“呪われた”過去をもつ私たちから見たルッキズム 前川裕奈さん×アルテイシアさん(1)

 “呪われた”過去をもつ私たちから見たルッキズム 前川裕奈さん×アルテイシアさん(1)

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」などを発信する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載「しゃべるっきずむ!」がスタート。第一回は、フェミニズムについて多数著書を出版されている作家のアルテイシアさんとおしゃべりしました。

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投げかけられた言葉が「呪い」にもなる

ーー最初に、おふたりと「ルッキズム」との出会いを教えてください。

アルテイシア(以下、アル):私は太っていることにコンプレックスがあったんですが、女子校に通っていた中高時代は、直接見た目について言われることはありませんでした。共学の大学に進んで、男子から「デブ」「ブス」と言われたのが最初。まさに「ルッキズムに殴られた!」という感覚でしたね。

前川裕奈(以下、前川):私も小学校で同級生からあだ名をつけられたのが最初ですね。幼少期は海外にいたので、小学生で帰国したあとも海外では当たり前だった、スパッツ(レギンス)を1枚で履くスタイルをしていました。そうしたらクラスメイトが「デブすぎて、スカート入んねえのか」と言って、「デブスパッツ」っていうあだ名をつけたんです。

アル:ひどすぎますよね。裕奈さんの著書『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』を読んで、「デブスパッツ」の呪いの強さを感じました。

前川:もともと「自分大好き!」みたいな性格だったのに、その一言でもう人前に出るのが怖くなって。あだ名がついたことで、恥ずかしいという感情がどんどん大きくなっていきました。その後も「自分はデブなんだ」という体型コンプレックスは消えなかったです。

アル:人に言われることで、本当に傷が深くなるんですよね。私や裕奈さんだけじゃなく、いろいろな人からも「同級生に言われたことが呪いになってしまった」という話はよく聞きます。だから、「思ったとしても言わない」のが、すごく大事だと思います。

作家・アルテイシアさん

「名前」がついて初めて見えてくること

前川:私は体型コンプレックスを抱えた状態で、大学時代に失恋をきっかけに激痩せしたんですね。それから痩せることが快感になってしまった。食べずに運動を繰り返す無理なダイエットを続けて、ガリガリになってました。

アル:わかります。私も当時は「自分がブスでデブだからダメなんだ」と自分を責めて、過食嘔吐をするようになって。痩せれば自分に自信が持てるはずだ、と思っていましたね。今だったら、人の見た目にああだこうだ言う方に問題があるとわかるし、「やかましわ!」って怒れるんですけど。

前川:当時は「ルッキズム」や「拒食症」などの名称も知らなかったですよね。私は20代後半にルッキズムという言葉を知ったことで、自分の状態を初めて客観視できたんです。いきなり問題が解決するわけではないけれど、ようやく、自分を苦しめていたものの正体がわかったという感覚でした。

アル:私も20代でフェミニズムに出会った時、似たような感覚がありました。フェミニズムが「パーソナル・イズ・ポリティカル」「あなたのせいじゃなく、これは政治や社会の問題なんだ」と教えてくれて、初めて「怒ってよかったんだ」と気付いた気がします。フェミニズムの本を読むようになって、ルッキズムについても学びました。

前川:ここ数年で、ルッキズムの認知度が上がってきて、外見を揶揄することに人々のアンテナが張られたり、考えるきっかけにはなったりするのはいいことだと思います。ただ、誤解されている部分も多いと思うので、ここからどうやって人々の認識をちゃんと深めていくかが大事なのかなとは思いますね。

「喜ぶ人もいる」、だからなんだ!

アル:外見を揶揄するのはよくないって話をすると、「でも、喜ぶ人もいる」とか「本人は気にしてないよ」とか言う人がいるじゃないですか。

前川:そうですね。

アル:会社員時代、部長が新人の大柄な女の子に「ジャンボ」とあだ名を付けたことがあったんですね。「本人は嫌かもしれないからやめた方がいいんじゃないですか」と言ったんだけど、その子自身も「ジャンボでーす」みたいにおどけていたから、部長は「本人も喜んでるぞ」と言ってて。

前川:ああ……。

アル:彼女が退職した後に「あだ名がずっと嫌だった」と言っていたと聞いて、「だよな~」と思ったんです。やっぱり「本人は気にしてない」という解釈はダメだと思うんですよ。 まず、立場的に嫌でも言えない場合が多い。それに本人が本当に気にしてなかったとしても、それを見て他の人が「自分も見た目をいじられるかも、笑われるかも」と傷つくこともあります。やっぱりルッキズムを容認する文化自体を変えないといけないと思いますね。

前川:直近で言うと、自民党の麻生太郎氏が上川陽子外相のことを「そんな美しい方とは言わない」と言ったことが話題になっていますよね。あれがニュースになった時、知り合いの男性から「そんなに悪いこと?僕だったらいじられたら嬉しいけどな」って連絡が来たんです。

アル:出た~~!俺だったら嬉しいけどマン(笑)

前川: 彼みたいに、えらい人や有名な人にいじられることを嬉しいと思う人間もいるのかもしれません。でも、不愉快だと思う人がいると知っておくのは大事だなと思っています。私だったら、容姿について公の場でコメントされるなんて間違いなく不愉快だし。

アル:そうですね。よく「自分は嬉しい」とか「喜ぶ人もいる」って言うんですけど、「だからなんだ」って話なんですよ。喜ぶ人がいるからといって、嫌だと思う人がいる事実は変わらないんです。なにより、麻生氏のように影響力ある立場の人間が、ルッキズムやセクハラ発言をすることの影響力を考えろって話ですよね。男性の大臣には「イケメンではないけども」なんて言わないわけで、あれはやっぱり女性差別なんです。上川さんも政治家なんだから、「これは女性に対するルッキズムやセクハラを許容する文化の問題だ」ぐらいは言ってほしかったです。自民党の女性議員たちも批判の声をあげてほしかった。

前川:そのとおりですね。

アル:あと、麻生氏の発言に周りのおじさんたちが笑ったのも腹立つんですよね。そうやって周りが笑うから「受けた」と勘違いするんですよ。周りが忖度して笑わない、というのはすごく大事です。みんなが一斉にドン引きすれば、それ以上同じような発言を続けられなくなるんだから。

前川:そうですね。飲み会の席などでも、いまだに容姿や年齢いじりはあります。そういう時に笑ったりせずに「そういうの、おもしろくないよ」と言える社会になってほしい。影響力のある人たちにも声をあげてほしいなと思います。

アル:麻生氏のような失言クリエイターが辞職に追い込まれないのがヘルジャパンですよね。とはいえ、今回の発言が批判されてニュースになったのは進化を感じます。昔だったら「麻生節」で終わらされていたものが、「これはセクハラでルッキズムで、女性蔑視なんだ」と指摘されるようになった。それは、人々が声を上げて来たからこそだと思います。

「ルッキズムをやめろ」は、感性の払拭ではない

前川:こういう話をすると「出た、またルッキズム」「もう何も発言できないのか」と悪く捉える人がいるのが気になっています。

アル:わかります。私は「思うことがダメなんじゃなく、口に出すのがダメなんだよ」とよく言ってます。本音はなかなか変えられないので、建前でいいんだと。例えば、「こいつムカつく、殴りたい」と思った相手に、それを言えば喧嘩になるし、実際に殴ったら犯罪になるのと同じです。

前川:私も「反ルッキズム=感性の払拭」ではない、と声を大にして言いたいですね。私自身も「この人かっこいいな」と普通に思いますし、それは人間らしい、当たり前の感情ですよね。ただ、気をつけたいのは「これがかっこいいの定義だから、世の男はみんなこれじゃなきゃダメ」となってしまうこと。「身長が低いのは男じゃない」みたいな発言はNGだと思ってます。

アル:「思うのもダメなの?」と誤解してる人は多いですよね。心の中で思うことは内心の自由ですから。私は幼少期から『キン肉マン』や『北斗の拳』が大好きで、理想はマ・ドンソクなんですけど「世の男は全てマッチョになるべき」なんて思ってない。性癖って自分で選べるものでもないと思うし、私の好みは私のものだから。

前川:そうですね。私は逆に細身の人も好きですが、アルテイシアさんに「いや、マッチョはかっこよくないよ」と言ったりしない。それぞれの「好き」を良しとする世界線がやっぱり大事ですよね。それは自分自身の容姿でも同じで、服装やメイクなども自分の好みで決めていいと思ってます。自分自身のかわいいを追求しつつ、それを他者に強制しないということですよね。

アル:そう。あとはルッキズムもTPOなんですよ。恋人同士で「きみって美人だね」「あなたって超イケメン」とかは好きなだけ言いなはれと思いますが、それを職場で親しくもない相手に言うのはやめよう、と。軽い気持ちで言った言葉が、一生の呪いになるかもしれないんですから。

kelluna.代表・前川裕奈さん

*次回、けなすのがNGなのはもちろん、容姿を褒めることについても語ります。2本目「“褒める”のもルッキズム?相手を傷つけない褒め方とは。」は、こちらから。

プロフィール

アルテイシアさん

1976年、神戸市生まれ。大学卒業後、広告会社に勤務。2005年に『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。著書に『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』ほか多数。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとしたフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信する。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで「ジェンダー」「ルッキズム」等をテーマに講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranalコラム「ルッキズムひとり語り」

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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