小学生の半数が「痩せたい」と思う社会で、私たちができること|前川裕奈さん×田村好史先生(3)

小学生の半数が「痩せたい」と思う社会で、私たちができること|前川裕奈さん×田村好史先生(3)
しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

広告

第13回目は、順天堂大学の教授である田村好史先生をゲストにお迎えしました。糖尿病や肥満について研究する一方で“痩せ”にも関心を持ち、自分らしく心地よい身体の選択を追求する「マイウェルボディ協議会」を立ち上げた田村先生。新たに提唱した「女性の低体重/低栄養症候群」通称「FUS」を交えながら、“健康”や“身体”といった側面とルッキズムの関係性についておしゃべりしました。

痩せたい子が“低年齢化”している現状

前川:田村先生が「女性の低体重/低栄養症候群」、通称FUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:ファス)を作るとき、女性たちがとにかくダイエットに励んできた現状に驚いたと言っていましたね。(FUSについては1本目の記事をご覧ください。)

田村:FUSの症状がある女性たちと話してみると、共通して「痩せなければ」という意識が強く、かなり根深いものを感じました。彼女たちの中には、過去に体型についてネガティブなことを言われたことがある人が多いのも印象的だったんです。これは、外見至上主義であるルッキズムと大きく関係しているんだなと感じました。

前川:私自身も友人から体型を揶揄するあだ名をつけられたことが、自分の体型にコンプレックスを持つ要因でした。気軽な一言でも呪いになってしまうことを知ってほしいです。

田村:先日、小学生に向けたアンケートで「痩せたい」と思っている子の割合を調べたら、1年生女子で33%、6年生では50%以上が「痩せたい」と感じているという驚きの結果でした。

前川:私も6年生に向けて講義した際のアンケートで、「自分の見た目に悩みはありますか?」と聞いたところ、60人中50人が「ある」と答えていて衝撃を受けました。多くの子は「痩せたい」「二重になりたい」という回答でした。

田村:あだ名をつけられた前川さんのように友人の発言に傷つく人も多そうですが、私たちが高校生・大学生に取ったアンケートの結果では、親からの発言がきっかけという人も多かったです。

前川:おそらく悪気のない、よかれと思っての発言だったりもしますよね。私の友人も、就活時期に親から「そんな体型じゃ、どこも受からないよ」と言われたと言っていました。「太っている=怠惰」と見られがちな社会で、その親も子どもの希望する会社に受かってほしいからこそのアドバイスだったんだろうと思いますが……。

田村:僕の妻も、娘に対して「スリムで羨ましい」と言う場面があったんです。痩せ問題やルッキズムについて調べるうちに褒め言葉でもダメなんだと知って共有してからは、一切言わなくなりましたが。あまりに当たり前のように日常に蔓延っているルッキズム、怖いですよね。

前川:褒め言葉は本当にトリッキーです。あと、本人に直接「痩せた方がいいよ」と言わなかったとしても、例えばテレビを見ながら「あの人、太ったね〜」と言ったり、自分のことを「太ってきて恥ずかしい」と自虐的な発言をするだけで、子どもには無意識下で「痩せていたほうがいい」という価値観が刷り込まれていきますよね。親も呪いをかけたいわけじゃないはずですから、ルッキズムについてもっと伝えたいです。

悪気ない発言が、誰かの一生の傷になる

前川:田村先生は、痩せ問題に関心を持つようになってから日本の女性たちを呪うルッキズムを知ったと思うんですけど、男性として生きてきたなかでどう感じていましたか?

田村:男性としては、この問題にほとんど“気がついてなかった”と言っていいでしょうね。「女性はみんな痩せたいんだな」くらいの認識しかなかったですし、若い頃には「付き合う相手にはこうあってほしい」みたいなものもありましたし。

前川:それはありますよね。私は再三「好みがあることはルッキズムじゃない」と言い続けているのですが、一方で恋心を抱く相手からの見られ方がルッキズムにつながることも多いと思うんです。好きな人に「細い子がタイプ」と言われることでダイエットに向かってしまうとか。10〜20代の若い頃は特に影響が大きい中で、悪気なく使われる「あの子は痩せてるから可愛い」「あの人は太っているから嫌だ」という言葉は呪いになると思います。

田村:悪気がない言葉でも、それが過激なダイエットや体調不良につながってしまうことがあるとは、想像しにくいんですよね。そういう価値観は本当に広まるのが速くて強固ですよね。小中学生は特にそうですが、クラスの中にいる声が大きい人が「あの子はかわいい」「あいつはデブだ」という価値観を持っていると、みんながそれに染まっていく傾向が強いんじゃないでしょうか。

前川:そうですね。

田村:たとえ自分はそう思わなかったとしても「自分のほうが間違っているのかな」と思わされてしまうほどの強さがあります。ルッキズムの問題に限らず、マジョリティ、マイノリティとなる集団がいて、マイノリティ側が苦しむ社会的構図は様々なところでありますよね。共通する本質的な課題は、「一人一人の意見が否定されない、尊重される」世の中になっていないことだと感じます。それを、なんとかできないかな、と。

田村 従天堂

前川:わかります。みんなが「こうだ」と言っているなかで声を上げるのはすごく体力がいるし、疲れるし、こわいという気持ちもある。意見を言うと場の空気が悪くなったり、変に悪目立ちしたりするから言いづらい。私の周りでも「裕奈は言えると思うけど、私は言えない」という人もいて、彼女たちも会社内や周りの人との付き合いのなかで声を上げずにやり過ごすことが多いんだと思うと、もどかしいですね。

「みんな違ってみんないい」は本音?建前?

田村:本当は、誰かが「私はこう思う」と言った時に、みんな拍手しないといけないんですよ。「よく言った!」って。それが場面によっては、「輪を乱す」みたいな印象になってしまうのがつらいですよね。

前川:そう思うと、やっぱり言えない方が悪いんじゃなくて、それを受け入れる土壌が育っていないんだと感じますね。田村先生が言うように、異なる意見に同意するかは別としても、拍手して受け入れるという空気感はあってほしい。それだけで、意見の言いやすさが違います。

しゃべるっきずむ

田村:ある研究によると、日本では「自分の考えがあること」と「前向きに行動する」というふたつがあまり結びついていないことが見えてきました。「自分の考えがあり、それに従って行動する」、というのはあたり前な気がしますが、どうしても周りを意識して行動してしまうので、「自分の考えを持って突き進む」みたいなことができなくなってしまう。「みんな違ってみんないい」には共感するけど、「みんなはこう言ってるから……」という気持ちもある。本音と建前があるんです。

前川:たしかに、みんなが「多様性」「みんな違ってみんないい」と言ってて、それは本音でもあるはずなのに、なかなか社会では実現されませんね。結局は「その体型も価値観も、あなたがいいならいいよ」とは言えてないわけで。

田村:その本音と建前のギャップを埋めることが大事なんだろうな、という感覚があるんですが、どうやったら埋められるんだろう。さっき前川さんも「声を上げるのは大変」と言っていましたが、社会の価値観を変えていくための突破口ってなんだと思いますか?

老若男女のチーム作りが社会を変える

前川:社会を変える突破口、ひとつは“人数の多さ”が必要だと思うんですよね。例えば、私ひとりがルッキズムの発信をしていても誰も聞いてくれないですが、こうやって連載や発信を通して手を取り合う仲間が増えていくことで、少しずつ輪が広がっている感覚があります。私が言っていることは異色じゃなくて、「同じ考えの人がいろんな業界にいる」という証明になっていくことで、少しずつ信憑生が上がっていくというか。だから、チーム作りは必要だと思います。「ひとり」じゃないんだな、「仲間」がいるじゃんという気持ちに私たちもなれるし、読者もきっとそう。

田村:それはあるかもしれませんね。

前川:ルッキズムによるダイエットを経験した私のような立場から発信できることもあれば、田村先生のように学術的な側面からアプローチできる人だからこその説得力もある。「みんな痩せてる子がかわいいと言うけど、それって本当?」と男性が言うことで届く範囲が変わるように、性別や年代によって見える世界も違うと思いますし。それこそ多様な人たちがチームになっていくことの重要性を、今日の対談では感じました。

田村:僕も今日お話ししてて、ルッキズムについての専門ではなく、アウトサイダーだったから良かった部分もあるのかなと思いました。“健康”という文脈で問題を見ることで、これまでと違った広め方ができるといいですし、お互いの強みをうまく組み合わせることでもっと多角的なアプローチができるような気がします。

前川:これからもルッキズムと戦うチームとして、ぜひよろしくお願いします!今日はありがとうございました!

田村 前川

プロフィール

田村好史先生

順天堂大学医学部卒業後、カナダ・トロント大学での研究経験を経て、順天堂大学大学院医学研究科で博士号を取得。現在は、順天堂大学医学部、国際教養学部で教授を務めるほか、スポートロジーセンターのセンター長補佐としても活躍中。スポーツと医学を融合させた予防医学「スポートロジー」の分野で、特に若年女性の「やせ」に関する健康課題に取り組む。2024年には、内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として設立された「マイウェルボディ協議会」の代表幹事に就任。この協議会では、「自分らしく、心地よく、健康的な体を自らの意志で選択できる社会」の実現を目指し、多岐にわたる活動を展開しています。

FUS(女性の低体重/低栄養症候群)については、こちらをご覧ください。

X(旧Twitter):@YoshifumiTamura

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとしたフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

広告

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

田村 従天堂
しゃべるっきずむ
田村 前川