改めて問いたい「そのカワイイは誰のため?」#ルッキズムひとり語りVol.1

 改めて問いたい「そのカワイイは誰のため?」#ルッキズムひとり語りVol.1
前川裕奈
前川裕奈
2023-11-01

SNSや雑誌、WEB、TV、街の広告には「カワイイ」が溢れている。けど、その誰かが決めた「カワイイ」だけが本当に正義なの? セルフラブの大切さを発信する社会起業家・著者の前川裕奈が綴る、ルッキズムでモヤっている人へのラブレター。

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「痩せなきゃ!」「可愛くなりたい」「あの人綺麗だなあ」

多くの人が一度は思ったことがあるのではないだろうか。

それって、誰のため?

SNSのため、恋人のため、誰かに褒めてもらうため、社会の「美」にあてはまるため、人気になるため...自分のため?

ルッキズムというワードを最近耳にするようになった人も多いかもしれないが、痩せることや容姿に変化をもたらすこと自体は必ずしも悪いことではないはず。

「自分のため」なら、ね?

ただ、これが自分ではなく「他者のため」になるとどうだろうか。

そこに生きづらさが伴ってきて、次第に無理ゲーな世界に放り込まれていく感じ。

自分自身は今の容姿に満足していたのに、大好きな彼氏が「痩せろ」と圧力をかけてきたゆえのダイエット。そのダイエットの過程で自分の笑顔は置いてけぼりになってない?女子グループの中で、自分だけ違うと浮いちゃうから「同じにならなきゃ」と泣く泣く無理な食事制限をしたり。あまりにも「デカ目」メイクがSNSやウェブで推されてるから、チャームポイントだと思っていた一重瞼の瞳が気づいたら嫌になってしまってたり。

その「かわいい」は誰のため?

かつての私は、日本社会の決めた画一的な美を必死になって追い求め、不健康すぎるダイエット沼に堕ち、ルッキズムという名の籠に閉じ込められていた。その呪いは10代のころにはじまり、20代の大半を占めたと言っても良いだろう(ちなみに今はアラサー。あ、来年からアラフォー)。当時、過酷なダイエットの末、失ったのは体の丸みだけではなく、心からの笑顔だった。

社畜生活をしながらも、とにかく痩せて華奢な体型を維持しないと社会から認めてもらえない恐怖心から夜中にジムへ(いわゆる社会からの承認欲求ってやつ)。眉間に皺を寄せながら、カロリー消費のために走り続けた。今となっては楽しいライフスタイルとなったランニングも、当時は「痩せるためのタスク」にすぎなかった。

そんな20代最後の年に、インド洋に浮かぶ美しい島国、スリランカに前職の関係で駐在することになり生活の舞台が移り変わった。そこで出会った女性たちは、(もちろん個人差はあるものの)ルッキズム沼にいた私から見たらポジティブ・バイブスに溢れている人ばかりだった。現地の伝統衣装であるサリーは、腕や腹部の露出があるが、痩せていようがふくよかだろうが、彼女たちは気にせず堂々と着用し、同じような自撮りを何枚も撮る。そして加工アプリなんて通さずに何枚もSNSに載せる。「同じじゃん!」とつっこめば「全部好きだから笑」と笑顔で返答。その笑顔は、当時の私にはとても眩しいものだった。日本社会のノイズからも離れ、スリランカの彼女たちとの日々を通して、だんだんとルッキズム野郎の呪いから解き放たれ、鎧が脱げ始めたのがこの時期だ。

彼女たちと一緒に「自分を愛する美しさ」を日本社会に伝えたいと思うようになり、2019年にセルフラブをテーマとしたフィットネスウェアのブランドkelluna.を起業をした。そして現在はルッキズム問題やセルフラブの大切さを、ブランドや書籍を通して発信している。

「可愛くなりたい」

向上心をもつこと、自分磨きをすること、誰かに惹かれること。

これらはとても尊い感性だ。

私も推しはいるし(限界オタク)、性別問わず好みもあるし、なりたい理想像はある。

趣味でマラソン大会に出ているけれど、大会前はタイムのために減量して痩せることもある。良いタイムが出せれば自分で自分を褒められるから。そして、鏡を見た時に、自分で自分を可愛いと思いたいから、好きなメイクもするし、必死に毎朝ヘアアイロンで髪を整える、気が向けば筋トレもする(30代超えてからは自分の理想のお尻を手にいれるのは今まで以上に重力との戦いになってきた)。服装でいえば、いわゆるモテ系の服よりも、推しのキャラTシャツに痛ネイルが私の制服だ。全部ぜーんぶ、自分のテンションがアガることだから。

私自身、過去にルッキズムの呪いに苦しんできた当事者。けれど、「好み」「感性」をもつのは人間らしさだと思っている。

そう、しつこいようだが「自分のため」ならね。反ルッキズムが、感情や感性を払拭することだとは思わない。「素敵だな」と思う幅を広げていき、認め合う作業をしていきたい、人間らしく。そして、親友に言ってあげる優しい言葉を、自分自身にも言う。自分は生涯の親友だから。

ただ、ここで残念なお知らせがひとつある。ルッキズムにモヤモヤしている人がいたとしても、当たり前だが、スリランカに行くことが解決策という単純方程式ではないのだ。もしそうだったら、魔法の国として移住者爆増。ただ私にとって、タイミングよくスリランカでの経験が光を差してくれたに過ぎない。私が少しずつ光がが見えるようになるまでに、色々な指摘、発言、経験があったように、「ヒント」のちりつもが、救いや気づきへの一途になる。そんな想いから、この連載ではモヤっている誰かの背中を押すヒントを紡いでいけたらと思っているので、数ヶ月お付き合いいただけたら嬉しい。一緒に生きやすい社会を目指していこ! 

まずは、気になるコンプレックスなんかも全部ひっくるめて抱きしめてあげて、「今日も私最高」って自分で自分を褒めるところから始めてみない?

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前川裕奈

前川裕奈

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。



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