しゃべるっきずむ!「愛ちゃん」から学ぶ、自分を大切にする言葉たち|前川裕奈さん×宇井彩野さん(2


容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。
第12回目は、第5回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞した『愛ちゃんのモテる人生』(河出書房新社)ご著者の宇井彩野さんをゲストにお迎えしました。シスジェンダーでゲイの男の子、愛ちゃんの恋愛模様を追いかけながら社会全体が見えてくる本書。後編のお話は、「自分のかわいいを貫く」「自分らしさを大切にする」の範囲について。
「ファッション」でジャッジされるのはルッキズムか
前川:『愛ちゃんのモテる人生』のなかで、愛ちゃんはこだわりを持ってファッションを楽しんでいるキャラクターですよね。前回、容姿に関して具体的な形容詞は使わないとおっしゃってましたけど、ファッションに関してはかなり具体的に描写されています。
最近、ずっと「ファッションで相手を判断することは、どれくらいルッキズムに含まれるのか?」を考えているんですが、宇井さんはどう思いますか? Vol.11の「しゃべるっきずむ!」のゲストは、好きなファッションを否定されたことから、ルッキズムについて考え始めた方でした。そのときも「体型や顔に比べてファッションは変えやすいけれど、自己表現の一つでもある。どこまでルッキズムに含まれるんだろう」と話していたんですけど、宇井さんのお考えも伺いたいです。

宇井:愛ちゃんが自分のファッションを大切にする描写は、直接的にルッキズムを意識していたわけではないですね。ただ、ファッションには“生き方の一部”みたいな側面があるよね、とは思うんです。
前川:ああ、たしかに。
宇井:それに関してはセクシャリティも似ていて、自分の生き方と直結する部分を変えようとし続けると心がつらくなっていく。周りに溶け込むために、ある程度は変えることができたとしても。そこの部分でジャッジされるというのは、ある種ルッキズムと近いところはあるのかなと思います。
自分らしさは、どこまで貫く?
前川:一方で、結婚式やお葬式、会社などのTPOが求められる場面での線引きが難しい気もします。例えば、私はオタクなのでキャラ物の服が多くて、今日はストリートファイターのトレーナーを着てこようとしていたんですね。けど、「いや待てよ?」と思って。今日はさすがに宇井さんと初対面で対談だし、金髪で痛ネイルの上にストファイだなんて、“ちゃんとしていない”というイメージを持たれたら……と着替えてきたんです(笑)。

宇井:全然よかったのに(笑)。今の話を聞いて、ファッションは自己表現でもあると同時にコミュニケーションツールでもあるんだなと思いました。相手の気持ちを汲んで「自分の強すぎるファッションを今日はやめとこう」みたいなことはあるよなって。そこが難しさでもあり、面白さでもあり。
前川:そうですね。ビジュアルのイメージで、ある程度ジャッジしてしまうことはどうしてもあると思っていて。でも、それでジャッジして就活で落とすとかは、もうルッキズムですよね。『愛ちゃんのモテる人生』のなかでも、愛ちゃんが就活がうまくいかない、みたいなシーンがありました。
就活もちょこっとだけやったんだけどさ、見た目とかでもう相手にされないとこが多くて。(『愛ちゃんのモテる人生』P80より)
宇井:愛ちゃんはきっと、それなりにフォーマルな格好で行ったんだろうなとは思うんです。ちょっとネクタイが派手なくらい。でも、それ以上に仕草や喋り方みたいなところで、就活がうまくいかないことが多かったというイメージで書いていましたね。
前川:ああ、なるほど。そういう「雰囲気」みたいなものって、ファッションと容姿の中間にあるような気がしますね。たとえば、ギャルとかも喋り方の特徴みたいなのも少なからずある、みたいな。セクシャルマイノリティのなかには、職場では雰囲気すら変えざるを得ない方々もきっといるんだろうと思うと、「変えようと思えば変えれるんだし」というのは少し乱暴なのかもしれませんね。
宇井:相手に好かれるために、周りに馴染むために、と自分を変えるのはコミュニケーションでもありつつ、やっぱりそれを身近な人も含めて常に求められるのはつらいんだろうと思いますね。
「かわいい」はエンパワーメントだ!
前川:愛ちゃんが付き合っている相手の好みに合わせて、好きな服が着られなかった場面も同じですよね。より好かれたいという気持ちがあるからこそ、自分の好きを後回しにしてしまうというのは、多くの人が経験したことがあるんじゃないかと思います。
宇井:あの章は、もともと「かわいいの考察」という見出しだったんです。「かわいい」と言ってくれる男性と付き合って自身のファッションまで変えてしまったけど、最後には愛ちゃん自身の本当のかわいいを見つけていく、というテーマで。
僕はクローゼットを開いて、たくさんの愛する服たちと対峙する。その中には、舟渡先輩と付き合っている間は着てあげられなかった、お気に入りたちもいる。「みんな、めちゃめちゃかわいい」口に出して、言ってみた。(『愛ちゃんのモテる人生』P45より)
宇井:「かわいい」という言葉って、仲の良い友達同士で言っているときは、すごくエンパワーしてくれるんですよね。でも、同じ言葉でもダメージを与えてくる文脈もあって、本文の中で愛ちゃんがその2つの「かわいい」を行ったり来たりするようなイメージになっています。

前川:ちなみに、「かわいい」がエンパワーメントだなと感じるのは、宇井さん自身そういうご経験があるんですか?
宇井:そうですね。アイドルが好きだったり、最近だとタイの俳優さんにハマってたりして……。同じ趣味の友達と「わあ、かわいい!」と言っているとき、もうそれだけで元気が出るような感じなんです。
前川:私も推しの声優を見ている間はエンドレスで「かっこいい」と言っているので、その感覚めちゃめちゃわかります。「その顔じゃなきゃかっこよくない」なんて言っているわけではないので、やっぱりそれぞれ自分が元気になる「かわいい」「かっこいい」を見つけるのは最高ですよね。それぞれ好みがあるのは自然なことですし。それを一般の方相手にいうのはあれだけど、エンタテイナーのことについて自分たち同士でいうのは楽しいですよね。
宇井:私も割と個性的な顔の人が好きなので、「かわいくない」と言う人もいたりするんです。でも、自分にとって元気が湧いてくるから「かわいい」んですよね。おっしゃる通り、どんなにルッキズムについて話してても、それぞれの「好み」というのはあるわけなので。
前川:そうですね。私の推しは同世代の男性なのですが、中学生の時からお化粧をしてて。今では男性のメイクも普通になりましたが、昔はそれでかなり変わり者扱いをされたりもしていましたし、宇井さんと同じく「かっこよくない」という人も一定数いるんです。でも、それをあえて本人に届けるのは絶対アウトだし、それこそルッキズム。私にとっては彼は「かっこいい」「かわいい」で元気になる。何よりも彼自身が自分のためにメイクをしたり、おしゃれを楽しんでる、その姿こそが私は一番魅力に思えてて。
『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』のタイトルにもあるとおり、私がいつも行き着くのもそこなんです。かわいいと思うことはまったく悪いことじゃなくて、ただそれが彼氏のためなのか、映えのためなのか、誰のためなのか?っていうことですよね。

「こういうものだよね」の呪いを解いていくには
前川:あと、「いつか絶対に使おう」と思っている愛ちゃんのセリフがあるんです。愛ちゃんがとある相手の言動に対して違和感を持ったときの描写で、「ちょっと嫌ならいいって思ってるの?」って言うところ!愛ちゃんは当時NOをはっきり言えなかったために、相手からしたら「拗ねてる程度」と思われていたというシーンです。
ルッキズムを撲滅するにはNOと言うことも大事だと思うんですけど、立場によって言いづらかったりしますよね。そういう小さなNOだって、盛大なNOと同じ意味なんだよっていうのは、本当に正論だと思いました。
彼は「はあ?」と理解できない表情で僕を見る。「そんなに嫌ならもっとはっきり言ってくれればいいのに。ちょっと拗ねてるだけかと思うでしょ」僕は彼の顔をじっと見つめ返した。「……“すごく嫌”じゃなくて、“ちょっと嫌”くらいのことなら、相手が嫌がってても、やっていいと思うの?」(『愛ちゃんのモテる人生』P111より)
宇井:ぜひ使ってください。
前川:宇井さん自身はルッキズムに関する発言をされたときに、愛ちゃんみたいな返しができるタイプですか?
宇井:そんなに言えない……で、後から「あれおかしかったよな?」みたいなことが多いです。ただ、以前体型についていじられたときに笑ってスルーしたことがあって、その時に「私はスルーできたからいいけれど、それを見ていた他の人が傷つくんじゃないか」とは思って。その場でパッと返せるようにはなりたいですね。
前川:瞬時に返すのは本当に難しいですよね……。反射神経が問われる、もはやスポーツの世界(笑)。
ーーおふたりの話を伺っていて、ジャンルは違えど、世の中の「(かわいいって)こういうことだよね」「(ゲイって)こうだよね」みたいなものに疑問を投げかけている共通の問題意識を感じました。最後に、そういった世間の先入観を打破するために、なにか考えていることがあれば伺いたいです。
宇井:先入観で言うと、『愛ちゃんのモテる人生』のなかにも、トランスジェンダーの”かみゆ”というキャラクターが出てきますけど、「トランスジェンダー女性は、女性的な話し方をする」みたいな先入観をあえて崩したキャラでもあって。最近はトランスジェンダーへのヘイトが本当にひどくて、私の友人でもつらい状況の人がたくさんいます。彼らに対する先入観を変えていくような物語が今後作れたら、とずっと考えていますね。
前川:そういったグラデーションの見せ方は、フィクションだからできる部分があるんだろうなと思いますし、ぜひ作ってほしいです!私はどちらかと言えば、現実世界のほうですね。やっぱりリアルで会う人たちに、ダイレクトでルッキズムについて伝えていきたいです。難しいけど、なるべく瞬発力を持って「それ、おかしいよ」って言える自分でありたい。そこからきっと、間接的に広がっていくと信じています。お互い、それぞれの分野でがんばっていきましょうね!ありがとうございました!

Profile
宇井彩野さん
1985年、千葉県生まれ。学習院大学文学部卒。大学時代から文芸サークルにて詩や小説を書き始める。カトリック系団体の記者として就職後、適応障害を発症し退職。一年半の闘病生活の後、パートタイムの事務職をしながらフリーライターや作詞家修行、個人出版業などを経て、2023年、『愛ちゃんのモテる人生』で第5回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞。本書がデビュー作となる。
前川裕奈さん
慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。
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