しゃべるっきずむ!自分の心を守る「ルッキズム撃退法」 前川裕奈さん×ハヤカワ五味さんイベントレポ
容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。今回は、7月22日に西武渋谷店で行われたトークイベントの内容を記事にしてお届けします。会場に集まった参加者のみなさんが持ち帰れる「ルッキズム撃退法」を、ゲストのハヤカワ五味さんと一緒に考えました。
どんな容姿の人でも、悩む権利はある
前川:本日はよろしくお願いします。ハヤカワさんはfeastという胸が小さい人に向けた下着ブランドや女性向けのヘルスケアブランドを立ち上げられており、ご自身のボディコンプレックスについての発信もされているので、ぜひ「しゃべるっきずむ!」でお話ししたいと思っていました。
ハヤカワ:ありがとうございます。そうですね、私自身ずっと自分の容姿に対してのコンプレックスがあり、学生時代に立ち上げたfeastも自身の悩みから始まりました。女性向けのヘルスケアのブランドも含め、一貫して女性の課題解決に取り組んできています。直近は生成AI関連の仕事に就いており、根本的な部分で「どうすれば快適に生きられるか」「人間らしさとはどういうことか」みたいなことをずっと考えています。
前川:早速本題ですが、最近では「ルッキズム」という言葉の認知度が上がってきた感覚がある一方で、内容に偏りがある気もしているんですね。例えば、痩せている人や色白などの一般的に「かわいい」とされている容姿の人が抱える悩みにフォーカスが当たることは少なく、むしろ「あなたには気持ちがわからない」「とはいえ、かわいいって言われてるんだからいいよね」というように、排他的に扱われることすらあるんじゃないかと思っています。ハヤカワさんも、その件で発信をされていましたよね。
ハヤカワ:そうですね。私の場合は体質的に太れなくて、痩せていることがコンプレックスだったんですけど、やっぱりすごく言いづらい。一般的には痩せているのはいいこととされているので、そういった発信をすると嫌味だと捉えられて攻撃されることも多かったです。
前川:私自身も20代までは「痩せているのが正義」だと思って、無理なダイエットをしてきた人間です。常に痩せたいと思っていたあの頃は、「痩せていることが悩み」などの別視点に歩み寄る余裕はなかったかもしれません。
ハヤカワ:そうそう。こちらは悩みの話をしているのに、「自慢するなよ」みたいな反応が多かったんです。もちろん深刻に痩せたいと悩んでいる方がいるのはわかっていますが、痩せている人は悩まなくていいのかと言えば、それは違いますよね。
前川:おっしゃるとおりですね。私自身もルッキズムの発信をしていると「なんで(悩みのなさそうな)あなたが?」と言われたりもするんです。それこそ、ルッキズムですよね。私なりの悩みもコンプレックスもあったわけで、それはどんな人でも同じはず。他人が「でも、あなたはいいよね」とか「贅沢な悩みだ」と言えることではないと思います。悩む権利って誰にでもあるし、悩まない権利も誰にでもある。
ハヤカワ:そうですよね。
前川:私たちが目指す“オールインクルーシブな世界”って本来は、細い人も、ふくよかな人も、一重瞼も二重瞼も、色白も色黒も、身長が高い人も低い人も、みんながそれぞれ生きやすいということですよね。今日ご参加くださっているみなさんも、みんな違う見た目でみんな素敵。ただ、それぞれ悩みはあるよねってことを前提に、いろいろ話ができるといいと思っています。
ハヤカワ:そうですね。以前は胸の大きさや身長の高さなど、体型に対するいじりや言及が散見されていた印象があるんですが、最近ではかなり減ってきていると思います。実際、feastを運営していた8年間のなかでは「貧乳」という検索ワードが減って、胸が小さいことに悩んでいる人が、以前より減っている印象を受けました。胸が大きい子ばかりじゃないK-popアイドルの人気や、ファッションの流行の変化などの要因があるんだと思いますが、いい傾向ですよね。
飲み会でのルッキズム撃退法
前川:私自身も発信をするなかで、「人の容姿をいじる・揶揄するのはいけないことだ」という認識が少しずつ広まっていると感じています。とはいえ、いまだに初見の人が集まるような飲み会などで「ん?」と引っかかることがあるのも現実で……。そういうとき、ハヤカワさんはどうやってルッキズムを撃退していますか?
ハヤカワ:最近、私はそういう発言をされなくなったんですよね。そういう発言をする人は相手を選んで言ってるから、私のようなキャラだと言われないんです。でも、例えば誰かが「胸小さいよね〜」とか言われているのを見かけたときのキラーワードがあって、「それ、おもしろくないですね!!」って言うと、一発で終わります。
前川:ああ、わかる!多くのルッキズム発言は「傷つけてやろう」というより、「おもしろいでしょ」と思って言っていることが多いですよね。私もそういうときは絶対に“愛想笑いをしない”と決めていて、真顔で対応します。あまりにしつこい場合は「すごく傷ついたし、おもしろくないよ」「これで拒食症とかなったらどうするの?」と、ちゃんと伝えるようにしてますね。
ハヤカワ:“笑わない”って結構大事ですよね。
前川:せめてもの反抗ですよね。ただ、私とハヤカワさんって「やめろ」「おもしろくない」と言えるキャラクターと勇気を持っているけど、人によっては必要以上に場が凍っちゃったり、言い返せなかったりする人もいると思うんですよ。
ハヤカワ:言いづらいですよね。その場合は、“他の人に託す”みたいなのもあるかな。「◯◯さん、今のどう思います?」って誰かに振って、「もうやめた方がいいんじゃないですか。古いっすよ」みたいに言ってもらうのもありなんじゃないですかね。ルッキズム発言ってノリと勢いで言ってるから、他人の目を入れてちょっと現実に引き戻してあげる必要があると思います。
前川:たしかに、他の人に助けを求めるのはありかも!その場では言えなかったとしても、後日その飲み会にいた他の人に「実はあのときちょっと嫌な気持ちだったんだよね」と伝えるだけでも、次回からその人が助けてくれるかもしれない。もしくは、その人自身が「そういう発言で傷つくことがあるんだ」と学んでくれるだけでも、ルッキズムのない社会に近づくのかなと思いますね。
ハヤカワ:たしかにね。嫌なことを抱えてそのままモヤモヤしてしまうより、翌日以降でもいいからなるべく早い段階でリリースするというか。1回伝えて「今回はこれで!」と前に進むのもありかなと思いますね。
強いマインドを持って、周りを見てみよう
前川:ルッキズム発言には悪意がない場合も多いので、少し気付かせてあげるだけで変わると思います。一方で、言っても聞いてくれない・変わらない人がいるのも事実で。そういう場合は、もう自分から切り離せるのがベストだと思うんですけど、そのほかに自分の心を守る護身術みたいな手法は、いくつあってもいいなと思うんですよ。
ハヤカワ:ほんとにそう思います。ちなみに、私は本当の意味で護身術を最近習っていて、めっちゃいいのでおすすめです。なぜかと言うと、そういう失礼な発言や態度をされたときに「(いつでも対抗できるけど、今は)許してやってるんだぞ」みたいな気持ちになって、余裕ができるんですよ。
前川:いいですね。モヤる発言に言い返せないときって、どうしても強弱関係なことが多いんですよね。男女であれば男性のほうが強い社会構図が根付いている場面だったり、年功序列の社会では年上が強くなったり。そういうときに「こっちが許してあげてるんだぞ」って、心の中で主導権を握れるのはいいかも。
ハヤカワ:私を怒らせたら、どうなるかわからないぞって(笑)
前川:めちゃくちゃ大事だと思います。実際、自分がルッキズムで悩んでいた頃は「選んでもらってる」とか「ここにいさせてもらえてる」という感覚が強かったから、嫌なことを言われても言い返せなかったし愛想笑いをしてたんだと思います。強いマインドを持てているだけで、自分で自分の心を守れますね。
ハヤカワ:強いマインドを持つためには、やっぱり“自立している”ことが大事ですよね。自立してるから距離も置けるし、自立してるから関係ないよねって割り切れる。
前川:たしかに、自立して周りの人をちゃんと選ぶことで、傷つかない環境を整えるのも重要ですね。とはいえ、自立って難しい気もしていて。ルッキズムな発言をしてくる人って、必ずしも嫌いな人ばかりじゃないと思うのですがどうですか?仕事面では尊敬できるとか、友達としては好きだとか。そういう人たちから距離を置いてしまってもいいのかなと迷うこともあると思います。
ハヤカワ:いやー、でも私、そういうこと言ってくる人はコミュニケーション能力が低くて尊敬できないなって思っちゃいますけどね。思い返せば、私自身も20代前半くらいまでは「こんなこと言ってきてすごい嫌だけど、でも社会的に評価されてるし、尊敬できるし」って思って付き合ってきた人がいましたけど、今考えると尊敬できないですよね。社会的評価とかみんなにどう見られるかとかに囚われず、自分が本当にその人を尊敬できるかどうかで選んでいいんじゃないかなと思います。
前川:たしかに。私も著書を出したとき、周りの人たちは「共感したよ」「誰かのお守りになる本だね」って温かい言葉をくれたんです。一方で、私のことを知らないインターネット上の人たちのなかには、辛辣なコメントを送ってくる人たちもいました。
ハヤカワ:私も容姿に関していろいろ言ってくるのは、基本的にインターネットとか外の人。自分で選んできた友達や仕事仲間はそんなこと言いませんね。学生時代は関われる社会の範囲が狭いので「友人を選ぶ」ってなかなか難しいと思うのですが、大人になって自分で線引きをできるようになって、傷つく発言をする人は周りからいなくなったなと思います。
前川:自分を大切にするためにも、環境を整えていけるといいですね!
物事を別視点から捉える練習をしてみる
前川:「自分なんて」というマインドって、数日間でポッと抜け出せるものでもないのかなとも思うので、訓練が必要ですよね。私は20代の頃は過激なダイエットをしていたので、今でもたまに「昔めちゃくちゃ痩せてたよね?どうやってたの?」と聞かれたりするんですよ。
ハヤカワ:そんなふうに聞かれるんだ。やめてほしいですね〜。
前川:それで聞いてみると「彼氏の元カノがみんなかわいいから、私も痩せなきゃ」みたいな話で。ルッキズムの沼から抜け出せた私としては「ありのままのあなたを愛さない男なんて秒で別れたほうがいい」と思うけど、やっぱり渦中にいる人がそう思うのは難しいんだと思います。
ハヤカワ:それって、自己肯定感とかのマインドだけじゃなくて“視点”を変えるといいのかなと思って。カウンセリングの形式で認知行動療法というのがあって、例えば「コップの水が半分もある」と思うか「半分しかない」と思うか、みたいなことですね。人生の捉え方が生きづらい方向に行ってしまっているんじゃないかな。
前川:なるほど。
ハヤカワ:さっきの「元カノがめっちゃかわいくて」みたいな話も、「かわいい元カノに匹敵するほどの私すごい」みたいにも捉えられるじゃないですか。「元カノも私もかわいい」で本当はいいはずなのに、「もっとがんばらなきゃ」と思うのは、やっぱりどこかで認知が引っ掛かっているんですよね。っていうか、まず彼氏はそんなふうに不安にさせるなよって話でもあるし。綺麗じゃなきゃいけないという考え方に囚われている自分や、その彼じゃなきゃダメだと思っている自分の思考ってどこから来ているんだろう……みたいなことを考えると少しは生きやすくなるかもと思いますね。
前川:思考って蓄積だから、幼少期の経験から付き合う恋人や友達、いろいろなことが影響していますよね。私自身も思考がネガティブになっていた時期があったので、そこから抜け出す大変さもよくわかっているつもりです。ポジティブに自分を変えていくためには、今のハヤカワさんのような視点をくれる人が周りにいるのがすごく大事なんだろうなと思いながら、聞いていました。そこに加えて、やっぱりどんなに周りが褒めてくれても、自分で自分を褒められないと最終的なマインドは変わらないとも思ってます。
ハヤカワ:そうそう。
前川:「自分で自分を褒める」のは個人的にもおすすめの方法です。みなさんには1日3分でもいいから自分を褒めちぎる瞬間を作ってほしいんです。ランニングしているときだけは「自分マジ神」と思うとか、朝起きたら習慣的に自分に「最高」って鏡見ながら言ってあげるとか。最初は無理矢理でもいいから、意図的に続けていくことで少しずつでも自分を好きになれるんじゃないかなと思っています。ハヤカワさん、今日は貴重なお話をありがとうございました!
ハヤカワ:ありがとうございました。
AUTHOR
ウィルソン麻菜
「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。
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