しゃべるっきずむ! ルッキズムを生み出す「文化」を考える 前川裕奈さん×瀧波ユカリさん(2)

 しゃべるっきずむ! ルッキズムを生み出す「文化」を考える 前川裕奈さん×瀧波ユカリさん(2)

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。第五回は、漫画家の瀧波ユカリさんとおしゃべりしました。

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ブスに描く必要がない、なぜなら……

前川:漫画で美人ではない設定の主人公が出てきても、絵ではかわいく表現されているじゃんって私は思っていたんです。自分と違って、細くてストレートヘアで、目が大きくて……。だから共感できない部分もあったと思っていますが、瀧波さんはどう思われますか?

瀧波:これは真実だと思うんですけど、私は「ブスと言われてコンプレックスを持っている女の子を、本当にブスに描く必要はない」と思っているんですよね。

前川:え!なぜでしょうか?

瀧波:それは、周りが言う「ブス」は見た目へのジャッジではなく、「黙ってろ」という攻撃だからです。

前川:「ブス」や「デブ」など容姿のことを言われていたとしても、本当にそこが問題ではないってことですか?でも、私も実際に太っていることでいじめられましたし、いまだに「あの子、かわいくないね」と陰で言うような発言も時々耳にします。

瀧波:私には、そういうことを言う人たちが「人をブスと言える自分」を見せつけているようにしか思えません。誰かをブスだデブだと上から目線で言ってもいい立場なんだと確認し合っているだけなので、実際にブスであるかどうかなんて大して見ていないんじゃないでしょうか。だって、世の中では痩せた美人だけが結婚しているわけでもないじゃないですか。

前川:うーん、たしかに……。

瀧波:自分の発言力やポジションを誇示するために、誰かを「ブス」「デブ」とジャッジして攻撃する。その言葉を真に受けて「自分はブスなんだ、自分が変わらなければ」と思っている女性たちは、周りの勝手な攻撃で“そう思わされている”だけなんです。だから、本当に「ブス」であるかは関係ないと思っています。

前川:かわいく描かれたキャラと自分は違うと思っていたけれど、それは周りに思わされていた部分もあるということなんですかね。実社会の毒のせいで、夢を見せてくれるはずの漫画を純粋に楽しめなくなってしまうのは残念ですよね。漫画のかわいい主人公と自分は本当は全然違うものじゃないって、誰かに教えてほしかったな……。

瀧波ユカリ

植え付けられた構造を言語化する

瀧波:自分の力を誇示するための攻撃は、本当にナチュラルに日々のなかでおこなわれていることです。特に男性社会のなかでは、物事を力関係で見ることが自然に繰り返されてきているので、女性に対してそういう発言をすることで女性を自分の下に置く、ということを一部の男性はやるんだと思います。

男性は男性に「ブス!」と言わないですよね。それは効かない、攻撃にならないからです。一方で彼らは、容姿のジャッジは女性に確実に勝てる攻撃だと知っているんです。男に選ばれない女に価値はないと突きつければ、男は女を黙らせることができる。だからどんなに女性が容姿を磨いたって、その手の男性に「こいつを黙らせたい」と思われたら「ブス!」と言われてしまうんです。

前川:そういう攻撃を受けたとき、やっぱり「自分が変わらなきゃ」と思ってしまう人が多いと思います。どうしたらいいんでしょう?

瀧波:可能であれば、言った本人に聞いてみてほしい。「どういう意味ですか?どういう気持ちで言ったの?いつからそういう考え?」って。きっと真っ当な返答は返ってこないはずなんです。というのも、そういう発言をしてしまう人は構造を理解していないので、自分の言葉で話せない。実際に話そうとしてみて初めて「おかしいこと言っているな」とわかることも多いんです。

前川裕奈

前川:『わたしたちは無痛恋愛がしたい』に出てくる男性陣も、みんなそんな感じですよね。本当に性別問わず、いろいろな方に読んでもらいたい作品です。

瀧波:ルッキズムには、ホモソーシャル(男性間の関係性)の問題も密接につながっています。これまでのホモソーシャルのなかでは、男性は何かをジャッジする権利が自分にあると思い込んできたし、それができる男が良しとされてきた。だからこそ、「クラスの誰々はかわいい、誰々はブス」みたいなランキングが生まれたりしますよね。自分たちは選ぶ立場であると確認し合ってきたんです。

前川:それを1人だけがやっていたらおかしいと思うけれど、ほとんどの男性が集まってやっていたら誰も疑問視しないし反対もできないですよね。誰かを傷つけるためではなく、自分たちのためにやっているのが、なおさらタチが悪いですね。実際にジャッジされた側は傷つくのに……。

「あなた」ではなく「文化」がダメなんだ

瀧波:ホモソーシャル内の力比べの弊害として、巻き込まれた女性たちが「かわいくならなきゃ」「美しくなきゃいけないんだ」と思い込まされてきたんだと思います。さらに、ルッキズムを内面化した女の子たちに向けて企業が商売をする。そういうサイクルになっていますよね。

前川:無意識に搾取されまくり……。

瀧波:ルッキズムって、1人1人の心の中にあるものではなく、構造の問題なんです。ルッキズムと聞くと、真面目な人ほど「自分のなかにある差別をなくさなきゃ」と考えるんですけど、それは少し違う。差別は全部、上から降ってきて私たちのなかに植え付けられてきたものだから、まずは構造を変えないといけないんです。

前川:本当にそうですよね。過去に「しゃべるっきずむ!」でお話しした方、みなさんそうおっしゃいます。私もそう思うのですが、真面目な人ほど自責してしまったり追い込んでしまいがち。本当の「犯人」は、自分ではなく「社会」なんですよね。私自身もそれに気づくまで長い年月がかかりましたね。

瀧波:もちろん、個人の意識で発言や態度を変えることも大事だけど、それはどこから来ているのかを、まずは認識したほうがいいですよね。社会の在り方に疑いの眼差しを持つことが大事で、いきなり自分のなかに目を向けるなって私はいつも思うんですよ。

瀧波ゆかり

前川:特に、ルッキズムの渦中にいる人たちは「自分が悪いんじゃないか」「私が変われば」と、自分を責めがち。主語が「自分」から「社会」に変化したとき、少し光が見えるような気がします。そのステップがなかなか難しいのも事実ですが。

瀧波:「ルッキズム」という言葉がまだ新しいから、構造的に理解できている人が少ないですよね。年齢で人をジャッジする「エイジズム」などもそうですが、「習慣」になってしまっている部分もあります。見た目に関して何かを言ってしまう・心の中で思ってしまうことがルッキズムだと思っている人が多いんだけど、もっと大きな枠組みの話だということを、少しずつ伝えていかないといけないですね。

前川:そうですね。もちろん個人が見た目を揶揄することを止めたり、「ルッキズムやめたほうがいいよ」と言うことは大切だけど、それとセットで考えたいです。

瀧波:そうそう。ルッキズム発言をする人のことを「嫌だね」と言うこともできるけれど、そういう文化自体が嫌だよねっていう「文化の話」にしなきゃいけない。

前川:おっしゃるとおりです。その流れで、さっき少し触れていた「ルッキズムを内面化した女の子たちに向けて企業が商売する」の話、もう少し聞かせてもらってもいいですか?

*次回、かわいくなりたいのは、本当は誰のため? 3本目「『誰のためか』を見極める、私なりの判断軸とは」は、こちらから。

Profile

瀧波ユカリさん

1980年札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、2004年に4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。以降、漫画とエッセイを中心に幅広い創作活動を展開している。現在は『私たちは無痛恋愛がしたい』をウェブ漫画マガジン「&Sofa」(講談社)にて連載中。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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