【ルッキズム(外見至上主義)とファッション】性差別や社会問題に向き合うスタイリストの葛藤を考える

 【ルッキズム(外見至上主義)とファッション】性差別や社会問題に向き合うスタイリストの葛藤を考える
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「ルッキズム(外見至上主義)」という言葉が知られるようになり、容姿を理由に不当な扱いをしたり、容姿が関係ない場で容姿を評価することが批判されたりするようになりました。とはいえ、どうしても他人からどう見られるかを意識してしまうことはありますし、私たちが生活する中でルッキズムから完全に抜け出すのは難しくもあります。どう向き合ったらいいのでしょうか。芸能人のスタイリングや、雑誌でトレンドを伝えるスタイリストの小泉茜さん。数年前にあるきっかけで性差別や社会問題に向き合うようになり、ジェンダーやボディポジティブに関する発信を行っています。

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婚姻にともなう改姓で急激に不安になった

——いつ頃からジェンダーの問題に関心を持ち始めたのでしょうか。

結婚した2020年です。夫の苗字を選択したのですが、いざ区役所に婚姻届を出すときに急に不安になって。話し合えば夫が苗字を変えることも選択肢にあがったと思うのですが、それまでお互いに何も考えず、社会で多数派になっていることを疑わずに手続きを進めました。

そのまま警察署で運転免許証の氏名変更を行ったり、私はフリーランスで夫は会社員で、私は旧姓で仕事をしているので、色々と手続きが大変だったり。男性が苗字を変えてもいいはずなのに、女性が変えることの方が圧倒的に多くて、この手間をなぜみんなすんなりと受け入れられるのだろうと疑問に思いました。

1回目の緊急事態宣言が出される頃に結婚したので、コロナ禍でさまざまな問題が可視化された時期とも重なりました。例えば、持続化給付金の対象から性風俗事業者を外すなんてことがあって「職業差別ではないか」と批判の声があがりましたよね。そこからフェミニズムや政治のことを学ぼうと思いました。

——2017年の「#MeToo」から日本国内でもジェンダーの問題が取り上げられる機会が増えましたが、ジェンダーの問題と向き合う以前はどのように捉えていましたか。

父親がトキシック・マスキュリニティ(※1)が強いタイプで、例えば母親が「パートをしたい」って言ったら「俺が稼いでいないように見えるからやめろ」って言ってるのを見てきました。そんな環境下で育ったので、中学生の頃には「結婚しないと生きていけないような仕事に就くのはやめよう」と思って、もし出産しても自分のペースで復帰できるような仕事につきたいと思っていましたね。

「女性らしさ」を押しつけられる場面があれば、それに反発することもあって、元々フェミニズムの考えに共感している部分はありました。一方で専業主婦を見下したり、男性にナメられたくないがゆえに、男性よりも強く見せようと、いわゆる“名誉男性(※2)”のような態度を取ることもありましたね。

#MeToo運動が始まった頃は、何日も徹夜するくらい仕事を詰め込むような働き方をしていて。分刻みでスケジュールを入れて、忙しすぎてストレスで泣きながら友達に電話することもありましたね。自分のことを考えるだけで精一杯で、社会や政治のことを向き合ったり考えたりする時間もなくて、#MeToo運動のことも少し経ってから知りました。

——振り返ってみて、なぜそこまで自分を追い込むような働き方をしていたと思いますか。

「忙しければ忙しいほど、稼いでいるほどかっこいい」という価値観を業界の中で感じてきたことの影響は大きいですね。なので、私でなくてもいいであろう仕事も全部詰められるだけ詰め込んでいて。

今振り返ると、本当は何がしたかったかも、何に向かっていたのかもわからなくて、常に息切れしているような状態で、ただつらかったですね。

——どうして働き方を変えられたのですか。

新型コロナの流行がきっかけです。緊急事態宣言によって立ち止まざるを得なくなって、働き方を変えることになって。時間ができたことによって、社会や政治、自分自身と向き合うことがいかに大事なことかにも気づかされましたね。今は優先順位が変わって、勉強や読書の時間が大切だと思っているので、セーブできています。

フェミニズムとスタイリストという仕事のジレンマ

——ジェンダーやルッキズムの問題に気がついて、スタイリストとしての働き方や意識に変化はありましたか。

すごくありました!でも良いことばかりじゃなくて、最初は苦しみましたね。新型コロナが流行し始めた頃だったので、貧困で苦しむ人も少なくない中で、ファッションの資本主義的な側面と、トレンドを買うことを勧める自分の仕事に嫌悪感を抱いてしまいました。

もちろんファッション誌は買うための参考にするだけでなく、見てキラキラした気持ちになる効果のあるものだと思うのですが、憧れを持っても買えなくて劣等感を感じる人も増えているのではないかと思って。

一般の方の変身企画の仕事でも、お話を伺っているとその方は自分にとって心地良い服を求めているのに、企画的に面白くするために新しいものを買うように促したり、イメージが大きく変わるようにしたり、「自分がどうありたいか」ではなく、「他人からどう見られるか」を勧めるようなメディアの見せ方に疲れてしまったこともありました。

自分の仕事を自分で否定している状態が苦しかったのですが、まずは頂いた仕事に感謝して真剣に向き合いました。それと同時に、トレンドを追うことや、消費を促すスタイリストは他にもいると思うので、そうでないスタイリストがいてもいいよねって思うようにもなって。モヤモヤ感が強い仕事は減らしていくなど、仕事の方向性を変える努力をしました。

まだ手探りの段階ではあるものの、スタイリストとして新しい価値観の発信をしていきたいので、文章の仕事をするなど、一般的にイメージされるスタイリスト以外の仕事もしています。

——ファッション誌でも少しずつジェンダーのトピックスも取り上げられるようになっているものの、小泉さんのように考える方はまだ多数派ではないと思います。悩むことはありますか。

フェミニズム専門の出版社と書店である「エトセトラブックス」のTシャツを買った頃に「今年スタイリストが購入したもの」というページの依頼がきたので、知ってもらう良い機会だと思って提案したら、全然受け入れてもらえなくて。“攻撃的”なメッセージが書かれているわけでもないのに、そんな反応をされることにびっくりしました。デザインも可愛かったし、ファッション誌としては、トレンドの切り口で知ってもらう方法もあると思ったのですけどね。

普段はInstagramで発信しているのですが、賛同してくれる人も結構います。一方で「男性差別みたいなこと言わないでください」ってDMが送られてくることもあって……。男性を否定しているのではなく、性役割を良しとする「社会」へ疑問を投げかけているんですが、世間一般では誤解されていますよね。なので、男性と仕事することも多い中で、否定的に思われているんじゃないかって不安になることもありました。

フェミニズムに関する発信をすることで、スタイリストとして求められているものと違うことをしてしまっているのではないかと悩みました。今は気持ち的には吹っ切れています。スタイリストの強みを活かしながら、フェミニズムの発信をするのにどんな方法が効果的かは、まだ模索中ですね。


※1 トキシック・マスキュリニティ:Toxic Masculinity。有害な男らしさ。従来から「男らしさ」とされてきたもののうち、負の側面を持つ要素のこと。

※2 名誉男性:男社会の中で勝ち上がった、家父長制(男性に権力が集中する構造)の考えに迎合的な女性のこと。


【プロフィール】

小泉茜さん
小泉茜さん(ご本人より提供)

小泉茜(こいずみ・あかね)

1987年生まれ。スタイリストとして、女性誌をはじめとするメディアや広告を舞台に幅広く活躍。2020年、結婚での改姓を機に社会での性役割やメディアによる影響に向き合うようになる。2021年、ルッキズムやボディポジティブ、ジェンダーについて発信を始める。

●HP:https://www.akanekoizumi.com

●Instagram:@akane_koizumi_

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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