「ルッキズム」を作っている犯人、私たちが戦う相手は誰なのか|前川裕奈さん×アルテイシアさん(3)

 「ルッキズム」を作っている犯人、私たちが戦う相手は誰なのか|前川裕奈さん×アルテイシアさん(3)

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」などを発信する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載「しゃべるっきずむ!」がスタート。第一回は、フェミニズムについて多数著書を出版されている作家のアルテイシアさんとおしゃべりしました。

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「ルッキズム」は、社会の問題だ

ーーこれまで、ルッキズムのどんなところがNGなのか、どういった声のかけ方が適切なのかをお話しいただきました。ルッキズムという言葉は広がっている一方で、実際にはまだまだ「痩せなければ」「きれいにならなければ」という価値観が蔓延していると感じます。こういった世の中のなかで、私たちはどう生きていけばいいんでしょうか。

アルテイシア(以下、アル):「太りたくない」「痩せないと」と思ってしまう人が悪いのではなく、やっぱり「容姿差別のある社会」が悪いんだと思います。ルッキズムという言葉は、それを気づかせてくれる一歩だと思いますね。

前川裕奈(以下、前川):本当に、社会全体の問題ですよね。

アル:ルッキズムは性別に関わらず問題ですが、多くのルッキズムは女性蔑視とつながっていることが多いです。例えば、昭和の求人広告には「容姿端麗な女性求む」みたいな、ルッキズムと女性差別ど真ん中な文言が書かれていたんです。現在でも「就活メイク」を求められるのは女性ですよね。「女の価値は美しさ」という価値観が本当に根深い。男性に比べて女性が10倍も摂食障害になりやすいと聞きますが、それも頷けますよね。

前川:ご著書の『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』のなかで、アルテイシアさんのお母さんもルッキズムに囚われていた描写がありましたよね。

アル:はい、特に反響の大きかった部分です。母は拒食症で入院してミイラみたいな状態で、お医者さんに「お医者さんと結婚したいから紹介して」と頼んでいたんです。結局母は50代で亡くなったんですが、部屋には20代のギャルが着るような服が溢れていて。母の生きた時代は、女性が自立して生きていく道がすごく狭かった。男に選ばれて幸せにしてもらうために若く美しく在らねば、という社会構造の被害者だったんだなと思いました。

前川:幸せになるためには、社会の求める「美しさ」に沿っていくしかなかった、という。

アル:私の女友達は中学生の時に、お母さんから整形を勧められて二重瞼にしたんですけど、弟は一重瞼でも何も言われなかったそうです。その子は自分の一重瞼が本当は好きだったのに、と傷ついていました。

前川:仕事を得たり、結婚相手を見つけたり。女性が生きていくために「容姿」が求められる社会は、やはり健全じゃないですね。

SNSがルッキズムに与える影響

前川:現代だと、みんなが「痩せなきゃ」「きれいにならなきゃ」と思う背景には、SNSの影響も大きいと思います。ルッキズムという言葉が認知されてもなお、写真や動画をとおしてフォローやいいねがつくSNSでは、見た目を気にせずにはいられない、というか。

アル:世界中に見られてしまいますもんね。私が10代の頃はSNSなんて影も形もなくて、写真をプリントして友達に配る時代。一部の人しか見ないものだし、その写真に対して面と向かって「太ってる」なんて言われないわけです。でも、今は写真を撮ったらSNSにアップするのが当たり前になっていて、悪口を言われたり、自分でも比べちゃったりする。常に人気投票や美人コンテストに出されているような状態はつらいだろうなと思いますね。

前川:私自身、20代の頃、ダイエット沼にいた時は、SNSで「痩せたね」「脚ほそい!」といったコメントがほしくて写真を載せていたこともあったので、よくわかります。そして当時は加工アプリもなかったので、方法はガチで痩せるしかなかったですし。

アル:あと、SNSやインフルエンサー文化の「美は努力で作れる」といったメッセージも気になります。裏を返せば「ブスは努力しないからダメ」という“自己責任”にされてしまうのが、何重にもつらい。以前授業をした高校の生徒も、メイクをしていないと「手抜き」と言われるから、移動教室のたびに化粧直しをしていると言っていました。

前川:しんどいですね……。実は、私はSNSも加工アプリも悪だとは思っていなくて、ただ、うまく付き合う必要があると感じています。私自身もSNSに苦しめられた過去がある一方で、起業の際にはSNSでたくさんの人に応援してもらった経験もあるし、メリットもたくさんあるので。肌艶加工は、私だって必須でやりますよ(笑)。

アル:私も古(いにしえ)のSNS「mixi」出身ですから、恩寵は受けてます(笑)。SNSによってフェミニズムやルッキズムや摂食障害などの情報が入ってきやすくなっているのも、いいことです。ただ、やっぱり10代の若い子たちにはネガティブな影響も大きい。SNSを安全な場所にするのも、大人の責任だと思います。

前川:本当にそうですね。

裏には「社会の思惑」があることを知る

アル:知っておいてほしいのは、SNSやインターネット自体が、資本主義や消費にダイレクトに結びついていること。広告主はどうにかして我々に物を売ろうとしているんだってことを、理解しておくのが大事だと思います。

前川:私ね、広告についてちょっと言いたいんですけど、どうして「脱毛しないと恋人に捨てられる」とか「痩せないと人から嫌われる」みたいな内容ばかりなんでしょう!?脱毛や整形をしたい人はすればいいと思うけど、「誰かに嫌われないため」って売り文句なのがいつも嫌なんです。

アル:脅迫商法ですよね。脱毛はずっと昔から「毛の生えた女は男に嫌われる」というストーリーで顧客を獲得しています。それが最近では、我々中高年の陰毛が狙われて「介護脱毛しないと介護士に迷惑かける」なんて脅されてますから。女はババアになってまで、プライベートゾーンについてまで「他人に迷惑かけないように」と気遣いを求められるのか、ふざけんなと思いつつ、こういった発信の裏にはビジネスがあるんだと知っておくのが大事だなと。

前川:そうですね。私もルッキズムの発信をしているからか、SNSを開けば整形や美容の広告ばかりなんです。私はそれを「自分が検索しているからターゲティングされている」と理解できるけれど、10代の頃だったら「やっぱり私はブスなんだ」と思わされていたと思います。

kelluna.代表・前川裕奈さん

残念な自分を受け入れる「落としどころ」

アル:アイドルやモデルなど10代に憧れられる存在は、本当にみんな細い。あんなスーパースリムな姿を「理想の美」にしてしまうと「自分はなんて醜く太っているんだ」と思わされてしまいますよね。

前川:そうですね。K-POPアイドルも、日本のアイドルのようなぱっちり二重じゃなくてもいいんだという多様性を見せてくれる一方で、やっぱりすごく細いですし。男性アイドルも基本的には高身長やマッチョだったりするので、男性へのプレッシャーも高まっているんじゃないかなと思います。

アル:そうですね。メンズメイクが流行っているのも「男は化粧するな」みたいなジェンダーの呪いを壊すポジティブな動きとしては大賛成ですが、それが「男も美しくなければいけない」という抑圧になってしまうと問題だなと思いますね。

前川:「美しさはこういうものだ」の押し付けになってしまうのは嫌ですよね……。

アル:私自身は、自分の体を「美しい」とか「愛してる」とまでは思わないんですよ。容姿コンプレックスの塊だった昔に比べて、容姿に関心がなくなった。容姿以外に興味のあるものや大切なことが増えたことで、ルッキズムの呪いから解放されました。「すべての人は美しい」「自分の体を愛そう」というボディポジティブは、自分にはちょっとハードルが高いような気がするので、「ありのままの自分で、まあいっか」ぐらいがリアルだなと思ってます。

前川:日本語で言う「美しい」という言葉の定義自体が、ハードルの高いものになっているのかもしれないなと、今お話を聞いてて思いました。

アル:さっき話に出たシオリーヌちゃんの著書のなかで、精神科医の宮田雄吾さんが「ちょっと残念な自分を受け入れる必要がある」と言ってるんですね。絶望するのではなく、健全に諦める。自分の体は完璧じゃないし、もっとここが痩せたらいいのにと思うけど、まあ健康だし好きなもの食べられる人生は楽しいし……と、落としどころを見つけるような感じ。そうじゃないと、やっぱり摂食障害や整形依存症につながってしまうと思うんですよね。

前川:そうですね。最近は、アプリで加工した後の写真を持って「これにしてください」と整形する子が増えているとも聞きました。落としどころが見つけられないと、「まだ足りない」「もっともっと」と整形もダイエットも止まらなくなるのかもしれません。

個人の呪いは、社会全体の呪いでもある

アル:あとは、自分の見た目を愛せなくても、他で自信を持てるものがあればいいと私は思うんですよね。私は学生時代、「面白いね」とか「文章うまいね」と褒めてもらえたことで、容姿コンプレックスがあってもまあいっかと思えたところがあるんです。見た目以外で自信を持てることが増えていったり、見た目関係なく自分を好きだと言ってくれる人が増えたりしたらいいんじゃないかなって。

前川:たしかに。ただ、そういった自分に自信を持つためには経験値が必要ですよね。例えば、作家の湊かなえさんもルッキズムにとらわれていた過去があって、「小説で賞を取り始めて自信が持てたことでダイエットから卒業できた」と書いていました。本当に素晴らしいことだと思う一方で、そこまでの結果や挑戦できる環境が整っていない人もいると思うんです。

アル:どんな人が周りにいるか、も重要ですしね。

前川:そうです。だから、特に若いうちは、手っ取り早く自信をつけられる容姿に行きがちなんだろうなと思います。ルッキズムは年代や性別問わずの課題ですが、やっぱり1番リスクを抱えてるのは中高生だと思うので、この対談も含めて日本の10代の子たちに届けたい、という気持ちで発信しています。

アル:多様なロールモデルが必要なんだろうと思います。あとはみんなが「私はどう在りたいのか」と理想の自分を想像してみるといいかもしれませんね。例えば、私は「美魔女は頑張りやさんですごいなあ」と思うけど、自分が美魔女になりたいとは思わない。若く美しく見える中年女性より、おしゃれで面白い中年女性になりたいです。私はジェンダーしゃべり場という会を開いて、みんなでセクハラや性差別など日頃のモヤモヤを話す場を作っているんです。「取引先のおじさんに『レイプしたい顔してるね』と言われた」みたいな、もうマジで現行犯逮捕されていい発言とかもあって。

前川:最悪ですね。

アル:でしょ。そういう話をしていると、みんな「ひどい目に遭ってるのは私だけじゃないんだ。これは社会の問題なんだ」って気づき始めるんですよ。フェミニズムの“The personal is political(個人的なことは政治的なこと)"というスローガンのとおり、こんな社会がおかしいんだから、みんなで変えていこう!というふうに変わってくる。

前川:わかります。私も本を書いてみたら「私もそうだった」「救われた」「考え方が変わった」という声をたくさんもらいました。私自身はインフルエンサーでもない小さな声だけど、草の根でコツコツ発信していくことで社会の変化につながると思っています。今回のアルテイシアさんとのおしゃべりも、必要な人に届いて、少しでも社会の変化につながっていったらいいなと思っています。

作家・アルテイシアさん

プロフィール

アルテイシアさん

1976年、神戸市生まれ。大学卒業後、広告会社に勤務。2005年に『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。著書に『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか?!』ほか多数。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranalコラム「ルッキズムひとり語り」

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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