「自分のためのオシャレ」に他者の視点は存在しない?『ブスなんて言わないで』から考えるルッキズム

 「自分のためのオシャレ」に他者の視点は存在しない?『ブスなんて言わないで』から考えるルッキズム
(c)とあるアラ子/講談社

ルッキズムをテーマとした漫画『ブスなんて言わないで』(講談社)。ただ「ルッキズムをやめよう」というメッセージが描かれているのではなく、様々な登場人物の視点を通して、反ルッキズムが本当に容姿差別からの解放となっているのか、新たに排除している人がいないかを考えさせられる作品です。後編では作者のとあるアラ子さんに、男性が直面する容姿差別、「モテ」「愛され」のコピー、作品を通じて伝えたいことについてお伺いしました。

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低身長男性に向けられる容姿差別

『ブスなんて言わないで』(講談社)より
(c)とあるアラ子/講談社

作中では、イケメンと言われるけれども、低身長であることがコンプレックスなカメラマン・小坂を通じて、男性が経験する容姿差別も描かれています。男性のルッキズムについては、個別の取材を行ったわけではないものの、低身長YouTuberの動画を参考にしたとのことです。

「低身長の男性が街で女性に『何㎝以上の男性なら付き合えるか』をインタビューをしている動画があるのですが、女性たちは遠慮なく意見を言っているんです。でももしこれが男女逆だったらどうでしょう。高身長女性による『何㎝までなら付き合えるか』というインタビューに、男性がはっきりと『付き合えません』と言っている姿が想像できなくて……。男性への意見の辛辣さから『男性の容姿はイジってもいい』という考えの強さを感じました。

トータルで考えれば、女性の方が容姿に関して大変な思いをすることが多いとは思います。一方で男性に対するルッキズムは問題視されにくく、気を遣わずに好き嫌いを言えてしまう部分があるのではと感じます。

恋愛や容姿の問題に関して何を考えているか聞いても、なかなか本心を教えてくれる男性が身近にいないので、最近は男性学や『男性の生きづらさ』について書かれた本を読んでいて、小坂を描く際に反映していきたいと思っています。1巻の終わりで少し描いているように、知子と恋愛関係になる流れもあるので、小坂に関しては長いページを割いて描いていきたいです」

『自分のため』には他者の視点は存在しないのか

『ブスなんて言わないで』(講談社)より
(c)とあるアラ子/講談社
『ブスなんて言わないで』(講談社)より
(c)とあるアラ子/講談社

第10話では「モテ」や「愛され」というコピーも、かつては女性が本音を言えるために勝ち取ってきた概念ということが描かれています。「モテ」や「愛され」は「男性に好かれるため」という視点が強く打ち出されてきました。しかし、ファッションや美容は男性に好かれるためにするとは限らないことから、昨今では「自分のため」「ご自愛」といった自分を主体とした文言がよく見られています。「モテ」「愛され」について、とあるアラ子さんは「メイクやオシャレの目的を提示されること自体が息苦しい」と言及しました。

「私はこれまで女性誌のコピーに嫌な思いをしたことって一度もなかったんです。『モテ』や『愛され』がブームの頃も、『そういうのが好きな人がブームに乗っているのだな』くらいに捉えていて、自分には関係のない話だと思っていました。ところが昨今『自分のためのメイク』のようなコピーが流行り出して、初めて心がざわざわしたんです。『自分のため』と言われると、自分にも問われているような、メイクをする理由を突然ジャッジされたような居心地の悪さを感じました。特に会社勤めの方など、日頃から人との関わりが多い方は『モテ』や『愛され』の圧がきつかった方もいると思うのですが、個人的には『自分のため』というコピーの方に圧倒的な圧を感じてしまうんです。

また『自分のため』といっても、どこまでが『自分のため』なのかは、線引きって難しいですよね。オシャレをすると気分が上がりますし楽しいですが、それが全て自発的なのかと問われると……。着心地が良いとか、感触が気持ち良いとかは、もちろん自分のためですが。でもオシャレをするにあたって鏡を見ますよね。私は鏡は他人からどう見られるか確認する道具だと思っています。『自分のため』と思っていても、完全に他者の目を意識することから逃れるのは、なかなか難しいのでは」

ヨガジャーナルオンラインには、SNSなどで他者と比較してしまうがゆえに「自己肯定感が低い」「自信がない」「人と比べてしまう」という悩みが多く寄せられます。とあるアラ子さんからは、SNSの使い方に注意しようと思った出来事についてお話しいただきました。

「コロナ禍になって、ちょっとした時間にSNSを見る機会が増えました。こういった漫画を描いているので、整形やメイクの情報を積極的に見ていたら、あっという間にインスタグラムのタイムラインが整形とメイクの情報ばかりになったんです。その時期は『こうしなければ美しくない』と、考えが固定化されていました。たとえば『NG眉毛』といった投稿を何度も見て『私も気をつけなくては』なんて思ったり……。でも久しぶりに会った友人の眉の形が、NG眉毛だったんです。でも全く変じゃなくて、友人の雰囲気に合っていました。インスタの常識から外れていても現実にはオシャレな人もいるんですよね。何度も繰り返し似たような情報を見て、洗脳されていたんです。すごく怖いなと思いました。最近はかわいい動物や便利アイテムの情報を意識的にタップして、美醜の価値観を取り入れすぎないように気を付けています」

「みんなが言ってるから」ではなく、自分で考えて答えを出してほしい

ルッキズムに関する様々なテーマが取り上げられている『ブスなんて言わないで』ですが、とあるアラ子さんは「ルッキズムを壊したいというよりは、ルッキズムにまつわる様々な問題について、本当に自分で考えているのかを問いたいです」と語ります。

「先ほどもお話ししたように、『容姿イジりはダメ』とみんな同じようなことを言っているように感じて、『この考えが主流だから』という理由ではなく、本当に自分で考えて出した結論なのかなと思ってしまう部分があります。

漫画の中では本作では色々なキャラクターの考えを提示してきましたが、『正解を示す』という描き方はしてないんです。担当さんと相談して第11話からのミスコン編では、正解を示すような描き方をしようと思っていたものの、思った以上に説教臭くなってしまい没にしてしまいました。そして結局色々なキャラクターの事情を書く形に戻りました。

もちろん私には私の考え方がありますが、本当にそれが正解なのか自信がないので、答えを打ち出すようには描けないのかもしれません。結果的にはその描き方が読者の皆さんから評価しているようですが……。とはいえ、このままずっと問題提起をし続ける描き方でいいのか疑問に思う部分もあるので、これからも悩みながら描いていくと思います」

【前編】では、“一人ひとり違って綺麗”は容姿差別からの解放?など、ルッキズムについてお伺いしています。

 

【プロフィール】

とあるアラ子

漫画家。東京都出身。漫画『美人が婚活してみたら』(Vスクロールコミックス)で人気を博す。2021年より、web漫画サイト「&Sofa」で『ブスなんて言わないで』を連載開始。

とあるアラ子
『ブスなんて言わないで』(「&Sofa」)
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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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『ブスなんて言わないで』(講談社)より
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とあるアラ子