「キレイになった」と言われたい…前川裕奈さんが過激なダイエットの末に見つけた「本当のキレイ」とは

 「キレイになった」と言われたい…前川裕奈さんが過激なダイエットの末に見つけた「本当のキレイ」とは
Yuna Maekawa

『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』の著者、前川裕奈さんにインタビュー。幼少期から抱いてきた体型へのコンプレックスから、「褒められたい」「痩せたと言われたい」という思いで過酷なダイエットにのめり込んだ前川さんが、外見至上主義から解き放たれたキッカケとは?

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「胸が大きくてうらやましい」
「美人はいいね」
「痩せたらかわいいのに」

実はこれらの言葉はルッキズムにつながる言葉です。

2022年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートした「ルッキズム」という言葉を最近よく耳にするようになりました。ルッキズムは「「looks (見た目)」と「ism(主義)」を合わせたもの。日本語では「外見至上主義」、つまり「人を見た目で判断する」ことを指します。

2023年6月30日に発売された『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』の著者、前川裕奈さんは過去に体形を揶揄されるあだ名をつけられ、それがキッカケで長らくルッキズムの闇に囚われていたと話します。ムリなダイエットに、その反動で過食に走るなどの葛藤を経て、今回この書籍を出版するに至りました。

「日本における美しさの基準は“痩せていて色白がいい”というようにバリエーションが少ない。そして、その狭い基準に、知らず知らずのうちに囚われてしまっている人がいると思う」と前川さんは言います。日本の日常に潜むルッキズムの罠と、そこから逃れる思考法について聞きました。

ルッキズムは「見た目を気にするな」というメッセージではない

ーー書籍のタイトルでもある「そのカワイイは誰のため?」というメッセージに、ドキッとしました。自分が好きでしているはずのおしゃれも、美容も、実は「褒められたい」「若く見られたい」など、他人の目を気にした動機があるな、と思い当たる節があって。

前川さん:ルッキズムの問題は、とても難しいですよね。見た目をまったく判断基準にしないなんてことはできないと思います。たまに、ルッキズムというと「見た目を気にするな」というメッセージだと受け取る方もいますが、そうじゃないんですよね。おしゃれをすることも、メイクすることも、体重を減らすことも「自分が自分をもっと好きになるため」なのであれば、それはすごくいいことだと私は思っているんです。

もちろん、逆に「メイクとか、ダイエットとか、めんどくさい!」と思っているのであれば、それは自分のためにやめてあげてもいいのかな、と。

ーーなるほど。一方で、社会人になるとTPOがあったりもしますよね。

前川さん:たしかにそうですね。私は「自分で自分がゴキゲンでいられるファッションをしよう」と呼びかけています。しかし、それを必ず優先しろと言いたいわけではありません。例えば、どれだけ気に入っていて、自分らしいおしゃれだったとしても、さすがにTシャツに短パンで尊敬する先生との食事には行きません。結婚式やお葬式、営業など、それぞれ礼儀がありますから、それらを踏み倒せと言いたいわけではないのです。

ただ、もしも自分が、ダイエットや美容やおしゃれなどがあまりに「自分の中で苦痛になっている」と思うことなら、「何のため? そこまでやる必要ある?」と問いかけて、調整してほしいなと思っています。なかなかファジーな問題なので、難しいんですけれど……。

ルッキズム
「〇〇しなきゃ」という固定観念から解き放ってくれるメッセージが満載

ーー褒められると、やはり気分がいいので「それが好き」だと思ってしまうこともありそうです。それは結局、自分がその状態を「選んでいる」のでしょうか。

前川さん:これは私の意見なのですが、褒められることを基準としてしまうと、どうしても他者に評価をゆだねるので、他の人の目線が気になると思うんです。そうすると、どれだけ努力しても「まだまだ」と満足できなかったり、「なんでこんなことしなきゃならないんだ」と思うなど、結局苦しくなってしまう気がしています。

私は今でこそ自分の好きなファッションをするようになり、今日も趣味全開のネイルをしています。でも、例えばこれがフレンチネイルとかだった場合、それが一般的に打ち合わせとかでも受けがいいからというのでやっているのか、自分が本当にフレンチネイルのシンプルさが好きでやっているのかというのは、結構自問自答しないとわからなくなりそうだなと思いますね。

しかも、自問自答した結果、「人のウケが良いからフレンチネイル」ということが良くないわけではないんです。例えば、仕事で波風立てずにいたいとか、交渉をスムーズにしたいとか、そういった自分の目的のためだと割り切っていればいいのかもしれない。しかし、それをなんとなく「こうすべき」だと思って「好きでもないのになんでお金をかけてやらなきゃならないのだろう……」と思うのでであれば、一旦「本当に、こうじゃなきゃダメなのかな」と考えてみてもいいかもしれません。まぁ、フレンチネイルが良いと思われる会社で、今の私のネイルは許されないのかもしれないですけれど……。ネイルだけでなく、服装や髪型、メイクなども同じだと思います。楽しむはずのおしゃれや美容を「ああ、疲れたなぁ」と思ったときは、もしかしたら「私はどうしたいのかな」って立ち止まってみてもいいかもしれないですよね

ルッキズム
大好きなアニメやゲームのロゴ入りネイルで気分を上げる

 

「とにかく、痩せたい」その一心で…1日の食事が飴玉3個だったことも

ーー前川さんご自身は「痩せてキレイと褒められたい」と、過激なダイエットをし、拒食気味になった経験があるんですよね。

前川さん:父の仕事の関係で、5歳から小学校5年生までイギリスとオランダで育ちました。小学校5年生の時に日本に帰国し、地元の小学校に転入したその日に容姿を揶揄したあだ名をつけられたんです。そこから長らく自分の容姿にコンプレックスを抱き続けていました。痩せにくい体質ですし、何よりも食べることが好きだったので、どちらかといえば、ずっとぽっちゃり系でした。しかし、大学生のときに、初めての失恋を経験して、食欲がなくなってしまったんです。そしたら、当たり前ですけど、痩せました。その痩せた姿を、周りから褒められてしまった。そこで「痩せたらキレイと言われるんだ」という成功体験を積んでしまったんです。もっと痩せて、一般的にカワイイとされる見た目になれば、復縁できるかも……というキッカケから、「褒められるため、愛されるため」という他人軸のために、ダイエットをし続けました。

ーーどんなダイエット方法をされていたのでしょうか。

前川さん:食べないことはもちろん、母の影響でランニングも始めました。母はランニングを趣味として楽しんでいたのですが、私は「とにかく痩せたい」の一心だったので、しっかり食べずに走り、タイムよりも体重が目標になっていました。いくら痩せても満足できない。社会人になってからもダイエットを続け、新卒で入った不動産会社での激務をこなしながらも、深夜まで仕事も珍しくない労働環境の中でも、仕事帰りには疲労困憊の体に鞭打ってランニングを続け、「とにかく痩せていなければならない」という呪いにかかっていましたね。極限まで食べるものを減らしたい。1日飴3つだけで過ごすこともありました。

ーー周りから、心配されたのでは……。

前川さん:一人暮らしだったので、私がどんな過酷なダイエットをしているか知っている人が少なかったんです。しかしたしかに、よく会う友人からは、痩せすぎなことを心配されることもありました。しかし周りからの「もう十分に細いよ」という言葉を、私は素直に受け止められなかった。「油断させているんだな」なんて穿ったとらえ方をするほど、外見へのコンプレックスと、日本のスタンダード・ビューティーに近づき、褒められたいという欲求に支配されていました。

ーー現在は「心身ともに健康な状態でいるときの容姿こそ、もっとも美しい」と発信するほどまでになったキッカケとか理由は、なんだったのでしょうか。

前川さん:アメリカに留学していた時に「裕奈には常に自分のコンプレックスを感じている雰囲気があり、生きづらそうだから、セクシーじゃない」と言われたことがキッカケです。一度社会に出たあとに、学生時代から夢であった国際協力の仕事に就くため、大学院に入りなおしました。その後期課程で、交換留学生としてアメリカに留学したんです。会社員時代のアメ3個生活と変わらないような生活を続け、すごく細くて、日本では褒められるような体形を維持していたんです。だけど、アメリカのシェアハウスの人たちにセクシーじゃない、魅力的じゃないと言われて。このセリフを聞いたときに、いかに自分が日本だけで通用している狭い美の定義の中で、自分を置いてけぼりにして生きていたかに気付きました。「褒められたい」「モテたい」「愛されたい」から頑張りすぎて、どこまでやっても満足できなかった。だから極端なダイエットを続けていたんですよね。

けれどこのできごとがキッカケとなり、おしゃれも、美容も、運動も全部「自分の笑顔のため」にやればいいんだ、と少しずつわかるようになりました。

そして、このアメリカ留学のあと、念願の国際協力の仕事に就き、赴任したスリランカで、本当にルッキズムから解放されました。スリランカの女性たちは「痩せなきゃ」とか「これでは美しくない」などの容姿に関する発言を驚くほどしないんです。スリランカで開催されたあるイベントに参加した時に、まるでモデルかのようにポージングして自撮りしたり、写真を取り合っている様子に感銘を受けました。SNSに、同じような写真を何枚もあげている友人に「ほとんど同じじゃん!(笑)」とツッコんだら、「どれも良くて選べないから、全部載せたよ!」と(笑)。スリランカでの生活のおかげで、気持ちよく自分のために運動し、食事を楽しみ、自分らしさを取り戻すことができました。

ルッキズム
みんなが「自分大好き!」と言える世界にしたいと話してくれた前川さん

日常の中に、ルッキズムの罠がある

ーー日本以外の国にいたからこそ気付けた面はあるかもしれないですね。ただ、海外でも「これがキレイ」という基準がありそうです。

前川さん:そうですね。やはり、どこの国でも「これがモテるよね」というなんとなくの型はあると思います。ただ、私がいろんな国の友人たちと話していて感じるのは、日本と韓国のスタンダード・ビューティーは狭くて、「こうでなきゃ」という思い込みが強いということです。アメリカやヨーロッパだと移民の方も多く、肌や目や髪の色が根本的に違うために、そこまで画一的な美の基準が生まれにくいのかな、と思っています。対して、日本人って、大体同じなんですよね。だからこそ、色白だ、色黒だとか、目が一重か二重かなど、細かいディテールが気になってしまうのかなと。

スマホの加工アプリの加工度も、日本と韓国が高い。他の国だと、せいぜい肌補正(色を変えるのではなく、ムラをなくす程度)くらいだと、友人は言っていました。加工の技術が進んでいるのが悪いわけじゃないんです。ただ、加工することで、現実の自分との乖離が気になって、自分は可愛くないとか、もっと目を大きくしなければとか、そんなコンプレックスを抱いて、ルッキズムの沼にハマらないか、それが心配だなと思います。肌艶加工は、私だってしますから(笑)。

整形することも、私は否定しません。自分がその方が良いと思っているなら、それでいい。だけど、もし「褒められたい」などの他者の評価を期待してしまっているのであれば、ルッキズムの沼に落ちそうになっているよ! と声をかけたいですね。

ーー容姿をほめることって、良いことかと思っていましたが、そうではないんですね……。

前川さん:以前の私がそうであったように「痩せてて可愛いね」と言われると、太ってしまったら可愛くないんだ、と感じてしまうかもしれませんよね。そこまで深読みしなかったとしても、日常会話の中で「目が大きくていいな」「美人は得だよね」という言葉を発したり耳にしたりしていると、「目が小さいと良くない」「美人でないと損」という価値観が気付かないうちに刷り込まれてしまいます。

そうではなくて、褒めるなら「その洋服似合ってるね!」とか「今日すごく素敵!」など、体のパーツに言及しない声掛けに変えてみる。それだけでも、違ってくるんじゃないでしょうか。

ーー日常の中に知らず知らずのうちにルッキズムの罠があるんですね。

前川さん:日本の広告もすごく画一的な美を謳っているなと感じています。書籍の執筆のために、一時期美容についていろいろと調べていたことがあったのですが、そのときにターゲティングされてしまって。インスタもウェブサイトのバナーも、すべて美容系の広告が表示されるようになってしまいました。そのとき、広告に掲載されている商品や会社は違うのに、どこも「美白」、「痩身」「ムダ毛なし」「艶サラヘア」などになれると書いてあるんです。広告をじっくり見る人はあまりいないかもしれませんが、こうやって刷り込まれていくんだ~と思って、怖くなりました。

ーー注目していませんでしたが、広告枠……たしかにそうですね。

前川さん:恐れているのは、その画一的な美に囚われていることに気付いていないときです。自分がなりたいというよりも、世間から良いといわれる容姿との差を、知らず知らずのうちに比べてしまって、そこまで太っていないのに「ダイエットしなきゃ」とか「二重にしたい」とか思ってしまうと、たとえ痩せても、二重になっても、苦しいままだと思うんです。

自分で自分の「こうでなきゃ」を決めてしまって、苦しまないでほしい。「痩せなきゃ」「キレイにならなきゃ」って思ったら、一旦立ち止まって「誰のために?」って自問してみてください。以前の私のような人が一人でも減って、自分大好き! と言える人が増えたらいいなと思っています。

***

インタビュー後編では、起業してまで叶えたいと思った世界観や、セルフラブについて伺います。

Profile:前川裕奈さん

前川裕奈
前川裕奈さん

1989年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。三井不動産に勤務後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在しながら、2019年8月にフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで講演を行う。趣味はランニング、ロードバイク、漫画、アニメ、声優の朗読劇観賞。

そのカワイイは誰のため?
『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』前川裕奈 著/イカロス出版

 

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インタビュー・文/仲真穂

AUTHOR

ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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