髪は女の命?外見にまつわる余計な装飾文について、抜毛症のボディポジティブモデルGenaが思うこと
痛みも苦しみも怒りも…言葉にならないような記憶や感情を、繊細かつ丁寧に綴る。それはまるで、音楽のような言葉たち。抜毛症のボディポジティブモデルとして活動するGenaさんによるコラム連載。
赤ちゃんのころ、お風呂は母や父と入る場所だった。
アルバムの中には私と妹を抱いてお風呂に入る若い父の写真が残されている。
祖父とお風呂に入ると、手ぬぐいをお湯に浮かべて空気を含ませ、クラゲを作って遊んでくれた。それをぎゅっと握ると泡が手ぬぐいから吹き出す。それをみて私たちは喜んだ。
様々な深さの青色の小石が床に敷き詰められた、昭和のお風呂が大好きだった。
もう少し大きくなると、お風呂は妹と入り、ときには2時間以上も遊ぶ楽しい場所になった。
床全面に石鹸を塗ってスケートごっこをしたり、キラキラした透明なプラスチックの飾りを大量に入れて物語の中の泉にいるような気分になったり、たぶん時々喧嘩もした。
呆れた母が覗きに来るまで、飽きることなくお風呂にいた。
高校生以降の私にとっては、お風呂は泣くための場所だった。
心が張り詰めていることに気が付かないまま温かい湯をかぶると、ほっとして気が緩み、顔にかかる水に誘われるようにして涙が出た。
お風呂だと誰にも気づかれないし、部屋で泣くよりも後々目が腫れにくかった。
今もときどきシャワーの中で泣く。
お風呂は、自分にとって弱さを出していい時間で、温かいお湯で身体も心もほぐれる場所だから。
自分の身体が恥ずかしくて、こんなふうにしてしまったどうしようもない自分自身を責めて泣いたこともある。
でも暖かな湿度のせいか、その涙は溢れると同時に霧散していくような、悪い感覚ではなかった。
* * *
外見にまつわる余計な装飾文は多い。
髪は女の命。 色の白いは七難隠す。
これが一体どの程度真実なのだろうかと常々疑っている。
誰が言うのかによっても意味合いは違う。
それにこういう言い回しは自分に必要だと自然に思い込ませ物を売るために最適なものだ。
広告文として手垢がつくほど使い回されている感じがする。
抜毛症の私には、よく女性の薄毛治療や育毛剤の広告が出てくるんだけど、ポイントはそこじゃないんだよなぁと思う。
自分で抜いているので、いくら生やそうとしたってまずは自分の手を止めるところがスタート地点になるし、その点からしてすれ違っている。
そして私がもっとも傷ついているのは、髪が生えてこなくなってしまったことではなく、自分の手で自分を醜くしてしまったと思っていることなのだから。
変えるのは外見ではなくてまずは心の持ちようだと思う。
例えば誰かに愛されたい。もっと大事にされたいと思ったとして。
髪が生えたら、整形して美人になったら、痩せたら、シミ取りとして若くみえるようになったら、大事にされるようになるわけではないのだと思う。
自分のことをやたらに責めるのをやめて、自分を大事にできるようになったら、はじめて変化への準備が整う。
外見のよりも、心の変化のほうがずうっと大事で、やがてはそれは見た目にも現れるようになっていく。
* * *
抜毛症のボディポジティブモデルとして活動する上で一番大変で難しかったのは、自分に対する考え方を変えることだった。
どでかいタトゥーを背負った河童のようなヘアスタイル、キワモノであるという、他者からの視線をどこか無意識に取り込んでいた。いつもどこか頭にチラついていて、前に向かおうとする私の足を引っ張った。
私はそれを上書きしようと必死にもがいた。
フェミニズムの本を読み、海外の多様なモデルの写真を眺め、自分にある価値観を掘り起こして言葉にしようと試行錯誤した。
応援してくれる方々からの温かな温度のある言葉を大事に大事に抱きしめていた。
私は自分に向かい合う勇気を持っていて、自分の本質は変えないままより良い自分になろうと努力している。
自分のこういう考え方は美しいものだと少しずつ信じられるようになっていった。
こういう考えを発信していったところ、インタビューをしていただいたり、同じように苦しんでいた方からもっとDMをいただいたりするようになった。
これまでは言葉でのメッセージだけだったけれど、なにか手に取れるような具体的な形にしたい。
できれば安心できる暖かなお風呂場で使ってもらえるもの。
たどり着いたのは固形のシャンプーというアイディアだった。
弱酸性でトリートメント要らず。固形なので頭皮のマッサージもできる。
プラスチックフリーで自分にも地球にも優しい。
そんな私にとって理想的なシャンプーを、たくさんの方の手をお借りして作り上げることができた。
髪は女の命なんかじゃない。
そんなもので私の価値を決められてたまるか。
大事なのは心意気。どんな自分も慈しむこと。
それこそが真の美しさだと思わない?
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【誰もが自分の身体を恥じることのない世界へ。抜毛症モデルから生まれた固形シャンプー】
Photo by @aya212pic
Supported by FEMMA
AUTHOR
Gena
90年代生まれのボディポジティブモデル。11歳の頃から抜毛症になり、現在まで継続中。SNSを通して自分の体や抜毛症に対する考えを発信するほか、抜毛・脱毛・乏毛症など髪に悩む当事者のためのNPO法人ASPJの理事を務める。現在は、抜毛症に寄り添う「セルフケアシャンプー」の開発に奮闘中。
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