「私は美しい」以外のルッキズムとの戦い方|『わたしの体に呪いをかけるな』【レビュー】
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。今回は『わたしの体に呪いをかけるな』(双葉社・金井真弓訳)を取り上げる。
「自分の外見に100パーセント満足し、これまで一度もコンプレックスを抱いたことがない」という人は少ないだろう。一般的に美しいとされている人だって、「ここがもうちょっと〇〇だったら」と不満を感じることは多いし、美しいとされてきたからこそ、加齢による変化に敏感だったりもする。
なぜ外見に不満を抱くのか。それはあなたの外見が、「完璧ではない、標準的ではない、美しくない、努力で変えるべき」だからだろうか。
コンプレックスを感じ恥じ入ったり、ときには外見を嘲笑われたり、差別されたりするのは、あなたに原因があるのだろうか。
そうではない、とリンディ・ウエストは言う。『わたしの体に呪いをかけるな』(金井真弓・訳/双葉社)は、著述家でコメディアンのリンディが、外見差別を含む様々な不正義に真正面から切り込んだエッセイ集だ。
声を上げる女性に対する容姿バッシング
公の場所に出て、声高に何かを主張する女性がバッシングにさらされやすい傾向は、洋の東西を問わない。女性の場合、当人の活動や主張とは本来無関係なはずの外見も、バッシングのネタにされがちだ。2016年、石原慎太郎が小池百合子を「大年増の厚化粧」と罵倒したことがあったが、自分よりも20歳も若い政治家の年齢や外見を揶揄の対象になる判断したのはなぜだろうか? それは、小池が女性だからだ。石原は、小池と同年代の男性政治家の容姿や年齢が問題になるとさえ思っていなかっただろう。
2021年の今、顔出し名指しでそういった暴言を吐く人は絶滅危惧種ではあるものの、匿名のバッシングは未だ健在だ。ツイッター誕生以前の2006年時点でさえ、SNSで女性であることを示唆するユーザー名を使用すると、男性名の場合に比べ、性的なコメントや嫌がらせの数が最大25倍に増えたという調査結果もある。
リンディも日々、膨大な数の性的なコメント、嫌がらせコメントを受け取っている女性のひとりだった。太っていることや外見に対する中傷コメントも多く、とくに「レイプをコメディのジョークとして使うこと」に対する異議申し立てをした後は、「デブ女はレイプなんて心配しなくていい」「死んじまえ、ブタ女」といった暴言が殺到する事態になった。
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