しゃべるっきずむ! 漫画の主人公はどうして“かわいい”の? 前川裕奈さん×瀧波ユカリさん(1)

 しゃべるっきずむ! 漫画の主人公はどうして“かわいい”の? 前川裕奈さん×瀧波ユカリさん(1)

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。第五回は、漫画家の瀧波ユカリさんとおしゃべりしました。

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私たちと漫画

瀧波ユカリ

前川:今回、瀧波さんに伺ってみたいと思っていたのが、漫画との関係性です。瀧波さんの作品は、現在連載中の『わたしたちは無痛恋愛がしたい』はもちろん、デビュー作の『臨死!! 江古田ちゃん』も女性の生きづらさがリアルに描かれていると思っていて、こういう社会問題を描くために漫画家を目指されたのですか?それとも「漫画家になりたい」が先にあったのですか?

瀧波:最初は「漫画家になりたい」という気持ちがあって、何を書けばいいかわからない状態でした。とりあえず4コマから始めたら、それでデビューしちゃった感じなんです。だから、もともと「社会問題を描きたい!」というビジョンがあったわけではなくて。ただ、昔から社会問題に対する感度は高かったので、いろいろと入れてみようと描いていったから、結果的にこのような形になったんだと思います。

前川:そうだったんですね!私自身はコラムなどにも書いているように、漫画にたくさん影響を受けて今があります。特に小学校のときは、帰国子女で日本の学校に馴染むのにも時間がかかり、漫画が親友のような感じでした。

瀧波:私も、テレビや小説も好きでしたが、一番楽しいと感じるのが漫画を読むことでしたね。今思うと、漫画家に憧れたのは男女の差がない仕事だったからかもしれません。もちろん細かいことを考えれば男女の差はあるんですけど。

前川:その視点で漫画家を見たことはなかったですが、たしかに!

瀧波:私が子どもの頃、将来の夢を聞かれたら、女の子はほとんど保母(保育士)さん、看護婦(看護師)さん、そしてお嫁さんと答えていました。いわゆる「女の子の職業」とされていたものですよね。私は全然そういうものに興味を持てなくて。小学生のときに書いた作文を読んだら、「動物園の飼育員さんか発明家」と書いてありました。どれも子どもの目から見て、男女の差がない職業だったんだろうと思います。

前川:おもしろいですね。実は、私も小学生のときの将来の夢は漫画家だったんです。 漫画研究会に入ったり、世界堂でコピックやトーンを買って通信講座を取ったりしていたんですけど、どうにもこうにも描けなくて。結局、消費者側に回ってオタクを極めることになりました(笑)。その上で、漫画とルッキズムに関して、瀧波さんに聞いてみたいことがあって……。

主人公たちはみんな「キラキラ」している

前川:先ほどもお伝えした通り、私は漫画に救われたし良い影響もたくさんありました。一方で、ルッキズムに囚われたのにも漫画の影響があるように思っています。というのも、思春期には少女漫画もたくさん読んでいたのですが、当時の少女漫画の主人公はみんな顔が小さくて足が長くて、目が大きくて髪がサラサラで。とにかく自分にないものをたくさん持っていました。私が小学校でうまく馴染めなかったのはぽっちゃりしていたことも理由だったので、太っている自分と漫画の主人公との乖離をすごく感じてしまったんです。

最近はそういった定番の主人公だけじゃない漫画もたくさん出てきています。でも、基本的に漫画の主人公はキラキラでかわいい子が多いですよね。そのあたり、瀧波さんに描き手としての考えを聞いてみたかったんです。

瀧波ユカリ

瀧波:そうですね、まず描き手としては、パッと見たときに誰が主人公かがわかるようにしないといけない、というのがあります。主人公としてフォーカスしているから、絵柄はもちろん丁寧に解像度高く描かなきゃいけないわけです。

前川:なるほど。

瀧波:その上で、漫画のこれまでを振り返ってみると、「キラキラした主人公」が最初は必要なものだったんだと思います。漫画が勢いよく繁栄していった戦後の時代、みんながきらびやかなものを求めていたんですよね。現実には何もないけれど、漫画のなかくらいは素敵なものがあってもいいじゃない、と。

現実にはないものを見せてあげる役割だとすれば、少年漫画においてそれは“強さ”だったかもしれないですよね。子どもが今よりもずっと弱者で、大人からボコボコに殴られるのが当たり前の時代に、『あしたのジョー』を始めとした格闘漫画などは、大きなものと戦う強さや正義を見せてくれていたんです。男の子には強さ、女の子には夢や友情、恋愛を見せてきた漫画は、やっぱりみんなの憧れだったと思います。

前川:フィクションだからこそ、キラキラしたものを楽しめる場だったわけですね。

瀧波:そうですね。ただ、時代が変わって暮らしが良くなり、漫画以外にも夢やキラキラしたものが手に入る時代になりましたよね。だから今では、従来のキラキラの役割は終わっている側面もあるのかもしれません。

これは生理用品のパッケージの変遷にも似ています。生理用品って、昔は店頭にも並べられない恥ずかしいものという認識だったんですね。それを明るいものだぞという表現のために、キラキラしたパッケージが出てきた背景があります。今になって逆に「こんなにキラキラしていなくても」という意見が出てくるようになったのは、キラキラの役割が時代とともに変わってきたからだと思います。

前川:私は、漫画の世界やキャラと自分をすごく関連づけて考えるところがあるんですよね。漫画と現実の境界線が甘いというか(笑)。だからこそ、夢を与えるはずのキラキラした主人公たちを見て「自分とは違う……」と感じてしまったんだと思います。

瀧波:少女漫画の話に戻ると、私が中学生ぐらいのときに『美少女戦士セーラームーン』が出てきて、武内直子先生の描くキャラが本当にキラキラしていてかわいかったんですよね。そのキラキラ感が現実離れしていても「こうだったらいいな」と憧れられるものでした。もしかすると、それが徐々に「こうじゃなければいけない」と捉えられるようになっていったところもあると思いますし、前川さんが言うように読者のタイプにもよるのかもしれません。

瀧波ユカリ

とはいえ、“かわいく”描かれてるじゃん

前川:「こうだったらいいな」だったものが、徐々に「こうじゃなければいけない」と捉えられるようになっていった……それはありそうです。私はルッキズムを「社会が定めた画一的な美に当てはめようとすること」や「画一的な美を作り上げること」だと思っているんですけど、まさに周りが決めたかわいさにハマらない自分を認められず、「こうじゃなければいけない」に苦しんでいる人が多いんだと思います。

ルッキズムの呪いにかかっていた頃の私がまさにそうでした。漫画のなかには小顔・直毛・大きな目・痩せているという容姿の主人公が多かったのもあって、自分の体型や癖毛が嫌になってしまっていたんです。主人公の容姿も、もっと多様化できたらいいのにとも思います。瀧波さんは、何かと自分を比べてコンプレックスになったことありますか?

瀧波:私の場合は、創作物ではなくて実生活から感じることが多かったですね。学校に行って周囲と見比べて。それで創作物のなかに自分と同じ人はいないか、見つかるまで探すのが私のやり方だったんですよ。少女漫画はちゃんと女の子がコンプレックスを描いているものが多いと思うので、救われたことも多いです。例えば、『花より男子』の牧野つくしは、貧乏で美人でもないという設定ですよね。思ったことをハッキリと言う性格ゆえに自分の居場所がなくなっていく彼女を見て、「私もこういうところあるよな」みたいに思ったり。

瀧波ゆかり

前川:キャラクターに共感しながら読めていたんですね。私が当時、牧野つくしを見たら「(美人ではない設定)とはいえ、ちゃんとかわいいじゃん!」と思っていたと思うんですよ。かわいくない設定の子はたくさんいるけれど、漫画のなかでは、みんな基本かわいく描かれているじゃないですか。

瀧波:ああ、それで言うとね、これは真実だとおもうんですけど……

*次回、瀧波さんが考えるキャラの描き方とその理由。2本目「ルッキズムを生み出す「文化」を考える」は、こちらから。

Profile

瀧波ユカリさん

1980年札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、2004年に4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。以降、漫画とエッセイを中心に幅広い創作活動を展開している。現在は『私たちは無痛恋愛がしたい』をウェブ漫画マガジン「&Sofa」(講談社)にて連載中。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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