乳がんサバイバーの女性たちが起こした「フラット」ムーブメントとボディポジティブ
ボディポジティブは体型にまつわるものだけではなく、手術・治療などで身体に変化があった人にも心強いものになります。乳がんサバイバーの女性たちが起こした「フラット」ムーブメントをご紹介します。
乳がんとボディイメージ
日本で生涯に乳がんを患う女性は9人に1人と推定されています。大変な治療を経たあと乳房切除などの手術があり、克服した身体の変化を受け入れる難しさがあるといわれています。
乳房切除を伴う手術に対して、乳房再建手術の技術は進化し、術後の生活の質は向上しています。
ですが、変化する身体に対して、女性の身体は「こうあるべき」というイメージに悩む人が多く、身体だけではなく心のケアが必要となります。
乳房の再建をしない決断をした女性たちが、乳房を取って「フラット」であることをスティグマ(不名誉な烙印)ではなく、オープンにして課題や誇りを表明する動きが出てきています。
乳房再建をしない決断理由は、手術の回数や合併症のリスク、回復にかかる時間の場合や、現在の自分自身の身体と向き合うことなどさまざまです。
2020年、イスラエルのファッション誌Laishaで乳房切除手術をしたEylon Nupharさんがカバーを飾ったことは世界的に報道され話題を呼びました。
発信する女性たちの想い
アメリカの乳がんサバイバーの女性たちが立ち上げたNPOのFlat Closure Nowは、医療界と手を取り合い乳房再建をしない「フラット」を選択しようと検討したり、すでに選択した女性を応援するコミュニティです。
Flat Closure Nowのメンバーたちが乳がんの治療中、乳房再建せず「フラット」な選択をした乳がんサバイバー女性の存在は表に出ていませんでした。
乳房切除後の女性が、隠れた存在ではなく、ファッションを楽しみ、人生そのものを楽しむことができるのを、コミュニティ内で写真や動画で積極的に発信しています。
「フラット」のインフルエンサーのJamieさんは、闘病中の姿を定期的にアップしながら、現在の子育てや仕事で充実した日々を発信しています。生活を制限するものではなく、これまでのように人生を楽しめることを伝えています。
Not Putting on a Shirtプロジェクトでは、「フラット」にする外科手術「フラットクロージャー」にも多様な方法があることを伝えています。
発起人のKim Bowlesさんは2017年に乳がんによる乳房切除後、医師の「(乳房再建をやはり行いたいと)気が変わったときのために余分に残しておきます」という勝手な判断で皮膚にたわみがある手術跡を残された経験をしています。
女性は乳房再建を望んでいるはずという外科医側の「フラット」に対する理解不足に問題提起しています。
Kimさんだけではなく、20人にひとりの割合で「フラット」を望んだ女性に不十分な乳房切除手術が起きている問題も明らかになっています。
There are many ways to produce an aesthetic flat closure. What scar pattern did you end up with? Were you given a choice & are you happy with it?#aestheticflatclosure#Mastectomy pic.twitter.com/Ee0Twehbzo
— NotPuttingonaShirt (@not_shirt) December 17, 2020
「フラット」という選択肢の意義
Pink Ink Fundという乳房切除手術を受けた人にタトゥーでサポートするNPOがあります。
「フラット」にしたあとの手術跡をそのままにせず、カラフルに彩り、これまでと違う形で自分の身体に愛着を持つことを実践する女性たちがいます。
困難な乳がん治療を経て、困難な決断をする女性たちが「女性らしさの変化」「他人の視線」「パートナーとの性生活」などボディイメージにまつわる悩みに直面するとこが多いと言われますが、ポジティブに「フラット」を謳歌する女性たちの姿は、新しい乳がんサバイバーの在り方を教えてくれます。
「フラット」を公表することは、単なる病気の治療法の報告以上の意味があります。
乳がんでは乳房再建手術は不可欠という思い込みを問い直し、乳房切除と女性らしさの関係とは何かを、堂々と「フラット」な胸で活動する女性たちを見ていて考えさせられます。
女性の身体の自己決定権を表すスローガンとして、My Body, My Choice(私の身体、私の選択)という言葉があります。
乳がんの治療の過程で、自分の身体をどのようにするかという選択肢に「フラット」が加わり、誰のものでもない自分の身体の愛し方に広がりが生まれたことは、当事者だけではなく、誰でもかかる可能性のある乳がんに対する捉え方を変えるものになるはずです。
AUTHOR
中間じゅん
イベントプロデュースや映像制作を経て、ITベンチャーに。新規事業のコンセプト策定から担当。テクノロジーとクリエイティブをかけ合わせた多様なプロジェクトの設計に参画。社会課題やジェンダーの執筆活動を行う。
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