〈しゃべるっきずむ!座談会〉オタク的視点で語る「二次元とルッキズム」
容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。
今回は、裕奈さんの友人2名をゲストに招いた座談会。オタク仲間でもあるおふたりに、アニメや漫画にひそむルッキズムについて投げかけてみました。
ルッキズムが消えたら、キャラの個性も消える?
裕奈:私たちが子どものときは、漫画やアニメでもルッキズム描写やセクハラ発言がたくさんあったよね。今よりもあからさまな「ブサイク」などの表現もあれば、「巨乳最高」みたいな描写も少なくはなかった。そういう表現が見る側や社会に与える影響が懸念される社会は、すごくいい方向に進んでいると思う一方で、そういう作品も楽しんできたオタクとしては、エロ発言などを全部とっぱらっちゃう寂しさも感じてるんだよね。アニメや漫画が好きなうちらで一旦これについて話し合ってみたい!
りん:セクハラやルッキズムを全部なくすべきという人がいるのもわかる。でも、たしかにちょっともったいないというか、寂しい気持ちはあるかな。例えば、『シティーハンター』の冴羽獠とかルパンとかって、ルッキズム的にはアウトなんだろうけど、作品のファンとしてはああいうのも必要だと思っちゃう。
裕奈:そうそう。最近は漫画でもルッキズムやフェミニズムに配慮している面白い作品もたくさんあるのが嬉しいけれど、全部の漫画がそうなるべきか?と考えると悩む自分もいて。とはいえ、胸も含めた体型について言及することは、現実世界ではNGじゃん。だから、それを許容する世の中になってしまうと、現実でも「いいんだ」「おもしろいんだ」と勘違いする人が出てくるのはダメだよねとも思う。
りん:例えば、ルパンの中でも次元とか五右衛門が「それはダメだ」とか叱ってくれる描写があると、また違うのかな。でも、やり方次第では流れが止まるよね〜。
裕奈:それは一つの手段として、あるよね!前にコラムでも書いたんだけど、最新の『劇場版シティーハンター天使の涙』だと、冴羽獠の相方の槇村香が「胸のサイズに悩む女性もいるんだから、そういう発言はしないの!」ってサラッと言うシーンがあるんだよね。作中のキャラが一言伝えるだけでも、世界観は壊さずに印象を変えられるんじゃないかとは思った。
みゆき:漫画でも、たまに作者の注釈が入ってることがあるよね。「現実世界では言っちゃダメですからね」みたいな。あとは、実際その会話をするふたりの関係性もあったりすると思う。だから、不二子が「私は自分の体型が大好きだからいいけど、他の子に言ったらダメよ」とか言うだけでも違うのかも。
りん:確かにね、「この人たちは合意の上です」ってことがちゃんとわかれば。
裕奈:作品の本筋を壊さずに、そういう補足があるのはいいよね。私は社会でルッキズムがゼロになることは難しいと思ってて。だからそのなかでサバイブしていく手法や、どう対峙すればいいのかをキャラが教えてくれるのがリアルなのかもしれない。
みゆき:そのルッキズム発言が「正しいもの」として作品内で肯定されなければ、存在し続けるのはありなのかなと思うね。あとは、受け手側が「このキャラや関係性だから言っていいけど、現実世界はダメだ」って、ちゃんとわかってることが大事なんだろうね。
裕奈:それこそ前回の座談会でも話したけれど、現実世界も二次元も同じで「相手との関係性」によって許される発言って変わるってところもあるよね。
勇気をくれる漫画だからこそ、付き合い方まで考えたい
裕奈:二次元に登場するキャラの容姿についても、ふたりに聞きたい。例えば、登場人物の多い『ハイキュー!!』や『ウマ娘』とか見てると、それぞれ個性はありつつ基本的には「いわゆる」なイケメンや美女ばっかりだよね。これらの作品は私も大好きなのは大前提。その上で、もう少し多様な体型や容姿があった方が「多様性」の表現はできる気がするんだけど、ふたりはどう思う?
みゆき:うーん。アニメや漫画はビジュアルが前提だから、別にイケメンしかいなくてもいいんじゃないかな。現実世界と2次元は別物って分かってるから、出てくる人がみんなスタイルよくてもあんまりなんとも思わないかも。
裕奈:そうなんだ!私は幼少期は当時人気の少女漫画は読んでいたから、それらに出てくる子たちは極端に細くて、「この子たちみたいに細くない自分は(人生の)主人公になれないんだ」と思ってた。「細い=可愛い」の方程式ができていくというか。
みゆき:二次元の楽しみ方の違いにもよる気がする。私は、あんまり「キャラ=自分」みたいな読み方はしてなくて、別物として考えるから自己投影とかもしないかな。もちろん、漫画から勇気をもらうことはあるけど、“容姿”をはじめとして自分と比較することは、あんまりない気がする。
りん:裕奈みたいに漫画のキャラと自分の存在を重ねて読んでしまう人と、切り離して読む人とがいるのかもしれないね。
裕奈:現実との距離感だよね。さっきみゆきが言ったみたいに、漫画から勇気をもらったり学んだりすることもあれば、「フィクションだ」と冷静に読む人もいるし。ふたりもそうだと思うけど、私は人生のヒントとなる名言は漫画から得ることも多いから、そういう意味での距離の近さは好きなんだ。
みゆき:漫画のキャラと比べて「私なんて…」と比較しちゃう子は、つらいだろうね。芸能人やインフルエンサーの影響を受けて「自分は太っている」と思っちゃう子が多いのと似ている構造かも。
裕奈:影響を受けやすいかどうかは、対象年齢も関係するかもね。以前、『ちびまる子ちゃん』で明らかにかわいい子とブスの子を比較したシーンが炎上していたんだけど、それは子どもが見るものだったからという側面もあると思う。みんなが大好きな『ちびまる子ちゃん』だからこそ、「そういうルッキズムはもうやめてほしい」という声が広がった。ルッキズムも何も知らない子どもたちに向けて、悪影響を与えないエンタメ作りはたしかに重要だと思うし、同時に二次元の受け取り方も、伝えられたらいいんだろうね。
漫画も社会も、少しずつ形を変えている
裕奈:アニメや漫画を見て「これどうなの?」って声を上げる人が増えてきて、内容が少しずつ変わってきているのは事実だと思う。それこそ、同性愛者の描写とかってこの数年で大きく変わったんじゃない?一昔前は、男のキャラが「俺、そっち系じゃないから!(汗)」みたいな描写が普通にあった気がする。
りん:たしかに。これはアニメじゃないけど、とんねるずの「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」が炎上したよね。私自身、昔はあれがすごく面白かった記憶があるんだよね。でも、今は笑えない人のほうが多くて、受け手の感覚が変わってきてるのを感じた。
裕奈:実在する同性愛者を揶揄する口調や見た目に傷ついた人たちが多かったし、それが理解できる人が増えたということだよね。性的指向やジェンダーと同じくらい、ルッキズムのことも知られてほしいな。
みゆき:そうだね。まだまだ「ルッキズム的にはこれ言っちゃいけなかったの?」って驚くことも多いから。
裕奈:あと、これもコラムに書いたんだけどね。『僕のヒーローアカデミア』にはいろいろな容姿の子がいるけれど、みんな特にそこに言及しない。特定の容姿について何か言うことがないから、見てて心地良いなと思う。
りん:たしかに今までは本筋と関係ないところで、容姿に触れるって当たり前のようにあったよね。漫画でも現実社会でも。
裕奈:そうそう。私の最推しの『名探偵コナン』は、30年近く続くなかで変化してる気がする。改めて読み返してびっくりしたんだけど、以前は毛利蘭が「安産型だから」とか言われるシーンとかあるんだよね。今もルッキズムな発言が完全にないとは言えないけれど、それこそキャラの個性とのバランスを模索されているんじゃないかなって感じる。
りん:そうなんだ!『シティーハンター』みたいにサブキャラに指摘させる手法もあるれば、作品全体として不必要な容姿言及を減らす手もあるよね。作品やキャラの個性を消さずにルッキズムを減らすこと、簡単ではないけどやり方はありそうな気がしてきた。
裕奈:作り手側が、もっとルッキズムやジェンダーなどのことを知っていけば、むやみにルッキズム発言を入れなくても個性を守れるのかもしれない。仮に炎上したとしても、作者側の意図がちゃんと説明できるだけでも違うよね。そうやって歩み寄りながら、単純に「全部なくそう」じゃなくて、私たちの好きな世界観はそのままに、アップデートしていってもらえたら嬉しいな。
⚫︎前川裕奈さんプロフィール
慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」連載中。
AUTHOR
ウィルソン麻菜
「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。
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