しゃべるっきずむ!「自分で決める」ってどういうこと?多様化する社会で自分軸を育む方法 前川裕奈さん×バービーさん

しゃべるっきずむ!「自分で決める」ってどういうこと?多様化する社会で自分軸を育む方法 前川裕奈さん×バービーさん
しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り+α」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

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第19回は、お笑い芸人のバービーさんにゲストとしてお越しいただきました。芸人としてだけでなく町おこしや下着のプロデュース、フェムケアや女性の身体についての発信にも力を入れているバービーさん。生き方も身体も「自分で決めること」を大切にしていくためにできることをテーマにおしゃべりしました。

価値観が多様化している社会をどう生きる?

——バービーさんはずっと芸人として表舞台に立ってきたなかで、ご自身に向き合ってこられた経験も多いかと思います。最初に、ルッキズムについて考えていることを教えてもらえますか?

バービー:容姿について、私も若いときは「もっとこうなりたい」「他の人と比べてこうだ」みたいな気持ちはあったと思うんです。だけど、歳を取れば取るほど、最近は自分の容姿はどうでもよくなっている部分もあるのが、正直なところで……。

前川:そうなんですね。それは、ライフステージや環境の変化とともに物事の受け取り方も変わってきたということですか?

バービー:私が容姿について言われがちな立場だったから慣れているのもあると思いますし、容姿のことを言われたところで崩れない自信がついたから、というのもあるかもしれません。もちろん自分が人にかける言葉には気をつけますけど、自分自身についてはあまり傷ついたりはしないですね。

前川:容姿についてなにか言われたとしても左右されない、自分の中での自信みたいなものは大切ですよね。私も20代の頃までは相当影響されてきたものの、ようやくこの年齢になって自分で自分を良しと言える自信も装備できたから、落ち込んだりはしなくなりました。それでも、今でも周りの人との会話や公の場で、いじりも含め容姿のことを言われること自体ありますか?

バービー:やっぱり時代的にも、公の場で容姿のことは言われなくなってきている気がします。そういう発言があると、言われた本人よりも周りの空気が「あ……」と止まる感じがありますよね。ただ、仲の良い友達や旧来の知人からは昔と変わらずネタにされることはありますし、私も同じようなテンションで返すことが多いですかね。

前川:旧来の仲だったりすると、関係性ができているからこそ、別に我慢しているわけじゃないということもありますもんね。

バービー:正直、私は旧来の仲じゃなかったとしても、その場で注意したりはしないです。少し冷たい考えかもしれませんが、アップデートできていなくて困るのは相手なので、そこまで私が責任を負う必要もないのかなって。相手は相手の価値観で生きていて、それを否定したり変えたりするほど私自身は傷ついていないから、ということなんだと思います。その発言だけで相手のことが嫌いになるわけでもないですし。

前川:そうなんですよね。ルッキズム発言をされたからと言って、その瞬間に相手のすべてが無理!となるわけじゃない。悪気のないものがほとんだったりするし。でも、私の場合、今後の関係を自分が違和感なく続けるためにもちゃんと伝えたいという気持ちもあります。飲み会などの場で「説教してくる人」というレッテルを貼られるのは違うかなーとも思うので、悩ましいところではありますね。

バービー:相手が男性の場合、人によっては女性から言われてもまったく響かないタイプの人もいるじゃないですか。そういうときは、男性同士で話してもらえるのが一番なのかな、と思ったりしますね。最近は、男性から男性に注意する場面も増えてきたと感じているので、そこにも期待してます。

前川:確かに、男性 to 男性って一定数の人には効果的ですよね。恋愛話とかでも女性が男性に「そんな遊んでばかりだと相手が傷つくよ」と言うより、男性の友達に「そろそろ、そういうのダサいっしょ」とか言うほうがパワフルだと思うんですよね。この連載でも男性のゲストが増えてきて、社会課題に対して言葉で伝え合える男性がいるのはいいなと思いました。

バービー:本当ですね。いい流れだなと思います。

環境を整えるだけじゃなく、“内側”を育みたい

——ルッキズムの次世代への影響はどのように考えていますか?バービーさんは現在1歳の娘さんを子育て中、前川さんは学生向けの講演で若い世代と話すことが多いかと思います。

バービー:子どもが生まれてから、SNSで流れてくる「子どもの二重整形」などの動画を見ると心が痛むようになりましたね。子どもだけじゃなく、多くの若い方々が整形を繰り返している現状を知って、もし自分の子どもだったら……と考えることもあります。

前川:整形自体が悪いとは思わないのですが、それらの低年齢化は深刻ですよね。

バービー:ただ、私は対外的な環境を整えたいというより、娘のなかに「こうあるべき」という価値観を内在させたくないなって気持ちのほうが強いんです。子どもが生まれる前は、「ルッキズムをなくしたい」「差別のない理想的な社会にしたい」と思っていたけれど、すぐにルッキズムや差別が完全にゼロになる社会にすることは無理なので、環境をクリーンに整えてあげるより、娘自身のレジリエンス能力を高めることに今は注力しています。「かわいい」という価値観を多角的に捉え、外見の価値基準がひとつではないと思えるようになれば、外的な圧力にも負けない心が育つんじゃないかなって。

前川:めちゃくちゃ素敵ですね。私もルッキズムが完全にゼロになることはなくて、今後も形を変えていくだけだとは思っているんです。そのなかで、どうやって最小限にしていくのかを考えて発信しています。加えて、ルッキズムに晒されたときに負けない、自分を守っていく術を身につけるのは、すごく大事なことだと思います。具体的には、どんなふうにレジリエンスを育もうとしていますか?

バービー:今はむしろ、雑多な価値観にどんどん触れてほしいと思っているんですね。汚い言葉や、よくないと思われる価値観でさえも「こういう人がいるんだよ」と知っておいてほしい。知った上で、それを取り入れるか・取り入れないかを、娘自身が自分で選び取る力をつけさせてあげたいなと思っています。

前川:いろいろな世界を知っているだけで、「こうあるべき」にとらわれることは減りますよね。学校で「デブはダメだ」みたいなことを誰かが言ったときに、「必ずしもそうじゃない」と自分のなかで先に思えるというか。対外的なものから育まれる価値観もあるなかで、自分の中に既にある価値観がそれに打ち勝つというか、せめぎ合いみたいなところはあるかもしれません。

バービー:実際にそういう立場に立ってみないとわからない部分もありますけどね。例えば娘が傷つくようなことがあったとき、「自分で考えてみなさい」と言うかもしれないし、「代わりにぶちのめしてやるよ」って飛び出していくかもしれないし(笑)。まだまだ悩みながら親をやっていくことになるんだろうな、と思います。

前川:本当に、その場になってみないとわからないことが多いですよね。特に未来では、「美の定義」すらどう移り変わっているか想像がつかなくて。先ほど、SNSで整形動画が流れてくるって話がありましたけど、高校生や大学生とお話すると、やっぱり整形はかなり身近になっている印象です。私自身が学生だったときよりも情報が増えて価格低下が起きていることもあって、激化していますね。

バービー:高校生や大学生にとって、前川さんの言葉はとても響くと思います。ルッキズムについて言葉をかけてくれる人がそもそも少ないでしょうし、ありがたい存在ですよね。

前川:そんな風に言っていただけて嬉しいです!容姿に悩むこと自体、一番渦中にいるのは高校生や大学生なのかなとは感じています。バービーさんも「自分は言われてもいい」とおっしゃってましたけど、私自身も結構そういうところがあるんです。親になった友人たちが次世代のことを考えているのを見ても、やっぱり10〜20代がしんどい時代なのかなと思います。

バービー:そうですよね。コンプレックスを排除することって難しいんですもんね。

前川:一方で、私は時代の移り変わりに希望も感じているんですね。例えば最近、私が高校生だった頃に流行っていたプリクラが一時的に復活するというニュースがあったんですが、それは最近のものみたいにバリバリに加工できるものではないんです。それを今の若い子たちが「平成レトロかわいい」と反応しているのを見て、意外と加工は必須ではないのかなとか。加工なしの“映えない”SNS「BeReal(ビーリアル)」の流行を見ても、整形や加工が大爆発している今の風潮は、激化していってる見方もありながらも、いつかは落ち着く可能性もあるんじゃないかな、と。

自分のことを、“自分で決められる”ようになったら

——最後に、発信者として啓発活動にも力を入れているお二人に、それぞれ発信する上で意識していることもお話しいただければと思います。

バービー:私はイベントや配信で、女性の身体にまつわることを中心にお伝えしているんですけど、裏テーマとしては「自己決定」を掲げています。私の発信を見て「共感しました」と言ってくださる方がいてすごく嬉しい一方で、それだけでは足りないとも思っていて。特にフェムケア周りは、自分で調べることさえしない人も多いんです。自分の身体のことなのに。私としてはやっぱりみなさんに“自分で”決めて、“自分で”行動してほしいなと思うんです。

前川:わかります。私も常に言っているのは、「ルッキズムは全員が当事者だよ」ということ。だからこそ、それぞれができる範囲で行動しながら手をつなぐことで社会は変わると思うんです。私が何かを授けて「そうだそうだ」というだけじゃなくて、みんなで一緒に社会を変えたい。ルッキズムは女性の問題とも思われがちですが、性別や年齢問わず当事者意識を持ってもらえたら嬉しいなと思います。全員が、この社会を構成しているメンバーなんだよって伝えたいですね。

バービー:そうですよね。私は自己決定が難しいと感じている方々が、「楽しんでいるうちに勝手に勇気づけられちゃった」みたいな発信がしたいんですよね。あくまでも“背中を押した”程度に留めた発信で、最後は「自分で考えて決めてくださいね」と伝えています。

前川:結局は自分の人生だから、失敗したり後悔したりしたときに「バービーさんがこう言ったせいだ」と思われても、責任も取れないですしね。逆に自分で舵取りさえしていれば、後悔すら乗り越えられるかもしれない。

バービー:インフルエンサーや芸能人に人生を委ねてしまう人は結構いて、私のところにも「おすすめのクリニックを教えてください」にとどまらず、「受診するのについてきてください」とコメントがきたことがあります。さすがにそこまでは……(笑)と思って。

前川:自分に向き合うのってめっちゃ大変だし、簡単なことではないですけど、できた先には生きやすさがあると思うんですよね。思考の捉え方だったり、実際の行動力だったり、日々の鍛錬で磨かれていく部分もあると思うので、私も背中を押していけたらいいなと思いました。

バービー:本当ですよね。子どもと接していても「大人から提供され続けてたら、自分がどう決めたらいいかわかんない人間になるよな」と思います。社会のシステムや歪みを知ったり、善悪の二元論ではなくていろいろな立場の人の気持ちを考えたり……そういういろんな材料を、自分のなかに揃えていくことで自己決定ができるようになっていくのかなと思いますね。

前川:本当ですね。

バービー:その先で、「あ、もしかして誰かの価値観を植え付けられてただけだったんだ」と気づける瞬間もあると思うんです。「黒髪ストレートがモテると思ってたのは、雑誌の影響だったのかな」とか。自分が正しいと思っていたことが必ずしもそうじゃないと気づいていくことができたら、自然と自分で決定していけると思います。

前川:ルッキズムの文脈でも、いつも“自分軸”が大切だという話になります。今回のお話はまさにその大事な部分を伺えて嬉しかったです。この度は、ありがとうございました!

Profile

バービーさん

1984年北海道生まれ。2007年、お笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。
バラエティを中心に、ワイドショーのコメンテーターやラジオのパーソナリティを努め、著書には講談社「本音の置き場所」に続き、PHPスペシャルで人気連載をまとめた「わたしはわたしで生きていく」を出版。自身のYouTube「バービーちゃんねる」は登録者数30万人を超え、生まれ故郷北海道・栗山町の町おこしやピーチ・ジョンとのコラボ下着をプロデュースし話題になるなど多岐にわたり活躍中。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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