「私がその顔なら、もっと上手く生きるのに」美は活用すべき資産なのか?『あのこは美人』【レビュー】
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。今回は、フランシス・チャ氏の著書『あのこは美人』(早川書房)取り上げる。
大学時代、クラスメートに美人がいた。日常的に芸能事務所からスカウトされ、ミスキャンにも出るように懇願されたが、まるで興味がないようだった。
彼女はいつもノーメイクで短髪、ファッションはちょっとダサめだった。
そんな彼女を見て、友だちが言った。「私があの子なら、もっとあの顔を活かせるのに」と。「せっかく美しい顔に生まれたのに、磨こうとも、活かそうともしないなんてもったいない」という発想は、美を活用すべき資産でありパワーであるとみなしている。
美容整形、貧困、学歴社会、女性蔑視…韓国の現代社会を描いた小説『あのこは美人』
韓国系アメリカ人の記者フランシス・チャが2020年に上梓した初の小説『あのこは美人』(北田絵里子訳、早川書房)を読んで、久々に彼女のことを思い出した。
『あのこは美人』は、2020年にアメリカで発売後、韓国社会の問題をリアルに書いたことが話題となり、5万部を売り上げ、現在までに20カ国での刊行も決定している。
原題は『If I Had Your Face(もし私があなたの顔だったら)』。美容整形大国である韓国社会の問題に光を当て、美しくあることのプレッシャーや欲望と、貧困、学歴社会、女性蔑視が切っても切り離せないことを描いている。
本作のメインの登場人物は同じアパートに住んでいる5人の女性だ。
アラは、ある事件がきっかけで口がきけなくなった美容師で、アイドルの推し活にハマっている。
孤児院出身のスジンはアラの親友で、ネイルサロンで働いている。薄給のため、美容整形をしてルームサロン嬢(個室形態のキャバクラ嬢)になるのが夢だ。
キュリは美容整形によって美しさを手に入れ、最高級のルームサロンで働いている。
ミホは産まれながらの美人で、貧しい出身ながら、奨学金を得てアメリカに留学経験もあるアーティストだ。
4人の住むフロアの一階下に住むウォナは夫との二人暮らしで、共働きだが家計はギリギリ。3回の流産を経て、4回目の妊娠が発覚し、無事に生まれることを祈っている。
5人は、仕事も性格も異なるが、経済的に不安定な立場にあることだけは共通している。また、ウォナを除く4人の女性はみな独身で、それぞれの方法で美と向き合っているという共通点もある。
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