『差別はたいてい悪意のない人がする』私たちはみな、善良な差別主義者かもしれない

 『差別はたいてい悪意のない人がする』私たちはみな、善良な差別主義者かもしれない
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。今回のキーワードは、「差別」。『差別はたいてい悪意のない人がする』(キム・ジヘ 著、尹怡景 訳、大月書店)を取り上げる。

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著名人や企業が差別的表現や差別発言で炎上した際、「差別するつもりはなかったが、誤解を招く表現でした」「差別する意図はありませんでした。不快な思いをさせて申し訳ございません」といった声明文を出すことがある。

こういった形だけの謝罪は、「自分は間違っていない。受け取り方が問題なのだ」とも読めるため、失った信頼を取り戻すことは難しい。

しかし、彼らは嘘を言っているつもりはないのだろう。差別をする人はほとんどの場合、「差別をしてやろう」なんて思っていない。「いい人」であっても、あらゆる差別意識と無縁であることは難しい。たいていの差別は、善良な人が、無意識に行うものだ。無意識だからこそ、「差別はやめてください」という声が、理不尽な攻撃にも思え、訴えを「おおげさ」「被害妄想」と矮小化してしまう。

『差別はたいてい悪意のない人がする』(原題:善良な差別主義者 キム・ジヘ著 尹怡景訳 大月書店)は、なぜ人は無意識に差別してしまうのかをわかりやすく解説し、差別とどう向き合っていくかを示した一冊だ。

今回は、本書を参考に、「悪意なく差別する人」にならないための方法を考える。

ありふれた特権。ありふれた差別。

差別はありふれている。差別を解消するための行動を起こしている人でさえ、無意識の差別から逃れることは難しい。

『足をどかしてくれませんか』(亜紀書房)を読んだ際も、無意識の差別の根深さを見せつけられた。本書は、男性中心に作られるジャーナリズムの世界を批判的に考察した一冊だ。女性ジャーナリストの連帯が感じられ、読み応えがあった。

ただ、特別対談と記された巻末の対談で、ある企業の社長Aさんが、こんなことを言っている箇所があった。「私が女性活躍が本当に必要だと感じたのは、東日本大震災のときでした。被災された方たちへの電話対応がとても丁寧だったり、コメントを添えて文書を送付したりするなど、女性ならではの気遣いを発揮し、女性社員がいたるところで活躍してくれました」と。

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原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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