトークです。

社会にも自分の中にも、ルッキズムはある

——今回のトークイベントの「ルッキズム社会で私たちを認め合う」というテーマを聞いたとき、堀井さんはどんな印象を持たれましたか?

堀井美香さん(以下、堀井):まずルッキズムってね、私自身も自分のなかにまだまだあると感じています。相手に嫌な思いをさせる表現や差別のある社会には必ずNOと言いますが、やっぱりルッキズム自体はあるんです。そんな矛盾を抱えた存在として、私はルッキズムを見ていますね。

この間も取材を受けて、送られてきた写真に対して「シワ取ってください」とか「この輪郭もうちょっと……」とか言っちゃうわけです。やっぱり「よく見られたい」という気持ちはあるし、完全にルッキズムから解脱している人はいないんじゃないかな。

しゃべるっきずむ

前川裕奈(以下、前川):私自身もブランドや講演、書籍などでセルフラブの大切さや「ルッキズムを払拭しよう」というメッセージを届けていますが、ルッキズムにとらわれることも全然まだあるんですよね。日頃から発信している私ですらそうなので、この社会で誰もがルッキズムに簡単に飲み込まれてしまうことは想像できます。

堀井:私は子どもたちにも、つい容姿のことを言ってしまうんです。息子に対して「締まってきていい感じじゃん」とか、娘には「ちょっと痩せた?」とか……。相手を喜ばせようと思って言っているわけなんですけれど、やっぱりそれもルッキズムじゃないですか?

前川:褒め言葉は特に悩みますよね。ただ、文脈や関係性ありきだとは思うんですね。堀井さんはお子さんたちが喜ぶとわかって言っているし、お子さんたちも堀井さんの意図がわかるから嫌な気持ちにはならないんじゃないかな、と。例えば、初めましての飲み会で「かわいいね」と言われるのとは、全然違うと思います。

堀井:たしかに、そうかもしれませんね。

前川:ルッキズムが難しいのは、マニュアル化ができないから。状況や相手が変わるなかで、単純に「この言葉は相手を傷つける」とか「これなら言ってOK!」とか、取扱説明書が作れないんです。だからこそ、日々の会話で「これってルッキズムかな?」「相手に嫌な思いをさせていないかな?」って、自問自答し続けなきゃいけないんだろうと思います。

しゃべるっきずむ

それぞれの価値観を、ただ“押し付けない”こと

——「相手を傷つけないかな」という意識と同時に、自分自身の見た目が気になる、という方も多いかと思います。おふたりは、社会からの押し付けや他人の視線が気になる方には、どういったことを伝えたいですか?

堀井:見た目も含むいろんな価値観って、本当に人それぞれなんですよね。例えば、一般的には胸が大きい人が好きな方も多くいらっしゃいますけど、私は自分のぺちゃんこの胸が好きだなと思っているので豊胸手術を考えることはありません。顔のパーツ、身体のスタイル、どれを取っても好き嫌いはそれぞれの価値観ですから、本当に人がどう思うかは関係ないんですよね。「私はこれが好きなんだ」と、自分をベースに置けるといいんじゃないかと思います。

前川:堀井さんがおっしゃるとおり、「好きだな」「こうなりたいな」と思う理想像も、本来はみんなバラバラ。私は好みがあることに人間らしさを感じるので「好みを払拭しよう」とは思っていなくて、払拭すべきは、好みを“押し付ける”ことだと伝えています。

例えば「胸は大きいほうがいい」みたいな好みの押し付け発言は、この社会の「こうあるべき」という美の画一化に加担してしまいます。それは単なる好みなだけで、事実でもないですし。そういう発言によって容姿が気になる人には「それは相手の価値観の押し付けなんだ」と気づいてほしいなと思います。

しゃべるっきずむ

堀井:単純な好みや主観を、汎用性があるものとして広めないってことですよね。もし受け取ってしまったら、「あなたはそうだけど、私はこう思う」という境界線をハッキリ持っておくのは大切だと思います。

「オバサン」という記号で起こす楽しい革命

——堀井さんがパーソナリティを務めるPodcast『Over the Sun』では、中高年女性のあるあるが多く取り上げられています。社会から当たり前のように若さや美しさを押し付けられてきた世代ではないかと感じていますが、そのあたりはどのように感じていますか?

堀井:私自身は取材で「若々しい」とか「50代なのに美しく」と書いていただくことも多いですけど、それに対してはシンプルに「ありがとうございます」という感じ。ただ、確かに今までは年を取る——つまりオバサンになることが社会でネガティブな扱いだったとは思うんです。「オバサンのくせにはしゃいじゃって」とか「オバサンなのにおしゃれして」みたいなね。

前川:確かに、一般的にオバサン・オジサンみたいな単語はコテコテの褒めの文脈よりは、自虐などのネガティブな印象が強くなりがちなワードですよね。

堀井:だけど、私は「オバサン」という言葉は、本当にいい記号をもらったなと思っているんです。オバサンという記号を使って、年齢を重ねることがこんなに楽しくてすばらしいことなんだというイメージをみんなで楽しく作り上げている感じ。「オバサンだから、これやっちゃおう」みたいな。若さや美しさではないところに新しい価値が生まれて、それがとっても生きやすい。楽しい革命ですよね。

しゃべるっきずむ

もともとは、ジェーン・スーと2人でそうやって「オバサンだから」を言い訳にちょっとおかしなことをしているだけの状態だったんですけど(笑)。そういう人がいっぱい増えることによって、社会全体が慣れていくのが大切なんじゃないかと思っています。

前川:「オバサンは楽しいよ」という価値観が広がっていく感じですよね。

堀井:そうそう。私が尊敬する漫画家のみうらじゅんさんもよく「とにかく目で慣らせ」と言ってるんですけど、やっぱり変化に慣らしていく必要がありますね。例えば、アナウンサーは、いわゆる「女子アナっぽい」とされる容姿が求められがちですが、そうではない人の割合が増えることで、当たり前が変わっていくんじゃないかとも思っていて。

だから、活躍したり楽しそうにしているオバサンがどんどん増えて、常態化して、みんなの目が慣れていくのがいいなって。「オバサンみんなで楽しくやろうぜ。それでいつか、バッチリ集合しようぜ」っていう企みが『Over the Sun』なのかなと思ってます。

前川:私は今、30代後半ですけど、20代の頃にいた環境では「30代なのにこんな服着て」とか「もう私30代だから、できないよ」みたいに言う先輩が多かったんです。それこそ「20代のうちに結婚や出産もしないと」みたいな圧も感じて、ものすごいストレスでした。それを聞いていたから、やっぱり年齢を重ねることって怖いことだし、何かの期限が迫ってくるように思っちゃってたなあ、と。

今はいざ自分が30代になってみるとすごく人生が楽しいので、それを後輩や部下に伝えていきたいですね。堀井さんたちのような先輩方が「40代も50代も、楽しいよ」と言ってくれるのが、私もとても嬉しいから。今は、30代が終わることも怖くないですし、早く迎え入れて〜の気持ちです(笑)。

堀井:私は54歳ですけど、年上の先輩たちに会うのが大好きなんです。20歳くらい上の方とお話しすると、的確な人生観を教えてくれるんですよね。この前も70代の方々に出会ったらパワフルで、本当に感動しました。後輩たちに「まだまだ楽しいじゃん」と思わせるって、役目として担っているなと思いますよね。

しゃべるっきずむ

——堀井さんは更年期になったときに、先輩たちからの助言もあったと言っていましたよね。「更年期」という言葉に出会ったことで、救われたご経験があったとか。

堀井:体調が悪くなり始めたとき、原因がわからなくて「なんでこんなにモヤモヤするんだろう」「私の気持ちが弱いからなんじゃないか」と悩んでいたんですね。でも、それに「更年期です」というバッジをもらったことで、次の行動に移ることができたんです。「オバサン」という記号と一緒で、更年期という名前がわかったら対処法を考えられる。言葉に頼る、というのも知恵として身につきました。

前川:私とルッキズムの関係も似ています。10〜20代のときは過食や拒食、過激なダイエットなどで苦しみましたが、それは「自分はそういう星の元に生まれてしまった」と思っていたんですね。だけど、ルッキズムという言葉を知って「私のせいじゃないんだ」と思えて解像度が上がりました。

堀井:当時の前川さんは、ダイエットしてどうなりたかったんですか?

前川:もう今となっては、わからないんです。当時は、みんながいいと言ってくれるもの、社会が認めてくれるものになりたかったんだと思います。痩せると周りが褒めてくれるから、エンドレスでとにかく痩せることだけに邁進していた感じ。でも、それって答えもゴールもないので、本当にモヤモヤした20代でしたね。ルッキズムという考え方に出会って、すぐに完治はしなくても、ようやく治療に進めるという感じだったのかなと思います。

支え合う仲間がいれば、きっと世の中は良くなっていく

——今日のテーマ「ルッキズム社会で私たちを認め合う」を考えるとき、私たちは「自分で自分を認める」のも大切だけれど、やっぱりお互いを認め合えたらいいなとも思います。前川さんは、これまでのブランド運営や連載をとおして多くの人に出会うなかで、何かご自身の変化はありますか?

前川:一番は「ひとりじゃない」と思えるようになったことです。セルフラブを人に伝えて寄り添うためにブランドを始めましたが、ポップアップなどでお客さんから「すごく悩んでいたけど、kelluna.を知って変わった」などと声をかけてもらうことで、私自身が励まされました。

堀井:本当に徐々に徐々に、見えてきますよね。『Over the Sun』でもイベントをすると「こんなにオバサンがいるんだ!」と思ったりします(笑)。支えてくれる人たちの存在に気づくだけでも力が湧きますよね。

しゃべるっきずむ

前川:「しゃべるっきずむ!」の連載にゲストで来てくださった方々とも、ルッキズムのない優しい社会を作っていく仲間だと勝手に思っています。活動内容や所属はバラバラだけれど、目指すものが同じ人たちと手を取り合っていけば、声は徐々に大きくなっていく。こんなに仲間がいるなら、世の中はきっと良くなっていくだろうって、希望的な気持ちになりますね。

堀井:わかります。今、『Over the Sun』は次の段階に入っている気がしてます。私とジェーン・スーがいなくても、みなさんが勝手に楽しんでくれている状況になってて……なんて言うんですか、知的財産?みたいな(笑)。私たちはシンボル的な存在としているけれど、周りのみなさんが勝手に支え合ったりしているんですね。それが直接的な行動ではなくても、何かあったらつながれると思えるだけで、すごく未来のあることだなと思います。

前川:とても共感します。kelluna.を立ち上げて旗を振ったのは私かもしれませんが、今はスタッフやお客さんたちとコミュニティができているなと感じるんです。いろいろなところで、そういった土壌ができて広がっていくことが結果的に社会を作っていくんだろうと思いますね。

堀井:素敵な進化の仕方ですよね。前川さんみたいに一生懸命活動している若い……とか言っちゃって54歳のオバサンあるあるだと思ってるんですけど(笑)、本当に応援したいし、一緒にやらせてくださいという気持ちです。

前川:嬉しいです!こちらこそ!!という感じです。私も、堀井さんのように輝いている先輩がいてくれることで、嬉しい時代に生まれてこられたなあ、と思えます。

しゃべるっきずむ

私たちがお互いを認め合うためにできる一歩

——最後に、この社会で生きていく私たちがお互いを認め合う社会をどうやって作っていけばいいのか、おふたりにお伺いしたいと思います。 『Over the Sun』でも、お互いがジャッジや否定をしない雰囲気が印象的ですよね。

堀井:とにかく否定は絶対しない、が根本にあります。もちろん不条理過ぎることは突っ込みますけど、趣味や身につけているもの、好きなことや考え方に対しては、私たちは必ず褒めから入りますね。この文化はすごくいいなと思ってて、「私はあんたの味方だよ」って全肯定してくれる人の存在って、心理的安全性につながりますよね。安心して生きる土台として、私もそういう人でありたいなと思います。

しゃべるっきずむ

前川:肯定から入るのってすごくいいですよね。今回のイベントの序盤のように「褒めることもルッキズムになり得る」という話をすると、結構「じゃあもう天気の話しかできない」と言う方もいるんですけど、本来は褒め言葉ってビタミンになります。それを一切なくしてしまうのは悲しいと思うので、褒め方、肯定方法を大切にしていきたいです。

一方で、「よかれと思った褒め言葉」が相手を傷つけてしまう場合も、確かにあります。じゃあどうやって見極めるのかって、やっぱり会話なんですよね。マニュアル化できないコミュニケーションのなかで、目の前の相手と丁寧に会話をしていく。「この人は、喜ぶかな」「私は嬉しいけど、相手は嫌かも」と考えながら、関係性を築いていくのが大切なんだと思います。とはいえ、私もまだまだ間違えてしまうことはあるので、そのときは謝って、また関係性を築き直していくしかないなとも思っています。

ーー本当に、コミュニケーションですよね。それでは、このルッキズム社会で私たちにできることをおふたりにお伺いして、イベントを閉じさせていただきたいと思います。

堀井:繰り返しになりますが、まず他人の目線を気にするのではなく、自分の考えに自信を持つこと。その体感をちゃんとベースに持っていたら、自然と「相手もそうだよね」ってお互いを認め合えると思うんです。

社会的な構造で言えば、今までの価値観とは違うものが現れたときに、バックアップして構造を変えていく一助になりたいですよね。例えば、今までの「アナウンサーはこういう容姿であるべき」というものとは違う切り口で採用や育成に取り組むとか、多様な活躍の場を作るようなことも、個人的にはやりたいなと思っています。

しゃべるっきずむ

前川:今回のテーマのとおり、本当に“認め合う”が大事だなと思っていて、それは“同じように考える”のとは違うんだと思います。ただ理解する、ただ認める、それで十分だと思っています。

私には家族のような存在の大親友がいるのですが、彼女にすら「そんなふうに感じるんだ」という発見は未だにありますし、必ずしも全て共感するかといったらそうでもなく、それは逆も然りで。ただ、それを強要するのではなく、理解して認め合うことでさらに距離が縮まっていくなと思って過ごしています。パートナーや仕事相手、家族でも同じだと思っていて、異なる価値観や共感できない部分も含めて、やっぱり知ろうとする歩み寄りが大事。相手の言葉を聞いて、自分も言葉を尽くす。そういう地道な、でも大切なことを私はこれからも続けていきたいなと思っています。

しゃべる

プロフィール

堀井美香さん 

1972年生まれ。元TBSアナウンサー。新日本フィルハーモニー交響楽団とのコンサートのプロデュース、自身主催の語りの会公演など幅広く活躍。Podcast番組『OVER THE SUN』やTBSテレビ『坂上&指原のつぶれない店』NHK『歴史探偵』ナレーションなど担当番組も多数。 

前川裕奈さん

1989年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。三井不動産に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。その後、 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。ヨガジャーナルオンラインではコラム「ルッキズムひとり語り」を連載中。 

Google Newsでヨガジャーナルの記事が見つけやすくなります

Googleに登録する
広告

撮影/長谷川梓

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべるっきずむ
しゃべる