摂食障害を文化人類学の視点で考えると…人類学者・磯野真穂さんに聞く「太ること・痩せること」の意味

摂食障害を文化人類学の視点で考えると…人類学者・磯野真穂さんに聞く「太ること・痩せること」の意味

吉野なお
吉野なお
2022-12-10

プラスサイズモデルであり、ボディポジティブのアクティビストとしても活動する吉野なおさん。今回彼女がインタビューしたのは、文化人類学者で『ダイエット幻想』の著者でもある磯野真穂さんです。食べること・太ること、さらにはダイエットや摂食障害について、文化人類学ではどのように考えているのか、聞いてみました。

今回インタビューさせていただいたのは、友人でもある文化人類学者の磯野真穂さん。心理学で語られることの多い摂食障害について、文化人類学の視点から研究されていました。食べること、そして他者と関わりあうことについて、磯野さんに伺ってみました。

――まず、文化人類学って何でしょうか?

磯野:人間の生き方の多様性に目を向けて、その多様性がどうして、またどのように成り立って維持されているか、変化するのかを、フィールドワークを通して理解していく学問です。フィールドワークというのは、現地に行って聞き取りする方法と、自分もその暮らしの中に入れてもらって、どのような生活をしているのかを見せてもらう参与観察という方法があります。

――文化人類学者として研究テーマに摂食障害を選んだのはなぜでしょうか?

磯野:私がアメリカに留学していたのが1999年頃。90年代というと、摂食障害のことが新聞に掲載されたり、書籍が出たりなど摂食障害が問題として知られ始めていた時期でした。この当時は母親のせいでこの病気になるという理解が主流だったんです。もともと私は大学で運動生理学を学んでいたのですが、科学的な正しさではわからないことが多いし、科学には限界があると思っていました。体って栄養学とか心理学とか、医学的に見るだけじゃわからないことがたくさんあります。そんなときに知った文化人類学は「体と社会のつながり」を理解していこうという学問だったので、専攻を文化人類学に変えたんです。このとき研究課題として摂食障害がいいテーマなのかなと思いました。そのころ自分も痩せたいと思ってダイエットしていたり、周りにも摂食障害で困っている人がいたりしたので関心があることでした。

――文化人類学って、ある意味で「あたりまえ」と「ありえない」に触れることになりますよね。摂食障害についても、一般的な常識からすると、つい「なにそれ!?」と言ってしまうようなこともあると思っていて。でも、フィールドワークを通して、フラットに人と接していくことに対して何かポイントがあるのでしょうか?

磯野:現在の文化人類学は、いわゆる植民地主義的な発想が、いかに文化を壊し、多様な地域の言語、宗教、芸術など奪ってきたかという反省から生まれています。ダーウィンの進化論を使って、欧米人は世界の中で最も進化し優れた人間である、進化を促進していくためには欧米のやり方を広げていくのが善である、と考える時代が本当にあったんです。それが植民地主義の正当化に繋がっていました。そういう反省から生まれたものだから、上から降ってくるような「これが絶対正しい!」みたいな物言いには敏感に反応する癖がついているんです。
ただ、摂食障害の当事者の方にインタビューする中で、「裸になれば摂食障害が治る」という治療法をやろうとしていた人に対しては、「絶対に辞めるべきだ」と言ったことはあります。そこは観察者のままでいる、ただ見ているだけではいけないと思いました。「自分のありのままを開放したことがないから、裸になって他人と手を繋いで輪になれば…」という話だったのですが、これはとても危険なことです。
摂食障害には怪しい治療方法がたくさんあって、「毎月○万円のカスタマイズのサプリメントを飲めば治ります!」なんていうのもあります。苦しければ苦しいほど即効性のある解決法を求めるし、治療法に依存したくなる。なんとなく説得力があり筋が通っていることもあります。だけどそれが極端な言葉で、「あなたはこれをやったら治る!」って言われたら、なによりも欲しい未来が手に入ると思ってしまうんです。お金さえ払えばなんとかなる、って言われたら魅力的に見えちゃうんですね。

――インターネットを開くと「あなたの調子が悪い原因は、もしかしてこれかも?」というハウツーものってたくさんありますよね。生活に支障がない程度のものならまだいいと思いますが、自分の体に何かを取り込んだり、やりすぎるものになったりすると、そこでまた問題が出てきてしまいます。

磯野:そこまで即効性があって治療できる方法であれば、今の標準医療に取り入れられているはずなんです。でも、取り入れられてないということは、やっぱり少しおかしい感じがしますね。

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吉野なお

吉野なお

プラスサイズモデル。雑誌『ラ・ファーファ(発行:文友舎)』などでモデル活動をしながら、摂食障害の経験をもとに講演活動やワークショップなども行っている。

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