「私なんて美しくない」と言う人へフォトグラファーが伝えたいこと|連載 #しゃべるっきずむ!

「私なんて美しくない」と言う人へフォトグラファーが伝えたいこと|連載 #しゃべるっきずむ!
しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

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第16回は、主に広告写真を撮影するフォトグラファー・ビデオグラファーのビュックギュゼル レジェップさんにお越しいただきました。

人の“容姿”を撮影するレジェップさんが考える「美」とは、一体どのようなものなのでしょうか。日々進化し続けている加工技術や生成AIについても、おしゃべりしながら考えを深めました。

トルコ、日本、スリランカ、そして世界中で違う“人気の顔”

前川:レジェップはトルコにもルーツがあって、今でも二カ国を行き来しているよね。以前、レジェップと一緒にトルコに行ったときに鼻にガーゼをつけてるダウンタイム中の人と何度かすれ違ったのが印象的で、「トルコでは鼻を小さくする整形が流行っている」と教えてくれたよね。日本では鼻を高くする整形が人気なのに、真逆じゃん!と思ったんだ。

レジェップ:世界中どこでも同じだと思うけれど、トルコにもやっぱり“人気の顔”があって、スタンダードなのはシュッとした輪郭で、小さい鼻、ボリューミーな唇。歯科矯正や植毛も人気で、ヨーロッパの他の国から整形のために訪れる人も多いよ。

前川:そんなに整形が一般的な国だとは知らなかった!植毛があるってことは、トルコでも日本でも、男性の髪の毛がなくなっていくことへの抵抗感は同じなんだね。

レジェップ:本当に人それぞれだとは思うけどね。かつては「髪の毛がない男性のほうが裕福」というイメージがトルコにはあったみたいだよ。あと日焼けについても、トルコだと色白の人は「ずっと働いている(働かざるをえない)」みたいなイメージが強い。日本は男女ともに美白が今はトレンドだね。

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前川:欧米だと女性も積極的に肌を焼く人が多いよね。美しさの基準が、本当に全然違う。

レジェップ:身だしなみや服装の流行も、トルコと日本だとまったく違うね。「場所によって美しいとされるものが違う」とわかったのは、2つの国を行き来してよかったことかもしれない。裕奈さんも、スリランカと行き来しててそれは感じるでしょ?

前川:そうだね。先日スリランカに出張で行った時は、日本ではよく話題になる「一重」と「二重」の概念が現地の友達になかなか伝わらず、一生懸命、目の上の線の有無について説明したのが記憶に新しいな。

過去の「しゃべるっきずむ!」でも、笛美さんやmikikoさんが似たようなことを言っていた覚えがある。私自身も、スリランカやアメリカでの経験から多様な美に気づくことができたから、広い世界を見ることをおすすめしたいな。たとえ現地に行けなくても、こうして外を見てきた人の話を聞いたり読んだり、ネットでワープすることもできるしね。

「太っている自分が悪い」と思ってしまう日本

前川:ほかにもレジェップから見て、日本とトルコの違いって何かある?

レジェップ:日本だと「痩せたい」と思ったらまず「運動しよう」となるでしょう? トルコの人はあんまり運動しないで、薬を飲んだりマッサージしてくれる機械を使って痩せようとするんだよね。運動したほうがいいと思うんだけど……(笑)

前川:そうなんだ!

レジェップ:トルコにはスポーツジムやパーソナルトレーナーなど、運動を促すような広告もほとんどない。スポーツ選手やマッチョな男性が出ているものも、男性向けの髭剃りの広告だったりするなあ。薬は心臓病やガンへの影響があると言われていて、健康リスクが深刻なんだけど、それでも薬や美容整形などの力を借りて痩せようとすることが多い印象。

前川:日本は太ったら「怠惰」「努力が足りない」という視点が強くて、食事制限や運動に関心が向くよね。薬や整形にももちろんデメリットはあると思うんだけど、日本の「あなたの努力が足りない」と資本主義が煽ってくるのもしんどいなと思う。

レジェップ:国民性の違いだね。トルコは割と他責思考というか、自分を責めることは少ない。

前川:ルッキズムで苦しむ人の多くは「私が太っているから悪いんだ」「私が可愛くないからダメなんだ」って、自分を責めてしまう。だから、この連載を始めとした発信では「あなたのせいじゃなくて、そう思わせている社会のせいだよ」としつこいくらい伝えているんだけど。トルコは自分への攻撃が少ないのは、いいよね。これはスリランカ似てるかもしれない(笑)

レジェップ:ちょっと少なすぎるかもしれないけど(笑)

前川:自分と違う環境に行ったことのある人の話を聞くだけでも、自分を楽にしたり社会の見え方が変わったりするよね。

その人なりの美しさを表現したい

レジェップ:日本社会では特に「ありのままの自分で十分美しい」と思えない人が多いよね。私はたくさんの人の写真を撮ってきて、「その人にはその人なりの美しさがある」と心から思うのに。あと、美は見た目だけじゃないとも思ってる。

前川:最近は「美しさは容姿だけじゃない」という言葉も聞くけれど、やっぱり「とはいえ、見た目でしょ」という風潮も根強くあって……。だから、フォトグラファーであるレジェップがそう信じているのは、すごく大事なことだと思うよ。

レジェップ:私は撮影するときに「演技しなくていいから、“自分”でいてください」と伝えるようにしていて。光の当たり方などで立ち位置を指定することもあるけれど、それ以外はその人そのものを撮りたい。そうして出来上がった写真は、本当に美しいと思うから。私に見えている美しさを、本人にも見てほしいと思って撮影してるよ。

前川:レジェップに撮ってもらった写真を見ると「かわいい、かっこいい」というよりも、「いい表情をしているな、よく撮れているな」と思うんだよね。

撮影:Recep Buyukguzel
撮影:Recep Buyukguzel
撮影:Recep Buyukguzel
撮影:Recep Buyukguzel
撮影:Recep Buyukguzel
撮影:Recep Buyukguzel

レジェップ:それは嬉しい。以前、友人を撮影したとき、本人は「背が低いから、美しくない」とネガティブな発言が多かったんだけど、私が撮影したものを送ったらすごく喜んで「きれい」と言ってくれたんだよね。やっぱり、みんなが持っている美しさを引き出すきっかけが必要なだけなんだと思ったね。

前川:社会の声や他人との比較ではなくて、本当の意味で客観的に自分を見られる場が必要なのかもしれないね。

レジェップ:そうだね。その気づきを与えるものは、写真や動画だけでなくて、文章や絵や言葉、なんでもいいと思う。私にとってはその手段が撮影だから、人々をありのままで、美しいままで表現して、勇気を与えたいなと思う。みんなが美しさに気づくきっかけ作りとして撮影をしていきたいね。

前川:いいね!今後、何かそういうきっかけを作るイベントができたらいいかもしれない。今日は本当にありがとう!

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ビュックギュゼル レジェップさん

トルコ・アンカラ出身。明治大学国際日本学部卒。英語留学のため訪れたニュージーランドで、日本人の友人ができたことをきっかけに日本に渡る。渡日後はJET日本語学校にて日本語を学び、明治大学国際日本学部に入学。メディアを通して日本のことを海外に発信する方法について学ぶほか、ゼミではヒューマンライブラリー(障がいや社会的マイノリティを抱える人を本に見立て、参加者と直接対話することで相互理解を深める試み)の企画・運営などに携わる。また、在学中は体育会合気道部とカメラクラブを兼部。東京の街を歩きながらストリートスナップを撮ることを趣味としていた。現在は日本とトルコを行き来しながら、広告を中心とした動画・写真などのビデオグラファー・フォトグラファーとして活動中。ゆくゆくは、ドキュメンタリーや日本とトルコを繋ぐ動画をつくることを目標としている。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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撮影:Recep Buyukguzel
撮影:Recep Buyukguzel
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