しゃべるっきずむ! 私にとっての「いいフィットネス」とは|前川裕奈さん×mikikoさん(2)

 しゃべるっきずむ! 私にとっての「いいフィットネス」とは|前川裕奈さん×mikikoさん(2)

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。第9回は、ニュージーランドを拠点にパーソナルトレーナーとして働くmikikoさんと「運動とルッキズム」について、おしゃべりしました。

広告

「走るのいいよ〜」が届かないことも……

裕奈:前回のお話のとおり、海外では体型についての気付きもあったんですけど、フィットネスの捉え方も大きく変わったんですよね。長年、私にとってのランニングは「痩せるため」のものでした。それが仲間と一緒に景色を楽しみながら走る楽しいものや、気持ちをスッキリさせる時間になりました。同じ「走る」という足を前後に動かす動作でも、自分の捉え方次第でこんなにも見える世界が変わるんだ……と実感しています。

mikiko:うんうん。

裕奈:そういう自分の経験もあって、kelluna.や講演などを通して、ルッキズム問題の発信をしているわけなんですけれども、難しさも感じますね。やっぱり私自身は心から「体を動かすのはメンタルにもいいよ!」と思っても、運動が好きじゃない人からすると押し付けにもなってしまうから。パーソナルトレーナーであるmikikoさんは、どうやってオススメしていますか?

mikiko:運動が嫌いな人と話をする場面は、大抵私に運動のアドバイスを求めているときなんですよね。「好きじゃないんですけど、筋トレしなきゃと思うんですよね」とか、「ジムに行ったほうがいいですよね」と相談される。そのときには、必ず「運動してて楽しい?」って聞きます。

裕奈:ふむふむ。

mikiko:「楽しくはないけど、やらなきゃと思ってて」という場合、それは“タスク”になっちゃってる。私は、人生でやりたくないことはやらなくていいと思うんですよ。人生を楽しむためにフィットネスがあるのはいいけど、そのせいで人生や気分が嫌になっちゃうなら、それはフィットネスの種類が違うのかもねって話をします。

裕奈:フィットネスの種類?

自分に合ったフィットネスとは?

mikiko
画像提供:mikikoさん

mikiko:私の場合は、ランニングがすごく苦手なんです。どんなやり方でランニングを織り交ぜても、どうしても「苦しい」が勝ってしまって。それはもうランニングは自分に合わないのだと割り切っているんです。

裕奈:合う合わないってありますよね。有酸素、無酸素、球技など、「運動/フィットネスジム」といってもいろいろ。私もダンスやヨガはどうしても好きになれなかったのを思い出しました。ランニングも好き嫌いがかなり分かれる種目だと思います。

mikiko:そうなんです。私は筋トレだったら楽しくできるし、音楽がかかれば体を動かして踊っちゃう。「運動嫌いなんですよね」と言ってる人も、ディズニーランドで1日3万歩も歩いたり、カラオケで跳び跳ねて歌ったりするのは平気ですよね。「運動嫌い」の人は、体育の授業が嫌いだった人が多いので、自分が楽しいと思えるフィットネスの種類を選べるなら、運動の捉え方も変わるんじゃない?という話は必ずするようにしてます。

裕奈:「運動/フィットネス」と捉える範囲はもっと広いよね、と。私が経営しているkelluna.でも、「ライフスタイルとしてのフィットネス」を伝えています。「痩せるために運動しなきゃいけない」じゃなくて、自分が心地よいと思う動きをしてみようって。ゆったり散歩するのが合う人もいれば、スピード出して爆走したい人もいる。正解はないから、楽しいことをやっていこうというのはめちゃくちゃ共感します。ランニングで言えば、長距離走ったり速度の速い人が「すごい」とされがちだけど、そういうわけではない。筋トレのウェイトの重さだって人それぞれだしね。

mikiko:「この運動の方が痩せる」とか、体型を軸に良し悪しを決めちゃう人も多いのかもしれない。そうすると自分が感じる楽しさは、後回しになっちゃうんですよね。「心が上がったり、体調がよくなる運動はなんだろう」って、体調を軸にすると、本当に自分がやりたいフィットネスが見えてくるような気がします。

裕奈:たしかに、そうですね。私はアニメが好きなので、走るときにアニソンをBGMにすると心が上がることがわかっています。そういう自分が心躍る運動や工夫ってなんだろうって、宝探しする感覚で運動に向き合えると、もっと気楽になるのかもしれませんね。見つけるまでが大変だけど、見つかってしまえばライフスタイルになる。

その運動は、何のため?

裕奈:日本は「人生を楽しむための運動」とか「心身ともに強くなりたいから運動する」みたいなことがやはり少ないですよね。どうしても「運動=痩せるため」のイメージが強い。メディアや広告でも、いかに「痩せていることが美しいか」を煽ってきますし。

mikiko:そうですね。人によるのかもしれないけれど、「強くなったり筋肉がついたらモテない」という思いは、かつての私のなかにはありました。“女性らしさ”にハマれない自分への強迫観念があったのかなって。ただ、それは自分が「痩せたい」というより、「周りからどう思われるか」「異性にモテないから」などの、社会圧やジェンダーの関係になってくると思うんですけどね。

裕奈:そうなんですよね。必ずしも「痩せようとすることが悪」だとも思っていなくて。私もマラソンのレースの前になると、減量はするんですね。少しでも軽いほうが体への負担も減るし、いいタイムも出やすいから。ただ、それをSNSに載せると「“痩せるために運動しなくていい”とか言ってるくせに、自分も痩せようとしてるじゃん」ってコメントが来たりして(笑)

mikiko:へえ!

裕奈:「良い/悪い」の、もう1歩先まで思考を巡らせてほしいなってすごく思うんですよね。「ルッキズムをなくそう」と発信することと、運動して変わろうとすることがダブルスタンダードのように捉えられてしまうことに、最近は違和感を感じています。mikikoさんも「痩せることだけが正義じゃない」と発信するトレーナーとして、そういった経験はありますか?

あなたにとっての“いい体型”を見つけよう

mikiko:実は、まさにそういう質問が来たことがあります。「痩せるための運動じゃないと言ってるけど、ご自身はなんで腹筋そんな割れてるんですか?」って。それには「腹筋が割れているのは、私にとって副産物です」と、お返事したんです。

私にとっては順番が逆というか。私は腹筋を割りたくて運動しているのではなくて、毎朝元気にベッドから起き上がりたいとか、生理不順がないとか、“体調がいい自分”でいたい。私の場合は、体調がいい体型が、たまたま腹筋が割れているような体型だったというだけなんです。

裕奈:うんうん、わかります。

mikiko:そのときに、私にとってはこれが“体調のいい体型”だけれども、それは人によって違うんだろうなと思ったんです。一般的にプラスサイズと言われる体型だったり、ガリガリと言われる体型だったりしても、本人にとっては体調がベストな正解かもしれない。周りがなんと言おうと、自分が正解を知ってるんだから大丈夫と伝えたいです。

裕奈:そうなんですよね。日本は欧米に比べて、個々の体型の差が大きくないので、どうしても「標準体型」にハマっていないことが気になってしまうのかなと思います。アパレルブランドを経営するなかで、XXLなどを用意していますが、やはり購入はXSやSに偏っていますし。

mikiko:そうですね。ニュージーランドだと、白人、黒人、アジア、南太平洋などさまざまな人種や体型の人に出会えますが、それに比べると日本人の違いは微差。テレビや広告を見ても似たような体型の人ばかりで、正解の範囲というか、良しとされる「基準」がある程度決まってるのを感じます。

私はニュージーランドに来て初めて、SMAPの『世界に一つだけの花』の意味を実感したんですよ。本当にみんながそれぞれの美しさを持っているんだって。日本に住んでいても、いろいろな正解があっていいんだと心から納得できる機会が増えていくといいなと思っています。

*次回、「自分のため」の自分軸はどう見つけるの?3本目「本当の意味での”自分軸”の見つけ方」は、こちらから。

 

mikikoさん

ニュージーランド公認パーソナルトレーナー。栄養・睡眠・行動心理など、運動だけにとらわれない視点の指導が特徴。。2017年よりフィットネス先進国のニュージーランドへ移住。世界各国からレッスンの依頼が殺到する、予約半年待ちのトレーナーに。過去には流行りのダイエット情報を追いかけて失敗し、摂食障害、20歳にして失明の危機に直面。この経験を活かして、現在は多くのダイエット迷子に向けた発信に力を入れている。著書「ベストセルフダイエット」(Gakken)をはじめ、「ヨガジャーナルオンライン」での記事執筆、TVメディア出演など、各方面で活躍中。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

広告

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

mikiko
しゃべるっきずむ! 私にとっての「いいフィットネス」とは|前川裕奈さん×mikikoさん(2)
しゃべるっきずむ! 私にとっての「いいフィットネス」とは|前川裕奈さん×mikikoさん(2)
しゃべるっきずむ! 私にとっての「いいフィットネス」とは|前川裕奈さん×mikikoさん(2)