美に対する努力を"しない自由"|声を上げた女性たちによって変わってきたこと
女性にとって、美容の捉え方が変化しています。美容を実践することは、身だしなみのため、外見の劣化を防ぐため、セルフラブのためと理由は様々ですが、もっと美に関して「しない自由」を主張していいのではないでしょうか。韓国の「脱コルセット運動」を参考に、「言いにくいけど、美容って必要じゃないかも」という観点で、美を取り巻くバイアスについて考えます。
私たちを取り囲む美の市場
国内で美容は巨大な市場です。化粧品で約2兆8000億円、スキンケアで約1兆3000億円の市場価値があるという調査が出ています。
化粧品会社は、「あなたの美を応援します」「多様な女性のために多様な美を」というメッセージを発しますが、果たしてエンパワーメントされているのか、女性として消費し続けるために「必要」だと思わされているのかわかりません。
ソーシャルメディアで「#PR」ハッシュタグが付いた具体的にどんな効果があるかも分からないコスメが大量に溢れています。
厚生労働省によると日本の男女間の賃金格差は、女性の平均賃金が男性より24.8%低いことを発表していますが、なぜ賃金の低い女性が「美」にコストをかけることが常識とされているのでしょうか。
世界が注目した「脱コルセット運動」
美容大国であり、世界中で支持される美しいアイドルを輩出する韓国で、髪を短く切り、ハイヒールや化粧品を捨てる女性たちの姿は、「脱コルセット運動」のハッシュタグ・アクティヴィズムとして日本を含む世界で報じられました。韓国で2018年頃に注目されたフェミニズム運動です。
若い世代の女性を中心に盛り上がり、「#人間らしく」といった言葉とともに「#非恋愛」という(男性優位の)家父長制的文化への抗議も含まれています。
この運動は、2017年、映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行を発端にはじまった #MeToo ムーブメントと共鳴する動きでもありました。
コルセットから逃れるというコンセプトは、昔の女性たちが美しく見せるためにウエストを締め上げ、内臓を圧迫し骨が変形することも厭わない「抑圧の内面化からの脱却」を象徴しています。
コルセット自体は第一次大戦後には不便さから使われる機会が減ったと言われていますが、女性を拘束するものをあらわしています。
Women in Korea are leading a backlash against the country's intense beauty standards.
— Sky News (@SkyNews) November 29, 2019
A feminist movement called Escape the Corset, is encouraging women to cut their hair short, get rid of make-up and stop wearing sexy clothes.
Read #OffLimits in full: https://t.co/vJwdijO7tK pic.twitter.com/N62xPeKwER
「女から人へ」というメッセージ
「脱コルセット運動」は見る人にインパクトを与えます。人々は女性が女性らしい髪型で化粧をしていない姿を見るだけで拒絶反応を起こすのです。
#MeTooが起こる以前から、「フェミニズムはもう終わった」というニュアンスで「ポスト・フェミニズム」という言葉が存在していました。軋轢を起こすフェミニズムよりも、ある程度の平等を手に入れた女性たちが、波風立てずに世渡りをするのが賢い振る舞いという風潮がありました。
「脱コルセット運動」や #MeToo ムーブメントは、まだまだ声をあげる余地があることを提示しました。
脱コルセットを実践する韓国女性たちの言葉をつづった書籍『脱コルセット:到来した想像』では、女性が「人」として、装いをやめる自由を行使することで、女性が「人」として評価されない事実が浮き彫りになるといいます。ごく単純な行為が、人々の眉をひそめさせ、政治的な意味を持つことが明らかになったのです。
「しない自由」の実践は、フェミニズムが欧米の偉い学者が考えた難解な理論なしに十分に成立することをアジアの無名の女性たちが証明したのです。大きなうねりを生み出した結果、脱コルセットを実践しなかった女性たちの前にも新たな選択肢が提示されました。
声を上げた女性たちへの敬意
誰もが空気を読み、浮かないように賢く立ち回っていては起こらない変化です。「フェミニズム」という言葉は、時に女性からも誤解されたり、ネガティブに捉えられることもある言葉ですが、女性の参政権、教育の機会、雇用の男女機会均等、自己決定権としての人工妊娠中絶などフェミニズム無しで獲得は難しかったでしょう。
「フェミニズム」を嫌う女性すらも救っているのがフェミニズムなのです。
俳優のゼンデイヤが20歳の頃、彼女のスッピン姿にガッカリしたというツイートに対してスッピン自撮りで返信し話題になりました。
容姿を揶揄するボディ・シェイミングと、「女性なら化粧をして表に出るべき」という二重の中傷は、表に出る俳優だけではなく身近な問題でもあります。
.@JaeBasstv terrifying honestly... pic.twitter.com/RsBIlQjxOs
— Zendaya (@Zendaya) April 1, 2016
この出来事の3年後、ゼンデイヤはZ世代にとってファッションや美容のインスピレーションとなる人気ドラマ『ユーフォリア』の主演をつとめます。ゼンデイヤはほぼメイクなしの状態で役を演じています。メイクを担当したアーティストはゼンデイヤの役は、保湿と不健康に見せる微調整をしたのみと語っています。
この作品はエミー賞の史上最年少でドラマ部門主演女優賞を2度受賞する快挙をあげています。
ジェンダー規範に縛られない役柄の特性もありますが、ルッキズムから離れた地点で女性が人間として評価されることをあらわしています。
「和を乱す厄介な人」と見られていた人が社会を徐々に変えているのです。
「脱コルセット運動」から4年、 #MeToo ムーブメントから5年経った現在、声を上げることが難しくても、声を上げた人たちが切り開いた選択肢があることに気づくときがあります。
私たちは美の規範と、美を手に入れるために消費をさせる仕組みに取り囲まれています。
「脱コルセット運動」の提示した女性をルッキズムから解放した先に何があるのか、どのような存在であるのかという問いかけは何年経っても重要な意味を持つのです。
参考書籍:イ・ミョンギョン『脱コルセット:到来した想像』(タバブックス)
AUTHOR
中間じゅん
イベントプロデュースや映像制作を経て、ITベンチャーに。新規事業のコンセプト策定から担当。テクノロジーとクリエイティブをかけ合わせた多様なプロジェクトの設計に参画。社会課題やジェンダーの執筆活動を行う。
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