世界中で議論が広がる「Free the nipple(乳首解放)」と"隠さない"ボディポジティブ

 世界中で議論が広がる「Free the nipple(乳首解放)」と"隠さない"ボディポジティブ
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社会的な規範と異なる体型、髪や傷などを自分軸でありのままを誇ろうというのがボディ・ポジティブの考え方ですが、これまで隠していた身体を一部を隠さず誇ろうという動きも出てきています。

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公共機関がトップレスを推奨

2022年8月にスペイン・カタルーニャ州の平等・フェミニズムは、プールで女性がトップレスで泳ぐ権利を促進するキャンペーンを打ち出しました。
このキャンペーンは世界トップレスデーに合わせて行われたもので、男性が上半身裸で屋外に出ることは許されているのに、女性が同じことをすると恥をかくことを問題提起しています。

トップレスの権利というと過激な思想を持った特殊なもののようですが、公共機関がジェンダー平等のために発しているメッセージなのです。

スペイン全土で、女性が公共のビーチでトップレスになる権利が認められていますが、自治体のプールに関しては、自治体ごとでルールを決めており、トップレスで泳ぐことを禁止された女性からの声を反映し発案されたキャンペーンです。

また、女性の身体は「性的なもの」であると子どもの頃から意識させられ、自分の身体を自由に表現する権利が見過ごされていることからの解放も啓発しています。
女性が「自衛」のために身体を隠すことは常識と考えがちですが、抑圧を当然のように受け入れているバイアスを意識させられます。

スペイン・カタルーニャ州の平等・フェミニズム局のキャンペーン

 

隠さない女性

2022年夏に来日公演したイタリアのロックバンド「マネスキン」。ベーシストのヴィクトリアは「Free the nipple(乳首解放)」の運動を支持しており、胸を隠さず堂々とパフォーマンスする姿が日本のメディアでも話題になりました。

ヴィクトリアは「男性の乳首は正常なものと見なされるのに、なぜ女性の乳首はスキャンダラスとされるのか?」という問いを発信しています。

MTVビデオ・ミュージック・アワードでのパフォーマンス中、ヴィクトリアが胸に貼っていたシールが取れて乳首が出たことで、ライブカメラが急遽切り替わる事態が起こりました。
その一方で、男性のボーカリストのダミアーノのTバック衣装は隠されることなく放映されていたため、身体を使った自己表現のジェンダー不平等についての議論が起きています。

 

 

隠す理由と「まなざし」

「Male Gaze(男性のまなざし)」という概念があります。
これは映画や写真など視覚メディアの中で女性が一方的に見られる対象であることを分析・批評するときに使われる言葉ですが、「女の子」が「女性」になる過程で羞恥心や身の危険の恐怖心を感じる「まなざし」は日常に潜んでいます。

見られる側を抑圧する有害な「まなざし」は、男性に限らず規範から外れた女性を値踏みしたりジャッジする女性の視線もあります。
他者の「まなざし」は、ボディシェイミング(体型批判)に晒されることと、承認されるための自己演出が入り混ざり、女性の内面に複雑なボディイメージを作り出すのです。

現代のブラジャーの発明は、1914年にメアリー・フェルプス・ジェイコブが特許を取得したものが始まりで、当初は窮屈で痛みを伴うコルセットに変わるものとして生まれました。
その後、戦後にブラジャーは男性からの「まなざし」を意識した胸の谷間を作るプッシュアップ型のブラジャーが普及していきました。
90年代以降、男性に「選ばれる身体」を演出するヴィクトリアズ・シークレットは、世界的に有名なブランドになりました。

 

そして現在、ジェンダー平等が政治、経済、教育に進むにつれて「まなざし」を意識しない下着が女性たちに好まれるようになりました。

特にコロナ禍で肩肘張らないエフォートレスなファッションの台頭によって、他者の視線を意識した窮屈な盛りワイヤーのあるブラジャーよりも、自分自身の快適さが志向される製品作りが加速しています。

大手調査会社NPDによると、2019年以降、ワイヤーなしのスポーツブラの売上が50%以上伸びたと発表しています。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

SKIMS(@skims)がシェアした投稿

一方的で有害な身体の基準にあらがうボディポジティブの浸透があったからこそ、有害な視線にあらがう「Free the nipple(乳首解放)」が語られ出したのかもしれません。

性的な内容でなくても、女性の乳首が見えているものは、ソーシャルメディアプラットフォームに投稿することも違法であるとされています。
Instagramでは以下のようにガイドラインに記載していますが、多くの人や企業が、明らかに基準を満たしているにもかかわらず、投稿が削除されたりアカウントがロックされたりしたと声を上げています。

女性の乳首の写真も対象となりますが、授乳、出産時や出産後、医療関連の状況(乳房切除手術後、乳がんの認知喚起、性別適合手術など)、または抗議活動に関する写真は許可されます。ヌードの絵画や彫刻の写真も許可されています。
参考リンク:Instagramコミュニティガイドライン

Instagramの規制を逆手にとって、男性か女性かを明らかにせずに乳首の写真を投稿して規制を批判するアカウント@Genderless_Nipplesがあります。

2022年2月、アディダスはスポーツブラの新商品で女性の胸を使った広告を打ち出しました。
企業が女性の乳首が社会的なタブーではないと発信することは、広告する場であるソーシャルメディアプラットフォームに挑むことで、女性の身体を尊重する態度表明です。(Instagramでは検閲があるため掲載されていません)

ファッションの自由や、外で母乳育児をしやすい環境は女性の身体が過度な視線に晒されない社会にならなければ叶いません。声をあげた人々のおかげで、公共機関や企業も徐々に意識が変化してきています。

日本ではまだ「Free the nipple(乳首解放)」に対する議論が活発ではないので、実践するには個人にリスクが伴い難しい状況です。ですが、我々が当然のように隠し、晒している人を怪訝な視線で見てしまうことの背景にある、抑圧の存在——それを理解することが、第一歩ではないでしょうか。

参考サイト:SPAIN IS URGING WOMEN TO SWIM TOPLESS TO ‘FIGHT DISCRIMINATION’

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AUTHOR

中間じゅん

中間じゅん

イベントプロデュースや映像制作を経て、ITベンチャーに。新規事業のコンセプト策定から担当。テクノロジーとクリエイティブをかけ合わせた多様なプロジェクトの設計に参画。社会課題やジェンダーの執筆活動を行う。



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