「お笑いはコンプライアンスのせいでつまらなくなった?」せやろがいおじさんが語る、笑いと人権の尊重

 せやろがいおじさん
せやろがいおじさんよりご提供

沖縄県在住の芸人で、YouTubeにて社会問題に関する問題提起を行っているせやろがいおじさん(榎森耕助さん)。人種差別や性差別など人権問題に関する動画も配信しています。昨今、お笑いにおける“イジり”が「人を傷つけるものではないか」と物議を醸すことが珍しくありません。芸人であり人権問題の発信も行っているせやろがいおじさんが「お笑いの線引き」について考えていること、「最近のテレビはコンプライアンスのせいでつまらなくなった」という意見についてどう思うか伺いました。

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「笑いにしてもいいライン」を考え続ける

——お笑い芸人をするなかで、今まで魅力に感じてきたお笑いの中には、現在では違和感を覚えるものもあると思います。その辺の折り合いをどのようにつけていますか。

『せやろがい!ではおさまらない - 僕が今、伝えたいこと聞いてくれへんか? -』(ワニブックス)でも書いたように、かつてはジェンダー的な視点でアウトな動画も作っていましたし、過去に披露したネタで暴力的なものもあって、今だったらお客さんは笑わないだろうと思うものもあります。

僕自身、今でも全てをしっかりと整理整頓してお笑い芸人ができているわけではなくて、お弁当の中のバランのような感じで、たまに汁漏れしているような部分はあります。

人をイジったり、腐したりして笑いをとることは、最近YouTubeでも出したのですが、昔の哲学者の方も研究されていて、相手を下げることで「自分が上なんだ」という優越感を感じて笑ってしまうといった構造があるんです。でもそれってめちゃくちゃ性格悪いじゃないですか。人間という生き物自体が持つ闇の部分だと思いました。

一方で今でも人を下げるネタがお客さんからのウケがいい感覚はあって、笑いをとるのに効率が良い方法でもあると感じます。僕もお笑い番組で他の芸人さんと共演するときに「もっと笑いをとりたい」という競争心に駆られて、そういうお笑いをしてしまうことがあります。でも帰り道に「あんなこと言わないでもよかった」「性格の悪い笑いに走った」と心が苦しくなることもありますね。

「芸人なら観客のせいにするな」という意見もごもっともだとは思いつつも、「観客が笑うからやるのか、芸人がやるから人を下げるネタが笑っていいことになっているのか」——「鶏が先か卵が先か」のように原因と結果の関係は複雑だと感じています。ただ一旦、芸人という立場から離れて見たとき、結局は社会全体の人権意識に帰結すると思います。

——葛藤もあるなかで、笑いと人権の尊重を両立させるために気を付けていることはありますか。

「笑いにしてもいいライン」は常に考えています。絶対的に正しい線引きはなくて、時代や社会の流れによって線の引き方は変わってくると思うので、考え続けていく必要があると思っています。

たとえば、今僕がラインを引いているのは、弱い立場から強い立場へのイジりは、風刺のような形になるのでOKだと考えています。笑いにはタブーを切り崩す力があるので、権力側の人たちに「こんなこと言っちゃ駄目だよね」と、特権的な部分や利権構造が生じているところに切り込んでいくのは、笑いのポジティブな面です。

一方、上から下にベクトルが向いているイジりは、駄目なタブーの破り方だと思います。人に言ってはいけない露悪的なことを言うタブーの壊し方は、笑う人はいるでしょうが、暴力性を帯びてしまったり、やってる側は気が付かないかもしれないけれども、傷ついて帰ってしまうお客さんもいたりするでしょう。でも「下から上なら問題ない」と一概には言えなくて、たとえば権力者の体のことや病気のことをイジるのは不適切だと考えています。全てを単純化できるわけではないので、とても難しいです。

芸人には体や病気やコンプレックスなど、本当に悩んでいることをネタにして人々に笑ってもらい、自分のコンプレックスを昇華する人もいます。でもそのネタで同じ症状や状態になっている人は「自分も笑われているのでは?」と思うかもしれない。自分の中でもはっきりと線を引けているわけではないので、今後も色々な人の話を聞くなど、考え続けていく必要がありますね。

——『せやろがい!ではおさまらない』では、ご自身のコンプレックス及びルッキズムについて言及し、「コンプレックスを笑いに変換する作業」について疑問を投げかけています。せやろがいおじさんは、お笑いの場で行われる容姿イジりについてどうお考えでしょうか。

容姿イジりの笑いも人の容姿に優劣をつけ、自分が優れているグループにいることで優越感を得るタイプの笑いですよね。イジられたところで、劣っているとされたグループの人たちにとっては残酷な笑いだと思います。

一方で、自分のコンプレックスを自虐という形で笑いにする行為は、僕は必ずしも駄目とは言い切れない面はあると思っています。スタンダップコメディ(※)を見ていると、自分のルーツなどをネタにして自虐的に話すことがあります。それは同じルーツの人を馬鹿にするのではなく、立場の強い側の言動が残酷であることを突きつけている意味があるんです。でもそれを聞いて苦しくなる人も当然いますし、迷いのある部分でもあります。

※スタンダップコメディ:欧米を中心に人気のコメディの一つで、マイクを持って観客と対話をしながら進める手法。テーマは多種多様であるが、皮肉を交えて話すところに特徴がある。

——「最近のテレビがつまらなくなった」のをコンプライアンスが原因とする意見もありますが、せやろがいおじさんはどのようにお考えですか。

型破りなことができた時代はあって、「日常生活の中で見られないような、非現実的なものがテレビの中で見られていたけれども、それが見られなくなった」というつまらなさはあるかもしれません。でもマジョリティの感覚寄りで好き放題やっていた裏では、傷ついている人がいたと思うんです。

今のようにSNSがなかったので、傷ついている人の存在が見えなかっただけですよね。SNSがあれば匿名で連帯できますし、大きな意見の塊を作ることもできる。そういう繋がり方ができないなかで、マイノリティがリアルで繋がれる人間関係を見つけて連帯するのは困難でした。ですので、「最近はうるさくなった」のではなく、「当時から傷ついている人はいたけれども、それがSNSによって見えるようになった」だけだと思います。それを「つまらなくなった」と捉えるのか、逆に傷つけたり偏見を助長するものがなくなったりして、ホッとして見られるようになったと捉えるのかは、別の議題であって。

あと、テレビがつまらなくなったかと言われると、僕はそんなことはないと思うんです。今でも面白い番組はたくさんありますよね。「昔は面白かった」と言ってる人の中には、懐古主義的な面もあるのかなと思います。年齢を重ねるにつれ、新しいものを受け入れにくくなり、自分が若かった頃に親しんだものの方が面白いと思ってしまう。僕もテレビゲームがまさにそうで、最近のグラフィックが綺麗で操作が複雑でやりがいのあるものが苦手で、昔のドット絵のゲームの方が面白く感じるんです。懐古的な感情で「昔の方がよかった」と言いたい人が、批判材料としてコンプライアンスを挙げている面もあると思います。

週3~4日通うほどホットヨガに夢中

——先日、リップサービスのネタライブをオンラインで拝見しました。その際にホットヨガをやっていることをお話されていました。ヨガを始めたきっかけについて教えていただけますか。

今年の2月から通い始めました。きっかけは10歳以上年上のタレント仲間の男性が「ホットヨガに通い始めた」とInstagramに投稿していて。実は最初、半笑い気味に見ていたんです。「おしゃれなモデルさんじゃないんだし」と。

でもそこで「おじさんがホットヨガに行くこと」に対する自分のバイアスにはっとしました。そして自分も一回やってみようと思い、その人に連絡をして一緒に行ってみたら、思った以上に気持ち良くて。今はドはまりして通い放題プランで週3~4日通っています。

——ヨガを始めて心身に変化はありましたか。

僕は早朝のクラスに行っているのですが、朝にヨガをすることで、気持ちに余裕が出てくる感覚があります。単純に体がほぐれるのも気持ちいいですし、朝に呼吸を整えると、頭にもやがかかっているような寝起きの状態から、スッキリした状態で一日過ごせるような感覚が好きですね。

▶前編「女性VS男性ではなく、一人ひとりが生きやすい社会に」せやろがいおじさんが考えるジェンダーの平等

【プロフィール】
せやろがいおじさん/榎森耕助(えもり・こうすけ)

せやろがいおじさん
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2007年、お笑いコンビ「リップサービス」を結成後、ツッコミ担当として主に沖縄で活動をしている芸人。2017年から『せやろがいおじさん』としてYouTubeやTwitterへの動画投稿を始め、赤Tシャツ・赤ふんどし姿で社会問題に対しての問題提起などを叫ぶ。2021年3月現在、Twitterフォロワーは約30万人、YouTubeチャンネル登録者数は約32万人。2019年9月~2020年9月までTBS「グッとラック!」で毎週レギュラーコーナーを持ち、VTR出演した。全国ライブツアーや講演なども精力的に行い、MC業もこなす。2020年10月、せやろがいおじさん初となる書籍『せやろがい!ではおさまらない -僕が今、伝えたいこと聞いてくれへんか?-』を発売。せやろがいおじさんTwitter:@emorikousuke

★スタンダップコメディの本場アメリカ・シカゴを拠点に活動する日本人コメディアン・Saku Yanagawaと初めてのコラボレーションを実現させ、スタンダップコメディライブ「Top of the 1st!」を開催。2022年7月1日(金)の東京を皮切りに、札幌・仙台・岐阜・名古屋・京都・大阪・奈良・沖縄・福岡・広島と全国11か所を回る全国ツアーを開催します。詳細は「リップサービス公式サイト」にて。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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