推せる!劇場版『シティハンター』の香によるファインプレー発言とは|ルッキズムひとり語りVol.2

 推せる!劇場版『シティハンター』の香によるファインプレー発言とは|ルッキズムひとり語りVol.2
前川裕奈
前川裕奈
2023-11-27

SNSや雑誌、WEB、TV、街の広告には「カワイイ」が溢れている。けど、その誰かが決めた「カワイイ」だけが本当に正義なの? セルフラブの大切さを発信する社会起業家・著者の前川裕奈が綴る、ルッキズムでモヤっている人へのラブレター。

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2023年9月、『シティハンター』の劇場版が公開された。アニメシリーズも全話制覇済みだったので、公開と同時に足早にオタク仲間と共に映画館へ向かった。

『シティハンター』とは、1985年から1991年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載していた漫画で、内容について細かく語り出すとオタク特有の早口長文語りがはじまってしまうので割愛するが、主人公・冴羽 獠の口癖は、「もっこり」だ。

そこからも想像できるように、昭和っぽい下ネタがオンパレードな作品でもある。ある意味、それがこの作品の「らしさ」となるエッセンスの1つでもあったので、令和になった今、そこらへんの設定はどうなってるのかなーというのも、個人的に気になるところであった。

そして、いざ観賞。すると、獠の相方の槇村香が見事なファインプレーをみせてくれる場面があった(ぱちぱち)。

獠のキャラ設定でもある「もっこり」感は払拭せずに、彼がとある女性の胸のサイズについて目をハートにしながら言及した場面で、香は、「胸のサイズについて悩む女性もいるんだから、そういう発言はしないの!」と。

推せるー!!!!!

彼女のセリフに対して、特に返事はなかったし、本編の流れには関係していないので、聞き逃す人も大勢いたかもしれない。しかし、それくらい「サラッ」と、不自然にならない流れでこのセリフを忍ばせておくことは大事だったように感じる。

「胸が小さい」と馬鹿にするのはもちろん、逆に「巨乳で羨ましい」「胸大きいね」といった発言もルッキズムに該当するし、なんなら立場によってはセクハラだ。けど、褒めたつもりで言った…なんてことも、あるかもしれないよね。獠だって、それが好みだからもちろん良い意味で言ってたわけだもんね。

ただ、褒めているつもりでも、体のパーツに言及する発言が、受け手によっては呪いになりかねないことを知っておいてほしい。たとえその事実に「共感」しなくても、まずは「知る」ことが、優しい世界線を作っていく近道だと私は思っている。「そういう人もいるんだね」って知っておくと、自分の発言って少しずつ変わってこない?

そして、「知る」が広がっていくためには「伝える」ことも必要。けど、伝えたいと思っても「空気読めよ」「突然、何?」みたいになることも怖いし、なかなか伝えられない人も多いんじゃないかな。なんか悶々とするような、ルッキズムに触れるような発言を周りの人がした時、それに違和感を覚えた人たちは、「我慢」もしくは「説教」のどちらかのパターンになりがちかもしれない。けれど、そこで香のようにサラ〜っと言えたら良い。

ちなみに、容姿をけなすのは、言わずもがな香の100tハンマーを連発でくらうべき。

暇さえあれば、ひたすら二次元をお散歩している私だが、最近はシティハンターだけではなく、多くの漫画・アニメコンテンツで「お!」と思うようなルッキズムへの言及を見かけることが多い。

漫画やアニメが作り出す影響って、良くも悪くもなかなか大きいと思う。それは、作画からも、セリフからも。私が高校生の頃(ピーっ年前)、いわゆる人間離れした巨大なキラキラの瞳に、超絶長くてほっそい脚の少女漫画の主人公は今以上に多かった。それがいわゆる「かわいい」とされる唯一の像だと思い込み、そこから程遠い自分を醜く思っていた時代もあった。けれど、たとえば、あの頃に『僕のヒーローアカデミア』のトガちゃん(大好き)のような極端に細いわけでもなく、そして彼女のように『私はカワイイ!』と自分で言い切れちゃうキャラクターに出会っていたら、もう少し自分自身も生きやすくなったのでは、とさえ思う。

まだまだルッキズムが蔓延る現代社会で、頭を抱えたくなるようなことも多い。一朝一夕で生きやすい世界にはならない。けれど、時代と共に明るい変化が生まれてきているのも確かだ。シティハンターの香のように、今の時代に必要な発言を言える、そんなキャラクターがエンタメのコンテンツにも増えてきているのは、小さな、けれど大事な、明るい兆しなのではないだろうか。

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前川裕奈

前川裕奈

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。



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