しゃべるっきずむ!イベントレポート「女に生まれた私たちとルッキズム」 前川裕奈さん×犬山紙子さん

しゃべるっきずむ!イベントレポート「女に生まれた私たちとルッキズム」 前川裕奈さん×犬山紙子さん

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

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今回は、2025年9月6日に西武渋谷店で行われたトークイベントの内容を記事にしてお届けします。ゲストには、昨年『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』を出版された、イラストエッセイストの犬山紙子さんにお越しいただきました。次世代がこれから直面するルッキズムにどう向き合っていくのか、女の子たちへの優しく心強い言葉にあふれたトークです。

しゃべるっきずむ

女の子の生きづらさを語るとき、ルッキズムは外せなかった

前川:犬山さんが昨年出された『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』を拝読しました。性教育やいじめ、SNSとの付き合い方など、女の子として育った私からすると「あるある」と頷けるものばかりで……。男性にとっては「女の子に生まれるとこんなことがあるの?」と驚く内容も多いと思うので、ぜひ男性にも手に取ってもらいたいですね。

犬山:ありがとうございます。女の子だからこその痛みから娘を守りたい一心で、専門家の方や当事者、アクティヴィストの方々にお話を伺って書いた本です。

前川:第3章は「押しつけられる『美』より、自分の美しさに気づいてほしいから」という見出しで、ルッキズムについて大々的に取り上げています。章をまるごと使ってルッキズムに特化して書かれたのは、どうしてだったんですか?

犬山:まず、私自身がずっとルッキズムに悩んできたということがあります。思春期には、お母さんに「なんでこんな顔に産んだの?」って泣きながら当たったこともあったし、周りからの視線が気になって、生理が止まるほどの無理なダイエットもしました。このしんどさを、娘を始めとした若い世代に絶対に再生産したくない、という思いが根底にありましたね。

犬山紙子

前川:ルッキズムは男女問わず起こることですが、女性たちは特に容姿で悩まされてきていると思います。私自身も「1日飴玉3つ」などの間違った方向でストイックなダイエットをして、体調を崩した過去があります。

犬山:摂食障害は、かなり致死率が高いと言われる精神疾患で、本当にこわいですよね。それは本人の責任ではなくて、「痩せなさい」というメッセージのある社会構造のせい。そういうものから子どもを守りたいと考えるうちに、私は過去の自分自身をどうやって守ってあげたかったんだろう、と考えるようになりました。

前川:そうですよね……。

犬山:あと、この本を作るときに「女性に生まれて理不尽だと思ったこと」というアンケートを取った際、ルッキズムに関する内容がかなりの割合を占めていたこともあります。これは私だけが通ってきた道ではないんだな、と。

犬山紙子

「とはいえ、化粧してるじゃん」と言われたら

前川:ルッキズムって本当に地球人全員が当事者だと思うんですよ。内容や悩みの強弱は人それぞれだとしても、何かを言われて傷ついた経験や逆に言ってしまった経験は、誰しもがあるはず。それなのに、私がルッキズムについて発信すると「悩むような見た目には見えない」と言われることがあるんですよね。容姿の悩みを言いたくても「贅沢な悩み」「かわいいんだからそんなこと言うな」と言われて、口に出せない人も多いんじゃないかと思います。けど、悩む権利も悩まない権利も誰にだってあると思ってます。

犬山:「あなたも化粧して、きれいにしようとしてるじゃん」と言われることは、多々ありますね。

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前川:そういうときって、どうやって返していますか?

犬山:「人の悩みも知らないのに、よくもまあズケズケと……」とは言えないですけれども(笑)、まずはルッキズムを生み出している社会構造に対する怒りだという話はします。それから、私自身がまだその構造から解脱できているわけじゃないことも伝えますね。「まだ、もがいている最中なんですよ」って。

前川:完全に抜け出せる人なんて、なかなかいないですよね。

犬山:そう、太ったら「やばい」と思っちゃうし、白髪も染めている。そういう自分のことを「まだ囚われている、矛盾している」と落ち込んだりもするんです。ただ、著書の中で美容ライターの長田杏奈さんにお話を伺ったときに「銀食器を磨くように、自分を慈しむ、自分が楽しくなるためのケアは悪いこととは思わない」というお話もあって。この社会で生きてきて、インストールした社会通念を全て手放すのは無理だと思うんです。その中で生きていくためには、他者に美を押し付けず、差別せず、そして自分が心地よくいられることを大切にしようと思うようになりました。

前川:私自身も、ルッキズムの発信をしていると「化粧や髪染めをしてるじゃん」「ダイエットしてる時あるよね?」という意見をもらうんです。私は、ダイエットひとつにおいても、理想の自分になるためのダイエットと、社会に認められるためのダイエットは別物という考え方。化粧や整形も同じで、自分の理想なのか社会の理想なのかが大事。見た目に関して無意識でいましょう、というのがルッキズムの払拭ではないと思っています。そのあたりも含め、ルッキズムを考える過渡期なのかもしれませんね。

前川裕奈

自虐してくる女友達には、どう接するのがいい?

前川:実は先日、高校生の女の子からある相談を受けて、犬山さんにも聞いてみたいなと思っていたんです。その子は自分の容姿にすごく悩んでいて、自分よりもかわいいと思っている女友達が「私ブスだから」「痩せなきゃ」と言うのを聞いて、どんどん自分に自信がなくなっていった。その子がブスなら、自分はなんなんだ、と。自虐文化って大人になってもなかなかなくならないと思うんですが、犬山さんはどのように捉えていますか?

犬山:自虐って本当にいいことがないんですよね。私も昔は自虐していたのは、周りに何か言われる前に「わきまえてます」という防衛のためだったんですよね。だから、すごくわかる。その防衛策としての自虐を「やめろ」と圧をかけることは難しくて、とりあえず“私は”やめている、という感じなんですけど……。

前川:意識的にやめないと、口癖のように出てきてしまいますよね、自虐って。

犬山:大人になってからも人の自虐を聞いて、「美容医療しなきゃやばいって本当かな」「くま取りしたほうがいいのかな」なんて考えちゃう夜もあります。私はそういうとき、聖域となる女友達のグループに逃げ込むんです。その子たちは、年齢もルックスも関係なく、お互いのことを心から美しいと伝え合っている、温泉のような存在です。“孤立”はルッキズムの悩みをこじらせる大きな要因なので、孤立しないような防衛策を取っています。

しゃべるっきずむ

前川:いいですね。私にもルッキズムについて話せる友達がいて、安心できる会話ができたりします。一方で、高校生くらいだとなかなか友達に言い出せない人も多いと思うのですが、自虐しちゃう友達に少し新しい風を吹かす方法ってありますかね?

犬山:これは「北風と太陽」だと思うんですね。北風として「ルッキズムはよくないよ!」と言ってもいいと思うんですけど、ポカポカの太陽になって、自虐する友達をしつこいくらい褒めていくこともできる。相手の言葉を傾聴しながら「あなたのことを心の底から美しいと思っているよ」と伝え続けるしかないと思います。

前川:わかります。自虐発言に対して反射的に「ブスじゃないよ!」と言うことも大事なんですけど、それは相手も想定済みだったりするので意外と響かないんです。私は、友達が自虐をしていないタイミングであえて「今日なんかいい感じだね」「○○ちゃんがいるとまじで笑顔になれる〜」と突然の褒めを散りばめることを意識していますね。それも具体的な形容詞は使わずに、存在や行動を褒めるようにしてます。「痩せてかわいくなった」と言うと、「痩せなきゃいけない」という考えにつながってしまいますから。存在や行動を評価する褒め言葉を意識できたらいいなー、と。

前川裕奈

犬山:社会的な規範の美しさではなくて、すべてを含んでの「あなたは美しい」ですよね。そういうやりとりの中で「自虐よりもこういうコミュニケーションが心地よいな」と思ってもらえたら、もう成功。私自身も友達がそういう関わり方をしてくれたから自虐から抜け出せた経験があります。

前川:良くも悪くも、言葉の影響力ってすごくありますよね。浴び続ける言葉によって本人のマインドも変わっていくと思います。セルフラブって、最終的には本人が舵取りしなければいけないものではあるけれど、周りがその後押しをしてあげられるといいですね。

人生をともにする一番の親友は...私自身!

前川:友達に太陽のような言葉をかけるように、犬山さんはご自身にも優しくできていると思いますか?

犬山:私も自分に優しい言葉をかけられないとき、ありますよ。でも以前に比べればだいぶ自分軸で考えることができるようになってきたかな。例えば、しみができると結構ショックなんですけど、だんだんと一緒にサバイブしてきた相棒のような気持ちになってくるんです。スキンケアとかしながら「そこも含めて愛してるよ」という気持ちになったりします。

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前川:素敵ですね。kelluna.でよく使っているフレーズも、「Be your own best friend(自分が自分自身の大親友でいようよ)」というもの。人生で最初から最後まで、絶え間なく一緒にいるのは自分自身なので、そんな存在が親友であり味方だったら最高だよね、と。みんな親友が落ち込んでいたり容姿で悩んでいたりすれば、優しい言葉をかけてあげられますよね。でも、自分自身にはなかなかそう思えなかったりする。だから、犬山さんがおっしゃったように、自分を相棒や親友のように思えたら、自分にかける言葉も変わってくるのかなと思います。

犬山:そうですね。

前川:最後に、今ルッキズムに晒されて悩んでいる人たちに向けて、メッセージをいただけたらと思います。

犬山:一番お伝えしたいのは、どうか孤立しないでほしいということです。ルッキズムって、1人で抱えて悩んでいるうちに「自分が悪い」と思わされてしまうものだから。本当は構造のせいなんだと語り合える相手がいるだけで、グッと生きるのが楽になります。解決はしなくても、生き延びられる。そういう相手をリアルでもネット上でも、見つけてほしいなと思います。

前川:まさにご著書のなかでも、多様な人々に出会うことで呪いが解けていくと書かれていましたよね。私自身も「しゃべるっきずむ!」で、さまざまな方とルッキズムについてお話を伺っていくことで、気持ちが楽になっていくのを感じています。

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犬山:あとは、自分のなかの美の定義をぐんぐん広げてほしいな、とも思いますね。最初は何も知らない状態で、社会から「はい、これが美しいですよ」と出されたものしか、私たちは学べない。いろいろな物や人に出会って、美の感受性が広がっていくほど世界が美しく見えるはず。ぜひいろんな美しさを見つけてほしいな、と。

前川:本当にそうですね。自分軸をいろいろなところで見つけられたら、自分が見えている世界の解像度が上がって、もっと生きやすくなると思います。

前川裕奈

会場のみなさんと、ルッキズムを考える

——最後に、会場からの質問を受け付けたいと思います。

Q.ルッキズムについて調べている学生です。私たちの世代はSNSがコミュニケーションツールや情報源として必需品である一方で、ルッキズムを強めているとも感じています。おふたりが考える、SNSとの向き合い方についてもお聞きしたいです。

犬山:今、SNS上でも美の条件を表す言葉がどんどん生まれていて、10代の女の子がInstagramを使うと自己肯定感が下がるという研究結果も出ていますよね。私もInstagramを見て落ち込むこともあるんですけど、そのカウンターとして「キラキラしてないリアルな方の犬山紙子」というアカウントをやってます。

オフィシャルなほうはやっぱり仕事があるので、ちゃんとした投稿をするんですね。でも、それが私のスタンダードだと思われてしまったり、誰かにプレッシャーを与えることは本意ではなくて。だから「キラキラしていなきゃいけない」というものに抗うために作ったんです。

そうしたら、キラキラしていない投稿にもみんな同じように反応してくれるし、「こういう姿を出してもいいんだ」と思えるようになって、結果的に私自身が癒されることにつながりました。みんながそういう投稿をしたらいいというわけではないですけど、やっぱり自分の聖域になるような場所を、SNS上でも作っておくといいと思います。憧れの人やルッキズムについて発信している人だったりね。

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前川:私がルッキズムに関することでSNSがいいなと思うのは、誰でも主役になれることなんですね。多様な人たちが自分のプラットフォームを持てる場所だからこそ、たくさんの情報が収集できると思います。犬山さんがおっしゃったように、自分のロールモデルになるような人の生活も追えますよね。だから私は「SNSに使われるな、逆に使ってやれ」と、いつも思っています。

でも、自分に必要な情報だけを集めるのは、意識的にやらないとすぐに消費されてしまうんですよね。意志を持って、「利用されている」と感じるコンテンツからは自分を遠ざけて、いいところだけを活用していけたら、むしろ変化を起こせるツールだと思います。

Q.ルッキズムに関心がある人には声が届きやすくなっている実感がありますが、無関心層との乖離は広がっているような気がします。家族や友達など身近な人も含め、どうやってルッキズムを伝えていくのがいいと思いますか?

前川:私が心掛けているのは、いろいろなフックを用意することですね。例えば、私のInstagramでは趣味の自転車や二次元コンテンツの投稿が多いんです。だからフォローしてくれる方々もルッキズムについては考えたことのない人ばかり。そのなかで時々ルッキズムについての濃厚な発信をすると、意外な人に届くこともあります。

また、著書の『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』では、タイトルのとおり、スリランカや起業についても掛け合わせて書くことで、国際協力やビジネスに興味がある人にも読んでもらうことができました。そういったさまざまなフックを用意しておくことで、入口が広げられるんじゃないかと思っています。日常会話でも、例えばマンガの話をしてたら、「そういえばあの描写って、めちゃくちゃ自己愛を体現してて良くてさ〜」と、マンガをフックにルッキズムに話を持っていくとか。知ってもらう入り口は割といろいろあるなと思います。

しゃべるっきずむ

犬山:身近な人だと「夫や上司がバリバリのルッキズム発言をしてくるけれど、伝えづらい……」という話をよく聞きます。相手の価値観を変えようとすると、相手は自分を否定されたような気持ちになるのでなかなか難しいと思うんですが、「物語で語ること」はしやすいと思います。

例えば、ドキュメンタリーや本などで「誰か」の物語として問題点を感じながら、最終的に「だからルッキズムってよくないんだな」と理解してもらうことができるんですよね。私の著書のなかでも、幼稚園児の頃から「太ってはいけない」と悩んできたプラスサイズモデルの吉野なおさんのエピソードを使わせていただいています。誰かの切実な痛みを共有することは、分かり合うことに一歩近づくことなんだと思っています。

——犬山さん、前川さんの本には、どちらも個人のエピソードがたくさん出てきます。そういったところからシェアできる物語を集めていってもらえたらと思います。犬山さん、前川さん、本日はどうもありがとうございました!

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撮影:沼田侑悟(Gran)

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