「その言葉、親友にも言える?」起業家・前川裕奈さんが「自分に厳しくなってしまう人」に伝えたいこと

 「その言葉、親友にも言える?」起業家・前川裕奈さんが「自分に厳しくなってしまう人」に伝えたいこと
Yuna Maekawa

『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』の著者である起業家の前川裕奈さん。起業のきっかけやブランドコンセプトにもなっている「セルフラブ」について、教えてもらいました。

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小学生時代に、体形を揶揄したあだ名を付けられたことで、自分の容姿にコンプレックスを抱き、一時は拒食気味にもなっていた前川裕奈さん。その経験を踏まえ、「セルフラブ」をコンセプトとしたスポーツウエアブランドを起業。2023年6月30日には『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』を上梓しました。

インタビュー前編では日本の日常に潜むルッキズムの罠、そして前川さん自身がルッキズムから抜け出せたきっかけと、そうならないための方法について聞きました。

後編では、そんな前川さんがなぜスリランカで起業したのか。そしてブランドコンセプトにもなっている「セルフラブ」について、教えてもらいます。

スリランカで出会った「セルフラブ」

ーー書籍の副題である「ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話」について、お伺いしたいと思います。ルッキズムをやっつけたい……ということがモチベーションになって、起業されたのでしょうか。

前川さん:起業の目的は実は2つあって。1つは確かに「日本にあるルッキズムをなくしたい」という想いがあります。もう1つは、スリランカの女性と笑顔溢れる職場を作りたいと思ったことです。

新卒で入社した会社を辞め、夢であった大学院に進学して国際協力の道に進みました。そのときに担当した国が、スリランカでした。最初は隔月で短期出張で訪れたスリランカに、完全に恋してしまって。どうしてもスリランカ現地で働きたかった。それで、外務省の試験を受け、在スリランカ日本大使館で働くことにしたんです。そのときに、現地の女性たちから「セルフラブの精神」を教えてもらいました。

「セルフラブ」とは「自分自身を受け入れ、抱きしめ、前に進む」こと……というと堅苦しいですけれど、つまりは自分で自分を愛することです。「完ぺきではないからこそ、自分で自分をほめ続けている」と語ったスリランカ人の友人の言葉が、忘れられません。

ーースリランカで「セルフラブ」の大切さに気付いた。それが“スリランカで起業”につながったのですね。

前川さん:日本のスタンダード・ビューティーを目指して拒食気味になった私が、アメリカでルッキズムの闇の中にいたことに気付き、目を覚ました。そして、スリランカでセルフラブの思想をもらい、「自分の笑顔のために、自分で自分を褒める」というスタンスを身に付けさせてもらったんです。とても生きやすく、幸せを感じられるようになりました。

フィットネス ウェア
着るだけでHappyになれそうな柄のkellunaのフィットネスウェア。作っているスリランカの女性たちのサインがついてくる

スリランカで学んだ「セルフラブの精神」を、日本のみんなにも伝えたい。そして、スリランカに恩返しがしたい、という気持ちが募りました。恩返しとして、何ができるだろう、と考えたときに、スリランカの女友達が「ハリウッド映画に出てくるようなインディペンデント・ウーマンになりたい」と言っていたことを思い出して。

「スリランカで学んだセルフラブの精神を、日本に届けつつ、スリランカの女性の経済的自立を支援する仕事がしたい」。これを叶える方法を考えたとき、起業という選択肢が最適でした。まさか自分が起業するなんて、まったく考えていませんでしたが、私の大好きな「日本とスリランカの女性を笑顔にする」というゴールを目指す挑戦をしたいと思ったんです。

なぜ「フィットネスウェア」だったのか

ーーそして起業した「kelluna.」の事業内容などを教えてもらえますか。

前川さん:「kelluna.」はフィットネスウェアブランドです。“Beauty comes from self-love(美とは、自分を愛すること)”がコンセプト。私たちが作るフィットネスウェアを通して、スリランカの女性が教えてくれたセルフラブの精神を日本の女性に贈る。日本の女性は、それを買うことで、スリランカの女性の雇用をサポートする。両国の女性のプレゼント交換を、手助けする存在になりたいと思っています。

セルフラブという、形のないものを伝える手段をなぜフィットネスウェアにしたかというと、やはり私の経験が大きく影響しています。私自身がダイエットを始めてから、今までずっと、フィットネスを続けてきました。最初は「ダイエット目的の痩せるためのフィットネス」として始めた運動が、ルッキズムから解放されてからは、「ライフスタイルとして楽しむためのフィットネス」になりました。取り組む目的が違えば、取り組んでいる時の気持ちもまるで違うことを実感していたんです。そんな私自身のストーリーを乗せて伝えたいと考えて、プロダクトはフィットネスウェアにしました。試作段階から、さまざまな試練も苦労もありましたが、おかげさまで2023年で5期目を迎えることができました。

ーー日本とスリランカの女性の、素敵なシスターフッドの形ができているのですね。

前川さん:まだまだ「kelluna.」を知ってくれている人も少ないですし、スリランカの女性の雇用も12人ほどですから、国単位でみれば、小さなアクションだと思います。しかし、私は国際協力の道を志した時も「草の根活動」の影響力を感じてきました。国や自治体、大企業のトップが動いた方が、大きく動くでしょう。でも、それと同じか、それ以上に個人が個人のできることを草の根レベルでやっていくことが大事だと考えています。6月に『そのカワイイは誰のため』という書籍を出版するに至った理由も、そこにあります。

スリランカ
前川さんと、スリランカでkelluna.のウェアにセルフラブの精神を吹き込んでくれているスタッフのみなさん

ーー詳しく教えてください。

前川さん:私がいくら本を書いたからといって、それくらいで日本の社会やみんなのマインドは変えられないと思っています。もし仮に、今後TVのように影響力の大きなメディアで発信するようになったとしても、それは同じ。それでも発信しないと誰にも伝わらない。とても時間がかかるかもしれないけれど、自分の半径5メートル以内にいる人たちに、私の想いを伝えていけば、それが伝播して、少しずつ良い方向に動いていくんじゃないかなと思っています。発信の仕方は、人それぞれでいいと思います。直接会って話す人もいるだろうし、SNSで発信する場合もあるでしょう。行動で示す人もいるかもしれません。私の場合、それが今回幸運なことに、書籍として出すことができました。この本を読んだ人から、少しずつセルフラブの輪が広がったらいいなと思います。

書籍を出してから、すごくうれしいことがありました。比較的よく会う仲間の1人に、ルッキズムについて「気にしなければいい」という考えの方がいるんです。その人は、これまで、自分の努力で人生を切り開いてきたという自負があるからこそ、他人に対しても弱音を吐くな、甘い、みたいな強めの精神論の持ち主でした。でも、その人の不用意な発言に、傷つく人も多いのではないかと思っていました。その人に書籍を読んでもらったところ「もしかしたら、自分はこれまで、意図せずに人を傷つけてきたかもしれないと気付いた」という連絡があって。私が書籍を出したことで、半径5メートルの中のラスボス的な人にもメッセージを届けられたと感じられました。

共感して欲しいわけじゃない。ただ、「知ってほしい」

ーーそうやって、少しずつじわじわと育っていく種のような存在としての書籍なんですね。

前川さん:それだと嬉しいです。でも一方で、共感してほしい、私と同じ考えになってほしいと思っているわけではないんです。

ただ「知ってほしい」。ルッキズムに悩み、セルフラブに救われた人がいることを。知ることで、もしかしたら、その先の発言や行動が、変わるかもしれないですよね。

前川裕奈
支援される側、支援する側という一方通行ではない形で日本とスリランカの架け橋となりたかったと語る

そして、私と同じように自分の容姿で悩んでいる人には、同じことで悩む同志の存在を知ってほしい。それが勇気づけになると思うからです。実は私は卵子凍結をしたのですが、それをSNSで発信した時も「実は私もしようと思っていた」「発信に勇気づけられた」と反響をいただきました。発信することで、同じことに悩む人の力になれるんだと、その時実感したんです。なので、とにかく「知ってほしい」ですね。

ーー書籍を出版し、反響はどうでしたか。

前川さん:読んだ方からは「パワーをもらった」「お守りにする」という声をいただきます。「ああ、ちゃんと伝えたい人に伝わっているんだ」と安心するし、頑張ろうと、こちらがパワーをもらっています。

最近、日本でも「多様性」とか「見た目をいじるのはどうなんだ」という価値観が浸透してきていて、良い方向に変わっていっているなと感じます。でも、まだ過渡期だし、完全になくなったわけでもない。いまだに「いい女(男)」とか「女子力」という言葉は使われていますし、SNSやWEBメディアの広告は「痩身」「美白」などで溢れている。そんな世界で生きていると、いくら「ルッキズムと決別し、セルフラブの精神で生きよう」なんて思っても、すぐに引き戻されてしまうんですよね。そんなときの「お守り」にしてくれているそうです。書籍を出版できたので、言葉で「あなたはそのままで素敵だよ!」って伝えられる手段ができました。もっともっと、届くといいなと思います。

ーー日によっては「私って最高!」と、自分で自分を肯定できないときもあると思います。

前川さん:そうですよね。絶対そうだと思います。ただ、そんなときも、自分を無駄に責めないでほしい。「もっと頑張らなきゃだめだ」「かわいくない」って、自分に思ってしまったとき、思い出してほしいのは「その言葉、親友にも同じこと言う?」ってことです。大好きな親友に、「もっとやる気出せ」なんて言わないですよね。他人には優しくできるのに、自分には厳しい人が多い。自分という存在を「親友」のように大切にしてあげてほしいです。セルフラブの精神を忘れそうになったら「それ、親友にも言う?」って考えてみてはどうでしょう。

「わたしって、最高!」とみんなが自然に思える世の中になればいいなと、心から思っています。

Profile:前川裕奈さん

前川さん
前川裕奈さん

1989年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。三井不動産に勤務後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在しながら、2019年8月にフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで講演を行う。趣味はランニング、ロードバイク、漫画、アニメ、声優の朗読劇観賞。

そのカワイイは誰のため?
『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』前川裕奈 著/イカロス出版

kelluna.(ケルナ)

“Beauty comes from self-love(美とは、自分を愛すること)”というコンセプトをもとに、スリランカの女性たちの働く力をサポートしながら、日本にボディ・ポジティビティやセルフラブの大切さを発信しているフィットネスウェアのブランド。「自分に優しく(self-love)、ヒトに優しく(雇用の創出)、地球にやさしく(廃材の活用)」をブランドミッションとして掲げる。

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インタビュー・文/仲真穂

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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